18ぬいの力
この世界に来て、まったくもって久しぶり学園生活などというものをしてみると、ずいぶんと違っているという事がわかった。
いろいろ無いものがある。
‘ぬい‘とか。
私がカバンに付けていたぬいを見て、目ざとい女子生徒が声をかけてくる。
「聖女さまあ、それって何ですか?」
「あら、聖女様なんて言わなくてナリコでいいですよ。」
聖女さまとかなんか恥ずかしいし、学園で勉学を共にする仲間なんだから様とか呼ばれるのなんだか、元が庶民の私にはむしろ荷が重いというかなんか体中がくすぐったいような変な気持ちになってしまうのだ。
要するに、‘様‘とか言われるの慣れていないのだ。
京也はどうなんだろう。とふと思う。勇者様とか言われても全然平気な感じなのかな。
元世界でアイドルとかしてた身からすれば、京也さまあ、とか言われたりしてただろうし、平気な感じなのかもしれない。
はあ、私は器じゃないかも。
何で私が聖女として召喚されたのか未だに謎過ぎるし、スキルも謎なんだよなあ。
というか、
「ナリコ様、これって、もしかして、勇者さまですか?」
「わあ、なんかこの衣装見たことあるような気がいたしますし、」
「わあ、これって、勇者さまなんですかあ?」
「かわいいですう。」
「ねえ、ほら見て、これ勇者さま。」
わいわいと可愛い女子生徒さんたちが集まってきて
私のカバンに付けたぬいを見て口々にきゃぴきゃぴしているのだ。
「いいなあ、これ。私も欲しいなあ。」
「聖女さまのいらした世界はこんな可愛い物で溢れているんですか?」
「いいなあ。」
そして、誰かがそう言った女子生徒のことを肘でつついた。
そんなこと言ってはダメよって感じで目配せしている。
肘でつつかれた女生徒は、あ!と思ったふうで、しまったというように、ちろっと舌を出して首をすくめた。
ほんとにうっかりさんね、というようにうなずいて見せるお友達。
みんな気を使ってくれているのだ。
突然知らない世界に召喚されて、謎に戦いに巻き込まれている私たちのことを。
だって、その可愛い物にあふれている世界に帰れるかどうかとか分からないんだもの。
元の世界の事親とか気になったりもするけど、妹がいるし、私は東京に出てきて一人暮らししてたから、あんまり会う機会も無くなっていたし、もっと顔出せばよかったなとかチラッと思ったりもするけど、そこまで気にしてはいない、もっと時間が経ってきたら分からないけど。友達と急に会えなくなってしまうのも親が転勤族だったから慣れている。とは言えさよならも言えずお別れの言葉もなく突然に会えなくなるという事はなかったのだが。
そう言えば転勤って異世界召喚に似てたな。突然父親が、辞令が出たから、という電話一つ寄越して、母が必死で引っ越し関係の諸々やって、学校の手続きとかいろいろやって、荷造りして、一週間で引っ越しとかざらだった。
あまりにも引っ越しや転校が多かったから、仲良くしてくれる友達がいても、心のどこかで、この子ともいつかまた会えなくなってしまうのだから、寂しくないようにあまり仲良くなり過ぎないように自分の心の中の位置が広くなり過ぎないように、後で悲しいの嫌だからあまり仲良くしないように、とか思っていて、どこか上っ面の付き合いにしようと心の中のガードを作ってしまっていた。
父の仕事が地方転勤が多いから今も実家は地方である。東京に出てきても、地方出身者だからとどこか元々住んでいる人とは何か垣根があるような感じがして、差別とまではいかないけど、でもなんかどこに行っても余所者って気がしてた。
だからなのか、この世界にいても、
そこまで違う世界に来てしまった
という精神的な
負担が
多分普通の人より少ないような気がする。
特に辛かったわけでも、元世界に嫌気がさしていたわけでも
ないんだけど、
そんなに未練がないというか
むしろ
京也を独り占めできる
出来ている
出来そう
な気がして
今は
ちょっと
幸せな気さえしているのだ。
だから
帰れなくて可哀想とか
気を使ってもらわなくていいのだけど。
学園にいる生徒さんたちはほどんど貴族の子女で、魔力コースと武術コースに分かれているんだけど、
そもそも魔力があるのがほとんど貴族の子弟らしい。
生まれてからしばらくして幼少の頃に魔力を発動するとお祝いをするらしい。魔力のある血統が貴族なのだ。
たまに平民でも魔力があったり、貴族でも魔力が発動されない子もいたりするので、武術コースもあるし、平民の子も魔力に優れているものは王立学園魔法コースに入学することができる。
そうするとかなりの出世コースになるのだ。
だから魔力が発動すると当然にお祝いがされるし、王立学園入学のために魔法の家庭教師を付けたりするらしい。
武術コースは、武術にすぐれた貴族の子弟が多いので、魔法が使えないから武術コースというわけでもなく、魔法を剣に付加して攻撃を上げたり攻撃の種類を増やしたりする流派もあるので、魔法の才がないから武術コースというわけでもないらしい。
とにかく、王立学園の生徒さんたちはかなりのエリートであり、貴族がほとんどである、という事がわかってきた。
そんな上流階級の仲間入りみたいなところで、
聖女さまとか高貴な方扱いをされている。
慣れなくてなんか体がかゆいというかこっぱずかしくなってしまうのである。
偉そうに出来ないというかツンとして毅然としてとかそういうのが無理なので、
でも一応胸を張って背筋を伸ばしてちゃんとしよう、自分なりにとは思っているのだが。
根がそこまで偉そうにできないせいか、人懐こい性格の子とか、物怖じしない子たちがそろっと周りに寄ってきて、私が怖くない系の人間であると思ったらしく、それなりに人が集まってきたりしているのだ。
しかも、
私自作の京也ぬいが
大人気なのだ。
確かに
自分で言うのもなんだが、可愛く出来てとても良い出来のぬいなのだが、この世界にはぬい文化はないらしく、でも女子は可愛い物が好きという点だけは全世界、全宇宙共通の真理らしく、ものすごい勢いで食いついてきているのだった。
これ持ってきてて良かった。
これのおかげでなんとか周りの学友たちと仲良くやっていけそうな気がする。
ライブ参戦のときだからカバンに付けて持っていたってのもあるが、
実際に仕事場にもポーチに入れてこっそりと持ち歩いていたのだ。
辛いときとか腹が立ったときとか、話しかけて
癒してもらうために。
このぬいは私の話を京也の代わりにと言ってはなんだが、ずっと聞いてきてくれている相棒なのだ。
そしてまたこの世界でも周りの人たちに溶け込むのに協力してくれている。
‘ぬい‘って凄いな。
こんなに人に愛されるなんて。
そして人を助けてくれるなんて。
更に私の京也ぬいには謎の力があるし。




