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異世界奇譚 釣具に転生!? 早く人間になりたいっ!!   作者: いたたたっ


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二 裁判の行方の事

 猫ちゃんの登場で、緊迫した空気が辺りを包み込み、私を挟んで、原告団から見て、反対側、左側に、ポツンと一つだけ、使い込まれているような渋い色合いの、木目の綺麗な木製の椅子があって、その上にちょこんと、座っていた、猫ちゃんが、原告達の方を威嚇するような目で見ながら、一声、ニャオーンと鳴いた。


 息を吞むような、小さな押し殺したような声で上げる、悲鳴のような物と、ガサガサと小型の生き物達が、蠢き囁き合うような音がし、明らかに、怯えているであろう、雰囲気が原告団の間に広がる。


「よろしい。では、猫ちゃんよ。被告人の傍に行くが良い。色々と話したい事もあるじゃろう。それが終わったら、猫ちゃんの主張を話すと良いのじゃ」


 原告団や猫ちゃんが座っていた場所の背後には、壁などはなく、白い光だけがある、この謎の時空間の一番端、私の真正面にあった、一際眩く光っていて、私達を見下ろすかのように、とても、高くなっている場所に浮かんでいて、後光に包まれている、神様の声が降って来る。


「神様。ありがとうございますニャン。人間。いつも、魚をくれてありがとうニャン。それに、あの時、助けてくれてニャン」


 猫ちゃんが、軽やかな動きで、椅子から降り、椅子と私の間にあった木製の柵を飛び越えて、私の方に駆け寄って来ると、そう言って、私の体に纏わり付いて来る。


「こっちこそ、来てくれてありがとう。でも、ここにいるという事は、君も死んでしまったという事なのか?」


 猫ちゃんが。喉をゴロゴロと鳴らしながら、小さく頭を振った。


「生きてるニャン。この裁判をするにあたって、神様が呼んでくれたんだニャン」


「神様。ありがとうございます。けど、猫ちゃんは、ちゃんと、向こうの世界に帰れるんですよね?」


「大丈夫じゃ。昔話なんかじゃと、何かしらを犠牲にしたりするシチュエーションが良くあるけど、ここではそんな事はないのじゃ」


 私はほっとすると、手を伸ばし、猫ちゃんの頭を撫でた。懐かしい、あの猫ちゃんの暖かく優しい毛の感触がして、私は、とても落ち着いた、満ち足りた気持ちになった。


「それで、どうだい? あの釣り場は、今も黒鯛が釣れているのかい?」


 私は、自分が死んでしまった時にいた、釣り場の事を思い出して言いながら、猫ちゃんと過ごした日々に思い馳せつつ、改めて、ここまで来てくれた、猫ちゃんに感謝の気持ちを抱いた。


「釣れてるニャン。でも、人間ほど釣れてる人間はいないニャン。だから、餌がもらえなくって困ってるニャン」


「そっか。ごめんな。もう、君に、餌をやる事ができない」


 私と猫ちゃんは見つめ合って、お互いに、しょんぼりとなってしまう。


「そんなふうに、気遣ってくれてありがとうニャン」


「いつまでやってんだハギ。早くその被告人に罰を受けさせろハギ」


「そうだそうだアジ。早く終わらせてくれないと、隣のアジのゼイゴが当たって、痛くってたまらないアジ」


 大勢の原告達が、すし詰め状態のようになって座っている、無数に並んでいる座席の方からヤジが飛んで来る。


「お前ら、また、食われたいのかニャン?」


 猫ちゃんが言ってから、原告達の方を、目を怒らせて、一匹一匹を、黙らせようとするかのように見回した。


「ひ、ひぃ、ハギ。驚いて、ちょっと、皮が剥けちゃったハギ」


「こっちは、ゼイゴ同士が、絡まちゃったアジよ」


 原告団の席の方から、悲鳴のような声が上がった。


「けっ。小物どもがニャン。良いかニャン? そもそも、お前達は、生き物達の中では、どちらかというと食われる側なんだニャン。それが、釣られて食べられて、何が不満なんだニャン。この人間が、お前達の命を、弄ぶような事をしたのかニャン? ちゃんと、釣ってから、食べたはずだニャン。それは、しょうがない事じゃないのかニャン?」


 猫ちゃんが、鼻でフンっと笑う。


「なんて事を言うんだタイ。我々だって、必死に生きているんだタイ。ただ、食べられる為に生きるんじゃないんだタイ。我々にだって、家族がいて夢があったんだタイ。釣られなければ、まだまだ人生が続いたんだタイ。食べられる事もなかったんだタイ。人間の世界では、我々、魚が売られてると聞いてるタイ。そこで買えば良いんだタイ。わざわざ、釣りをして、新たに殺す意味が分からないタイ」


 インテリふうマダイが、眼鏡をクイっとやる。


「人間だって、自ら狩りをする事だってあるニャン。お前達はどうニャン? 海の中だって、たくさんの生き物がいて、その中には、寿命や病気、何かしらの事故や事件に遭って死んでしまう生き物がたくさんいるはずニャン。そういう物ばかりを、食べて生きて行く事だって、やろうと思えばできると思うニャン。お前はどうだったニャン? 自ら、餌を殺して、その者の家族との絆や、夢なんかのすべてを奪って、食べた事はないのかニャン?」


 インテリふうマダイを見る猫ちゃんの目が、獲物を狙っている猛獣の目のように爛々と輝く。


「それは、タイ。私は、海老が大好きだったタイ。良く捕まえて食べたタイ〜」

 

 インテリふうマダイが、ご馳走を前にしている時のような、今にも涎を垂らしそうな、幸せそうな表情を顔に浮かべてから、しまったというような顔をし、急にキリッと表情を引き締める。


「神様。こいつらの主張は、間違ってるニャン。釣りとは狩りの一部といって良いと思うニャン。どんなに人類の文明が進んでも、人は狩りを行う権利を持ってるはずニャン。狩りをする以上は、捕まえた生き物を殺す事は、しょうがない事ニャン。よって、被告人、開玉聖の無罪を主張するニャン」


「猫ちゃん。ありがとう」


 私は、雄弁に、とても理知的とも思える内容で、反論してくれた猫ちゃんを、感嘆の眼差しで見つめた。


「そうじゃのう。確かに、猫ちゃんの言う事にも一理ある。さて、開玉聖よ。どうじゃ? お前は猫ちゃんの言葉を聞いて、どう思ったのじゃ?」


 神様が、何かを考えているのか、やや間を空けてから、静かな声で告げる。


「私、ですか?」


 私は、どう答えれば良いのかを考えた。


 私には、今、こんなふうに、私の事を弁護してくれる、私の代わりに私の事を守る為に、言葉を作ってくれる猫ちゃんがいる。私は恵まれていて、一方的に何かをされているわけではない。


 だが、釣りをしている最中は、どうだったのか? 魚達が今みたいに話しかけて来ていたら、どうなっていたのだろうか?


「猫ちゃんの言葉にはとても感謝しています。でも、私にも非があったと思います。私の心の中には、周りの人よりも釣りたい。自分の腕を自慢したい。自分は釣りがうまい。というような思いがありました。純粋な気持ちだけで、狩りとしての、釣りと向き合っていたわけじゃない。もちろん、そんなふうに思う事のすべてが、悪い事だとは思わないけど、それでも、魚達からみれば、それは、ただのエゴなのか知れないと思いました。今思えば、もっと、ちゃんと、魚達と向き合う時間や、命を奪うという行為の事を、良く考えて、もっと感謝をして、大切にしていれば良かったと思います。折角来てくれて、私の為に弁護してくれたんだけど、猫ちゃん。ごめん。神様。私は、できる事なら、罪を償いたいと思います」


 私が発言している最中に聞こえて来ていた、様々なヤジが一度止んで、辺りが水を打ったように静かになった。


 それから、暫しの間があってから、原告団の方から、一斉に、感嘆や皮肉の声や感謝や嫌味などを言う声が上がる。


「静粛に。開玉聖よ。それは罪を認めるという事じゃな?」


「はい。認めます」


「分かったのじゃ。十分に反省してるようじゃし、猫ちゃんの言葉には、説得力があったのじゃ。ここは、うんと軽い罪に、そうじゃな。例えば、何でも簡単に釣れてしまうチート能力を、特定の何かしらは釣れないとかにする事で、手を打とうと思うのじゃが、どうじゃな?」


 神様が、原告団の方に顔を向ける。


「ちょっと待ったーカニ」


「判決は待って欲しいアオイソメ」


「まだ私達の発言の番が来てないユムシ」


「そうだそうだボケジャコ」


「こっちもいるフナムシ」


「岩イソメもいるんだイワイソメ」


 その後も、スジエビやフジツボ、イガイに、パイプムシなどが、続けて声を上げた。


 まるで、スポットライトに照らされてでもいるかのように、各種の生き餌達の姿に光が当たって、ある者は、爪を高く上げ、ある者は、口内に隠し持っている黒光りする牙を剥き出し、ある者は、ピョンっと後ろに向かって飛んだりする。


「分かったのじゃ。分かったのじゃ。代表の者を一人決めて、主張を述べるのじゃ」


 神様の言葉を聞いた、生き餌達が、大きな声を上げつつ、それぞれの、甲殻類や多毛類や貝類の特徴に見合った、独特の音を鳴らしながら、話し合いを始めた。

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