ジャックと俺
スライム幼生を手に廃ダンジョンに戻った。ジャックに見せると目を輝かせた。
「これがスライム幼生ですか!初めて見ました!」
俺もそうだったが、成体しか見たことがない人が多い。
「運だけは強いっすね!」
間違ってないが、なんかトゲを感じるんだよな。
「こいつにやるエサを考えて欲しい」
俺は静かに言った。落ち着いた上司が部下に指示を出すように。
「たぶん、野菜クズを刻むか、池の藻じゃないっすかね?」
答えるの早いね。
「その辺だと思う」
「それと、虫とか肉とかは与えてみますか?」
ジャックに尋ねられたが、俺は否定的だ。
「肉食だとすると、大桶に入れたら共食いを始めると思うんだよな」
「なるほど……じゃあ肉食はないっすね」
多少は雇い主の威厳は保てたかもしれない。
「俺はもう一回池に行って、藻と水草とを採ってくる」
俺が畜養場を出ようとしたところで、背後から声がした。
「採ってきてないんですか?」
おっしゃる通りなんですが、いちいちトゲを刺さなくて良くないか?
俺は適当に藻とか水草とかを採ってきた。戻ると、ジャックが成体用の野菜クズを切り刻んでいた。
「左側にだけ野菜クズを与えました」
ジャックはナチュラルに喧嘩を売ってしまうタイプだか、考えて行動する能力はある。
「食べた?」
「いえ……」
ジャックは左側のバケツに目を遣った。確かに食ってない。
「真ん中は藻を与えてみよう、右は水草を与えるのか?」
言い切った直後に、やらなくていいなと思った。野菜クズを食わないのなら水草も食わないだろう。
「やめた方がいいと思います」
俺が言う前にジャックが言い切った。やはり鋭い。
「そうだな。俺もそう思う。やめよう」
「じゃあ聞くまでもなかったですよね」
余計なこと言わなきゃいいのに……。
* * *
数日後、スライム幼生が少し育っているのを確認した。
「個体数は少し減ったみたいだな?」
俺は数体をバケツから除いてから言った。
「とはいえ、野生なら幼生はほとんど食われてるはずです」
二人してバケツを見つめた。
「みな成体に育ったら、かなりの量になるよな」
俺は独り言を言った。そう。幼生は小さい。おそらく成体十分の一ぐらいだと見ている。これが十倍になったら、単純計算でバケツ十杯分だ。
「ええ。儲かりますよ」
「成功させたいね」
俺が言うと、ジャックが俺の顔を見た。
「失敗すると思ってるんですか?そういうのはダメです」
言葉遣いにもっと気を付けないといけないのか……。俺は多分不機嫌な表情になってると思う。黙ってスライム幼生を見つめ続けた。
「きっと成功しますよ」
ジャック……珍しくフォローしてくれた。
「ああ、成功させないとな」
気を取り直して呟いた。
「そんなに気負うのは良くありません」
どっちなんだよ!と言いかけたがギリギリ言わなかった。
「成功するだろうけど失敗してもいいやぐらいで。気楽に行きましょう」
あ、そういうことか。これ、どっちかと言うと俺の勘違いなんだなと思った。ジャックは間違っていない、そう確信した。
「ああ。そうしよう」
俺は微笑んで応えた。
「こう言えば機嫌が良くなるかなと思ったんですが、正解でしたか?」
……前言撤回だ。
* * *
その年は試験的な養殖で終わったが、無事に成長させられた。
「それはそれでいいんだけど、スライム多くなってうるさいよ……」
養殖成功の裏では、近くにいる固定モンスターのゴーストさんの愚痴を聞かないといけなかった。
「いつもすみません」
俺はそう言いながら、いつもの迷惑料を支払った。ただこの金貨は、ゴーストさんを倒しに来る若手冒険者にドロップしてあげるから、手元に残らない。
「そういえば……」
ゴーストさんが金貨をポケットに入れていながら言った。
「君のところで働いてるジャック君、彼、いい人だよね」
「え?」
俺は耳を疑った。悪い奴ではないが、本音をつい言ってしまうヤツだ。あ、でも、もしかしたら皮肉?
「何かナチュラルに失礼なことを言いましたか?」
ゴーストさんは手で否定するゼスチャーをした。
「いやもう『いつも大変ですね』とか『痛くないですか?』とか、本当に気を遣ってくれるんだよ」
あいつが?俺には気遣いゼロなのに?
「たぶん君のことは気を遣わなくてもいいと思ってるんだろうね。それだけ仲間だと……」
「俺、雇い主なんですけど……」
「あ……」
ゴーストさんは黙ってしまった。俺とゴーストさん、何も言わずにしばらく立ち尽くした。ゴーストさんは改めて話始めた。
「ジャック君が最初ここに来たときは『人生がつまらい』って言ってるような顔してた。今はずいぶんと明るくなったよ」
そうか、それはいいことをしたかも知れない。でも……。
「ジャックの気分は良くなるのはいいとして、俺はどうなんですか?」
「え?」
ゴーストさんは少しきょとんとした。そして首をかしげながら尋ねた。
「ジャック君が来てからずいぶんと楽しそうにしてるじゃないか」
面と向かって言われたちょっと不思議な気分がした。でも言葉にしてこなかっただけで、実感は正直ある。ジャックが来てから元気になったのは間違いない。
「ペットみたいなものかも知れない……」
そう俺が言うと、ゴーストさんが笑った。
「そうかも知れないね」
お読み頂きありがとうございます。
全15話の第14話でした。
エサの問題が解決できてたと思ったら、幼生のエサまで気が回ってませんでした。
でも、乳児には離乳食、スライム幼生には藻、でした。
後半はゴーストさんとの立ち話が、なんかそこらへんで話してるようですが、ゴーストさんは固定モンスターです。
次回は最終回です。
エドワードさんも出てきます。楽しみですね!(強引)
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