15助け舟
「だから、もっと力を抜いて。息をそっとはいて、」
「はい、ここで打ってみて下さい。」
ナデル先生の掛け声に合わせて、杖を的に向ける。
「エイツ!」
ドカーン。的ごと消滅。
はあ、すごーい。という驚きの声を上げる生徒も。
でも先生の求めてるのは、
コレジャナイ感。
そう、的の真ん中にスマートに当てる、という事。
破壊ではない。
はあ、だめだ。
力を抜こうが思ったようにならない。
だけどまだ的に当たっただけマシというもの。当たらないでその辺の壁をことごとく破壊しているのだから。
先生の目が怖くてお顔を見れない。
はあ。
「ため息をついている場合じゃないです。」
お怒りですね。ぐすん。わかってます。わかってるけど出来ないんです。
悲しくてため息が出てしまうが、それでまたナデル先生を失望させてしまう。
私は昔からこうだった。跳び箱も飛べないし、大縄跳びに飛び込むと私のとこで引っかかってしまう。
要するに運動音痴なのである。だから体育の時間が一番嫌いだった。
自転車に乗れるようになったのも小学4年生のときあまりにも自転車に乗ろうとしないであきらめている私を近所の子供たち普段一緒に遊んだりしてない子たちなのに4年生になっても自転車に乗れないのは可哀想だと見かねて手伝ってくれたというくらいだ。そのとき怖かったからちょっと嫌だった。普段仲良くしているグループの子たちじゃなかったし自転車怖い、転ぶのも痛いのも嫌だから断りたかった。がなんかすごい圧があって断れず近所の坂がある広場で練習に付き合ってもらった。最初は嫌だったが乗れるようになって感謝したし、今でも感謝している。この年になってからでは多分一生乗れないだろうと思うからである。だから苦手でも頑張ればそれなりになるとは思うんだけど、それなりになる様子が見えてこない。絶望である。
半泣きになりそうになっていたとき、ギャラリーから声がした。
「ナデル先生、別に威力を弱める必要ないんじゃないですか?」
は?というような感じでナデル先生が振り向く。
「彼女の攻撃が弱い必要ないと思います。その威力の魔法が打てるのはむしろ強み。ちまちました攻撃は他のものにやらせていざというときに威力ある魔法攻撃を仕掛けてもらえばそれでいいのでは?いいところを伸ばすようにしたほうがいいと僕は思います。」
「討伐部隊編成のときにそのような使い方をする形で参加してもらえばいいような気がする。それにこの前の近衛騎士団負傷者全員を治癒魔法で治したという話、普通では治すことなど困難なほどの重傷者を治したという報告を受けています。そういった衛生兵という形での参加とかも考えたらそちらのほうを伸ばす指導のほうがいいのでは?」
なんと、師団長のナデル様に意見する生徒がいるとは。驚いて私も振り向いてみてしまった。
見覚えがかすかにある。王立学園でもエリートコースの制服、白いマントが誇らしげに輝いている。たしか国王への謁見のときに同席されていた貴族やらなんかたくさん居たなかの国王にとても近い位置にいて、めちゃくちゃイケメン揃いの中の一人だったような気がするんだけど。
えっと。考える間もなくナデル先生の言葉で思い出すことになる。
「フェニキス王子、ご意見はもっともですが。私の指導に口を挟むのはあまりいい気持ちはしませんね。
王子としての意見として参考にさせていただきますが。ここでは私が先生であなたは生徒なんですから。」
ちょっとイラっとした様子でナデル先生が答えた。
しかし、私の肩や腕から手を離し、杖に目を落として、ふっと息を吐き、
「でも確かにあなたの意見は正しい。少し指導方針を考え直さなくてはいけないか。」
「今日はここまでにします。また明日。」
「ありがとうございました。」
先生にご挨拶をして、やった、やっと終わった
ナデル先生の授業が終わり、ギャラリーがみんな散っていった。
はあ、またやらかしてしまった。疲れた。うまくいかないなあ。
ちょっとだけ片づけて帰ろうとしていると、先ほど助け舟を出してくれたフェニキス王子が私の傍らに寄って来ていた。
「大丈夫?彼は熱血指導で厳しいことで有名だから、落ち込んだりしてない?」
美しい金髪、青い瞳、絵に描いたような王子様。子供のころ絵本で見た王子さまはみんなこんな感じだったことを思い出した。シンデレラの王子様も白雪姫をキスで眠りから起こしてくれる王子様もこんな感じだったような。挿絵がそんな感じのおとぎ話の本を思い出す。子供心にこんな素敵な人がいて私も会えたらいいなあ、と思っていたものだった。別世界という概念があったかどうかは覚えてもいないし幼少の頃の私の周りにはそういう存在は皆無であったと思うのでどう思っていたのかさっぱり分からないんだけど素敵だなあ、と思ってドキドキしていたようん気がする。だからそういうお姫様と王子様の話が大好きだった。その絵本から抜け出してきたような風貌のそしてリアル王子が私に気遣いの声をかけてくれている。これってなんかすごいことなんでは?元の世界では王子様と知り合いになる機会なんでおばあちゃんになるまで生きていても多分一生に一回もなかったと思う。どう考えても出会って話をするというシュチュエーションが思いつきもしない。スイスの学校に留学とかしたりしてたらあるいはそういうこともあったかもしれないけど、あいにく元世界の私はスイスに留学させてもらえるだけの財力がある実家に生まれていなかったし。やはり有り得ることではなかったのだ。
当然、呆然と見惚れてしまってなんと言葉を返したらいいのかすら浮かばなかった。情けない話である。一応聖女をいうのはかなり身分が高いらしく王族と普通に接しても問題ないし、むしろ国王の次くらいには身分が高い高貴な人という分類に入るらしいので第三王子に引け目など感じたり畏怖を感じる必要など一切ないのだが、なんといっても元が庶民なので、気持ち的に引け目のようなものを感じてしまうのだ。
すみませんと意味なくへこへこして謝ってしまいそうな勢いなのだ。
威厳みたいなものとか品格とかそういうのが求められてるらしいことは把握しているので、とりあえずなんか気の利いたことを言わなければいけない。
が、情けない実技で困っているところを助けてもらったのである。気の利いた言葉なんて浮かぶはずもないのだ。傍目から見たらもうきょどってるヲタクが推しの前でドキドキして何もできないですの図に見えているだろう。
どうしたらいいかわからなくて口ごもっている私に、
「あなたの魔法素晴らしい。気にすることはないですよ。むしろその威力を何回も出せることのほうがすごいことなんですから。私はあなたを尊敬しています。いきなりこの世界にきて、近衛騎士団の皆の者を助けるという偉業を成し遂げた。国を代表して私からもお礼申し上げます。
自己紹介がまだでしたね。私は第三王子のフェニキスです。フェニキスと呼んでください。」
本で読んだり、映画とかで観たりしたような優雅なしぐさであまりにもさりげなく私の前にひざまずき、手を取ってキスをしてくれた。こういうのってお姫様とかが良くされているやつなんじゃ。イケメン王子のさりげないしぐさに頭がボーッとする。聖女なんだからこれからもこういったシュチュエーションは多々ありそうである。しっかりしなくては、うっとりしている場合ではないのだが。頬が赤くなるのを止めることもできず、絶対顔赤くなってると思いながら
「ありがとうございます。私は早瀬 成子です。」
「ナリコ。素敵な名前だ。」
王子にそういわれるとそんな気がしてくるから不思議である。私はこの名前が嫌いなのだ。
子が付く名前が昭和のシワシワネームと言われてババ臭い感じがして好きになれないし、成りの字がまたあまり好きではない。成功者に成ってほしいとか男の子に対して願うような字を当ててあるからというのもある。私は長女だったので男の子が欲しかった両親の希望がこもった呪いのようなこの名前が大嫌いなのだ。もっとかわいい名前が良かったのだが名前って簡単に変えることもできないし、もうその名でずっときていると知らないうちに多分だが愛着なんかもあるような気さえする。厄介なものだ。好きでもないし嫌いなんだけど離れられない、それが親のつけた名前というものなのだ。
が、王子の言葉でその価値がいきなり爆上がりしたので、存外いい加減なものなのかもしれない。人の気持ちなんてそういうものなのだ。
イケメンは世界を救うというがイケメン王子の助け舟にいろいろな意味で救われた私だった。




