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はじめてのスライム猟

 数日後、スライム猟(ただし手伝い)の初日だ。雇い主のエドワードさんが言った場所に来ていた。


 エドワードさんに言われた時刻は夕方だったが少し早く着いた。


「別に構わんよ」


 エドワードさんは特に気にしていない様子だった。黙々と網カゴの補修をしていた。カゴはスライムを捕らえるための器具なんだろうと思う。


 エドワードさんの周りを見ると、網がたくさんある。たぶん折り畳んだ網カゴだ。あれを猟の度に確認して、補修しているのだろうか。


 他にも得体の知れない道具類が整然と置かれている。バケツはドラゴン牧場への納品で使ってたけど、それ以外は知らない。


 じっと見ていて、気になったことがふと湧いた。


「かなり念入りですね?」


 エドワードさんは俺をチラッと見て、またすぐ網カゴに視線を戻した。


「小さい穴でも逃げられる」


「そう言われたら……」


 軟体動物なのは知っている。けど網カゴの補修とは繋がらなかった。


「一体だけでもカゴから出られると、中にいるのが続いて出てくる。穴が広がって、最後には網カゴが使えなくなる」


 こっちは知らなかった。というか網カゴにたくさんスライムが入っている様子が想像できない。


「カゴいっぱいのスライムなんて見たことないです」


「そのうち見るよ」


 エドワードさんは、そこまで言うと口を閉じた。手だけを動かしている。


 しばらくして、エドワードさんが網カゴを折り畳んで、立ち上がった。


「そろそろ行くぞ」


 エドワードさんが言う。


「どこですか?」


 俺が尋ねる。


「この網カゴを仕掛けるんだよ」


 エドワードさんは荷車を裏から持ってきた。


「網カゴを全部積むんだ」


 エドワードさんと一緒に折り畳んだ網カゴを荷車に積んだ。


「これを引くんだ」


「はい!」


 やっと仕事だ!しかも身体を動かす。こういうのが嬉しい。


 荷車を引く。ガラガラと音を立てて動き出す。


 軽い。山積みとはいえ網カゴだけだから、中身はスカスカだ。


 俺はエドワードさんの指示にしたがって進んだ。少し経って、池のほとりに着いた。


「止まれ」


 俺は荷車を止めた。


「この網カゴを仕掛けるんだが……」


 エドワードさんが荷台にある網カゴを一つ取った。水際より陸のほうに置いた。


「こういうふうに、網カゴを開いて、水際近くに置く」


「はい」


 開きやすそうには見えた。


「網カゴを置く方向はこちらだ」


 エドワードさんは、網カゴの口の見える側を示しながら説明してくれた。


「それから、水際と平行になるようにする」


「どうしてですか?」


 エドワードさんは網カゴを開きながら言った。


「スライムはそういう動きをするから」


 はっきり言って分からん。


 でも、それより網カゴを置けとエドワードさんの背中が言ってた。俺も網カゴを開いて置いた。


 畳んでただけあって、量は思ったより多かった。終わった頃には日が傾いていた。


 見渡すと、いくつもの網カゴが置かれていた。


「めちゃくちゃ多いな……」


 俺は呟いた。


「多いだろ?」


 エドワードさんが声をかけてくれた。


「これに結構入るんだぜ、スライムが」


「へえ……」


 網カゴを置いてるだけで結構異様だが、これにスライムが入っている様子は、今のところは想像できない。


「帰るぞ」


「はい」


 俺は住み込みで雇われることになっている。空部屋を一つあてがわれている。


 その部屋に背負い袋を置いた。


 本当に何も無い部屋だった。ベッドもなかった。俺は持ち込んだ寝袋に入り込んだ。


 * * *


 次の日、エドワードさんに起こされた。これはかなりまずい。新入りがこれじゃだめだよね……。


 走って裏にある荷車を引いて表に戻った。


 池に近づくと不思議な音が聞こえてきた。人声でも動物の声でもない。無機質な音でもない。


 池に近づくほど音が大きくなる。


 そして池のほとりに着くと、網カゴの中にスライムがたくさん入っていた。


 いや、そんな簡単な言葉で済まない。


 網カゴの中にはスライムが詰まっている。中でスライムが暴れている。目も口もたくさん見える。


 あまりに暴れるので、網カゴがせわしなく揺れている。はちきれそうに歪んだりもしている。


「大漁ですね?」


 俺はエドワードさんに向かって言った。


「量は多いが……」


 エドワードさんはそこまで言って、少し黙った。


「先に獲物を持って帰ろう」


 ここで急に気になった。昨日は折り畳んでたからよかったけど、広げた状態だと全部乗らないんじゃないかと。


 結局は三往復になった。しかもスライムがいっぱいで重かった。


 作業場に戻ると、エドワードさんは選別作業に取り掛かった。


「バケツがいっぱいになったら同じ文字が書いてある大桶に入れるんだ。フタを忘れるなよ」


 そう言うとエドワードさんは網カゴを一つ開けて台の上に置いた。その近くに座って、スライムを一体ずつ掴んでは、バケツに放り込んだ。


 エドワードさんが使っている台の近くに、大桶が置かれていて、確かに文字が書かれている。バケツにもよく見ると同じ文字が書かれている。たぶん等級を示す文字なんだろう。


 俺はバケツを見て、それと、言われてはいないが網カゴの様子も見た。バケツがいっぱいになれば桶に持っていき、網カゴの中が減ると次の網カゴを置いた。


 自分の作業の合間に、エドワードさんが何を基準にして分けてるのかを見ていた。品質の要はここのはず。


 手の上に置いてるから重さは量ってるはず。それからスライムをじっと見ているから色ツヤも見てるはず。でもそれだけじゃない。


 結局は何も分からなかった。まあ一日目から分かるような甘い仕事ではないよね。


 それより、エドワードさんを見すぎていると、バケツからスライムが溢れたり、次の網カゴが用意されてなかったり、トラブルを起こす。そのたび「おい」と怒られる。


「すみません!」


 俺は、スライムでいっぱいになったバケツを桶まで持っていった。


 そうしていると、網カゴのスライムは全て選別された。


 大桶を見ると、C等級が多い。次いでD、B、A、S。


 Dは、素人が見ても分かるぐらい良くないものだった。A、B、Cは、はっきり言って俺には違いが分からない。


 Sはかなり少ない。ただ、ぼんやり光っていて、他とは明らかに違うのが分かった。チラチラ見ていたが、大きさはバラバラだ。ということは光っているかどうかで決めているようにも見える。


 光ってるのは高く売れるんだろうなという想像はつくけど、じゃあ何の効果があるとか、いくらの値段で売れるのかとか、そういうのは分からない。


 するべきことは分かるけれども、細かい基準が分からない。やはり初心者には分からないことだらけだ。

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