二十二 シェレジーの秘密の事
泣き出してしまい、暫くしても、一向に泣き止もうとしないシェレジーを見て、私はオロオロとしながら、声をかけようとしたが、いかん。今の私は喋れないと思った。
「異世界野郎は馬鹿だな。もう喋れるのに忘れてやがんの」
シレルが、ぷくくくくくと変な笑い声を上げた。
「お前、その口の利き方。口悪過ぎだぞ。シェレジーちゃんに移ったらどうするんだ」
「だってさ。異世界野郎はもう喋れるんだ。それなのに、ぷくくくくくく」
は?! そうだった。こんなアホアホな妖精と、話をしている場合じゃない。
「それから。お前、このシレル様の事、変でチンケとか言ったんだからな。ちゃんと聞いてたから。謝っても許さないし、絶対に忘れないから」
シレルが、目を細めて睨むように私を見て、威嚇するような顔をしたが、体が小さいので、迫力がなく、全然怖くなどもなく、ああ。面倒臭い。こんな事をして来る相手の面倒をみるのは、ごめんだと思った私は、無視する事にした。
「シェレジーちゃん。大丈夫かい? ほら。もう泣き止んで。こういう時、どうすれば良いのか分からないけど、えっと、あれだ。君が泣き止んでくれないと、おじさんまで悲しくなってしまう」
頭でも撫でてあげられれば良いのだけど、くっそう。言葉が喋れれば、それで良いと思っていたが、今度は、体が動かせたら良いのにと、思うようになって来てしまった。
「体を動かす、ね。できるとは思うけど、いつになるかな」
むむ? 今、アホアホ妖精が何かを言ったような?
「気になるけど、今は、そんな事はどうでも良い。おい。シレル。シェレジーちゃんが泣いているんだぞ。お前も、泣き止んでくれるように、慰めるとかしろよ」
「ああん? なんだか喧嘩腰だな。異世界野郎が調子に乗んな」
「お前こそ、なんでそんなに喧嘩腰なんだよ」
「お前が先に、チンケとか変とか言って来たんだからな」
「あれは、お前が先に、これ、とか、言って来たからだろ」
売り言葉に買い言葉とは良く言った物だ。実は、そんな事は大して気になってはいなかったのだが、ついつい、そう言ってしまった。
「だって、これ、じゃん。お前、魂があるから、その体になる前とかがあったのかも知れないけど、今は、なんだか使い方も良く分からない、変な、物、なんだ。その辺、ちゃんと理解してるか? 気を付けろよ。たまにいるんだよな。自分が変わった事に気が付かないで、余計な事とかしちゃう奴」
シレルが、あーあ。こんな馬鹿に付き合ってらんないと言わんばかりの表情を、顔に浮かべ、私から顔を背けた。
「二人とも、仲良くちてくだちゃい」
シェレジーが泣きながら、両目を両手で擦りつつ、小さな声を絞り出すようにして言った。
「無理無理~。こいつは、礼儀を知らないもん。このシレル様ほどの大妖精をアホアホ呼ばわりするし、チンケとか変とか言うし」
「シェレジーちゃん。私は、仲良くしても良いと思ってはいるんだ。けど、このチビは、こんな調子だからね。シェレジーちゃんの言葉を否定とかするしね。今の私にとっては、シェレジーちゃんは、救いの神その物なんだ。だから、シェレジーちゃんの言葉を、否定する奴は許せない」
シェレジーが、何の前触れもなく、突如として泣き止んだ。
そんなシェレジーの様子を見て、私とシレルは黙り込み、シェレジーの一挙手一投足を、見守った。
「二人とも、いい加減にしないと怒ります。ちゃんと、仲良くして下さい」
シェレジーが今までとは打って変わって、至極、重々しい、何か、強い感情のような物を、必死に押し殺しているといったような、口調と言葉遣いになって、そう言った。
「今、なんて?」
突然のシェレジーの変化を受けて、私は私の全感覚を疑った。
「は、はい。以降気を付けます。異世界野郎。仲良くしよう。な」
シレルが態度をコロッと変えて、無理やりな笑顔を顔に貼り付けて、私に微笑みかけて来た。
「ちょれなら良いでちゅ。魔法道具ちゃまも仲良くちてくれまちゅか?」
え? 何々? 何なの? シェレジーちゃん? さっきの、あれは、何だったの? となって、戸惑う私を見て、シレルが、いいから、謝れ。変な事言わないでシェレジーの言う事を聞いておけというような事を、必死に伝えようとしていると思われる、ジェスチャーのような動きを、顔と全身を使ってして来た。
私は、シレルの必死さを受けて、ここは、シレルに従っておこう。だが、どういう事かは、後で聞いておかなければと思った。
「そうだな。チンケな妖精野郎。こう見えても、お前には感謝しているんだ。これからもよろしくな」
「こっちこそよろしくな。異世界野郎」
「その呼び方なんとかならないのか、チンケチビ妖精野郎」
「仲良くなってますよね?」
私は、見てしまった。そう言った時の、シェレジーの表情を。
その時の、彼女の表情は、悲しんでいるような、それでいて、怒っているような、何か、二面性のような、気味の悪い何かを感じさせる物だった。
そして、その表情は、私に、この子は、ただの優しい幼女などではなく、言い知れぬ事情を、抱えていて、その為に、人格まで歪んでしまうような、辛い思いをしているのではないかと、思わせた。
「シェレジーちゃん。君は、一体?」
次の瞬間、私は、何も考えずに、反射的にそう言っていた。




