34 馬鹿と鋏は使いよう
トリヨセというとんでもないスキル。
しかもそれが自然発動してしまうという事実に私は途方もない恐怖を感じた。
欲望や欲求を抑えないとコントロールできずに衆人環視の元で発動してしまう可能性がある。
そして、そのスキルを持つ私を少なからず利用しようとする人は現れるだろうと思う。
例えば、一番に考えられるのがキングスマナリン国王だろう。
私自身が最終兵器のようになってしまった。
と思う。元々魔力総量も多くおかしなステータスではあったのだが、こうして特に利用価値が高いスキルを発動してみるとそれを強く認識してしまう。
私はこの世界で最終兵器なのだと。
カレーパン1個を手に入れたことがこんなに大問題になるような事だとは、根本君の発言を聞かなければ、気付かず、得意になって元世界の便利なものとかは取り寄せして見せていたかも知れない。
そう思うと自分の思慮の浅さにもぞっとするのだが、根本君の洞察力の高さにも驚いてしまった。
彼はこんなに頭が良かったのだ。
彼の助言がなかったら、彼のいるところで発動したのでなかったら、とんでもないことになっていた可能性もある。
少なくとも自分のスキルの可能性に気付くのが遅れてしまい大変なことになっていたのではないだろうか。
と、思ったところでふと私は気付いてしまった。
私は本当にキングスマナリン国のために戦おうという意思があるのか、という事に。
そもそも強い武器を出せるスキルを手に入れたという事は戦いの渦中において喜ばしいことなのではないか。それを嬉しく思わないというのは、どういう事なのだろう。
みんなショボい武器で戦っているのだ。魔物たちに蹂躙されて。初めて騎士団に会った時だって。
ユーリさんは瀕死の状態だったではないか。
銃さえあれば、もしかしたら、かなり戦いが有利になるのではないか。
秀吉が火縄銃を手に入れたことが戦況を変えたりしたように。
兵士の傷ついた姿を私は大量に見てきている。治癒魔法で治しているのだから。
だから戦いに有利な武器を手に入れられるという事はこれをどう使うかとか考えるより先にさっさと銃をトリヨセて、部隊に訓練させて、戦いに生かすべきなのだ。
そうなのか?
何かが凄く引っかかって私はそれをしない。
何かがとても引っかかっる。
このタイミングでスキルが敵の目前で発動した理由。
そして、それを敵味方なく享受した。
このスキル、銃を使って部隊を編成するために出現したのではない。
何か別の事にこの力は使うべきなのだ。
だから今ここで発動したのだ。
何か特別な何かに自分は動かされている。
そんな気がして、何かに動かされてそしてここにいる。
この世界に召喚した何か巨大な力を持つ何か。召喚魔法をかけたのが誰かではなく、多分それを操ってそうさせている何かがいる。
そしてその何かは私にこの力の使いどころを試している。
そんな考えがふと頭に浮かんだ。
その誰かが私に笑って言っているのが空で聞こえるような気がした。
[そう、その力の使い方を考えて、ナリコ。馬鹿と鋏は使いようって言うけど、君がどんな鋏なのか、馬鹿でも使えるほうなのか、どうなのかを私は見ているよ。]
私は鋏なのだ。使い方を間違えたら何も切れないどころか、怪我をしたりさせたりしてしまう鋏。使い方が良ければ美しい切り絵で芸術的な作品を作り人を感動させることが出来る。
それが鋏。
人の役に立つか、仇になるか。それは私次第という事か。




