33 トリヨセ
「しかし、これは困ったことになったかもしれません。遅かれ早かれ、分かってしまうことではありますが、この事は人に知られないようにしたほうが賢明かと。」
私が少し落ち着いてから根本君が言った。
「魔王様にも知れたことでしょうし、もう遅いかもしれないが。こうして俺とシュンがいるところで発動したという事は魔王様にも分かってしまっていると思う。水晶でいつも見えるわけだから、私たちの動向は確認しているだろうし。」
「その能力は禁忌に等しいもの。」
「え?そんなに?」
私には当初はカレーパン1個取り寄せることができる能力がそんな大したものだという認識はなかった。
こんなにヘロヘロになってカレーパン1個。そこまで隠さなくてはならない程の能力とは思わなかったのだけれど。
「納得していない顔をしていますね。でもその能力安易に使っていて、他の人にも頼まれたら大変なことになるという事が想像できませんか?」
「頼まれた場合?ですか。」
何を頼まれるのだろう。そんなに困ることなのだろうか。確かに取り寄せしたことで中村屋の店頭か厨房からカレーパン1個消失して困ったことになってるかもしれないけど。
もし元の世界に戻ることが出来たら代金をお支払いに行こうとかは思ったけど。
「いいですか。成子さん、これはカレーパン1個の問題ではないのですよ。
今が国を挙げての戦争中だという事を思い出してください。
例えば、今その勇者君もですが、戦闘に使っている武器は何ですか?
剣とか槍とかせいぜい伸び道具なら弓、なのでは?
あなたのそのトリヨセの能力は例えば、ライフルでもピストルでも、場合によってはもっと大きいミサイルなどですら、レベルが上がればもっと凄いものですら取り寄せ出来るようになるかもしれない。
ピストル1丁にしたって、一度には1丁しか出来なくても何日かかけたら一部隊で使えるくらいの数が用意できる可能性もある。
そしたら、戦況は大きく変わると思いませんか?
それに、もし病気で死にそうな人がいて抗生物質を与えれば治すことができるとして、それを安易に取り寄せしたら、地球の必要なところで使うときになくて困る人がいたり死んでしまう命があるかもしれない。どういった経緯でこちらにきてるのか把握できていないのですかrあ。それがたとえ錬成してできたものでトリヨセしてはいないとしても、この世界にない薬を使用して助けることはこの世界の生態系を変えることにもなりかねない。安易に使ってはいけない禁忌の魔法です。そのスキルを持つあなたは誰の目にも魅力的でそして悪魔的に使用されてしまう恐れが、今ちょっと考えうるだけでもこんなにあるのです。
その力がスキルが使えるようになったことを知られてはいけない。
もしかしたら骨と皮になるまで、スキルを使わされて死ぬまで監禁されるという事だってありうると思います。人の欲というのはそういうものです。
そもそもこの世界に人間は、私たちの命を大切になど思ってはいない。
戻れるかも分からない、多分もう元の世界に戻すことなど出来ないかもしれないのに、こうして人を召喚して利用しているのですから。
魅力的な武器なんか召喚できると分かったら召喚しないわけがない。
むしろ、私たち召喚された人間自体が武器として利用されているのが現状なのですから。
分かりましたか?」
確かにそうだ。今狙ったわけではないが、図らずも発動してしまったトリヨセというスキルがとてつもない可能性を秘めているという事に気付いてしまい、背筋がぞっとしてしまった。安易に使っていいスキルではない。むしろ、このスキルが使えるようになったという事はなるべくなら秘匿しておいた方がいいのだ。出来るだけ人に知られてはいけない。
文明が進んでいる異世界からの物品を手に入れることが出来るとなれば誰でも色々な用途の欲望が沸いてくるはずだ。
絶対に知られてはいけない。無理かもしれないが少しでも長く知られないようにしておかなくては。
私はぐっと唇を噛んだ。しかし、なぜこのタイミングで発動してしまったのか、しかも詠唱無しでいきなり発動したという事はこれからも何か欲しいと思ったタイミングでうっかり発動してしまう可能性がある。これは気を付けてコントロールできるようにしないといけない。しかも私の魔力総量を考えるとカレーパンどころではないものをトリヨセしてしまう可能性もあるのだ。
うっかりでは済まない。それこそうっかり兵器なんかが手に入ってしまったら
手に入ってしまったら
例えば
例えば
核
核兵器なんかが
手に入ってしまったら
この世界は
終わりだ。




