Y4ユーリの憂鬱
僕ユーリ・フィッツジェラルド、近衛騎士隊長は今猛烈にイライラしている。イライラして近衛騎士団隊長室の中を動物園の檻の中の熊のように行ったり来たりを繰り返している。
この前の遠征で森にお迎えに行った聖女さまがお目覚めにならないまま二日という日が経った。そしてその間僕は聖女様の部屋に面会に行くも追い返されてお目通りはかなっていない。一緒に召喚された勇者殿がずっと部屋に付き添っていて、他の者の入室を拒んでいるからである。
一応宮廷医務官だけ入室を認められ診察を行ったようだが、急激な魔力の消耗や魔力を使ったことによる疲労が召喚によるダメージに付加されたことに寄る一時的な疲労状態でしばらくすればお目覚めになるだろうとの見立てだったが、そのしばらくがどのくらいかもわかりかねますとのことでは診断内容として不足していないか?と思わずにはいられないし、何といってもそのような一時的に大量の魔力を消耗する原因になったのが、我が部隊、近衛騎士団であり、特に魔力消費が大きかったのは自分に対しての治癒魔法であったのは紛れもない事実であるということが不甲斐ない自分にイライラが収まらないのである。
早くお目覚めになられて、僕の感謝と謝罪を聞き届けてもらいたい、というよりお会いしたい。お顔を早く見たいのである。眠っているお姿も拝見したいのだ。
が、勇者殿が頑として僕の入室を拒むものだから会いに行けないし。
ということでイライラして熊歩きを止めることができないのであった。
トントンとドアを叩く音がして程なく、幼馴染で大神官のナデル・ミリンボーンが入室してきた。
「お前また、ノックだけして返事も待たずに勝手に入って来て。」
俺の非難をさらりと受け流して
「いつもの事じゃん。それよりユーリ、また何やら落ち着かない時の君の癖が出ているね。また熊化しているよ。」
あっさりと笑って言う。
彼とは長い付き合いなので、僕のイライラは直ぐにバレてしまっていた。
「勇者さまたちをお迎えしてからずっとじゃないか。」
ナデルが仕方ないなあという諦め顔をして肩をすくめた。
「お前の好きなクッキー買ってきてやったから一緒にお茶にしようぜ。」
彼の手には僕の好きなベーカリーのクッキーの袋がおさまっていた。
「どうせ、今回失敗したこととか、聖女さまがお目覚めにならないこととか責任感じてるんだろ?お前のことだから仕方ないが。」
「でも部隊全員無事に戻ってこれたし、勇者さまも聖女さまも無事宮殿まで送迎できたんだから何一つまずいことはなかったと思うんだが。」
「そういう風に考えることは出来ないのかな。」
ぽつりぽつりと話すナデルはやはり僕の友達だ。気持ちわかってくれてるし、考え方もいつも前向きで、何か反省点がないかいつもいつも反省会してる僕とは大違いである。
そんなナデルがいてくれるから僕はなんとかこうして騎士団隊長を務めていられるのだと思う。
お気に入りのシナモンクッキーを頬張りながら感謝の気持ちでいっぱいになるが、それでも僕がやらかした情けない失敗は消えることはなく、憂鬱な気持ちを払拭することは出来ないのであった。
「聖女様がお目覚めになれないほどお疲れになったのも大量の魔力を消費することになってしまったのも、俺が不甲斐ないせいなことは紛れもない事実だ。ごまかしようがない。それにそのせか勇者殿もお気を悪くなされているようだし。」
「そんなこと今更言っても仕方ないんじゃないかな。」
ナデルは相変わらず前向きだ。そう。今更何を言っても遅いのだ。僕はやはりちょっとへこんだ考えになってしまうというのに。
「部屋に入れてももらえないし、会わせてももらえない。」
つい愚痴りたくなってしまう。
「でもまだお目覚めになられてないなら、会っても仕方ないんじゃ。疲労が蓄積してるんだったら寝所で騒いだり話し声とか立てないほうがいいと思うし、断られるのは自然な流れなんじゃないかな。そんなに気にすることでもないと思うが。」
「でも。」
ぶつぶつと口をとがらせる僕にナデルは爆弾発言を発していった。
「お前さ、まさかと思うけど、聖女さまの寝顔が見たいとかそういうんじゃないだろうな。」
「え?あ、」
多分赤面した。
と思う。
「マジか。それ、」
ナデルがまさか図星かよと小さな声で呟くのが聞こえた。
「いや、僕は、その、聖女さまが心配だなけで、・・・」
慌てて取り繕うも相手は幼馴染。
「お前のそういう下衆な気持ち分かってるから勇者さまはお前の入室断ってるんじゃないのか。
言っとくけど相手は高貴なお方だ。異世界から来られた聖女さまだぞ。懸想してる場合じゃないと思うけどな。相手が悪すぎるだろう。女なんていくらでも寄ってくるだろ。お前なら。なんでいきなりそんなんなってんだよ。おかしいだろ。」
「いや、違うんだって。それに指一本触れていないし。」
「指一本?それ、触れることなら触ってます。触りたいです。触れたいですって言ってんのと同じに聞こえるぞ。」
何か言うたびにドツボに落ちる気がする。この大神官さまの人の心を見通す目は本物だし。いくた取り繕っても無理と思えた。剣一筋でやってきた僕が立ち向かえる相手ではない。
降参である。
「でも、仕方ないんだ。お前だってお会いしたらわかるよ。きっと。」
僕はそういうのでやっとだった。
「あ、そ!」
呆れた顔でナデルが僕に言い放った。多分そんな言葉発したこと後で死ぬほど後悔することになるぞ。俺と同じ思いすることになるからな。
その言葉は心の中に収めてぐっと耐えたが、ナデルには心の声が聞こえていたかもしれない。
「ほんと、仕方がないやつ。」
ふんって顔でクッキーを口の中に放り込んだ。そうしていられるのも今のうちだよと、僕は思ったのだった。




