16放課後の練習
私は座学は得意だが実際に体を動かすのは苦手である。
元世界でもインドア派であった。外で遊ぶのが好きな陽キャと呼ばれる人たちと対極にある陰キャという分類のほうである。ヘブンズゲイトのライブDVDを観たり、ネットで動画を観たり、情報を検索したり、アニメを観たり、ぬいを作ったり、そういった家の中で座ってやるようなことをするのが好きで、外での活動といえば、ヘブンズゲイトのライブに行くくらいしかなかったのである。仕事は仕方ないから外に出て働いているがそもそも仕事内容も事務仕事なので、PCを使っての作業や電話受けとかが主でたまに外に仕事で出かけたりするのはものすごく嫌だなと思うくらいにはインドア派だったのである。
なので、当然座学でも魔法学講義の授業は楽しく、理解も早かった。小テストでもいきなり満点で成績トップに躍り出て、また称賛の嵐だったくらいだった。
が、実技ときたら
やはりポンコツだった。
思ったところに魔法攻撃がいかない。
威力はそこそこある。というより、制御出来ていないのでやたらとハイパワーでの出力になっている。
これではもはや攻撃は諸刃の剣どころか、自軍にとっても危険なものになりかねない。
まずい。どう考えてもこのままではまずいのは私にもわかってきた。いろいろ学習していくと余計に私の魔法力が膨大でチート性能であること、それにしては、使いこなせていない事、使いこなせない力では何の役にも立たないどころか害悪であること、などがわかってきた。
困った。
これは
仕方ない。
自主練するしかない。
ということで、放課後私は練習場で魔法攻撃の練習をしていた。
午前中に私が破壊したところはナデル先生がとっくに修復してくださっていたので、練習場は私が破壊行為をする前の綺麗な状態に戻っている。
なんかいろいろ迷惑かけてるなあ。
しよんぼりと考えてしまった。
私、聖女の役目とやらを果たすことができるのだろうか。
実に実に情けない気持ちで、でも、きっと背筋を伸ばしてとにかく前を見て進んでいかなくては、と自分に言い聞かせる。苦手だけど頑張ればなんとかなるのではないか。なんでこの力にもチート能力が付加されていなかったのかちょっとどこの誰か知らないけど、能力とやらを扱っている存在にちょっとだけ恨みがましい気持ちになる。けち臭いこと言わずにコントロールする能力も付加して欲しかったなと。
はあ、でもなかなか上手くいかないなあ。
ため息が出てしまう。
「ねえ、ちょっといいかな。」
背後から声がして
?
振り向くと
京也が立っていた。
夕日を背にして京也に後光が差しているように見える。
京也も鍛錬の帰りなのか剣を腰に差して学園の制服が似合ってる。
京也もエリートコースに入って剣術の稽古をしているんだっけ。
何着てもかっこいいなあ。エリートコースの制服、マントが似合ってる。さすがヘブンズゲイトのセンターはってただけあってどんな服を着ても似合うし、学生って年齢でないのにさらっと制服が似合ってしまっているところがまた京也らしい。
「それ、的に当てようとする練習?」
京也が私に声をかけてくれた?何で?勿論ちょっと体に緊張が走った。ドキッとする。一人で練習して真剣に魔法攻撃してたからすっかり心がその、アイドル京也が一緒の学園にいるということに無防備だった。完全無防備なところに京也のイケボで質問されると私は声も出ない。ちょっと掠れたような京也の声。その声で突然背後から話しかけてくるとは突然の攻撃に心が追い付かない。私は真面目に練習していたのに心が胸がドキッと鳴った。
私は黙って頷いた。
とても何をしようとしていたかわからないようなめちゃくちゃっぷりだったので、いつから見ていたのだろうと顔が熱くなってしまいそうな、恥ずかしい。こんな情けないとこ京也に見られたくない。もっとかっこよく活躍してるとこ見せたいのに。
京也がずんずんと歩いて私の横に来た。
「魔法のこと俺はイマイチ分からないんだけど。ちょっとだったら習ったから。」
「貸してみて。」
私は杖を渡した。
京也が杖を振って、
小さな光が飛んで行って
的に当たった。
真ん中にちょっと惜しいくらいのとこ。
「え?凄い。私中々的に当たらなくて。京也さん凄い。」
私の口から洩れた言葉を気にする様子もなく、
また杖を振る。
2,3回振るとど真ん中に当たるようになった。
「やっぱり。」
とつぶやくと、
「これ多分野球とかと同じかと思う。」
とポツリと言った。
「野球?」
「うん。なんかそんな感じ。」
うわあ。やっぱり私ダメな奴じゃん。キャッチボールとかもまともにできたことないし、バットにすら当たったことがないのだ。
体育で女子はソフトボールってときがあって私はからきしダメで本当に嫌だったことを思い出した。
ミットにすら入らないし、バットにもかすりもしないんだもん。球技とか苦手。
ひゃあ、終わった。無理だ。泣きたい。ダサい私。せっかく魔法力膨大なのに使いこなせないよ。
どんよりする間もなく
「ちょっと振ってみて。」
と私に杖を返した。
躊躇していると、だって絶対明後日の方向に飛んでくんだもん、今の華麗な杖裁き見せられた後できついし。
「やってみて、さっき一人でやってたみたいに。」
と腕を組んで言った。
なんか逃れられない感がそこにあったので、嫌ですとか、一人で練習するからとか言えない。言いたかったけど、京也にそんなこと言えなかった、ヲタの弱いところである。所詮この世界にいても私は京也が好きで、ヲタってことなんだろう。
言われるままに杖を振る。えいっ!どうにでもなれ。
ヒューっと白い球が飛んで、やはり曲がってあっちら方面に飛んで行った。もちろん的とは関係ないところに。
じっと腕を組んで見ていた京也が、
「最後まで目を離さないで。」
「なんか、振った後目を離してる。目を離さないで球を的に行くように念じながら見届けてみて。」
最後まで見届ける、球から目を離さない。そんなこと意識したことなかった。ナデル先生は天才肌だから指導も、そう、こういった感じ、分かる?こうやってこういって。みたいな感じで、さっぱり凡人にはわからないのだ。
京也に言われたことを意識して注意深くやってみた。
すーっと飛んでった球が
的に当たった。
的の端のほうだけど、
当たった。
そして的の端は砕けた。
「力抜いて優しい気持ちでやったら威力の調整もできるようになるかもしれない。」
「ちょっと力抜いて振ってみて。」
んっと、こんな感じで。
って京也が私の腕を取って軽く振っている。
「こう、こんな感じ、力抜いて、そう、」
「肩が上がってる。ここは動かさないようにして的を見て、」
「俺押さえてるから、ね、やってみて。こう。振って。」
後ろから肩まで抱かれる形に。
なんか、もわっと京也の香りが鼻に直撃した。
ファンの間で有名ないい匂いが。
一瞬煩悩の塊のせいで意識を手放しそうになったが、
ふと、顔を上げて京也の顔を見ると、真剣な顔をしている。
折角教えてくれているのに、うっとりとしている場合じゃない。
ということは頭ではわかる。
しかし、近い。めちゃくちゃ近いのだ。
京也が視線を的から私に落として、
にっこりと笑った。ヤバい。この至近距離でこの笑顔はヲタクを殺すやつだ。
「ほら、さっきちゃんと当たってたでしょ。筋がいいよ。すぐに言われたこと意外とできないもんだから。」
「凄く上手いよナリコ。もっと上手くなるから、ね、俺見ててあげる。頑張ろ。」
声が、吐息が首筋にうなじにかかる。掠れたようなイケボの声と吐息が私の首筋に直撃してるんですけど。
ヤバい。心臓の鼓動が早くなって、なんかやたら大きく聞こえてるみたいで、京也に聞こえちゃう。だって京也の心臓の鼓動?も聞こえるような気がする。私の五感は最大限に敏感になって発揮されているのだ。目も耳も鼻すら、この瞬間のためにあるのだと言わんばかりに。しかもそれにも増して私の心臓ときたら心拍数どんだけ上がってんの?ってくらいに鼓動を打ち続ける。京也に私がキュンキュンしていることバレちゃう。それはいけない事のような気がする。
真面目に教えてくれているとこキュンキュンなんてしていてはだめだ。しっかりしろ私。
集中して。
杖を
優しい気持ちで
力を抜いて、
:破壊的な笑顔とイケボのせいでもはや力など入らない、腰が抜けてしまいそうになってるんだから。
すっと前に出す。
白い小さな球が杖の先から飛び出し、真っ直ぐに的に向かっていった。
目を逸らしてはだめ。最後まで見届ける。京也のアドバイスを心の中で繰り返して、
じっと球の行方を追った。
ヒュン。っと飛んでいって
的に
当たった。
それはど真ん中に小さな痕をつけた。
破壊していない。
やった!
「わお!」
「やったね。出来たじゃない。」
京也が優しい笑顔を向けてくれる。
胸がほっと暖かくなった。
「ありがとうございます。」
純粋にうれしい。出来ると思ってなかったことが出来た。
「その調子。も一回。コツを掴めば簡単に出来るようになるはず。」
肩に置かれた京也の力が気持ち強くなったような気がする。
もはや抱きしめてきそうな勢いな感じで。
フーっと気を失いそうになるくらい幸せな気持ち。
一人で練習していたら多分こんなに早く的に当てることは不可能だったと思う。
嬉しい。
顔がほころんでしまう。
私絶対にやけている。
ちゃんとしなくちゃ、まじめな顔しなくちゃって思うけど、うれしくて我慢できない。
「もう一度やって。」
京也に言われて我に返ってまた杖を振った。
ヒュンと言う音を立てて、白い光の球が的に向かって飛んでいく。
それは私の心が解き放されたような苦手意識が無くなっていくような不思議な気持ちを乗せたようにぐんぐん的に向かっていった。
そして真ん中に到着した。
:[スキル 魔力コントロールを獲得しました。]
どこからともなくコンピュータ音のような声がして
私は魔力コントロールのスキルを身に着けた。
よく魔法みたいに簡単にできたらいいのに、とかいう言葉があるけど、魔法だって簡単には出来ない。
魔法だって努力しなくては使いこなせるようにはならないのだ。ということを改めて知った。
初めて近衛騎士団の人たちを治療したときは、魔法って凄い、なにこれチートじゃん。って思ったけど、
決してそんな甘いものじゃなかった。あれはむしろビギナーズラックみたいなものだったのだと思う。必死になっていたこともあるけど。今できるかと言われたら分からないと思う。
そしてこの魔力コントロールとかいうスキルも京也の助けがなかったら手に入れられなかったような気がする。
こうして体を密着させての個人指導、こんなことがあるなんて幸せすぎる。
もし最初からコントロールのスキルがあったら今のこの状態はなかったのだ。
さっき恨みがましい気持ちでコントロールのスキルも付与してくれたら良かったのにって思っていた、なんかどこの誰か知らない存在に対して、こっそりと心の中で
『付与しないでおいてくれてありがとうございます。}と思ってしまったのだった。
だって、
「やった!良かった。多分もう大丈夫。頑張ったね。」
って思わず京也が
私のことをギュッと抱きしめてきた。
わあ、ハグされている。
なんてこと。
京也の胸の中にいるんだけど、
という事実に頭が付いていかない。
顔も絶対真っ赤だ。
なんかもういっぱいいっぱいになってしまった。
このままキュン死してしまうかもしれない。




