32 お取り寄せグルメ
「まあ、ここで会ったも百年めってやつっていうか
せっかく会ったんだし、もうちょっと安全なとこまで送ってってやれって、魔王様の命もあることだし。」ってことで、シュン君、根本君がもう少し人属領に近いところまで私たちを送り届けてくれることになったのだけれど、
なんかもう結構メンバーって仲良くしてるものなのだと思っていたのはヲタクの勝手な思い込みだったらしく、結構無口な感じで雰囲気悪く旅は進んだ。
もっとも一応敵同士という事もあるので仕方がない事ともいえるのだが。
「カレーパン食べたいな。」ポツリと根本君が言った。
うー、確かにカレーパン食べたい。
討伐に持って行くのにも便利だし、しかし、この世界にカレーってあるのかな。パンらしきものはあるけど、生地にカレー入れて揚げればカレーパン作れるけどスパイスが無いと無理だよなあ。
ああ、カレーパン食べたいな。つうか食べたいと思ったら無性に食べたくなってきたわ。
ああ、カレーパン食べたい。
焼きカレーパンってのもあってカロリーオフだとかで揚げてないのも売ってたけど私は普通にパン粉が付いてて揚げてあるサクサクってしたパン粉がまぶしてあって噛むとサクっ、フワッとしたパン生地に甘口カレーがぎっしり入ってて中にゴロっとしたお肉と柔らか玉ねぎローストが入ってカレーの風味が鼻に抜けるような昔ながらの老舗新宿中村屋のカレーパンみたいなカレーパンらしいカレーパンが好きなんだよなあ。
ああ、新宿中村屋のカレーパンが食べたい。
「新宿中村屋のカレーパン食べたい」
思わず声に出して口にしていた。
涎がジュルっと出そうな感じで意地汚くて恥ずかしいんだけど、カレーパンの味やら食感やらを想像して、この世界、食に関してイマイチというか、塩で味付けしてればいいみたいな感じで素材の味を重視したって言えばいいんだけど、そもそも薄味で、味付けが濃いのが好きな私にはなんか高血圧が気になる方用の健康食みたいな感じの食べ物ばかり出てきて、物足りないというか、美味しくないんだもん。ぶっちゃけ、不味い。ああ、味の素欲しい。化学調味料でばっちり入ってる味の濃いもうジャンキーな食事がしたい。このままでは健康的に痩せてしまう。
ほんとそれな、痩せるのはいいけど、こんな無理ゲー的にダイエットさせられる羽目になるとは。
美味しいもの
食べたいな
魔王場に晩餐の食事も美味しかったし、シュン君が作ってくれた塩ラーメンも美味しかった。
ああ、人属領に戻ったらまた健康的な薄味な食生活かあ。塩味が付いてたらいいって感じなんだもんなあ。
美味しい物食べたい。
ああ、カレーパン食べたいよお。
「カレーパン。
食べたい。」
え?
ええ〜っ?⁈
私の手には紙に包まれた中村屋のカレーパンが。
いつのまにか
って言うか
カレーパン食べたい
って言った途端に
載っていた。
何これ。
まさかの地球から召喚したのか?
作成したわけでは無さそう。
何でって食べやすいように紙の袋に包まれてるし、何なら中村屋の袋に入ってるんだもん。
中村屋のカレーパンだ、紛れもない。
匂いも中村屋のカレーパン。『ただいま揚げたてがご用意出来ました』ってアナウンスしてるところに通りかかって運良く揚げたてを購入出来たときの揚げたてホカホカの温かいカレーパンだ。
手にほかほか揚げたての温かさが伝わってくる。
ヤバい。
これって。
「何持ってるの?それ、もしかしてカレーパンじゃ?」
目ざとくシュンくんが言う。
「カレーパンっぽいですよね。」
私はうなづいた。
「どう見てもカレーパンに見えるよね」
根本君がが眉を上げて、眉間に皺を寄せて私にずいずいっと寄ってきて問いかけた。
「どういう事?」
「どういう事ですか?その手にお持ちのものは。」
どういう事ですかと言われても。
わかんないよ。
知らないうちに手に持ってたんだから。
食べたらヤバいかな。
って思ったけど我慢出来ず一口食べてみた。
うん、カレーパンだ。美味しい。美味し過ぎる。
つうか涙出てきた。
こんなにカレーパンが美味しいなんて思った事なかったよお。
ものすごい真顔であくま神官根本様が私を見てる。
そして
「何やっちゃってんの。それ俺も食いたいし、何で一人で食べちゃってんの?ああ食べかけになっちゃったじゃん。俺食えないわあ。普通ちぎって食べるとかしない?普通さあ、女子だったらさあ。ちぎるよね。ちぎって食べるよね。いきなりガブリつくとかあり得ないでしょ。」
は?
あーキレてます?キレてますよね。
いやいや、分けてあげてもいいけど、
私の、食いかけはイヤなんでしょ?
イヤなら分けてあげないもん。いいっだ。
ふん。って思ってるとこに
京也が近づいてきて。
パクっ。
私の手に持ってたカレーパンに身体を曲げてお辞儀するみたいいに顔を下げて犬みたいに食いついた。
「カレーパンだわ。」
そうですよね。カレーパンだよね。これ。
「んまい。」
どうしてここにあるのかとかヤバい物じゃないのかとか何も考えず、いきなり食べる勇者くん可愛い。
私の食べかけ物件である事にも何も感じてないようだし。
「ですよね。カレーパンです何故か」
勇者くんうんうんとうなづく。
「しかも揚げたて、んまし。」
「うわあっ。俺にも寄越せ。」
ってシュン君が負けじとパクついて、
「ほんと、カレーパンだわ。これ。んめえ。揚げたてカレーパンじゃん。」
「お前、何食ってんのよ。勝手に。」
根本君がオコな様子で腕組んでシュン君を睨んだ。
けど
更にパクついたシュンくん。
「うまい。沁みるわあ。」
「お前勝手に全部食うなよ。大体何なんだか分からないんだからさ。」
「敵の罠で毒とかかも知れないだろ。危険予知無しにお前食ってるけどヤバいんじゃ?」
脅かすあくま神官根本晃。だが一理ある。
思わず自分の手を見つめるが、私の手元にあったシュンくんの顔が私を見上げて、
「うまいからいいでしょ。しかも聖女様と間接キスしちゃったし。」
と片目瞑ってウインクしてきた。
え?やだ。
顔が真っ赤になって火照るのが分かる。
間接キスなんて、いまどき小学生でも言わんわ。厨二病というか、昭和って言うか、昭和の小学生が読む少女漫画っぽいって言うか、なんつうか。
「いや、ちげえから。聖女ナリコと間接キスしたのは俺で、お前は俺の後に食べたんだから俺と間接キスな。」
勝ち誇ったように言い切った京也。
はあ、これ子供の喧嘩だし。
「は?何言ってんのてめえ。気持ちわりいこと言うな。お前となんか関節でもキスとかやだわ。」
「ああ、ああ、シュン君ずいぶん食べてしまって、もうあと少ししか残ってないじゃないですか。
私も、一応何者なのか確かめておきたいので、少し分けていただいても、
いいですか?
その端っこのほう、誰も口とか付けてないところが希望なんですが。」
根本君の言われて断ることも出来ず、正直私は全部食べてしまいたかったのだが、分けたくないというか全部食べたいし、京也が食べたとことか食べたかったし、間接キスしたかったし。
でもシュン君が食べちゃったし
ああ、でもシュン君でもいいかななどともうハチャメチャな事を考えていたんだけれど
おたおたしてる間にさっさと根本君が反対側からちぎってカレーパンを食べてしまっていて、残りがわずかになってしまっていた。
「ううん、カレーパンですね、これは。」
根本君も感慨深く腕を組んで、カレーパンを味わった後に感想を言うのだけれど、
カレーパン美味しかった。
残りをお腹が空いているらしい京也と半分こして食べたのだけれど、シュン君がかじったほうは京也が食べることになってしまい、聖女様に汚い食べかけそれもシュンのとかは食べさせるわけにはいかないと言い切ってそっちを京也が取ってしまいあっという間に食べてしまってシュン君との間接キスが無くなってしまった。
そして、今のカレーパンが現れた減少について、一番頭が良さそうなあくま神官の根本くんが言うには、
これは、聖女ナリコのスキルなのではないだろうか。それもかなりレアで高位のスキルなのではと。
「これは取り寄せですな。トリヨセってスキルがあるというのを本で読んで見掛けたことがある。でも魔力総量をかなり使うし、そんな簡単に発動すものとも思わなかったのでちゃんとは詠んでなくてさらっと読んだにすぎないのではっきりとは断定できないのですが。
でもトリヨセが発動したのかと。」
「しかも詠唱も無しに。」
「よほどカレーパンが食べたかったと見えますが。」
ちらりと私の方を見て言った。
食べたかったのは確かだけれど、でも。
なんかちょっと眩暈がしてへたり込んでしまった。
「すみません。ちょっと、眩暈が。」
「当り前です。大量の魔力を消費したのに決まっているではないですか。異世界からカレーパンを召喚したのですから。多分これは聖女ナリコが食べたことがあるカレーパンなのでイメージするだけで召喚できたのでしょう。そんな事をすれば疲れるに決まっている。少し休みましょう。そこの木陰でちょうど、いい日陰になっているので、勇者くん、彼女を抱いて運んであげてください。嫌なら私かシュンが運びますが。」
カレーパン1個を地球からトリヨセ召喚しただけで、ヘロヘロに疲れてしまった。
多分みんなもっと食べたかったのだけれど、もっとトリヨセをしてくれとは誰も言えない雰囲気だった。
シュン君はアミちゃんにも少しちぎって分けてあげてたみたいで、良かった。
あの子だけ食べられなくて、食べたいからトリヨセしてくれないなら、食べちゃうとか言われたら困ったもの。




