スライム幼生は美しかった
スライム畜養が生活の全てだったのが、半分に減った。代わりにジャックの教育訓練が追加されたわけだが……。
でも外には出やすくなった。外の空気がより多く吸えるのは助かる。
ダンジョン内だと季節感が全くないが、外に出た時に、夏が来たと感じた。
「そろそろ幼生が出る頃だよな……」
スライムは初夏に産卵をして、一ヶ月後に孵化して、盛夏の頃は幼生が多く採れる。
――しかしひとつ問題がある。
「ジャック」
廃ダンジョンに戻ってすぐに俺は聞いた。
「何ですか?」
「スライムの幼生を採ったことあるか?」
「無いっす」
ジャックは簡単に答えた。
そりゃそうだよ。俺だって知らねえんだからな。
「師匠に聞かなかったんですか?」
ジャックは時々悪気なく「攻めた言い方」をする。
「聞きそびれた」
「そうですか……それだと厳しいっすね……」
他人事みたいな言い方にちょっとイラッとしたが、まあ仕方ない、ジャックにとっては他人事だ。俺が指示が出せないのが悪い。
「ちょっと留守番をしていてくれ」
俺は畜養場から出ようとした。
「はい」
こういうところは素直なんだよな。……イラッとさせたり、真面目だったり。俺はジャックのことをちょっと不思議なヤツだなと思ってる。
とりあえず荷車を引いた。向かう先は池のほとり。エドワードさんがずっと使い続けたスライム猟のスポットだ。
「よし、今日もよく獲れてる」
スライムが入ったままの網カゴを荷車に乗せていった。
荷車一杯に網カゴを積み終えた後で、俺は何となく池の水面を眺めた。強い日差しを反射して、キラキラしている。
この池は思い出の場所だ。エドワードさんにここでスライム猟のことを教えてもらったから、こうやってスライム畜養を営んでいられる。
もっとも、それ以外は普通の池でしかない。
――ポチョン。
魚が跳ねたのだろう。音のした方に目を向けると、波紋が広がっているところだった。
そして、その中心あたりから水が盛り上がってきた。
――水が盛り上がってきた!?なんだそれ!?
明らかにおかしい。波紋が広がりだしたら、その中心部分は静かになる。それが逆に水面が不自然に盛り上がってきている。
俺はなんとなく成り行きを見ていた。盛り上がった箇所は、少しずつ池の真ん中に移動していった。
「大したことなかったな」
面白いものでも見れたら良かったんだが、面白みにやや欠けていたし、いい匂いがするものでもなかったし、綺麗な鳴き声も聞こえなかった。
「あれがカネもうけのタネになればいいのに」
俺はそう思った。俺の生業はスライム畜養だ。スライムの幼生があの中にいれば……。
「スライムの幼生があの中にいる?」
独り言を呟いた。
――間違いかもしれない。でも確認する価値はある!
俺は荷車を最速で引いて廃ダンジョンに戻った。入口から地下一階まではスロープになっているので楽に入れる。――まあ俺が人が少ないのをいいことに改造したんだけどね。
「お帰りなさい……どうしたんですか?」
ジャックが出迎えてくれたが、俺があまりに汗だくだったので驚いていた。そのうえ俺は彼に尋ねた。
「箕を持ってるか!?」
聞き方の圧が強い。
「いえ……持ってないっす……」
ジャックは俺に気おされている。
いきなり聞く話ではないよな実際はと頭の片隅では思った。しかし俺は止まらなかった。
「じゃあ虫取り網は!?試しに取るだけだから虫取り網でもいいんだ!」
「それも持ってないっす」
「じゃあどうしろと!?」
「むしろ俺が聞きたいです……」
ドン引きするジャックを見て、ようやく落ち着かないとと思えるようになった。一度俺は深呼吸した。
「なあ、虫取り網ってどこで売ってるかな?」
ジャックはあきれ顔だった。
「え?そこらへんの雑貨屋で売ってますよ?」
「そうか!分かった!ありがとうな!」
俺はもう走り始めた。
「あの!このスライムはどうするんですか!?」
「大桶に全部混ぜて入れとけ!選別は後でする!」
俺はいい加減な指示を残してダンジョンを出た。
俺は街に行き雑貨屋に飛び込んで虫取り網を買った。店主のあっけにとられた表情をなんとなく覚えている。
虫取り網を手に、池にたどり着いた。ここで俺は一度、座り込んだ。荷車を最速で引いたり、虫取り網を持って走ったりしていて、息がなかなか落ち着かなかった。
しばらくすると、息も整ってきたし、多少辛くてもスライム幼生が手に入るかもしれないと思うと辛抱できた。
――ポチャン。
慌てて音のする方に目を向けた。波紋が立っていた。ただ、波紋の中心部が盛り上がるようなことはなかった。
「あれは魚だな」
しばらく待った。
――ポチョン。
音のする方を見た。今度は盛上りができている。
「よし!待ってろよ!」
俺は水際近くまで躍り出て、必死になって虫取り網を伸ばした。
もうちょい……もうちょい……。
獲りあぐねていると、盛り上がってる部分が、こちらに近づいてきた。
「よし!」
これぞ天啓。俺は網を振り下ろした。
網を手元に寄せると……。
「いた……」
俺は口元を緩めた。
池の水面を不自然に盛り上がらせていたのは、スライム幼生だった。
透明で小さくプルプルとしている。今の俺にはこの世で最も美しいものに思えた。
お読み頂きありがとうございます。
全15話の第13話でした。
幼生が捕まえられないと養殖ができない。でも、エドワードさんには幼生の捕まえ方を教えてもらっていませんでした。
そこで偶々にしても幼生を捕まえることができました。幼生、エサ、環境、そろいましたね。
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