30 ラーメン
敵だからと息巻く根本晃に魔王様は
「そのような物言いは良くない。聖女殿は客人だ。」
「それに同じ世界から来たもの同士なのではないのか?女性にそのように口を利くのは感心しない。もっと優しくしてやってはどうだ。」
と進言してくれて、
なんと聖女様に優しくするようにとのお触れまで出してくれて
おかげで魔族領での私の生活がとても快適なものとなった。
次の日には根本晃とシュンが私のことを魔族領観光に連れて行ってくれることになったのである。
何と言っても私が驚いたのは、魔族領の文化水準、生活水準の高さである。
なんと、魔族領は水洗トイレが普及しており水洗トイレが標準装備だった。
人属領はよくいうボッチャン式のトイレで、所謂汲み取り式トイレなのだ。それはそれでエコなのだが、やはり不潔である。
水洗トイレはとても魅力的で、こっちが良かったなアと思わずにはいられなかった。
それに市場には新鮮な野菜や果物が豊富にあり、美味しかった。
食べ物が美味しいというのも魅力的なのだ。
そして、シュンが
「お前にいいもの食べさせてやる。いいから家に来い。」
と言って自分の家に呼んでくれた。
そこで私は涙が出そうになるほど美味しい物をごちそうになったのである。
それはラーメンだった。
シュンは元の世界ででアイドルを辞めたらラーメン屋さんになろうと思っているほどラーメンが好きで、自分で作ったりもしていたらしいのだが、こちらの世界に召喚されてからもラーメンが食べたくてイライラしていたらしい。もとの世界では週に3回はラーメン屋さんに通っていたとのことでラーメンを食べられないのは地獄に来たみたいだったぜ、との事だった。そもそも召喚されたときに着地していたのが洞窟の中だったそうで、召喚当初しばらくは倒した魔物を食べていたそうで味すらなかった、という話だった。食べなくちゃ死んじまうからよ、仕方なくだったな。だそうだ。
森の中に召喚されたのはまだマシだったのだなあとつくづく思う。その洞窟とやらだったら、即死んでいた気がする。シュンだから生きていられたのではないだろうか、京也と私では多分魔物を食べるより魔物に食べられておしまいだったと思う。シュンはボクシングもプロ並みでアイドルでなかったらプロ試験受けたいと言っていたはず。雑誌かなんかで読んだ気がする。だから拳王なのだろうし、シュンだから武器すらなくても洞窟で生き残れたのではないだろうか。こういったときって個人のスキルというか人間本体の能力値というかが大事なんだなあと思ってしまう。シュンとだったら無人島でも生きていけそうだし、もしかしたらシュンが一番いいかもなどとふと思ってしまった。元世界では推しは京也だったが、ときおりフィギュアのようにスタイルが良く鍛えた身体、筋肉が美しいその肢体を惜しげもなくシャツをはだけてみたりするライブパフォーマンスについつい見惚れてしまいドキドキしてしまったのを思い出してしまう。勝手にこちら側で推しは誰だとか決めて応援しているだけなので、貞操観念とか必要ないし、誰を好きでも別にいいのでは?というのが私の考えだったけど、同じ京也ファンの友達には浮気ものとかあっち行っていいわよとか良く罵られていた。まあ半分冗談だが、半分本気の会話であった。しかし、ここにきて益々シュンが素晴らしく見えてしまう。株が急上昇という感じである。こんなわけわからない戦いとかしている異世界にあっては個々の能力値が全てで元世界でアイドルという事なんかもう一切価値が無い世界なのではないだろうか。でもこうして4人共召喚されたという事は何かアイドルという事に価値があっての事なのだろうか。
そんなことを考えてしまう。
キッチンから漂ういい匂いに包まれながら考えていると
「だから、俺様はここにある材料で工夫してラーメンを作ったのよ。」
と自信満々に私に出してくれた。
それは紛れもなく
ラーメンだった。
「醤油とか味噌とか、こっちにないのよ。作ってみようかとも思ったんだが、醸造しなくちゃならねえから、時間がかかる。だから今んとこはこれしか出来ねえ。塩ラーメンだ。うまいか?」
「美味しいです。美味しすぎて。」
涙が出てきた。
懐かしいラーメンの味。
こちらの世界はいわば中世ヨーロッパの世界観なので、ラーメンなんて食文化はなかった。
ラーメン、食べたかった。美味しすぎる。
「シュンくん、ありがとうございます。とても美味しくて・・・・。」
後は言葉にならなかった。
美味しい。
そしてこれを作ったシュンくんの気持ちをおもうと、
帰りたい
んだろうなあ。
私みたいに社畜で楽しい仕事してるわけでもない人間でも、元世界には友達も親兄弟もいるし、やっぱり帰れるなら帰りたい。
それなのに、
多分一生懸命に準備してきた15THアニバーサリーライブ、そのライブの途中で、こうして異世界召喚とかされちゃったら、悔しいだろうな。
帰ってパフォーマンスをしたいだろう。
そんな当たり前の事をラーメンを食べていたら思い出してしまい。
辛くなってしまった。




