19王立学園手芸部
‘ぬい‘の人気がすごすぎて、みんな欲しいって
言い出してなんかひと騒ぎになってしまい、
色々考えて、
私が作って順番にみんなに配ってもいいのだが、
なにぶん私の作った京也ぬいがあの謎のレベル上げが出来る仕様なので、
何の効果が付加されるか、付加られてるのかも未だ持って不明だし、
ミリンボーン先生あたりには後で相談しといたほうがいいかなあと思うのだけれど、まだ話をしていないので、不用意に創作を受け付けるわけにはいかないなあと。
そこで、思いついたのが、
作り方を教えて、みんなに自分で作ってもらえばいいじゃないかという事なのだ。
手芸部とかがあれば入部させてもらって活動しようと
思ったんだけど、
そういうのはなかった。
部活動自体がなかった。
だから、手芸部を作ることにした。
勝手に集まって変な活動してるとか言われても困るし、
生徒会はあったから。生徒会の会長さんにまずお話をと思って、
生徒会長はこの前に助け舟を出してくれた
あの第三王子。フェニキス・フランチェス・キングスマナリン。
「フェニキスさま、実はちょっとお話があって、お時間よろしいでしょうか。」
「あ、ナリコ、もちろん、どういったお話か存じませんが、よろしかったら、生徒会室でお伺いしますよ。」
そして、こちらですよ、といった感じで自然にエスコートしてくれる。
リアル王子、素晴らしい。
スバラですわ。と私は心の中で思った。
生徒会室。
思ってたより数段豪華。
応接室みたいな感じのソファセットなんかもちゃんとあって、生徒会長の机にはいろいろな書類が重ねてあった。
思ったような生徒会室だけど、調度品が凄く豪華で質の高い物を使用しているのが私にもわかる。
やはりここはこの世界の中でも上流階級の部類に属する場所なのだ。
一国の王子が生徒会長なんだからどう考えてもこの学園がエリート中のエリートが集うところだという事がわかる。
私は応接セットのソファに案内されて座っている。
こういった経緯があって、こういうのを作ったりするの活動をしたいので、クラブというものを作って活動をさせて欲しいという事、出来たら学園内にどこか空いている部屋があればそこを活動拠点として使用させて欲しいという事を生徒会長のフェニキスに伝えた。
初めてのことに、部活動創設希望の話を興味深い感じで聴いていたフェニキス王子だったが、
私が言った『こういうのを皆さんと作りたくて』というところの『こういうの』といったところで。
ぴくっと眉毛が上がった。
『こういうの』とは言わずと知れた‘京也ぬい‘である。
「それは、もしかして、勇者・京也をかたどったもの、ですか?」
意外なところにツッコミが入った。
やはり京也をモデルにして作成されたものだという事がわかるらしい。
私も腕も大したものだなと一人悦に入っていたんだけど、
「そうなんですう。それ、勇者さまにそっくりですよね、それにとてもかわいらしくて、」
うふふという感じでかわいらしく笑うまるて天使みたいに可愛い魔法コースの女生徒、かつ、生徒会役員のメリッサ・スチュワートが茶をいれた盆を持ちながらやってきた。
「わたしたち、そのお人形さんに、‘ぬい‘っていうらしんですけど、その‘ぬい‘にとっても夢中なんですの。」
「ナリコさま、さっそく会長にお話をして下さりにいらして下さったのですね。ありがとうございます。」
と私に挨拶をしてお茶をテーブルに載せてくれた。
手芸部を作りたいと言ったら、会長にお話しされるといいですよ。というアドバイスをしてくれたのが、メリッサで彼女も生徒会役員なので、フェニキス王子の生徒会で活動する時間なんかもバッチリ把握していて、私に教えてくれたりしていたのだ。
メリッサには感謝しかない。
おかげであてもなくフェニキス王子を学園内をうろついて探し回るということもせず、比較的すんなりとこの場所にいて茶などたしなんでいるのだから。
この世界のお茶も元世界のとあまり変わりがないような気がする。これは紅茶だ。ダージリンと同じような似たような香りと味の紅茶。
おいしい。
ホッとする。
やはり同じような食べ物や飲み物があると嬉しい。
そして、焼き菓子が並んだトレーが置かれていて、
食べてみたくて仕方なかったが
大事な話し中なのでぐっとこらえた。
後でメリッサに分けてもらおう。
そんなことを思っていると、
「わかりました。私から学校長に話を通しておきます。空き教室や使える部屋があるかも、メリッサに調べてもらって良さそうなところを提供できるように手配いたしましょう。」
フェニキス会長の許可が下りた。
「わあ、いいんですか。良かった。それよりこの焼き菓子私が作ったんです。食べましょう。」
メリッサが無邪気に言った。本当にかわいい。妹にしたい。
そんなことを思っていると、フェニキス会長の口から思いもしなかった言葉が発せられた。
「一つ、条件というかお願いがあります。
いつか、私の分もこの‘ぬい‘というものを作っていただけませんか?」
これは、意外に難問な気がする。
私が作った‘ぬい‘に宿る謎の力がどれだけのものか、またレベル上げ以外にも何か付帯する効果があるのかとか検証できていないのだ。
だから、手芸部を作り各自自分の想い人の‘ぬい‘は自分で作成してもらおうと思って手芸部を立ち上げることにしたのだから。
フェニキス王子の‘ぬいを私が作成したら
手芸部立ち上げの意味がない。本末転倒になってしまうのだ。
これは簡単に即答して引き受けるべき案件ではない。
さりげなく提案しているから本人には事の重要性が分からないところがなんとも悩ましい。
私が「嫌です。」とか、「ちょっと、それは、」とか「できません。」とか
言おうものなら、フェニキス王子の反感を買ってしまう恐れもある。
否、大いに不快になられる可能性がある。
けど、ナデル・ミリンボーン先生の‘ぬい‘鑑定がまだの今安易にお引き受けしていいものだとは思えない。
はて、どうしたものか。
私は頭を抱えてしまった。
ここであまりにも答えが遅いとそれ自体
不快な感じだし。
どうしよう。
困った。
おお困りである。
しかも
フェニキス会長の、悪気とか全く感じられない、美しい笑顔。
多分そんなに‘ぬいに対して執着とか関心とかもなくて、社交辞令で、作成者の私に、可愛いですね、僕の分もお願いできますか?みたいなお世辞みたいなノリで善意で言ってくださっているのだ。
それを、断るなんて、下手したら、王族だから不敬罪とかになるかもしれないし、この国の法律とか知らないから分からないけど、こういう王国みたいのって、王族とかって絶対的な権力とか、理不尽な決め事とかあったりしそうな気がする。
それに多分、断られるというようなこと自体彼のような立場の人間は体験してないのではないのだろうか、という推測も頭をよぎる。
なんて、答えたら、上手くごまかしてこの場を乗り切れるのか。
頭使え、頭。
しかし
私の頭脳は脳みそは
このいきなりの申し出に
フリーズしてしまったのだ。
なんか答えが一切思い浮かばない。
えっと、
ああ、
どうしよ。
泣きたい。なんかどうごまかして乗り切ったら。
ああん、どうしたらいいのよ。
「会長?」
ゆったりとした話し方で、メリッサが話を始めた。
メリッサはピンクの髪色でふわふわとした髪をツインテールにしている。元世界で私が持っていたリカちゃん人形と同じような髪形で、髪の色で、まるで本当にお人形さんみたいに可愛いのだけど、
話し方もおっとりしていて、ゆったりとした口調だから余計に可愛いのだ。
彼女の家はもちろん王国の貴族で、代々経済を扱っている大臣を務めている国の要みたいな役職の貴族だから、超お嬢様なのである。
フェニキス会長とは幼少の頃から幼馴染で遊んだりしていた仲、婚約者である。
もっとも小さい頃に婚約をするのが常なので、後からやめたりとかいろいろあるらしいので、絶対に結婚するというようなものでもないらしいのだが。
そのメリッサが困っている私の様子を瞬時に読み取ったらしく、
さすがに親が大臣なだけあって、頭の切れが早い。
おっとりした見た目や雰囲気とは桁違いに頭が切れる子なのだ。そして空気を読むのが上手い。
私にチラッと、目くばせをして、
‘任せて‘
みたいな感じで、
「会長の‘ぬい‘は私が作らせていただきますわ。ナリコさまは聖女さまですもの。御多忙ですし、私たちにこうして作り方のレクチャーをして下さるだけでもありがたいことですのに、私の婚約者の会長の分までお願いするなんて他の生徒たちにうらまれてしまいますわ。それに私会長の‘ぬい‘作りたくて入部希望ですのよ。」
「会長は私が作った‘ぬい‘ではご不満ですか?ナリコさまのみたいに上手にできるかわかりませんけど、私も頑張って作って見せますわ。」
ちょっと甘えたような顔を口調で口をとがらせて話すので、なんかよく聞けばかなり強気な意見なのだが、可愛らしい提案をしているように見えるのが美少女というもの。
フェニキス会長、思わずにやけてしまう感じになっている。
もはや、可愛い彼女にいいよ、いいよ、なんでも買ってあげるよみたいに甘やかし彼氏のような顔つきである。
かなりまんざらでもない感じ。
「そういうことなら、メリッサにお願いしようかな。ナリコ、メリッサにご指導よろしくお願いします。」
メリッサ、ありがとう。グッジョブ。サンキユ。心の中で思い切り思った。助かった。
やはり持つべきものは美少女の友達。
それに頭いい。メリッサ最高。
かくして、王立学園に手芸部が創設されることになった。




