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異世界奇譚 釣具に転生!? 早く人間になりたいっ!!   作者: いたたたっ


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十二 情緒不安定な事

 絶望。


 絶望。


 大絶望。


 混沌。


 深淵。


 混迷。


 奈落。


 終わった。 


 私の、人生、んん? 人生? 今の場合は、釣具生? なのか?


 もう~。


 そんな事は、どうでも良い。


 そんな事より。


 転生して早々に、詰んでいるじゃないか!!


 マジで詰んだ。こんなの無理ゲーじゃん。どう考えたって無理だろ。言葉は話せない。動く事もできない。釣具としては、最弱の部類。今は、こうやって、物事を考えたり、目がなさそうだけど、見る事ができていたり、耳も、そう、あるのかないのか分からないけど、聞く事ができているけど、これだって、これからどうなるか分からない。突然、見る事も聞く事も、できなくなったって不思議じゃない。


 だって、私、釣具だもの。釣具は物だもの。私が昔持っていた釣具達が、今の私と同じようだったなんて、絶対にないもの。


 ずずずず~ん。


 私は、今までも、人間であった頃なら、頭が、地面に着いてしまいそうなくらいに、落ち込んでいたが、また、改めて、今度は、頭が地面の中に、一メートルくらいめり込んでしまいそうなぐらいに、落ち込んでしまった。


 いつの間にか、木達も寝てしまったのか、会話も聞こえなくなっていて、夜も更けて来たのか、いよいよ、静寂を通り越して、耳が、あ、耳はないのかも知れないけれど、あったら、耳が痛くなってしまいそうな、耳鳴りがして来てしまいそうなほどの、静けさが、森の中に広がっていた。


 私の、あるのかないのか分からない、目には何も見えず、同じような存在の耳には、何の音も入っては来ない。


 無だ。


 私は、今、無だ。私の周囲も無のようだ。


 ……。


 無。か。


 私は、今、釣具だ。道具とは、物だ。物は生き物じゃないから、意識とか、感覚とか、感情とか、他にも、とにかく、生き物が持っている物は、何もないはずだ。


 私の心の中を、あゝ。心があればだけど。


 凍えてしまいそうなほどの、冷たい風が吹き抜けて行く。


 私は、もう、何もかもが、良く分からないが、ただの、思い過ごし、自分が勝手にそう思っているだけなのかも知れないが、深く溜息を吐く。だって呼吸しないから。釣具だから。


 もう良い。もう無理だ。こうやって考えているのにも疲れて来た。


 ああ。そうか。そうだよな。


 私の中を、吹き抜けていた風が、強くなる。


 私はすっかりと忘れていた。違うか。目を背けようとしていた、だけなのかも知れない。


 これは、罰なんだ。


 私は、前世で、大量の生き物達を殺していた。しかも、人類の知恵が培って来た、常に進歩して行っている、技術によって生み出された、道具を駆使して。魚や餌達にとっては、どう頑張って太刀打ちのできない、圧倒的に、こちら側が有利という状況の中で、好き勝手に、自分の欲望のままに、大暴れして来ていたのだ。


 ……。


 あの頃、魚や餌達から見れば、私は既に、チートでヒャッハー! だったんだ。


 だから。


 この状況は当然の帰結なのかも知れない。あの裁判は、ああいう結末のように思えただけなんだ。ハッピーエンドで、異世界転生で、チートでヒャッハー! そんなの全部、幻想だったんだ。


 これで良いんだ。私は、罰を受けて当然。ここでこうして、朽ち果てるまで、ただ、ただ、木に寄りかかったまま……。


 なんだか、泣きたくなって来た。でも、私は、泣くのは嫌いだった。


 私が子供だった頃は、今時とは違って、男らしくあれ。みたいな事を、親に当たり前のように、言われる時代であって、事実、私もそう言われて育てられていた。


 あれは、確か、父と、近所にあった、沼? のような所に、カエルやら、ザリガニやらを取り行った時の事だったか。ザリガニがいっぱい入ったバケツを、張り切って持って走ろうとした私は、派手に転んでしまい、膝を、コンクリートの地面で擦ってしまって、血が出るほどに切ってしまって、泣いた事があった。父は言った。男だったら泣くなと。


 郷愁と憧憬が私の心、もう、面倒なので、心がある事にしておこう。私の心の中に広がって行って、もう、なんとも言えない気持ちになって。


 しんとした、森の静けさが、全身に染みて来て。


 私は、我慢できなくなって、声を上げて、泣いた。嗚咽した。


 と。言いたいところだが。


 あっあ〜ん。もう。本当に、やってられ~ん。


 そこは、ほら。だって。今の私は釣具。リアルに泣く事なんでできやしない。涙が全然出ない。泣きたいのに、というか、人の頃だったら、とっくに泣いていると思える状況なのに、マジで涙が全然出ない。


 ナニコレ? コワイ?


 もう何度目になるのか、私は、深い溜息を吐いてしまう。だから。吐いた事にしておいて。


 私は、何もかもが面倒になって来たので、ただ、ただ、ぼうっとする事にして、思考も、感覚も、――そう、気温の変化などは、感じてはいたが、どうやら、そういう感覚は、酷く鈍くなっているようで、こんな夜更けだと思われるような頃になって来ていても、ほんの少し寒くなったのかな? 程度にしか感じてはいなかったが――そういう物も含めて、何もかもを手放す事にした。


 音のなくなった森には、もちろん、明かりもない。今の私には、目があろうなかろうが、何も見えない。 


 深く重たいような、質量を持っていそうな、気がして来る闇が、私の傍に寄って来ていて、私を、そっと、包み込んでいるようだった。


 不意に、笑いが込み上げて来て、こんな時にも関わらず、私は笑ってしまった。自分でも気が狂ってしまっている、情緒が完全に不安定になっているとは思う。


 けれど、先ほど、父の事を考えたせいか、父の、アホアホエピソードを、突然、思い出してしまっていたのだった。


 父も私と同じように、いや、私よりも釣馬鹿だった。私が釣好きになったのは、完全に父の影響で、幼少の頃から、父に連れられて、良く釣り行ったものだった。


 そんな父は、かなりの、アホアホ、――おっちょこちょいで、釣関係で、どうしてそうなった? というようなエピソードがいくつかあった。


 これはその一つだ。


 あれは、私が社会人になって、釣具屋に勤め始めたくらいの頃か。父が、昔使っていた、某釣具メーカーダ◯ワのスピニングリール、かなり古い物だったが、トー〇メントのハイエンドモデルを持って来て、これ、直せるならお前にやると、言って来た事があった。


 私は、親父、こんな良いの持っていたんだ? 本当に貰っちゃって良いの? とかなんとか言いながら、そのリールを巻いてみた。すると、スプールを受ける軸に付いているワッシャーがなくなっていて、スプールが上下する度に、スコスコと変な音を立てつつ、おかしな動きをしてみせた。


 あの動き。


 なんでもない、ただの機械の不具合なのだが、それが、とっても滑稽に見えて、酷く笑えて、そもそも、そんなワッシャーなんて、普通は失くさないと私は思ったし、事実、私は一度も失くした事がなかったので、その事も相まって、大爆笑してしまったのだった。


 大爆笑しながら、どうしてワッシャーなんか失くしたんだ? と聞くと、父が、こいつは何を言ってるんだ? というような顔をしつつ、ワッシャー? そんなのあったのか? 良く分からんが、洗った後におかしくなったんだよ。ひょっとしたら、そのなんちゃら言うのが、流しの穴の中に落ちちゃったのかも知れんな。でも、いつ失くしたのかは、分からなくってな。いつの間にかこんなふうになってた。などと言う。


 私は、想像してしまった。釣場について、タックルの準備をして。いざ、一投目。という時になって。リールがスコスコした瞬間を。


 ぶわっはっはっはっはっはっはっは。


 私は、再び、当時、父と話していた時のように、笑った。笑い過ぎて、息ができなくって、腹が捩れて、横っ腹が痛くなって。


 なんて、そこは釣具だから。実際には、そんな事はなかったけれど。


 ちょっとだけ、ほんの少しだけ、笑った事で、気持ちが軽くなったような、気がしたんだ。


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