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1億5千万年時間があったら何する?

手ノ塚司


8番目の異世界の勇者は不老不死の特性を持っていた。


脳筋馬鹿なヤツだったから動きは追いやすかったけど…肉体を粉微塵にしても復活するし、メンタルを追い詰めようとしても脳筋だから効かない。


努力友情勝利に根性溢れる暑苦しいその男は、不老不死と筋肉、少しの勇者用魔法以外特筆すべき事は無かったけど、攻め辛いヤツだった。


ならばと永久凍土の魔法で氷付けにして封印しても、神様から勝利判定は貰えなかった(勇者の仲間が溶かしたせいもある)


どうしたものかなぁと悩んでたら、その世界に住むあるドラゴンの話を思い出した。


不老不死の屍竜王。


身の丈十数m、体長数十m。


鱗は無く、灰色の剥き出しの肉が常に腐って溶解している。


溶解した端から新しい腐肉が形成されて骨にならないエンドレス。


腐肉が地に溶け落ちると地面は死に、草も生えない土地となる。そしてその腐肉からはアンデッドモンスターが産まれ…またまたエンドレス。


生者(動物含む)を見つけては貪り食っているが、内臓も腐っている為空腹は満たされず常に飢えている。


俺よりもそいつがラスボスで良いんじゃない?


とも言えない唯一の弱点…というか欠点は足も腐っててとてつもなく歩くのが遅いこと。


昔、とある英雄が屍竜王を深い谷底に落としたことで危機を乗り切ったらしい。


さて、そいつをどう使って勇者を倒すか?


戦わせる?


半分は正解。


泥仕合になって永遠に戦い続けるだろう。


でも勇者が途中で諦めて、あの時の英雄のようにどこかに閉じ込める可能性がある。


そうさせない為には…



俺は屍竜王と対峙した。


魔力の流れを探ると、頭部の脳にあたる部分に濃い魔力を発する手のひら大のコアのような物があった。


それを砕いてもすぐに再生するし、抜き出した所でそこからまた新しい体が生えてきた。


確かにコアだ。


試しにそれを凍らせてみると、再生は止まった。


冷凍保存強いな。


ともあれ、それを最後の戦いの時に勇者の心臓にぶちこんだ。


不死と不死、マイナスとマイナスがぶつかってプラスになって倒せるようになるかな~と思ってた。


結果は違った。


心臓も言うなれば人のコアみたいなものだ。


コアとコアがごちゃごちゃに混じってお互いの不死による再生を試みようとした結果…


屍竜王のコアから腐肉が、勇者のコアから出た人の肉がそれを包んで抑えようとして、さらに腐肉が溢れ、それを肉が…こちらもエンドレス。


増殖、拒絶、浸食、拒絶…肉と腐肉がせめぎあい、抜け穴を見つけては飛び出て、狩られ、抜けられ、追って…


気付いたら人間と屍竜王の肉の塊ができていた。


多分、痛くてたまらないのだろう。


突き出た勇者とドラゴンの頭が絶叫しながらどうにか離れようとブレスや勇者だけが使える天属性の雷撃の魔法を乱れ打つ。


脳筋とはいえ勇者の魔法、腐っても古の竜のブレス。地は裂けて山は割れ、川は支流が増えた。


思惑は外れた。


それで勝利判定が出てほっとしたものの、最悪の産廃を放置出来ずに俺の世界のチャンネルの1つにそれを放り込んだ。



そして今に至る。


俺を守ろうと正体を現しちゃった横河さんをCDRBから守る為に、横河さんとおまけにSF界隈を俺の世界に転送。


その代わりに産廃を町に放り出した。


おおよそ五年振りの娑婆だ。


俺の世界での1年はこっちの1秒だから…1億5千万年?


あはは、存分に暴れてくれ。



異世界からお土産付きで帰ってきた勇者が大暴れしてました~というシナリオに…ならんかな?なると良いなという苦肉の策。


まだCDRBの連中も到着してなかったし、防犯カメラも潰れてたし何とかならんかな。


まぁ、何かあったら何とかしよう。



「いきなりいなくなってびっくりしたよ。怪我とかは無い?」


俺は変身して巨大化した横河さんの目線と同じ位置まで浮かんだ。


俺の上半身くらいの大きさになってる頭が「え?誰のこと??」みたいな感じで虫の複眼で左右をきょろきょろ。


嘴が空を切って風が顔にあたる。


隠そうとしてる、すごい可愛い。


「横河さん、俺は気付いてるよ」


なんのことかな~みたいに、両手を広げてきょろきょろ。


「俺を守ろうとしてくれたんだね、本当にありがとう」


この個性的な姿を隠したくて、こうして白々しくしているのかもしれない。


俺は買い物カゴ3つ分位の長さの嘴を抱きしめた。


「ありがとう」


好きな人の格好がどうだなんて関係無い。


『…1回、下に降りて?』


観念したのか、横河さんは俺の頭に呼びかけてきた。


嘴だもんなぁ…喋れないよな。


『人に戻ったら裸だから後ろ向いててくれる?』


「あぁ…それならこのマントを羽織りなよ」


俺は吸血鬼のマントをとると、横河さんの足元に置いて後ろを向いて俺も変身を解いた。


丁度太陽の関係で俺は横河さんの影に入ってたんだけど、それが小さくなっていく。


後ろで布をガサゴソする音が聞こえる。


「良いよ」


振り向くと、黒いマントで体を隠したいつもの横河さんがいた。


バツが悪そうに明後日の方向を見て呟いた。


「グロい姿を見せてごめん」


「グロいとか…嘘だろ?神々しかったよ」


「でも、蟲と鳥だよ?」


「神秘的で綺麗だったよ。」


嘘はついていない。びっくりしたけど、造形は神がかっていた。


「…あー…もう…営業職はこれだから」


頭をガリガリかきながら、ようやく横河さんは俺を見てくれた。


「突然消えてごめんね、我慢できなくて…」


「良いよ、横河さんも帰還者だったんだね」


「手ノ塚さんも…ね」


また、そこで口ごもる横河さん。少しの沈黙の後…


「…ライトサイド?」


「カオスサイド」


そう即答すると、横河さんが少し固まったかと思うとやがて口元を抑えて急に泣き出した。


「嘘じゃない?」


「こんな時に嘘なんかつかないし」


「…私も…同じ…」


「そうなんだね。でも…横河さんがライト側でも俺は君のことが好きになったよ」


俺は横河さんを抱きしめた。俺の胸の中で横河さんが鼻をすすってる。


帰還者…彼女も必死に頑張って勇者を殺すか世界を滅ぼしたんだろうな…こんな小さい体で。


「私は心配だった…カオスサイド許さんとか言って斬られたらって…」


まじか…そんな酷い目にあってたの??


どこのどいつだ…?


「そんなことするわけないよ」


「本当に嘘、ついてない?本当はライトサイドとか?」


「あはは、さっきの吸血鬼の姿見たろ?あんなライト側いる?」


「い…ないかも」


小さく笑ってくれた。


「…さっきのお返事する」


俺を見上げる横河さん。


「私も手ノ塚さんの事好きだよ、大好きだよ」


俺はすぐさま彼女にキスをした。頭の中が真っ白になって嬉しくて弾けてしまいそう。


「ありがとう、大事にするよ」


あぁ、どうしてもっと気の利いた事が言えないかなぁ。


せめて態度で示そうともう一度、俺は彼女を抱きしめた。



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