十三 異世界転生猫の事
ここは異世界のどこかの森の中ニャン。向こうの世界では、見た事のないような、大きな木がたくさん生えていて、なんだか、聞いた事のない生き物の鳴き声がしたり、嗅いだ事のない匂いがたくさんしてるニャン。
ええっと、今の状況ニャン? チコは、木に寄りかかって立ってるニャン。記憶ニャン? ちゃんと、何をしに来たか覚えてるか確認ニャン。この猫の名前は、チコニャン。チコは、前世で、開玉聖という人間(雄。四十二才)に命を助けられたニャン。
それから、聖が犯したという罪での裁判があって、そこで、あんなこんながあって、チコは、聖を追って異世界に転生して来たニャン。
チコは、こっちの世界では、もう、既に、人間の年齢では二十歳になってるニャン。赤ちゃんだと、すぐに聖を探せないから、そうなるようにと、神様にお願いしたニャン。
それとニャン。
チコは、この世界では、もう、前の世界での人間のように強いニャン。前の世界では、ただの野良猫だったから、たくさん、たくさん、大変な事があったニャン。烏に突かれたり、釣場に来た人間に蹴られたり。
でも。
こっちでは、もうそんな事はないニャン。こっちの世界では、チコは、猫型の獣人? ニャン。神様に人間にしてって言ったら、折角だからと、獣人? にしてくれたニャン。
後、こっちの世界では、チコは、チート級の能力という物を持ってるニャン。その能力は、滅茶滅茶強い。とにかく強い。めっぽう強い。という物ニャン。
神様にどんな力が欲しいのじゃ? と聞かれたから、相手が何でも、絶対に負けない力が欲しいと言ったニャン。
神様は、具体的にはとかなんとか言って、あれこれ教えてくれたけど、良く分からなかったニャン。だって、チコは猫だしニャン。
裁判の時は、聖には内緒だけど、事前に神様と原告達と、勉強会をしてたから、大丈夫だったけど、他の事になるとちょっと難しいニャン。
それに強さの種類になんて興味がないニャン。相手が何でも、圧倒的な力で、倒してしまうのが一番ニャン。
チコの生きて来た世界は、そいういう世界、弱肉強食の世界だったニャン。
でも、聖だけは違ったニャン。
餌をくれる人は他にもいたニャン。
でも、聖が一番おいしい餌をくれたニャン。
チコが、人間に虐められた時に助けてくれた人間は、聖以外には、誰もいなかったニャン。聖は、人間に虐められてる時も助けてくれたし、聖は、あの、トラックという恐ろしい物からも、チコを助けてくれたニャン。
あのトラックという物には、人間も勝てないニャン。
でも、今のチコなら勝てるニャン。
聖。待ってるニャン。このチコが、必ず見付け出すニャン。それで、何かあったら、必ず、聖の事を助けるニャン。
まだ、チコは、異世界に来たばかりで、獣人になったばかりで、右も左も分からないニャン。神様が、それなりの量の、人間としてやっていける量の知識とか知能とかを授けてくれてるらしいから、頭の中にポワっと、考え? 思い付き? 閃き? とかいうような物、何をすれば良いとか、どうすれば良いとかが、浮かんで来るけど、そういうのがあっても、使いこなすのは、また別の話ニャン。
えっと、それで、まずはニャン。
そうだニャン。自分の姿が見たいニャン。猫型獣人ってどんなのニャン? 猫だった頃よりも、かわいいのかニャン? 神様は、向こうで聖にあったら、悩殺アッハーンじゃ。とかなんとか意味の分からない事を言ってたけど、やっぱり、自分の目で確かめないと不安ニャン。
前世では猫と人間だったけど、今回は、違うはずニャン。今度こそ、聖をチコの物にするんだニャン。
それに、なんてたって、今のチコは、強いニャン。これなら、聖にも負けないニャン。聖が、チコの事を愛せないとかなんとか言い出しても、力でねじ伏せられるんだニャン。ニャヒヒヒヒ。
ニャ。そんな事はしないニャン。今のはあくまでも、仮定の話ニャン。
えっと、自分の姿を見るには、ふむふむニャン。知識という物は便利ニャン。鏡というのもがあるというのが頭の中に浮かんで来たニャン。でも、それは、人間が持ってる物だから、今のこの森の中にはなさそうなんだニャン。
そうなるとニャン。水ニャン? なるほどニャン。水鏡ニャン。じゃあ、水場を探すニャン。
フンフン。スンスン。クンカクンカ。
近くに、水の匂いは、むむむ、ニャン?
何か臭うニャン? これは、人間ニャン?
「誰か助けて下さい! 誰かお願いします!」
人間の声ニャン? 助けてって事は、危険が危険って事ニャン?
待ってるニャン。今のチコは、強いんだニャン。
だから、助けを求める者の事は、見捨てないんだニャン。
臭いと声のする方に急ぐんだニャン。
ニャニャ〜ン? なんか変だニャン。
ニャン?! 二本足で走ってるからかニャン? これじゃ遅いニャン。走る時はこっちだニャン。
やっぱり四本足で走った方が速いんだニャン。でも、大きい木がたくさんあって邪魔なんだニャン。それに、地面も落ち葉とか苔とかで滑るんだニャン。
「おのれ、この、獣風情が。何? 剣が、折れた、だと?」
「セバソティアン。死んでは駄目です」
「お嬢様。すいません。セバソはここまでのようです。どうか、お嬢様だけでもお逃げ下さい」
「そんなの駄目です。護衛の人達も殺されてしまって、貴方まで、こんなになって。私一人で逃げる事なんてできません」
開けた場所に出て来たニャン。これは、えっと、道? 街道? あれは、馬? 馬車? 人間が何人か倒れてるニャン。皆、血だらけで、動いてないニャン。二人だけ、動いてるニャン? でも、一人は、胸の辺りから血が出てるニャン。もう一人はまだ、怪我はしてなそうニャン。
相手は、何者ニャン? あれは、犬ニャン? 狼ニャン? なんか、随分と、大きい奴らが、一、二、ええっと、十匹くらいかニャン?
ニャニャニャニャ。嬉しくなって笑っちゃったニャン。チャンスニャン。チコがどれくらい強いのか確かめるニャン。
「そこにいるのは誰ですか? 貴方は、猫獣人さん? ごめんなさい。私が助けてなんて叫んだからですね。貴方は逃げて下さい。このままでは、貴方まで殺されてしまいます」
「大丈夫ニャン。チコは強いニャン」
「強いのですか? でも、貴方は武器も何も持ってないように見えます。護衛の人達は剣があっても殺されてしまったのです。お願いです。逃げて下さい」
「そっちこそ逃げるニャン」
「……。優しい人、なのですね。けど、無理なんです。セバソティアンも怪我をしてしまっていますし、実は、私、怖くって、立ち上がる事もできないんです」
クンクン。この臭いニャン。この人間の雌、漏らしてるニャン? 無理もないニャン。チコも、初めて烏に突かれた時は、驚いて、怖くって、ビュビュって、おしっこが出ちゃったニャン。かわいそうにニャン。
「もう、心配ないニャン。チコは、弱い者の味方ニャン。チコはこういう奴らの事を許さないんだニャン」
あれニャン? でも、魚達も餌達も弱かったニャン? あれれニャン? 前は気にならなかったのにニャン?
「でもどうやって? 素手で勝てるのですか?」
「素手ニャン? ふむふむニャン。素手で勝てるニャン。とっととやっつけてやるニャン」
猫パンチニャン。猫パンチニャン。猫キックニャン。猫頭突きニャン。ほほいのほいっとニャン。
一瞬だったニャン。皆、ちょっと撫でてやれば、あっという間に死んでしまうんだニャン。ニャニャニャニャニャ。嬉しくって笑っちゃったニャン。
……。笑っちゃったけど、なんか、嫌なんだニャン。笑うのは、何かが、違う気がするニャン?
「こんな、こんな、事って。貴方は、本当に強いのですね」
「楽勝なんだニャン」
「お嬢様。良かったです。猫獣人様。どうか、どうか、お嬢様をお願い致します」
「セバソティアン。駄目です。死なないで。セバソティアン」
人間の雄が、口を半開きにしたまま、動かなくなったんだニャン。きっと死んでしまったんだニャン。チコは、この人間の事を、助ける事ができなかったんだニャン。
「セバソティアン。セバソティアン。お願い。目を覚まして。死なないで」
「は?! このセバソティアンともあろう者が、助かった事でほっとして、怪我と疲れもあって、眠ってしまってたようです。大丈夫ですよ。お嬢様。このセバソ、お嬢様が、ご立派なご当主になられて、ご結婚なされて、かわいいお子を授かって。そんなお姿を見るまでは、決して、死んだりは致しません。今は亡き、お嬢様のお父上、前のご当主様と奥様との約束もございます。……。でも、今は、非常に疲れてるので、ちょっと、失礼致します」
セバソティアンとかいう雄が、また寝てしまったみたいなんだニャン。あんな怪我をして生きてて、しかも、寝ちゃうなんて、このセバソティアンという雄、なかなかやるんだニャン。




