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20/26

告白の時は無防備

手ノ塚司



その返事は突然の爆発音にかき消された。


ガスタンクでも破裂したような轟音だ。


俺は魔法の防御環を展開して横河さんに覆い被さっていた。


遅れて届く地響きと砂埃、そして周囲の人々の悲鳴。


どこかで何かが爆発した??


空を見上げると空中で何かが爆発したのか、マンションやビルの隙間に黒い煙の塊が今にも霧散する所だった。



何々??


ってか告白中の一番無防備な状態でコレは…無いだろう??


『司!』


念話で舞希流の緊迫した声が届く。


『楽しいのは判りますがLINE位見て下さい。』


『おお?えええ?は??なに!??あの爆発!ここは地球だろ?誰が何をどうなって?!』


『…SF界隈の犯行です』


『は???なんでまた…』


とりあえず体の下の横河さんを見る。


がくがく震えて…


「ふ、ふふふ…ふふふふ…」


びびりすぎてるのか変な声で笑ってる。


そうだよな、怖いよな…俺が守らないと…俺は震える彼女の体を抱きしめた。


「大丈夫だからね…必ず俺が守るからね…」


周囲に注意を払う。


俺等以外の通行人も爆発のインパクトから醒めて、ようやく動き出した。右往左往して狼狽する人、スマホで撮影する人は多いな…走るでなく歩いて爆発のあった反対側に逃げる人もいる。


踏まれたりしたらまずいから道の端、シャッターの閉まった店の軒先に移動して舞希流に声を掛ける。


『そっちは大丈夫か?職場はこの近所だろ?』


『…大丈夫です。店が衝撃で半壊しましたが、私を含めてお客様にも大怪我をしてるような人はいませんが…』


『…が?』


『爆発音が複数ありました。発生源は恐らくこちらも含めて5箇所かと』


『え、5人もいるって?』


『恐らく。そしてその内の1人はヨルデン科学の元資産競合部の芦原です。5年前にエネルギー切れで引退しました』


『それが元気に動いてるって?それも確かにおかしいけどさ…その情報、すごい具体的だな』


『はい、私の職場の前で空に向かって高笑いをしています』


俺が行く、と言うよりも早く


『司、私をあなたの天秤に乗せない約束です。司は大事な人の為に動いて下さい。幸いな事に芦原は私と1度も目があっていません。ここに現れたのは偶然でしょう』


釘を刺されてしまった。


舞希流は強い。俺の配下として11の世界を渡り歩いただけあって並のライト・カオスサイドより格段に強い。


でも、勝った事は無い。


実力も経験も上なのに、ライトサイドと対峙するとなんやかんやで負ける、逃げられる、引き分ける…正直黒星しかとっていない。何か不思議な力が働いているのかもしれない。


相手がカオスサイドだとどうなるか?


試したことはない。


『負傷したお客様の相手もしますので、どうかご武運を』


念話が終わる。


…。


よし、切り替えよう。


舞希流と話してるうちに立ち上がって周りを警戒してたので、改めて横河さんを…


あれ?


うずくまって震えていた横河さんが、買い物したショッパーの数々を残して忽然と姿を消していた。


え??どこ行った??


頭がパニックになることだらけだ。


気配察知の魔法を使ってみても、半径500mにはいない(SF界隈は1人確認した)


足が早いのか、帰還者としてステルス能力がバカ高いのか…とりあえず、俺の世界に横河さんが購入したあれやこれやを放り込んで彼女を探すことにした。


SF界隈の動向は俺は正直どうでも良い。これだけ騒ぎを起こしたんだから、CDRBがすぐに来て鎮圧するだろう。


問題は横河さん。


SF界隈に彼女を誘拐できる能力がある人を俺は知らない。


だから自分の意思でどこかに行ったのだろう。別に俺を置いて逃げたとしても悲しくは無い、イチ生命体としてむしろよくやったと思う。


そうではなく、彼女が帰還者故に俺の事を普通の人間だと思っていて、俺を守るために動いたとしたら?


…それは嬉しいけど、彼女がどの程度強いかは判らないし、仮にSF界隈と接触して戦ってる最中にCDRBに見つかったら…正直面倒なことになる。


CDRBは国の機関。正式名称「領域間事象調整局」簡単に言うと帰還者で構成された対帰還者の警察みたいなものだ。


悪いことをしたらライトとカオス関係無く、なかなかきつい罰が待っている。


帰還者同士の小競り合いや異世界の能力で悪さをしただけで記憶操作されて能力を抹消されるのだから、こんなに前代未聞な程大々的に暴れたら…情状酌量の余地なく抹殺だろうな。


特にカオスサイドだってばれると、何もして無くてもいちゃもんつけてくる連中だ。


SF界隈と一緒に暴れてる+もし横河さんがカオスサイドだったら…あーやだやだ、考えたくも無い。


ゲーム的に言うと緊急クエスト発生、CDRBに見つかる前に横河さんを回収すること。


SF界隈?知らん知らん、関わりたくもない。


どうしたものかなぁ…と周りを見回していたら。


「む」


「あ」


向こう側から歩いてくる安田さんと目があった。


クビになったとはいえ、今お騒がせのSF界隈筆頭株じゃないですか…


「手ノ塚さんか…大丈夫か?」


日本人離れした彫りの深い顔の眉毛をひそめる安田さん。ちょっと憔悴している気がする。


「怪我は無いです。暴れてる連中って安田さんとつるんでる人達ですよね。」


俺を見るなりの大丈夫か?はどうやら爆発騒ぎを起こしてる連中とは別行動とみた。


「…面目ないことに」


安田さんは逆三角形の筋骨隆々の体を縮こまさせて俺に深々と頭を下げた。


「冷遇されているSF界隈の処遇の改善と、それが駄目なら世界をSF仕様に作り替えると…」


うわー、理由とか聞きたくなかったな。


「でも安田さんのツレって皆ガス欠で引退してるのでは?」


営業気質な自分が憎い。本当は回れ右して横河さんを探しに行きたいのに色々聞いてしまう。


「…とある方にメンテナンスしてもらったのだ」


「まじすか!」


それなら凄い。SF界隈は補給や修理が出来ないからどこの企業も、何ならCDRBですらも身内に入れるのは渋るのに…歴史が変わるのでは?


「んで、そいつを頭に据えて消耗一直線のSF界隈にテコ入れを?」


「概ねその通りだが、そのお方にはまだ承諾すらとっていない。」


「見切り発車じゃないですか…」


「あぁ、そして…この爆発、テロみたいなものだが私は知らされていなかった」


そうだよな、1人だけライトサイドなんだから。


カオス側で戦ってきたら、割と悪役的な考えに染まってしまう傾向がある。


それでも、こっちの世界でここまで暴れるのは稀だけどな…本当にどうするんだ。


「私が止めるのを待っているのかもしれない」


まっすぐな瞳で自分の拳を見つめる安田さん。


純粋だな…この人は。


「ソレは無いでしょう。ここまで暴れたんだ。もう後戻りはできませんよ。ごめんなさいで許されるレベルじゃない」


「…やはりそう思うか…しかし、私は仲間として彼等を力ずくでも止めなければいけない。」


んで、一緒に暴れて一緒にお縄?


あぁ…彼等はそれを望んでないから誘わなかったのか。


悪い評判は聞かない人格者だからなぁ…安田さん。


まぁ…面倒だから指摘しないけど。


ともかく今はCDRBが来る前に横河さんを…と、安田さんに別れを告げようとしたその時だった。


「!?」


煮えたスライムみたいに体にまとわりつく瘴気のような魔力を感じたかと思うと…思わず耳を塞いでしまう程の大音量の奇声が聞こえ踏鞴を踏む。ブルースリー百万人が一斉に吼えたのかと思った。


「…お仲間さんにこんな怪鳥みたいな声出す人居ます?」


安田さんは耳に響きすぎたのか(センサー?)眉をしかめてゆっくりと首を横に振った。


それならやっぱり俺と同じくこの地域に居た帰還者…横河さん…?


良い声で歌うわ。


「うお、なんだあれは」


突然安田さんがビルとビルの間の空を指す。


「ん?」


夜であること、そして建物の影になって見え辛いけど…翼の生えた蜘蛛みたいなのが空中に浮いていた。


「…安田さん、飛べるか?」


「少しの時間なら」


俺は吸血鬼に姿を変えた。


9番目の世界では、俺は吸血鬼の始祖だったからその時の姿。黒いマントに燕尾服、露出する手や顔はというと紫色の炎(生者に対する憤怒の炎らしい)に包まれていて、顔も隠せて丁度良いし夜目も利く。


ビルに沿って空に向かって飛翔すると、安田さんもジェット音を轟かせそれに続く。


8階建てのビルの上。さほど高くないビルやマンションが並ぶ町並み。


方々で煙が上っているのが判る。


そして…


「なんだあの怪物は…」


安田さんが息を呑むのが判る。


成る程…あれは確かに怪物だ。


数十メートル先、中空に留まるそれは大きさは全長10mはあるか。


蜘蛛の体に女性(線が細くて胸がある)がケンタウロスみたいに生えてる。


その背中には白銀色の鳥の翼が10枚以上。


翼と同じ肌の色をした女性の頭には猛禽類の嘴…大きな岩も噛んで砕きそう。


そして、目…というか、嘴で顔の下半分を使っているなら、その上はスズメバチみたいな複眼の目がギョロンと…


うおおお、ぐろい。


その生き物は何かと言われても、何とも言えない。


ラスボス、そう、種族•ラスボスって言っても良いってくらい圧がすごい。


地面にいるであろう安田さんのお仲間に奇声を上げて威嚇…じゃない、宣戦布告だ。


魔力を見る…が、なんだ…これは…??


虫と鳥のパーツがごちゃごちゃ付いた外見と同じく、色々な魔力の色が混じっていて…ヘドロのような色をしている。


禍々しいにも程があるだろう。ゾンビの方がまだ綺麗な魔力をしている。


「…」


どうにか目をこらす。


あの魔力の中に知ってる物があるような予感がしてならないからだ。


「…」


あー、あった。見覚えのある魔力…横河さんだ…


なんとまぁすごい姿になっちゃって…どんな世界に居たのか…


あまり聞いちゃ行けないかもしれない。


とりあえず、あの怒りに満ちた横河さんをCDRBが来る前に宥めて?SF界隈の攻撃を掻い潜ってトンズラするのか…なかなかハードだ。


せめてあのでかいモンスターな姿じゃなくて、人の姿なら…


「…あ」


多分効果音が流れるなら、チーンって音が鳴ったと思う。


あー…なるほど…これなら…


色々後始末は大変だけど、そこはCDRBに頑張ってもらうとして…


上手く行けばSF界隈も含めてどうにかなるかもしれない。


「安田さん、この辺一帯の防犯カメラを潰せますか?」


「もう壊れてるな。スマホも電波が無い。」


「え?いつから?」


「さっき手ノ塚さんに会った少し前からだ。うちの連中の為業かもしれん」


…よく判らないが、それなら好都合だ。


その時、魔物が動いた。


魔物は大きく息を吸い込む素振りを見せると、クチバシから雷の呪文を咆哮と共に下に向かって吐き出した。


さらに人間のままの両手からは炎の渦を噴き出して追い打ちをかける。


俺がさっき横河さんに告白した時の爆発より遙かにデカイ音と煙りが上がる。


その雷と炎を掻い潜って円盤状の黒い物体が魔物の横を通り抜ける。


「あれは…斎藤の…ソーエッジ…!」


安田さんの仲間も応戦しているようだ。


「俺が色々なんとかしてみますから、安田さんは…」


俺は端的に安田さんに作戦を伝えると、もう一度、ビルの谷間に飛び出した。

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