29 敵と味方に
うーん、シュンと根本晃が魔王軍幹部とは。
敵と味方に分かれて召喚されてるってこと?同じグループのメンバーなのに。
しかも脱走蛇までいるし、なんか知らないけど魔物に進化とかしちゃってるし、この状況どう判断したらいいのか。京也たちに連絡したいけれど出来そうもないし、多分魔法結界が張られてるだろうから、下手なことは出来ない。
この状況、大賢者は知っているのか。知っていて私がここにいるってこともあり得る。が、私が下手こいて落とし穴に落ちてはたまたそこが転移魔法陣がある場所だったってこととか、っていうかあれって落とし穴でなく敵の移動手段に使っている魔法陣だったのか。それに私が載ってしまったということか。
偶然にしても出来すぎのような気もするし、いずれにせよ私がピンチな状況は変わりないんだけど、地球で見知った顔がいたということは僥倖な気もするのだ。なんとかいい方向に持っていけないだろうか。
等々考えていると、
「聖女様ねえ。」ふふーんと腕を組んで見下したような顔をして私の顔をみる根本晃。
うっ、感じ悪い。前から感じ悪いとは思っていたが、根本って自分のファンじゃないヘブンズゲイトのファンに感じ悪い気がするんだよね。まさに今感じ悪い態度を取ってるし。
「お前なんでここに居んの?」
シュンが馴れ馴れしく声をかけてくる。
「なんでって、穴の中の転移魔法陣に載って転移してきたんだけど。」
つい返答してしまった。
「そうじゃなくて、」シュンが言いよどむと
「そうじゃなくて、なんでこの世界に居るのかってことを私たちは知りたいと思ったわけですよ。」
「シュンくんそれが知りたくて訊いてるんですが。」シュンの話を継いで相変わらずの帝王っぷりで、見下すように発言する根本晃。
担当じゃないけどヘブンズゲイトのファンの間では根本の帝王っぷりには評判がある。メンバーの中で唯一の大卒、高学歴キャラ、優等生キャラ、真面目キャラを担当していて頭パッパラパーが多いアイドルグループファンをちょっと見下しているというか、むしろそれがたまらないと根本ファンにはうけているのだ。というか本人が高学歴知性派が売りなので、私の見た限りでは根本晃のファンは高学歴理知的な人が多いような気がした。ファンはアイドルの鏡のようなもので似たようなファンが付いてくるのだ。と思う。人間自分のことが結局好きで自分に似た要素を持っている人を自然と好きになっているのではないかと思って私はファン観察をしていたのだが。だから根本晃のファンは知的な職業についていたり、いい学校に通っていたり、そんな人が多いので、根本晃からしたら余計に他メンバーのファンはパッパラパーに見えているに違いないのだ。
はっ、私だって大学くらい出てるし、って鼻白んだがそういう問題ではない。
多分国民的アイドルグループで、テレビ番組のレギュラー多数持ち、CD出せば100万枚ミリオンはすぐに突破、飛ぶ鳥を落とす勢いでアイドル道突っ走ってきた、今は多少落ち着いているにしても知らない人はいない有名人の彼らは選民意識がある。優れた人間だから異世界召喚されたんだろうというような。
うーん、それって私だって知りたいよ。なんで召喚されたんだか知らないもの。
うーん一般人の何の変哲もないあなたがなぜここに居るのですか?と私の頭の中では彼の言葉が瞬時に変換されている。ああ、やっぱり何となく嫌な奴だ。嫌味なやろうっていうか。
「どうせ京也のやつと一緒に召喚されたんだろ。」
シュンが言った。
「そうですか。やはり京也と一緒ですか。」根本晃が続ける。
ふっと笑うようにシュンが言った。
「だってこいつ、京也のオキニじゃん。」
え?ええええええっ!
なんつう爆弾発言。
自覚ないんですけど。
でもちょっと、
否、かなり・・・嬉しい。
担当外メンバーからファンとして認識されているだけでもちょっと嬉しいのに、
オキニだなんて。(注:オキニというのは[お気に入り]の略称で私が京也に気に入られているってこと)
う、嬉しすぎる。たとえ嘘であっても嬉しい。我慢したが顔がにやけてしまった。
「だって、こいつ、この前のカウントダウンライブで、京也のやつがこいつの前で上半身はだけてエロ踊りして色目使ったら、腰砕けてへなへな倒れちゃったんだぜ。ふらっと椅子に座りこんじゃって。それ見て京也のやつも満足そうに頷いてやがるの。気持ち悪いったらねっつーの。」
シュンがその場面を横目で見て侮蔑するような呆れたキモって顔して別の場所に行ったの実ははっきりと覚えている。だって裸踊りに見惚れてしまった自分も京也に熱いまなざしを意味深に送られたのも、悩殺されて座りこんじゃってたのも、腰が立たなくなってしまったのも、強烈な思い出として覚えているし。今も鮮明に思い出すことができるし。しかもそのシーンの京也はライブDVDにしっかりと収録されているので、いつでも再生して観ることが出来るのでいつでも新鮮な思い出としてみることが出来るという幸せなおまけ付きなのである。ああ、でもあのDVD元世界に戻らないともう見ること出来ないのか、レコーダーもないし、残念だなあ。また観たい。
「ああ、それ私も覚えていますね。キモかった。あれは。」
って、何、なんで私が恥ずかしいみたいな感じで語られてるの?え?私に対する辱めの時間ですか?これは。
「そうか、そちたちはかねてからの知り合いであったか。」
魔王様が口を挟んだ。
ってなんでイケメン魔王の前で私が変態チックな感じに語られてるの?ちょっとやめて。赤面である。
そういうのやめてよ。っていうか、そんなの、私が覚えているのは分かる。けど京也なんか自分でやっておいて覚えてもいないだろうし、なんで二人が口合わせてそんなこと言うの?っていうか何でそんなこと覚えているのよ。
「DVDにも入りましたしね。京也も満足でしょう。」根元晃が続ける。
確かに嬉しくてその後発売されたDVDのその場所ばかり再生して観てしまったという変態ぶりだが。それはファンだから思い出が嬉しくて忘れられないし、演者側は違うと思うんだ。
そんなこと覚えてくれてなくていいのに。
「あの場面絶対に入れろよ、カットするな!
このカットは自分のとこ入れてくれってめっちゃ主張してたもんな。ここはキモいから入れないほうがいいんじゃね?って意見があったのに。いや、ここは入れる。絶対だって言い切って編集んときプロジューサーと揉めてたもんな。結局あいつの意見を通す形になったけどよ。」
「また、裸踊りしてもらったのか?」シュンが茶化してくる。
カッ、顔が真っ赤になる。そんなことしてもらってないし。
しかし編集で揉めたりしたのなら覚えていてもおかしくはないか。
黙っていると
「冗談はさておき、京也もあなたに対して好意を持っていたってことがこの召喚に大いに関わってきていると思います。」
真面目な顔に戻して根本晃は言った。
「ああ、こいつのこと、可愛くてかわいくて仕方がない。好きだって言ってたよな。あいつ。
チューくらいしてもらったか?」シュンの言葉爆弾。
え?え?ええええ?
そんなこと言ってくれてたの。知らなかったし。
どうしよう。
嬉しくて犬だったら嬉ションしてる。
イケメン3人を前に心臓が既にバクバクだったのだが、私の心拍数が多分限界値を超えた。
心臓がバクバクする。
私が推してるのは京也だが、当然に根本晃も、シュンも普通じゃありえないくらいのイケメンなのだ。シュンなんか手足長いし、鼻がつんと上を向くアップノーズの綺麗な鼻で、二次元なのだ。二次元でしか実現しないようなイケメンぷりなのだ。オラオラキャラで、ラップ担当とかしてるけど、ピアノを弾かせたら繊細で美しい王子そのものだし、育ちの良さが滲み出る貴公子然としたところもある。
根本晃も高身長で見栄えがする外見、いくら食べても太らないという羨ましい体質がもたらす、完璧なモデル体型、にも関わらずちょっと猫背なとことがキュートなハンサムボーイ。
テレビやライブで観てるだけで眼福な二人なのだ。
それに輪をかけたように、この世のものとは思えない、イケメン魔王。もう二次元の美しさ。
アニメから飛び出したような美しさなのだ。およそ体温を感じないくらいの圧倒的な美貌。
美しさが冷気を帯びてナイフのように切り付けてくるような圧倒的な美貌。
美大夫というような言葉がこれほど似あうものは居ないような気がする。
この状態にどうしていいか分からないくらいドキドキメンタルの私に、ずっと好きだった推しの
オキニじゃんというパワーワードと思い出のファンサを目撃していて気持ち悪かったです。勝手にやってろよ、二人って思って呆れてその場を離れました、みたいなことを言われて、
ここ魔王城で危機に面している中、帝国軍で戦っている京也のことを、召喚の謎を思うと胸がいっぱいになって頭の中が考える許容量を超えてしまったのだった。
「でも、とにかく、あなた、敵ですよ。我々の。わかってます?」
唐突に根本晃が言った。
「そうなんだよな。残念だが、敵だ。京也もお前も敵。」
「なんでのうのうとこうして単身乗り込んできたんだか、呆れてものが言えないですね。一応戦争中ですよ?ここは敵の本陣です。あなた、聖女なら戦力の要なのでは?
ああ、それと京也は勇者ってとこですか?」
確かに根本晃の言うとおりだ。
実際私はミスって今ここに居るのだ。
根本晃が頭がキレるのは本当らしい。
謎に変な帽子を被って、あくま神官とやらをやっているらしいが、魔物たちの信頼ももう勝ち取っているようだし。
シュンも変な召喚獣みたいな美少女蛇娘を侍らしているし。
一瞬
勝ち目あんのかな?
何となく魔族領の方が戦力とかもあるような気がする。
だって武器とか無しで単体で強いっていう種族のほうが
例えば銃だって球切れってのがあるけど、そういうの無いし。
って銃とかあったっけ?無かったような。弓はあったかも。でも矢とか作らなくてはならないし。なんとなく不利な気しかしない。実際どうなんだろう。
こんな魔物相手に剣の稽古とかして役に立つんだろうか。
とふと鍛錬を欠かさない、京也の姿が、ユーリ隊長の姿が脳裏をよぎった。
勝ち目がない、勝算がない戦なら止めといたほうがいいのではないだろうか。
でも、そしたら、完全に降伏したら、そしたら、この世界の土地は全部魔族のものになって、人類は滅びるしかないのだろうか。住むところも無くなって死んでいくしかないのだろうか。
分からない。
そもそも、楽しくヲタ活をして、ライブに行って最高にいい席で観るという幸せ体験をしていた私が、こうして敵だというのに、根本晃やシュンと話してちょっと楽しくなってしまい、ドキドキしたり、魔王様がイケメン過ぎるから萌えてしまったりしているような、こんな人間が
聖女さまとかなんとか言われて、破滅に向かっている世界で戦いに挑まなくてはいけないとか、
無理なのでは?
もっと適した人材がいたのではないだろうか。
なんで私が召喚された?
京也にくっついてきてしまったってのは一理あるのだろうか。
もしそうなら、私なんか使い物にならないと思うし、
聖女さまとかの権利を返還するから元の世界に返して欲しい。
戦いとか嫌いなんだもん。
ゲームとかでも私は、戦いものは嫌いだった。
総当たりの生き残りゲームとか特に嫌いで、周り全部敵で取り合えず全員殺し合いの総当たり人殺しゲームみたいのは無理だったから人気作品もやったことがないのだ。
ああ、無理だわ。
私は戦意をすっかり無くしてしまっていた。
スライムを倒してる段階ではまだ良かったのだけれど、そんなに口きいたりしてる様子もなかったから。
でもモフモフちゃんたちは親切で、この魔物さんたちの住むところを侵略して自分たちの領土にしようっていう考えって間違っているのではないかと思わずにはいられなかったのだ。
それにこうして地球で応援していたアイドルグループのメンバーが敵だなんて。
この人たちに、魔力攻撃を打つなんて私に出来るだろうか。
それってやっていい事なんだろうか。
敵味方に分かれてやらなくてはいけない事なんだろうか。
その疑問が頭に浮かぶを
他の事が考えられなくなってしまった。




