k11召喚の不思議
蒼くどこまでも透き通るような多分もの凄く誠実で実直な人なんだろうなあと思わせる目でユーリさんは俺の目を射抜くようにまっすぐな視線を俺に向けた。
「気になっていたことがあるのですが、」
俺は元の世界のアイドルについてほんのりと懐かしく回顧していた瞬間だった。
「それで聖女殿はあなたのそのファンとかいう応援をして下さる方たちだったのでしょうか?」
ユーリさんがポツリと切り出す。
ああ、それね、そう来ますよね、気になりますよね。
俺としてあまり触れたくない事だった。
俺と成子さんだけ知っていればいい、二人だけの秘密にしておきたかったのだが、
そもそも、まりんさんとかいう人が来てからそれは無理だという事が分かったし、あっちこっちで俺のファンだったとか触れまくってるし、ついでに成子さんも同じなのにズルいって騒ぎだしたから。
それに大賢者蘭乃丈がいる以上彼が知らないはずはないし。あいつがペラペラと言わなくてもいい事を離している様子が目に浮かぶからだ。
しれっとごまかそうとも思ったが無理だろう。
何しろ大賢者なんだし。
知らないことなど俺にはないよ。
って含み笑いを意味深にしてたしな。
は、無理だわ。
で、騎士団隊長さんはどうしてそんなことを確認したいんだろう。という疑問。
嘘つくわけにもいかないから、
「そうですね。彼女は俺の事を応援してくれていましたね。」
本当は聖女という立場を考えると俺とかにキャーキャー言ってましたとかいうのってあまり良くないのではないかと威厳が無くなるというか、なんかよろしくない気がするから言わないでおいてあげたい。でもまあ、キャーキャー言ってたとか腰抜かしてへなへなになってデレてましたとか言ってるわけではないし、応援してくれる方たちという表現だからセーフかな。まあ、どのみちいつかはばれるだろうし仕方がないか。
「そのライブ会場とやらにも聖女殿はいらしたとか。」
「そうみたいですね。」
ちょっと白々しいがそう答える。
思いっきりいたけどな。
それに気づいてもいたわけだし。
「そうですか。」
騎士団隊長さんは何やら思いにふけってるみたいで、
まさか成子さんが俺の事を好きなのではないかと、気に病んでいる?とか?
ああそうだよな、この隊長さん、ユーリさんの成子さんを見る目はなんか聖女様を尊敬してとかそういう目じゃなくて、なんとなく、男が女を思慕するような、懸想している?そういう悩ましい目つきに見えて前からちょっと気にはなってたんだが。
どうしても確認したいわけね。
もし、俺が
『彼女は俺の事をめちゃくちゃ好きで、俺もそれに気づいてたし、俺も彼女の事を好きで気になって気になって仕方がなかったのですよ。偶然街で見かけた天使が俺の部隊を観に来てくれていたのを知った時は心臓が早鐘のように打ってしまい動悸で死ぬかと思ったくらいです』
などと言ったら
ユーリさんはどんな顔をするのだろう。
もしかしたらそういう答えが返ってくると思っての質問なのだろうか。
そんなことを考え、いやいや、こんな場所でこれからいつ敵に出くわすか分からない討伐の途中でいくら休憩時間だからと言ってそんなことをデレデレと語るのはよろしくない。
そもそも成子さんが困るだろう。
聖女様としての立場もあるだろうし、まりんさんって人のいるところで、俺が成子さんを元世界にいるときから好きだったとか言ったりしたら、
嫉妬で殺されてしまうのでは?そのくらい女の嫉妬とか妬みとか嫉みとかそういうのっていやらしいものだったような気がするし。
なんかやらかしそうな人にしか見えないんだよな、あのまりんさんって人。
今ここではまずい。
いつかどこかで、
例えばあのゴールドラッシュとかいう居酒屋とかでビールみたいな飲み物があったから俺はビールって思ってるんだけどあのビールみたいのを飲みながら語らったりしたついでにとかなら話しても違和感ないかもしれないが、
今ここではだめだ。
俺はそんなことを考えながら、何となく身もだえしたいようなくすぐったい気持ちになっていたんだが。
『はあ、聖女殿は勇者殿を好きなのですね。俺の出る幕はないですね。悔しいけど、仕方がないなあ。諦めるしかなさそうですね。』
って言葉を期待していたんだが、
それに対してどう返答したらいいかなとか悩んでいたんだが
ユーリさんの口から出た言葉は全然違うものだった。
「それで、負い目を感じているのでしょう?」
へ?
負い目?
ぽかんとしてしまった。のだが。
なんで?なんで俺が成子さんに負い目を。
「あなたが召喚されたのに巻き込まれてついでに聖女殿はこの世界に召喚されてしまった。
あなたのせいで元の世界からこちらに来た。」
「そう思って、聖女殿に申し訳ない。そう思っているのではないかと。
同じ会場にいたから。時空間の移動に巻き込んでしまったと。」
「あ、」
「それは思いました。」
確かに平和に元の世界で生きていたのに、俺のせいで、死と隣り合わせの討伐に参加しなくてはならないし、どんどん侵食され、消えていくこの世界に連れてきてしまった。巻き込んでしまった。多分俺が彼女の事を好きだからだから連れてきてしまったのだ。そう思って、申し訳ないと、そう思っていた。
「それ、多分違いますよ。」
へ?
「彼女は聖女として単体で召喚されたのです。」
「あなたが勇者として召喚されたのと場所と時間が激似していたから同じ場所に降り立ったから、あなたは責任を感じたのでしょうけど、」
「聖女の召喚ってそんな簡単におまけみたいに付いてくるようなものじゃないのです。」
「彼女は聖女だからこの世界に召喚された。これは成子さん独自の聖女であるからという理由、それゆえに召喚された。あなたの勇者としての召喚のついでとか、巻き込まれてとか、おまけで付いてきてとかいうようなものではない。」
「聖女とはそんな軽いものではないのです。偶々本当に偶然にあの場所に召喚されただけなのです。
このことはナデル・ミリンボーンにも確認している。ただ、王宮で魔法陣を書いて召喚儀式をしたのにどうしてあんなに座標がずれたのかは全く分からない。
そして座標がずれなかったら、今私はこうしてこの場にいることはなかった。
すべてが奇跡です。
聖女殿のお力なのかもしれないとナデルも言っていました。」
「彼女は私の命の恩人。聖女ですが、私にとっては女神に近い。私の女神、それが成子さんだと思っています。私は一目見たときから彼女に恋してしまった。私を死の淵から助けてくれたときの彼女の姿が、美しく神々しい光に包まれて彼女の暖かい愛が身体に満ちていくような感覚、それが私の心をとらえて離さない。
更に私の命を救い、助けてくれただけでなく、国を救い力を貸してくれている、この世界の住人でないのに。この世界に馴染もうとして学園の生徒とも交流を持ち勉学に励む彼女の姿は尊敬の念しか呼び起こさない。
そして私には分不相応な素晴らしい女性、女神であるというのに、私は強烈に彼女を欲している。愛しているのです。」
いきなり、そんな告白?
俺は正直びっくりした。
しかもなんで俺に?
「彼女が勇者殿に対して憧れの気持ちを持っていたことはわかりました。
でも、私も聖女殿を好きであることに変わりはないので、このことをあなたにも知っておいてもらいたい。
それと、召喚のことで聖女殿に対して負い目を感じる必要が無いという事をお伝えしておかねばと、そう思ったのです。」
ああ、多分負い目のせいで成子さんを好きとかそういう気持ちにはならないで欲しい。俺が成子さんを好きとか思うのはやめて欲しいとかそういう?責任を感じての好意はやめろと?
別に俺はそういう責任を感じての好意を持っているわけではないのだが。ここで言うべきなのだろうか。ずっと前から好きだったと。むしろ俺の方が先に好きだからと言ってやるべきなのか。
「それと、まりんさんのこともなぜ召喚されてこちらの世界に来たのか、誰が召喚したのか、それも謎なのですが、やはり勇者殿とは関係がないようなので、それについても気にしなくて良いと思います。」
「付け加えるようで何なのですが、召喚については分からない事だらけ、なのですよ。ずっと召喚はされてなかったので、王宮に秘匿されていた古文書で召喚儀式を調べて、執り行ったのですが、成功するかどうかも怪しかったので。何しろこのような危機に国が見舞われたことが今までなかったので召喚自体執り行われたことがあるのかどうかさえ、今は記録がなくて。だから過去に成功した事例があるのかどうかさえ分からない中で行われた儀式。まさに藁をも掴む状態でしたので。ナデルが天才だからなせた事とも思うのですが。座標がずれたことや、その他いろいろの謎は正直今の時点で分からない事だらけで。」
マジか。そんな適当な方法で俺たちを呼び出したのか。
ほんと、勘弁して。
って思うしかないじゃないか。
俺に対して宣戦布告ってことかな。
って俺も成子さんのこと好きとかって言ってないよな。
どうしてこんな場所でこんなときにこんな話。
俺が思っているのを察したのか
「いきなりこんな場所でこんな話って思いましたか?」
俺の目をまっすぐ見る蒼い瞳がキラリと光って形のいい口からはっきりと繰り出された言葉は俺の心を突き刺すものがあった。生死の境で生きている、そういう仕事をしてきたからこその言葉、その言葉が俺の心にはっきりと何かを刻んでいくのを感じた。
「それは、俺たちいつ死ぬか分からない。話したいことがあったら、後でとか言ってられない。
からですよ。あなたには俺の気持ちを言っておきたかった。聖女殿を聖女殿としてだけでなく思慕しているという事。だから彼女の事は一番に守りたい。愛しているから。
隊長という立場と聖女殿のこの国での価値戦力を考えたら一番に守るのは当たり前の事なのですが、
それだけではないのです。
それをあなたに知って欲しかった。それとあなたの心に巣食っている負い目から解き放して差し上げたかった。それだけの理由ですよ。」
「あ、さっさと食べてしまいましょう。戦いはすぐそこだ。急がないと。」
そんなことがあったのに、そこまで言われていたのに
俺は
俺はとんでもないミスをしてしまったのだ。
とても取り返しがつかないミスを。
みんなに優しい人は
誰にも優しくない。
大切な人を守れない。
その言葉を痛いほど噛みしめることになるのに。




