k14 ヘブンズゲイト集合
「っつうか、お前、本っ当に情けないな。なんだよ。このざま。」
蜘蛛糸の拘束が解かれて、地面に横に放り出された俺の脇腹をシュンの足が蹴った。
ごろんと転がらされて、仰向けにされる。
俺の事を見下ろしているシュンと根本晃は、元世界で一緒にアイドル活動していた同じグループのメンバーだ。懐かしさで胸がいっぱいになる。情けないが涙すら出てくる有り様だった。
だが、俺を見下ろす根本とシュンの眼差しは氷のように冷たかった。
「何だよ。その会えてうれしいです。みたいな面はよ。馬っ鹿じゃねえの?俺たちは敵なんだよ!何安心したような呆けた面してんだよ!」
「シュンくん、馬鹿には説明してあげないと分からないのです。あなたもそろそろそのくらいのことはわからないと。一応魔王軍幹部なんですから。馬鹿を馬鹿とか言ってるのは馬鹿と同レベルってことですから。」
根本のやつ相変わらず嫌味臭い。
それが余計に懐かしくて、勇者様だのどうのと大して実力もない弱っちいのに担ぎ挙げられている俺にとって、元メンバーの辛辣な言葉はむしろ嬉しい懐かしさでいっぱいだ。
「何泣いてんだよ。この。いまこの瞬間にもぶち殺されるかも知れねえっての。分かってんのか?ってんだよ。」また丸太のよに蹴飛ばされ転がされる。
つうか、絞められていた首が痛い。
突然落とされたから身体中も痛い。蜘蛛の糸もまだ巻き付いている場所もあって、身動きも自由に取れない。だが、俺はそれを振りほどく気力もなかった。
「勇者だと聞いていたからさぞかし、強いのかなと思っていたのですが、
弱い。心も魂もすべてが弱い。あなたは一体そんなんで、どうやって生きてきたのだか。」
根本が憐れみを含んだ侮蔑の眼差しを俺に投げかけてきた。
「いいよ。お前らにやられるなら、それでいい。さっさと殺してくれ。
俺が居なくなれば、また勇者が生まれるそうだ。この世界に迷惑をかけることもない。むしろいっそ死んだ方が為になるのだから。」
俺は自暴自棄になっていった。
「お前なあ。そういうとこあ、ほんと、イラつくんだよ。」
また足蹴にされて、
「立てよ。お前ほんと、それでいいのか?好きな女一人守れないで情けなく殺してくれとか敵の前で言ってやがって、それで恥ずかしくねえの?そんなやつが元同じグループで活動していたメンバーだなんて情けなくて涙がでるのはこっちの方だよ。情けなくて泣きたいのはこっとだっつうの!」
「立てんだろ。じゃ立たせてやるよ。」
そういってシュンが俺の身体を掴んで立たせた。
そして目一杯強いストレートパンチをかましてきた。
俺はよろけてまた倒れた。
そしてまた立たされてはパンチを浴びせられる。
「何だよ、殴り返してこないのか。どんだけ、情けないやつなんだよ。」
「だって、もう俺、守りたいものとか、」
「ないし。」
俺はもうメンタルがボロボロで頭で考えることも出来ないし冷静な判断能力も皆無だった。
ああ、敵だよな。敵の魔王軍の幹部様が根本とシュンだ。
だけど、あいつらは俺の大事な元メンバーだ。ヘブンズゲイトの。
一緒にずっと15年も一緒に頑張って走ってきたメンバーだ、今更ここで敵と味方に分かれて戦うなど
俺には無理だ。だって会えたのがこんなに嬉しいのに。
それに、それにもう
成子さんは、多分もう、
居ないんじゃないかな。
幽閉されているのか
どうかも分からないけど、
多分、もう絶対に
俺には助けられない。
こんなところで、シュンの召喚獣らしき蛇にやられているようじゃ、とても成子さんを助けることなんかできる気がしない。
出来るわけがない。
それなら、いっそ、ここでこいつらに殺してもらったほうが、新しい勇者が成子さんを助けることが出来るかもしれないし、どうせ誰かに殺されるならシュンや根本の功績になるのならそのほうがいい。何者か分からない魔物に殺されるくらいなら、いっそ、シュンに殺してもらった方が
そのほうがいい。
「なんで抵抗しないの?お前。なんで俺たちを戦おうとしない。」
「もしかして、殺して欲しいとか思ってるのか。」
シュンがパンチの手元を止めて
俺を見つめて呆れたように言った。
「お前ってほんとどこまで」
「どこまで、頭お花畑で、脳に血とか一切いってない、おバカなんでしょうね。
一思いに殺してもらえると思っているのも片腹痛いですし。
普通、捕縛して拷問が定石ですよ。こういう場合は。
それに拷問されて色々聞き出されたり、捕虜になって、解放条件を国に持ち出す人質になってしまうという可能性もある。
それに勇者を殺したら新しい勇者がどこかでまた生まれてしまうのだから、あなたを殺すことの利益が私たちにはない。むしろあっさり殺したら魔王様の叱責が飛ぶでしょうし、失態を晒すことになってしまう。あなたを拷問して幽閉して寿命がつきるまで幽閉が飼い殺しにするのが一番いいのですよ。
そしたら多分あなたの魂は耐えきれず発狂してしまうと
私には思えますが
それでも、
そんな情けない姿で抵抗すらしないで捕縛されるつもりなのです?」
根本が呆れと憐憫の表情で俺を見下ろした。
「立ってください。立って戦おうと、なぜしない。」
「立てって言ってるんだよ!」
「頼む、殺してくれ。」
「何甘っちょろいこと言ってるんだ。殺したら魔王様に俺たちがやられるって言ってんだろ。出来るわけないだろ。お前とは戦わないわけにはいかないんだよ。
行ってる意味分かってる?
全くお前ってやつは昔から人の話は聞かない。てめえの言いたいことだけ言ってやがる。」
「もし、ここで死んだら元の世界に帰れるのかな?ここで死んだら、元の地球の日本に戻れるんだろうか。」
人の話を聞かないついでに前から気になっていたことを、もしかしたら、こいつらは知ってるかもしれない、そう思って、訊いてみた。
多分捕まってしまったらもう訊くことは出来ない、今しかチャンスがない、そんな気がしたからだ。
「ほんと、マイペースなの変わらないな。いいでしょう。
正直私たちにもわかりません。多分誰にも分からないのではないのかと。
でも、私の考えでは、多分ですが、元の世界に戻るなんて都合のいい事はなくて、ただ魂の消滅があって、終わりではないかと。
死ぬという事は普通は輪廻転生の輪があって、また生まれ変わるとかなのかと思うのですが、死んだときの記憶とかないから、それも本当のところは分からない。でもそういうまた人生をやり直したり再生したりするシステムが地球の元の世界にはあったとしても、もうそこには戻れないのではないかと、ここで魂が消滅して、それで終わりのような気がします。
増してや、美味い具合に元の世界に戻るなんて、それもアイドルの京也として元の世界に戻るなんてことは」
「多分無いと、思います。もしここで殺してもらえたとしても、無いのではないかと。
そもその私たちに殺してもらって自分だけ元の世界に戻ろうなんて虫が良すぎる。図々しい考えかと。」
「すまない。ただ、知っているのかと思って訊いておきたかっただけだ。」




