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ちくたくちくたく

手ノ塚司



ランチしながら作戦を立てた後、横河さんと何店か回ってシャツやブラウス、ホットパンツにミニスカート、靴下、髪留め、イヤーカフス…全部パンクでロックなデザインの奴を横河さんは爆買いした。


これ似合うんじゃない?と俺が選んだ服は「おっけー!」と全部買う勢いだったから、最初の店で勧めるのは止めた。


「お金大丈夫?ガンガン買ってるけど」


女の子を着せ替え人形するのは目の保養になるから良いけど、結構な値段の物も条件反射みたいに買い続けるから(しかも現金で!)思わず俺は声をかけていた。


「あ…」


俺と横河さんがそれぞれ両手に下げてるショッパーの束を見て彼女の表情が固まる。


「実は…この手の服、全然持って無くて…だから楽しくて…つい」


「そんなに焦って買わなくても、ゆっくり集めていけば良いと思うよ?」


「うん…ごめん、普段はこんな散財しないんだけど…本当だよ」


「判るよ。新しい趣味にはお金つぎ込みたくなるよね」


俺は周りを見回した。


「そろそろ休憩しようか。なんか甘いのでも食べない?」


テンション上がるのは判るけど、少し落ち着いた方が良いかも。今履いているアシンメトリーのブーツも靴慣れしてなさそうだから心配だし。


「あ…そしたら行きたいお店があるんだけど、良い?」


「良いよ!行こう」


何を出すお店だろうか。


横河さんはスマホをいじって…地図でも確認しているのか周囲を見ている。


「あっちにあるみたい」


指差した方角に2人で歩く。


さっきは水を差しちゃったけど、気まずくなることもなく、横河さんは行きたかったお店の説明をする。


「ミルクレープの美味しい喫茶店で、コーヒーもマスターオリジナルのブレンドもあって、こっちも美味しいの」


その説明で、こっちの方角と言えば…


「…ヨコウチじゃない?カフェ•ヨコウチ」


昔からある老舗の喫茶店で確かにあそこのミルクレープ、とくにフルーツがサンドされているのが1番美味しくて、元カノとだけじゃなく、独りでも行ってた位だ。


「え?知ってるの?」


目を丸くして俺を見上げる横河さん。


彼女が俺のお気に入りの店に行きたかったって聞いて凄い嬉しくなった。


「知ってるも何も常連だよ。本当あそこのフルーツミルクレープは最高。」


「私は行ったこと無いけど、調べたら美味しそうだな~って思って」


「偶然ってすごいな、俺達趣味合うね」


横河さんも楽しそうに口角を思い切りあげて微笑んでくれた。


「じゃあお夕飯、この辺りで食べるなら~もやらない?私、目星付けてるんだ」


「え~、それでまた合ったら俺達やばくない?」


「どうかな~?」


何か悪戯でもしそうな笑みに変わったぞ。


「とりあえず、待って…えーと…候補は考えてあるけど…どれにするかな…」


「ちくたくちくたく…」


「えっ、時間制限とかあるの?」


肉が凄いドイツ料理の店とか、カクテルの種類が多いハワイアンの店とか候補はあるけど…


なんか見透かされてるみたいで悔しいな…あ、これなら多分出てこないんじゃない?


「よし、決めたよ横河さん」


「じゃあ、せーので行こうね。せーの」


「シンガポール料理」


「オーチャード•スパイス」


「その店だ…」


撃沈、思わずのけぞった。


オーチャード•スパイスはそのシンガポール料理を出してくれる店の名前。


海南鶏飯が凄い美味いのよ。


「いぇーーい!!」


悔しいが完敗だ。


俺が、手を握ってぐーにして前に出すと、こつんと横河さんもぶつけてきた。


「すごいね、私達」


今にも飛び跳ねて喜ぶんじゃと思うくらいはしゃぐ横河さん。


「なになに、真澄からの入れ知恵??」


そうとしか考えられない位の合致。


「んーん、勘です」


胸をそらして即答する横河さん。


「やばすぎだろ」


気が合うのは嬉しいけど、びっくりするわ、これは。


その後、喫茶店で2時間、オーチャードスパイスで3時間過ごすことになる。


話に花が咲きすぎた。


お互いの直近の趣味や見た映画の話から段々話は遡って過去の話。真澄と俺のやんちゃしてた話や、横河さんと幼馴染みが中学生の頃に初めて子供だけで旅行した話…本当に色々。


いっぱい笑って話をして、帰る頃にはアゴとこめかみがじんじんしていた。


一緒にお酒も呑んでいたから、テンション上がったことも相まって良い感じにほろ酔いだ。


横河さんも足腰はしっかりしてるけど、顔は赤い。


昼間とあまり変わらない蒸し暑さの中、2人並んで駅まで歩く。


終電まではまだ時間がある。


お互い電車で来たから、解散すると丁度良い時間だった。


でも…まだ話がしたい、一緒にいたい。


もう駄目だった。最初は「仲良くなりたい」だったのに、俺の好みのメイクと服を着て現れた俺の好きな香水の香りを纏った横河さんにまずやられて、一緒に買い物をしてる時の嬉しそうな横顔にやられて、話が合って食べ物の趣味も似てることにもやられて…1日しか過ごしてないのに一気に心は好きに振り切れていた。


本当はもっと友達付き合いして、どんな人間か見極めたかったんだけど…駄目だなぁ…俺。


俺の事、俺の過去を無条件に受け入れてくれるに違いないと心が勘違いしている。


「どうしたの?空ばかり見て」


横を歩く横河さんが俺の二の腕に頭でこつん。


可愛すぎるだろ…


「…店で話して、楽しくて、その反動で頭がぼーっとしてる」


「わかる、私もふわふわしてる」


こつん、こつん。


狙ってるのか、この子…


香水のラストノートの優しい香りが追い打ちをかける。


ああ、やっぱり…駄目だわ…心臓ばくばくして爆発しそう…


「横河さん」


「はーい?」


俺達は足を止めた。


じっと俺を見上げる横河さん。


ヘアスタイルやメイクが少し崩れてる、俺のために慣れないパンクスタイルのメイクしてくれたんだな…と思うと本当に愛しい。


でもどんな彼女も俺は…


「俺、横河さんの事、好き、大好き」


横河さんは最初はぼーっと俺のことを見つめている。


告白する度に思うんだが、この間が1番怖い。


特に今回はとびきり怖い。色々やばい敵と何度も対峙したけど、それよりも足が震えている。


言葉の意味がようやく伝わったのか


「…あ」


横河さんの唇が…わなわなと震えだした。


えっ。


見開いた目から涙がつーっと落ちたかと思うとぽろぽろこぼれだした。


えっ、えっ…


「手ノ塚さん…」


泣き崩れるのかと思ったら…凄い可愛い笑顔をしてくれた横河さん。


「私も…」

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