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12/15

エドワードさんとの別れ

 ジャックを雇い始めてから数か月ぐらい経った。外も春が過ぎて初夏らしくなってきた。ダンジョンの外に出るとそう思う。


 カネは順調に貯まっている。ジャックの給料も前より少しだけど上げた。


 何もかもが順調に進んでいたある日、エドワードさんの自宅に畜養用スライムを買いに行った時に、思いもよらないことを聞いた。


「スライム猟を辞めようと思う」


 エドワードさんが辞めると言い出した。


「まじっすか!?なんでっすか!?」


 俺は食って掛かるような言い方になってしまった。


「まあ落ち着け……」


 言われてすぐに落ち着いてエドワードさんの話を聞くことにした。


「スライム猟は終わるだろう」


「そんなことないですよ」


「潰されるんだよ」


「誰がスライム猟を潰すんですか!?俺、そんなヤツ、絶対許しませんよ!?」


 俺は拳を振り上げて怒りを過剰に見せた。でも本当に怒ってはいましたよ。


「あのな……」


 エドワードさんがあきれ返ったような表情で言った。


「潰すのはお前だ」


 そう言われても、全く身に覚えがなかった。


「何言ってるんですか?俺、敵対心なんか持ったことないし……」


 エドワードさんが少し黙った。眼を軽く閉じる。呼吸を深く整える。そして口を開いた。


「スライム畜養が軌道に乗ったからだ」


 そこまで言われてようやく分かった。


「俺、やっぱり邪魔してましたよね!?」


 また俺は食って掛かるようなかんじで詰め寄ってしまった。


「だから落ち着け……邪魔はしてない……」


 エドワードさんが困った表情を見せている。俺は黙った。


「スライム畜養は成功した。そしてお前ならスライム養殖まで完成させるだろう」


「それはどうか分かりませんが……」


「そうでないと困るんだ」


「どうしてですか?俺が成功しないとエドワードさんが困るって……。今は借金もありませんよ。『借り』は一杯ありますけど」


 そう。俺はいくら借金とかをチャラにしても、ずっと心の奥底に残っている。エドワードさんが、言葉遣いは少しぶっきらぼうだけど、とんでもなく親切だった。だから俺はここまで来れた。


「俺、エドワードさんに何も『借り』を返していないですよ……」


 エドワードさんは首を横に振った。


「そうじゃない。お前はスライムの見る目があると見込んできた。その目が曇ってただなんて思いたくない。それだけだ」


 俺はもう心がぐちゃぐちゃになった。


「エドワードさん……俺!ありがとう!ございます!」


 今一つ文法がおかしいが感謝の言葉を叫んだ。声もおかしくなってた。視界もぼやけていたと思う。ただ、何度も感謝の言葉を述べていた。一年も経ってないのに、エドワードさんのおかげでここまで来れた。ありがとうございます。


「そういうしんみりしたようなのはやめて、ちょっと聞いてくれ」


 エドワードさんがニコニコしながら話し始めた。


「お前はなんだか俺の生業を潰したように思ってるみたいだが、むしろ俺はやる気が出てきたんだ」


 エドワードさんは一度言葉を切って、すぐにまた口を開いた。


「俺はゴブリン猟をする。デーモン系のモンスターに売るんだ。特に野生のゴブリンがいいんだとさ」


 ドラゴンがスライムを食べるのだからデーモンがゴブリンを食べても変ではない。考えたことなかったけど。


「まあ、そういうことで、俺はスライム猟には見切りをつける。ゴブリン猟はまだ続けられる。動けなくなるまで猟師として生きて行こうと思う」


 エドワードさんの顔も口調も、自信に満ち溢れていた。自分の進む道を見据えて、確信をもって踏み出そうとしている。その時、人はこうも落ち着いていられるのか……。


「お前も畜養用のスライムは捕まえられるよな?」


 エドワードさんが急に俺に問うてきた。


「あ、はい。できます」


 エドワードさんはニッコリして頷いた。


「じゃあもういいよな」


 そう言うと、エドワードさんは俺の頭をガシガシと荒っぽく撫でてくれた。


「頑張れよ!スライム養殖の第一人者になれよ!」


 俺は少し目を腫らしながらエドワードさんのなすに任せた。


――そして別の日にエドワードさんの自宅に行くと、空き家になっていた。


 前の時に「もういなくなるぞ」と聞いてたので、特に驚くことはないはずだった。


 それでも作業場の扉の前に立つと、感傷的になった。カギがかけられていて中に入れないけど、初めて作業場に来た時のことが思い出された。扉の向こうには網カゴがいっぱい置いてあって、エドワードさんが補修してたっけ。顔を向けずに黙々と。でも網の補修をキッチリしないとスライムに破られるんだよな。


 裏に回ったら、そこにあった荷車もなくなっていた。


「本当に何もかも片付けて行ったんだな」


 主のいなくなった建物の周りに風が吹いた。乾いた小さな音とともに砂埃が上がった。


 俺は一度、深呼吸した。


「俺、頑張ります。養殖の成功を目指して、まずはスライムの幼生を採るところから始めます」


 そう言って建物を背にして、歩き出した。


 歩きながら、ふと気になった。


「幼生の採り方、聞いてないような……」


 俺は立ち止った。


 もうすぐ幼生が出始めるんじゃないか?大丈夫か?ちゃんと幼生を採れるのか?


「エドワードさん……『もういいよな』じゃなかったです」


俺は天を仰いだ。

お読み頂きありがとうございます。


全15話の第12話でした。


エドワードさんは、とうとうスライム猟から手を引くことを宣言しました。

エドワードさん、いい人でしたが、もうたたみたい思いもあったのかもしれません。


でも彼は次のエモノを決めていました。

めちゃくちゃ強い人だなと思いました。


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よろしくお願いします。


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