二十一 初めての言葉とエルフの涙の事
シェレジーの言葉を聞いたシレルが、シェレジーの顔を、何かを探るような顔でじっと見つめてから、小さくコクコクと何度か頷き、口をむっという音が聞こえて来そうな勢いで、引き結んだ。
うお? なんだ? あの妖精、何やら、シェレジーにびびっているような様子だが、相手は、あのシェレジーだぞ? 私の見間違いだよな?
「シレル。良くできまちた。では、魔法道具ちゃま。今からこのわたちが、シレルの事を紹介ちまちゅ」
は、はい。宜しくお願いします。私は、シェレジーの話を、しっかりと聞かなければと思い、居住まいを正したようなつもりになった。
「シレルは、妖精なのでちゅが、普通の妖精とは違いまちゅ。わたちの魂と繋がっている妖精なのでちゅ。だから、わたちにはシレルの事が、全部ではないけど分かりまちゅ。シレルの方も同じように、わたちの事が分かるようになってまちゅ」
ほほう。それは、どういう意味があるのかは、分からないが、凄いと思います。
「次は、シレルの能力にちゅいて、話ちまちゅ。シレルは魔法道具ちゃまが何かを喋ろうとちゅると、その意思と言葉を理解ちて、周りの者達に伝える事ができまちゅ。魔法道具ちゃまは、シレルを通ちてになりまちゅが、シレルと契約をちた後は、周りの者と会話ができるようになりまちゅ」
ムフフーン。それそれ!! 早く、早くお願いします。ハアハア。
「今、楽ちみにちてくれまちたね。ちょうでちゅね。魔法道具ちゃまが喋れた方が説明がちやちゅいかもちれまちぇん。早速契約をちちゃいまちょう」
いよいよか? いよいよ、私は、喋れるようになるのか? そう思うと、私の、どこにもないはずの、心臓が、大きくドクンドクンと、脈を打ち始めているような感じがした。
「では、シレル。魔法道具ちゃまと、契約をお願いちまちゅ」
「オッケー。じゃあ、魔法道具ちゃま。お前の一部をこのシレル様に頂戴。って、お前、自分じゃ動くができないみたいだな。こっちで勝手にやるけど良いか?」
何を持って行っても良いが、痛くないようにしてくれ。
……。
そういや、折れても痛くなかったな。痛覚って、なさそうな気がするから、大丈夫か。
「取り敢えず、この先っちょの、変な形の金属? が取りやすそうだから、これを貰うわ」
言ってから、何を思ったのか、シレルが、金袖に、パクリと食い付いた。
うおー!! フィィィィィーーーッッッシュ!!!!
釣具の血が騒ぐぜぇ。さあ、あわせだ。誰か、早くあわせをして、こいつの口を針で貫けぇぇぇぇぇぇ。
無意識のうちに、私が声をあげると、唐突に、演歌を歌う、老齢の男の渋い声が、私の中に響き、その男の記憶なのか、見た事のない光景が、私の中に広がった。夕暮れに染まる小さな流れ込み。しくしくと鳴く、ヒグラシ。演歌好きの爺さんは、いつもの如く、コブナを十、二十と釣り上げて行って……。
はっ!? 私は、一体、何を? 今の、発言と、記憶のような物はなんだ?
「もぐもぐもぐ。もむもむもむ。何これ? 糸? 邪魔邪魔だな。切っちまおう」
くっそう。痛恨のラインブレイクゥゥゥ。
はっ!? なんだ? さっきもそうだし、今のは、なんなんだ? これは、ひょっとして、釣具の性的な、何かの所為で、思わず、声を上げて、良く分からない記憶のような物を、見てしまうのか?
「うんうん。ま゙ず〜い゙。でも、これで、行けるっしょ」
シレルが、言い終えると、私の傍に来て、小さな小さな自身の片方の手の親指を、口の中に含み、束の間を、空けてから、ちょっと痛そうな顔をした。
「気持ち悪いかも知れないけど、我慢しろよ。お互いの体の一部を、交換しないといけないからな」
シレルが、私の竹竿ボディに、親指の先から出ている、血液を擦り付けた。
「シレル。どうでちゅか? 契約は成功ちちょうでちゅか?」
「大丈夫だと思うぜ。こう見てもこのシレル様は、妖精の中でも、かなりの上位の存在だし」
シレルが言葉を切った瞬間、シレルの目から、まるで、レーザー光線か何かのような赤色の光の筋が飛び出して、それが、私の竹竿ボディに命中し、光が当たっている部分の、竹竿ボディが赤く光った。
うえぇ!? な、なんだ? 焼かれるのか? それとも、切断? もしくは、冷凍されるとか?
「分析開始。……。……。分析完了。能力測定開始。……。……。測定完了。契約……。……。……。失敗。……。再度契約。……。失敗。……。異世界物質検出。……。修正プロトコル実行。……。コード書き換え。……。……。失敗。……。……。続行。……。……。……。成功。……。……。契約完了。但し一部機能に不全在り。引き続き修正の継続を推奨」
シレルが、目から光線を出したまま、急に、機械的な口調になって、語り出した。
「どうでちゅ? シレル。これは、成功でちゅか? もう、魔法道具ちゃまは、話ちゅ事ができまちゅか?」
シレルが契約完了と言った瞬間、もう待ちきれないとばかりに、シェレジーがシレルに声をかけた。
「一応、大丈夫かな。でも、これ、こっちの世界の物じゃないぞ。だから、一発で契約が、完全に成功してないんだと思う」
目から出ていた光線が消え、シレルがいつもの調子に戻った。
「こっちの世界の物じゃないとは、どういう事でちゅか?」
「異世界から来た物みたいだ。シレル様も詳しい事は知らんけど」
「異世界、でちゅか? ちょういう言葉は、聞いた事はあるけど、何かは、分からないでちゅ。でも、ちょれだと、何か問題になりまちゅか?」
シェレジーが、しゅんとして、とても、心配そうな深刻そうな顔をした。
おおっと。お嬢さん。そんな顔は君には似合わない。私は異世界産の釣具だが、ハートは人間だ。君が私を見付けてくれて、話せるように、まだ話せるようにはなってはいないみたいけど、君が言うのだから、きっと話せるようになるんだと思う。その為に、この変でチンケな妖精と契約させてくれた事にはとても感謝をしている。だから、この恩は絶対に返すつもりだ。私にできる事なら、どんな事でも、君の為になるのなら、するつもりだ。孀婦岩に遠征できるような、大船に乗った気でいてくれて良い。
「ふーん。そうか。分かった。じゃあ、それを、直接言ってみるか?」
シレルが、ニヤリと悪そうな笑みを、顔に浮かべた。
「おおっと。お嬢さん。そんな顔は君には似合わない。私は異世界産の釣具だが、ハートは人間だ。君が私を見付けてくれて、話せるように、まだ話せるようにはなってはいないみたいけど、君が言うのだから、きっと話せるようになるんだと思う。その為に、この変でチンケな妖精と契約させてくれた事にはとても感謝をしている。だから、この恩は絶対に返すつもりだ。私にできる事なら、どんな事でも、君の為になるのなら、するつもりだ。孀婦岩に遠征できるような、大船に乗った気でいてくれて良い」
うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! ちゃんと私の声が出ているぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!
……。
けど、それはとっても嬉しいけれど、これって。おほほほ~い。ちょっと、今のは、思った事を勝手に言葉にするのは、反則だろう! もう、何も考えられなくなっちゃうじゃないか! 恥ずかしいって。もう。いや~ん。
「魔法道具ちゃま。……。嬉ちいでちゅ。ちょう言ってくれて、本当に、ありがとうございまちゅ」
突然、私の思っていた事が、シレルの体のどこかから、声として、言葉として、発せられて、それを聞いたシェレジーが、ゆっくりとゆっくりと、体を静かに震わせた。
そして、とても嬉しそうに、幸せそうに、微笑むと、声を上げて泣き出してしまった。




