k16蹴飛ばされ続けて
だから、借金ばかりある元の世界に未練があるかというと、
そうでもないのだ。
死のうと思ったこともあるくらいなのだから。
もちろん、2年先までスケジュールが埋まっているし、今は仕事も選べて好きな野球の解説の仕事も選手のインタビューなんかもやらせてもらっている。これはもう趣味の領域だから、仕事ではあるが好きな仕事である。
それにホームランを打つプロジェクトも達成していないから、達成したいし、やりたいことが残ってないかと言ったらあるのだが。
しかしやりたいこともあるが借金もあるのだ。
親を見捨てるのは忍びなく俺が頑張って返済していたが、行方不明となれば、多分だが俺の借金なら相続放棄とやらをすれば親の借金はチャラになるのではないか。法律とか良く知らないけど。
それにもういい加減疲れてしまっているというのもある。
俺はこの先も恋愛禁止、結婚も出来ないまま年だけ取っていくのだ。
戻りたいと思わなくて何が悪い。
が、この世界に来ても
役に立っている様子もない。剣の鍛錬をしているが一向に上手くなる様子もないし、本当に勇者なのだろうか。その辺の冒険者たちのほうがよっぽど強いような気がするのは気のせいなのだろうか。
ずっとそういう疑問があった。
弱い。俺は弱い。
そして、
今シュンと根本晃に見下ろされ、蹴飛ばされ続けている。
腹を蹴飛ばされ、横に転がり、また蹴飛ばされ
「ほんとうに情けないやつだな。」と
罵倒されながら蹴飛ばされ続けて
痛い
けど、だんだん痛みすら感じなくなってきて
弱い。
俺は弱い。
痛い。
弱い。
そんな言葉が頭の中をぐるぐる回る。
あ、
幽閉?
死なない。
殺さないで幽閉。
っていうか
ヘブンズゲイトのメンバーと出会った嬉しさと驚きで
一瞬忘れていた。
聖女ナリコは
どうなっているのだ。
俺は成子さんを探してここに来たのに。
弱っちい俺が探しに来たのは成子さんだ。
根本達ではなくて。
っていうか
成子さんは。
「ナリコさんは?聖女はどうした?どこに。どこにいるかお前たちなら知ってるんだろ?魔王軍幹部なんだから。成子さんは幽閉されているのか?
どこに、俺は。」
シュンが蹴るのを止めた。
「やっとか。」
「だからお前はだめだっていってるんだよ。
どうせお前の事だから、聖女を探しにここにきたんじゃねえの?
訊くならそっちが先だろ。死んだら元世界に戻れるのか?なんてお花畑な質問じゃなくよ。」
「ほんと、手間ばかりかけされる人ですね。」
根本の声にも明らかに呆れているといった声色があった。
「そろそろいいですかね。やっとあなたの名前が出てきたところですから。この情けない勇者さまは我々にビビッて本来のここに来た目的を忘れてしまっていたようだったので、どうしようかと思いましたよ。
でももういいでしょう。出てきてもらって構いませんよ。」
根本の声に呼応するように
突然だった。
い突きなり眩い光が辺り一帯をつつんだ。
目くらまし?危険が迫っているのかと剣を構えて何者かの攻撃に備える。
が、光が去った後には
成子さんがいた。
神々しい光に包まれて立っているその姿を見たとき、ホッとして俺は思わず駆け寄って、抱きしめていた。
「良かった。生きてて。本当に良かった。あなたを守れなくて俺は俺はもう。
守ることが出来なくてすみませんでした。あなただけを危ない目に合わせてしまった。」
情けないが涙があふれて止まらない。
「いいえ。私のミスです。京也さんが気にすることではありません。ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
「だって、俺、勇者なのに聖女を守れなくて、そんな勇者の価値もない。
男としての価値も。」
「違います。勇者さまは前衛で戦っているのですかrあ、後方支援で守らなければいけないのは私の仕事です。聖女の力で治癒魔法や防御魔法で支援しなくてはいけないのですから。
むしろ、私が勇者様を守れず、ミスして転移してしまったのですから。あの後戦いは大変だったのでは?」
俺の胸で冷静に話してくれているのだが、本当は呆れられているのではないかと思って自分が情けなく不甲斐なく感じるばかり。多分俺が情けないやつで心折れているのを心配して気にしてフォローしてくれているのだ。彼女を守り切れず、まりんさんのことを守ってしまったというのに。本当に大事な人をないがしろにして守るべき時に守るべき人を守れない最低の男だという事を俺はいやというほど思い知り、ユーリさんに合わせる顔もなく、慰めてもらえばもらうほど惨めになっていたというのに。
そんな俺を成子さんは責めるどころか慰めてくれるし、抱きしめているととてつもなくいい匂いがして、俺は気が狂いそうだった。彼女の立場なら自分を守らず、助けるのにも間に合わず、まりんさんのことを助けて、一人魔族領に行かせてしまったという事を責める気持ちがあるのが当然である。それなのに。むしろ自分が悪かったと、そう言ってくれる。
失ったと思ったときの悲しみと後悔と絶望。それが戻ってきたことで一気に、
離したくない二度と。というようなあふれるような愛情と欲望のようなものでいっぱいになってしまって
他に何も見えなかった。
彼女の髪を撫で華奢な身体から伝わる体温の温かさは、生きているのだという事を生の安心感を感じさせてくれる。
良かった。冷たい体で戻ってきたらと思うと気が狂いそうだった。
「はいはい。そこまでね。感動の再会は後にしてね。取り合えず送り届けたから、挨拶くらいしとこうかなと思って。周り見えなすぎなの戦いとかでもう絶望的に不利になるからね。気を付けてね。この場所だって完全に安全とは言えない場所なんだし、気抜きすぎ。お前前から思ってたけど視野狭いよね。」




