K10騎士団隊長との会話
騎士団隊長ユーリさんとは遠征に一緒に行くので、いろいろと話すようになった。
「それで、勇者殿は元いた世界ではどういった事をなされていたのですか?」
「差し支えなければでいいのですが、きかせていただけますか?」
まあ、誰でも前職というものは気になるだろうあ。彼はこの討伐隊の責任者なんだし、隊員の事はいろいろ知りたいはずだ。それに寄っていろいろ考えなくてはならないこともあるだろうし。
隠す必要性もないのだが、
この世界にアイドルという職業は存在していない。
ということを知ったので、
どう説明していいのやら。
という問題があった。
エンターティメント業のようなものがない。
だから、どう説明したらいいのか。
たまに大道芸人のようなものが街にいて人々が集まっているのを見かけたことがあったが、
それとも違うし。
上手く説明できるか分からないが、
やってみた。
結果
「なるほど、歌や踊りを人々に披露するそういうお仕事なのですね。」
「そうです。」
伝わったかは分からないし、説明も上手く出来たか自信ないし、
でも、
彼のしている仕事、近衛騎士団の隊長という仕事で、
今人類の危機に瀕していて命を懸けて戦っているという事を考えると
自分の元の世界の仕事が
なんだかすごく貧相でしょうもないもののような気がしてしまい
気が引けてしまっていた。一応会場はこの世界にあるコロシアムくらいには大きく観客もたくさんいるという事をなんか見栄みたいなものから付け加えてしまったりしたのだが。大道芸人よりはいちおう客が多いという事を伝えておきたくて。でもなんか俺のしてた仕事がちっぽけな貧相なものに思えてしまい
「ユーリさんのしているお仕事を比べたら本当にしょうもないと思うので、お恥ずかしいのですが。」
つい付け足してしまうと
彼は眉をピンとあげて
「僕はそうは思わなかったですが。」
と
言った。
それは社交辞令的に俺のことを慰めるためのものではなく、出た言葉。のように思えた。
「実際に僕がそのあなたのしていた仕事を見たわけではない。だから想像でしかないのですが、
あなたのしていたそのお仕事は
人々を幸せにする、そういうものであったのではありませんか?」
人々を幸せにする。
ああ、確かにそうだ。
俺は俺たちの歌を聴いて、俺たちのパフォーマンスを観てくれた人たちが楽しいと思ってくれる時間を作りたかったし、
歌を聴いて楽しんでもらえるのを嬉しいと思って仕事をしてきていた。
現に力をもらいました。元気になりました。元気を分けてくれてありがとうなどのファンレターなどをもらったりしていた。
だから、それなりかもしれないが、人の為になる仕事、そう思ってやっていたという面はある。
「そうでありたいと
そうでありたいと思ってやっていました。」
俺はそう繋いだ。
「そうでしょうね。あなたを見ているとそんな感じがしました。人を元気にする力がある人なんだな。と。だから勇者に選ばれたのでしょう。」
そう言ってくれたのだが、
「でも、なんだか、凄く大変なお仕事のようですね。」
という言葉がユーリさんがら出たのである。
「想像でしかないのですが、」
「そのお仕事って、例えば、誰にでも平等にニコニコしなくてはならないとか、
そういったものだったのでは?」
確かにアイドルというものは、ファンを差別とかしてはいけない、平等に、たとえどんなドブスでも、デブでも。っていうかそういう容姿の差別用語もだめだし、頭の中の辞書から綺麗さっぱり無くしていかないとやってられない。
普通に男子に相手にされなそうな、普通の審美眼だったら、マニアは抜くとして普通の男だったらちょっと無理なような容姿の女子にも、ニコニコとしなくてはならないし、
むしろ、ブスの子のほうが誰にも優しくされない分、喜んでファンになってくれるから、俺はブス選んでファンサしてるね。っていうやつもいたし。
は?ブスとかバイトもできねえだろ。夜職でも風俗でもして金稼いで貢いでくれる可愛い子の方が金になんだろ。一人でCD何百枚も買ってくれたりさ。金使ってくれる女の方がいいだろ。効率悪くね?デブスとかマックでもバイト出来ねえだろ?不潔なデブスとか誰が雇うんだよ。
いやいや、コールセンターとか顔見えない職場なら働けるし、ガードマンとか、工事現場のガードマンとかならやれると思うし。
とかメンバー間で色々論議になったりしたけど
蘭乃丈も
俺は金持ちマダム一択かな。
金持ってるのは金持ちマダムでしょ。
若い子みたいに思いつめてめんどくさいとかなさそうだし、ストーカーとかにもなりにくそうだし、若い子より俺はマダムだなあ。
何?風俗嬢とか汚くね?
とか言ってたし。
とかいう事を思い出すと確かに
ファンサービスとかそういうの考えたらちょっと大変だったような気もする。
俺はあまり考えないでやってたしそれでもなんとかなっていたからなんだが。
「でも、誰にでも優しいっていうのは
誰のことも優しくしていないっていうのと同じことですよね。
大事にしたい人だけを大事にしないと、
守れるものも守れなくなる。」
ユーリさんが言ったその言葉を俺は後から死ぬほど思い出し、自分の事を叩きのめしたい衝動でいっぱいになるのだ。
そのことをそのときは分からず、
まあ、そうだよな。そういう仕事だわ。あの仕事は、などとぼんやり考えるだけだった。
ちょうど、討伐隊の遠征で昼食の準備がなされ、運ばれてくるのを待っているそんな時間で
俺の目には
まりんさんがスープを配ろうと配膳したり、成子さんがパンをプレートに並べたりしているのが映っていた。
なんか確かまりんさんって人も俺のファンですって言ってたよなあ。なんかいつもよく見る人だなあくらいは思ってたような気がするが実はあまり覚えていなかった。
それと成子さんと知り合いだったらしいが、なんかそんな感じだっけ?くらいには思ったけど、ファンの間の友人関係まではあまり分からないよな。そんな余裕ないし。とかふとライブやら舞台やらを観に来てくれていた成子さんの事を思い出して、ちょっと胸がキュッとなってしまった。




