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異世界奇譚 釣具に転生!? 早く人間になりたいっ!!   作者: いたたたっ


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二十三 これまた重い!? の事

 私の言葉を聞いたシェレジーが、酷く困ったような、悲しい顔になってから、今度は静かに、しくしくと、泣き出してしまった。


「え、え~!? あ、あの、ごめん。別に、無理に、言わなくたって良いんだ。なんていうか、えっと、とにかくごめん。だから、泣かないで、くれ。お願い。頼む。お願いします」


 私は、また、オロオロしつつ、腫れ物を触るようなつもりになって、シェレジーに声をかけた。


「馬鹿異世界野郎。ちょっとこっち来い」


 シレルが、言うが早いか、私の長細い竹竿ボディに、ベッチャリとくっ付いて来て、私の視界を塞いでしまい、私は、周囲が少ししか見えなくなった。


「な、何やってんだ? おい。離れろって。ていうか、なんでそんな器用に、私の視覚を奪えているんだ?!」


「シェレジー。ちょっと、待っててくれ。このシレル様が、こいつの性根を叩き直して来るから」


 これまた、言うが早いか、シレルが、私の繊細な竹竿ボディを雑に持ち上げて、どこかへと連れて行こうとし始めた。


「シレル。駄目でちゅ。行っちゃやでちゅ」


 シェレジーが、あの気味の悪い変化を見せずに、年相応の反応をした。


「ちょっとだけ。すぐに戻るから」


 シレルが、優しく言いながら、動きを止めた。


「でも~。一人はやでちゅ~」


「シェレジー。それなら、自分の事を、全部、こいつに、正直に話せるのか?」


「ちょれは……」


 シェレジーが口を噤み、鼻を啜る音だけが、辺りに響いた。


「な。すぐに済む。ちょっとだけだから」


「分かりまちた。待ってまちゅ」


「良し。良い子だ。このシレル様に任せておきな」


 そう言ってから、シレルが、至極重そうに私を運び、シェレジーのいる場所から、少し離れた、シェレジーからは見えない、大きな木の幹の裏側に回った。


「おい。何をする気だ? 喧嘩の続きか? この野郎。やってやろうじゃねえか。動けないからって、舐めるなよ。私だって、その気になればな、昔、地元の堤防では、あれだ。ええっと、スピニングの狂犬って呼ばれて恐れられていたんだからな。別に、すぐに糸を絡まらせるからとか、それを、すぐに、解くのがうまいから、そう呼ばれていた、とかじゃないからな」


 シレルが私から離れ、少ししか見えていなかった状態から、視界が正常に戻ると、とても真面目そうで、難しそうな顔をした、シレルの顔が見えた。


「良いか? 今からこのシレル様が話す事は、誰にも言うな。シェレジーにもだ」


「はあ? そんなのは無理だ。シェレジーちゃんに聞かれたら話してしまう。シェレジーちゃんの方が、私の中では、ヒエラルキーがお前よりも上だからな」


「言わない事が、シェレジーの為だと言ってもか?」


「む、むう。それは、そう言われると」


 私は、そのまま、そこで言葉を切って、慌てて返事をせずに、曖昧にしておいて、暫しの間、考える事にした。


「どうする? シレル様の話を聞くか? それとも、またシェレジーを泣かしたいか?」


 まずは、話を聞いた方が良いか。内容によっては、シェレジーちゃんに聞かれたら話してしまおう。こいつのお陰で言葉を話せるようになっているとはいえ、やっぱり私を見付けてくれた、シェレジーちゃんが一番だからな。


 そんなふうに考えてから、私は、思わず、自分が釣具である事に感謝してしまった。なぜなら、私は、前世で人間であった頃は、すぐになんでも顔に出てしまうタイプだったからだ。その所為で、トランプなどでやるゲームや麻雀や将棋などの、心理戦が必要な勝負事の時は、いつも、色々な意味で、悔しい思いをしていたのだった。


「分かった。話してくれ」


「絶対に言うなよ」


「ああ」


 私は、適当に相槌を打って、シレルが話し出すのを待った。


「シェレジーは、エルフの巫女という立場であると同時に、お姫様なんだ。だから、周りのエルフ達から、腫れ物のように扱われてる」


 腫れ物という言葉を聞いて、私は、ぎくりとした。私も、さっき、そんなように、シェレジーを扱ってしまった。


「父親や母親といった、近しい親族でさえ、巫女が持つ力が原因で、仲の良い親子とは程遠い関係なんだ。その所為で、シェレジーは物心が付いた頃から、シレル達妖精と仲良くするようになってた」


 私が釣りばかりしていたのと、ちょっとだけ似ているのかも知れない。シェレジーほどの、複雑で悲しい理由はなかったけど、私は、人と付き合っているよりも、一人で釣りをしている方が、気楽で楽しかったもんな。


「エルフの者達よりも妖精達の方を、本当の、家族だと思ってるというような感じだと思ってくれれば良い。だが、妖精達は、基本的には、下心なしには他種族とは仲良くはしない。シェレジーに利用価値があるから、シェレジーと仲良くしてる奴らがたくさんいる。どういう事かというと、シェレジーの傍にいるだけで、妖精達は彼女の魔力を貰えたりするし、声をかけてもらえば、それだけで、やっぱり魔力の影響で、気持ちがハッピーになっちまう。そういう効果ってのは、魔力が減れば、なくなって行ってしまうけど、シェレジーは魔力が桁違いに多いんだ。どれだけ使っても、少ししか減らないから、なくなる前に回復する。だから妖精達も、簡単に裏切ったり離れたりはしない。妖精達は、根が正直だからな。普通なら、魔力の切れ目が縁の切れ目くらいな感じで付き合って、肝心な時なんかに見捨てて笑ったりするけど、シェレジーの魔力の凄さに対しては、ある意味敬意も払ってる。その辺がシェレジーと妖精が、うまくやっていけてる、主な理由なんだと思う」


 シレルの話を聞き終えた私は、なるほど。シェレジーのあの気味の悪い雰囲気みたいな物は、この辺の事情が絡み合って、醸成された物なんだろうと思った。


「そういう事情があったのか。まだ幼いのに……。けど、難しそうだ。私は、あまり人付き合いが得意じゃない。どう接すれば良いのか」


「さっきみたいので良いと思うぞ。シェレジーを立ててやれ。このシレル様よりも、上、一番だと言ってやれば良い。態度もそういうふうにすれば良い。お前は空気の読めない馬鹿なんだから、変に気を使って何かするのはやめておけ」


「馬鹿とか言うな。だが、そうか。分かった。やってみる。……。ところで、お前、どこまで、私の考えが読めているんだ?」


 シレルが、涼しい顔になって、さあな。と言ってから、ちょっと考えているような顔をし、それから、また口を開いた。


「これは、ちょっと、重い話なんだけど」


「重い話? 今でも十分に重いと思うけど、これ以上、まだ、何かあるのか?」


 シレルが、深く大きく頷いた。


「シェレジーが、一度お前の前から去って、また現れた時の、シェレジーの姿を見て、何か感じた事はなかったか? それか、気付いた事とか?」


「なんだ、藪から棒に?」


「良いから。何かなかったか?」


 私は、頭の中にある、おっと、頭はないけど。とにかく、シェレジーに関する記憶の引き出しを、片っ端から開けて行った。


「あった。何かは分からないけど、再会した時に、何かが変だって思った」


「それだけ?」


「ああ。それだけだな」


 シレルが、とても、大仰に溜息を吐いてみせた。


「この鈍感大朴念仁が。本当に駄目駄目異世界野郎だな。女の子が髪を切ったんだぞ。しかも、彼女はエルフの姫で巫女だ。その髪は、エルフの秘宝であり、魔力が宿るという特別な物なんだ」


 言ってから、シレルが自分の髪を、そっと愛おしそうに手で撫でた。


「おお。おお。その髪。そうだ。前のシェレジーは、そんなふうに長い髪をしていた」


「そうだ。それが、今はどうだ? あんなに短く、女の子というより、見ようによっちゃ、男の子に見えてしまう。この、髪を切ったという事が、どういう意味か分かるか?」


「……。分からない」


 私は、ない首の代わりに穂先を振ったつもりになった。は!? なんだ? 私は、今、なんて思った? 穂先を振った……だと? まさか、このまま身も心も、釣具になってしまったりするのか?


「真面目な話の最中だぞ。これだから馬鹿は。意味の分からない事を考えてないで、集中して話を聞け」


「馬鹿は余計だが、すまん。分かった。集中してちゃんと聞く」


「それで良い。あの髪を、彼女は、この大妖精シレル様との契約に使ったんだ。だから、シレル様には強い力がある。彼女との繋がりもある」


「それって、まさか、私の、為、とかじゃないよな?」


「そのまさかだ。すべてはお前の為。お前がいなかったら、きっと、彼女は、このシレル様とは契約をしなかっただろうし、髪を切る事もなかったはずだ」


「そんな。それは」


 私はあまりの事に、言葉を失い絶句した。


「あの時の、シェレジーの姿は、とても、壮絶、いや、荘厳? それでいて、酷く、儚くって、美しかった。自らの手に、小さなナイフ、あれは、多分、親や使用人達の目を盗んで、持って来たんだろう。儀式用のちゃんとした物なんかじゃない、その辺にある果物なんかを切る物だった。それで、このシレル様の前に来て、今までに、見た事もないような、嬉しそうな、楽しそうな、無邪気な笑みを見せてから、跪いて、バッサリと髪を切って。それから、契約の話をしたんだ。凄いだろ? 断れると思うか? シレル様の返事を聞く前に、契約の話をすらしないうちに、あの、エルフの、姫の、巫女の、魂と言っても過言ではない、髪を切ったんだからな。流石のシレル様も、あの時は、驚いて、すぐには、言葉を出す事すらできなかった」


 私は、何も言えないままに、その時の、シェレジーの姿を想像して、ゴクリと喉を鳴らして、唾を飲み込んだ。あ、喉は鳴ってないし、飲む唾もなかったんだった。


「その後も、凄かった。髪をエルフ達に内緒で切っちまったんだからな。シレル様が、シェレジーと一緒にエルフの里に行った時なんて、もう、上や下への大騒ぎなんてもんじゃなかったくらいに、騒ぎになったんだ。皆、阿鼻叫喚だ。妖精達と戦争だ! なんていう輩もいたくらいだからな」


「それは、確かに、凄いな。シェレジーちゃんは、大丈夫だったのか?」


「このシレル様が一緒だからな。問題ない。でも、そんなこんなも、結局はシェレジーの巫女の力を、どこかで恐れてる奴らだからな。暫くしたら、静かになった」


「そうか。それは、何というか、切ない気がする」


 私の言葉を聞いた、シレルが、何かに驚いたかのように、目を大きくしてから、優しく微笑んだ。

 

「と、そんな感じ。な、ちょっとだけ、重いだろ?」


 シレルが、ちらりっと、シェレジーの方を見るような仕草をしてから、そう言って、うんうんと、何度も頷いた。

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