K12 後悔の末に
馬鹿だと分かっているがどうにもならない。
俺がしくじって聖女を魔王領に送ってしまった。
穴に落ちた先に転移門があったのは確実で、落ちたのを助けようと駆け寄った時には転移門に乗り転移してしまっていた。俺も続いて転移しようとしたが、転移門が聖女成子を転移させた後即座に消滅。そこにはただの落とし穴が存在するのみ。
俺が続いて魔王領に攻め込むのは無理だった。
あの転移門がどこに続いているのかも分からず、助けに行くにもどこを目指していいのか分からなかった。
取り合えずの対スライムの戦闘が終わり、我々の部隊は聖女を失うという大失態をしてしまったというとんでもない失態を抱えたまま、王宮に戻ることになった。
誰もが無言である。
なか、相変わらずまりんさんはきゃぴきゃぴしていた。
「勇者様がご無事で良かった。」
んふってハートが付きそうな声で。
ありがたいと思わねばならないと思う。
こんなポンコツな勇者に対してそのような事を言ってくれる。
そのアホさ加減が場を明るくしているような気もしてくる。
しかし、そのキャンキャンした声が今の俺には耳障りで、辛い。
嫌な顔とかしたら八つ当たりだろう。そこまで落ちたら人間終わりだ。
だけど、ニコニコ応対する余裕なんか俺にはなかった。
もうぎりぎりだ。愛想よくするなんて出来なかった。ポーカーフェイスを貫くのがやっとで、
でも本当は泣きたい。自分の頭をその辺の木にでもぶつけて勝ち割りたい。
俺は生き地獄なんだよ。
大事な人を守れなかった。
さっき、ユーリさんに言われた通りに、
誰にでも優しい人は誰にも優しくない。
その通りになってしまった。
一番大事な人を守れなければ、何にもならない。
そんな簡単なことすら俺は出来なかった。
いくら剣の修行をしても、こんな八方美人なことをして、迷いだらけでは、戦いで勝ち目がないのではないだろうか。
不甲斐ない。
あまりにも不甲斐ない俺。
下を向くと涙が出てしまいそうで、泣いてしまいそうな自分がいた。
でも、多分成子さんのほうが今辛い立場になっているのだ。
拷問とかされているかも知れない。
殺されてしまって生きてないかも。
どんなに前向きに考えようとしても、バッドエンドな想像しか浮かばない。
同じように、悔しさをたたえ、唇を嚙みしめているユーリさんに
「もう、最悪の結果になってしまったのでしょうか。成子さんは。もう。」
俺は情けない声を出して訊いていた。
そんな事言われても騎士団隊長のユーリさんは隊長なんだから士気も指揮もあるのだ。
迂闊なことは言えないし、責任を感じているのは俺以上であろうことは分かっていたのに、訊かずにはいられなかった。
「最悪?ですか。」
うーんと考えこんでから、腕を組み
「あなたの言う最悪が何かは分かりませんが、聖女殿の生死を気にしておられるなら、生きていますよ、という返答をさせていただきます。」
「なぜ!なぜそう言い切れる!」
俺はユーリさんが飄々として言うのでイラっとして、胸倉を掴んで叫んでしまった。
「ちょっと勇者殿、離してください。」
俺の腕を払って、衣服の乱れをささっと直すと
「それは、聖女が亡くなると、新しい聖女が生まれるのです。そして、新しい聖女の誕生を知らすメッセージが国中に流れるのです。」
「今のところ、そのようなメッセージは流れておりません。」
「だから、聖女様は生死に関してはご無事であるのですよ。」
「あくまで生死に関してはですが。」
含んだ言い方であった。つまり、生きてはいる。
が、拷問されて虫の息なのか、精神が無事なのか
その辺りの事は分からないという事か。
ただ生きて幽閉されて、一生を終える可能性もあるだろうとの事。
むしろ、敵にしたら、殺してしまえば、次に聖女が生まれてしまう。が、生殺し、飼い殺しにしておけば、その生が尽きるまでは次の聖女が生まれない。だから殺しはしないはずで、実際死んではいないだろう。との事だった。
一生幽閉されて過ごす。
飼い殺し。
拷問にかけるが殺しはしない。
魔力で精神攻撃を仕掛けて、精神を崩壊させる。
そんな目に合ってるかも知れないのに部隊は王宮に帰還しようとしている。
「すぐに助けに行かなくていいのか。」
「取り合えず部隊はみんな消耗している、魔導士も魔力切れだ。体力もみんな無くなっている。
この状態のまま魔王領に攻め込むのは無意味な自殺行為。部下を無駄死にさせるわけにはいかない。」
「戦えます。聖女様を助けに行きましょう。」
口々にそういってくれるけれど、
俺にも無理だという事は分かっていた。
食料も底を付いているのだ。
この先魔王領がどうなっているのか、どのような敵がいるのかも分からない。
そして疲弊している状態でこのまま突き進むのは無策、愚策の極みだということも分かっている。
「聖女様を魔王軍に取られてしまったということ、聖女様の癒しの力無く戦うという事はかなり不利な状況。この報告は国王にも大賢者様にもせねばなりますまい。そして、指示を仰がねば。とにかく一度ここは撤退して対策を練らねばならない。」
「すぐにでも、助けに行きたい、その気持ちは私とて同じ。でもそれは出来ない。
分かってくれますね。」
ユーリさんが凛とした態度で俺にそう宣言した。
今すぐに助けに行くのは無理だ。犬死にだと。
辛い。なぜあのとき、まりんさんでなく、聖女成子を優先しなかったのだ。なぜ一番好きな人を大事だと思っているのに助けれなかった。
何をしているのだ。俺は。
毎日、こんなまめができて痛いほど、剣の鍛錬をしているというのに。
肝心の時に肝心な場所で発揮できなければ何の役にも立っていないのだ。
何をやっているんだ。俺は、弱そうな女を助けた。それが自慢か、大事な人ひとり救えなくて、魔王領に一人行かせてしまった。
俺は俺は
何をやっていたんだ。
分かっている。ユーリさんも同じ気持ちだという事を。
彼だって助けに行きたいのだ。今すぐにでも。
彼なら例え一人でも成子さんを助けることが出来るかもしれない。
そのくらい彼は強い。
だも部隊を無事に帰還させること、上への報告、そして対策を練ってからの指示を仰ぐ。
その冷静な判断を彼の立場がさせている。
多くの部隊の人たちを率いている責任者として、勝手な行動は出来ないのだ。
彼だって辛いのだ。
俺だけじゃない。
分かっている。
理屈では分かっているのだ。
でもどうしようもなく辛く、
俺は自分を責めた。
なんで、なんで、こんな
俺はだめなんだ。
こんなに。
走り出して、魔王領に飛び込んでいきたい。
俺だけでも助けに行きたい。
そう思って足が重い。
王宮に向いて歩けない。
あっちに行きたいんだ。俺の足は。
そう思うけど、立ち止まって踏ん張ってしまうけど。
「そんなことしても、犬死にです。
一度戻って大賢者様のご指示を仰ぎましょう。
必ず聖女殿を奪還する方法があるはずです。それを大賢者様なら分かっておられる。はずです。」
そしてユーリさんは俺の方に優しく手を掛けてくれた。
「大丈夫ですよ。必ず取り返しましょう。聖女殿を我々の手に。出来ますよ。我々は。」
私も辛いんです。とその目が言っているような気がして。
俺は黙って頷いていた。




