Y3宮殿への移送
その方はとてつもない魔力量で部隊のほぼ全員治療をしてくれた。
さすがにお疲れになったのか、召喚の影響もあるのか、ふらーっと倒れておしまいに。
近くにいた勇者殿が、いち早く駆け付け抱きとめておられたが、意識を失っているようだ。
僕も駆け付け、勇者殿に挨拶とお礼を。
とは言え、迎えに来たものの助けていただくという情けなさなのでかっこうがつかないものだったが。
「私はキングスマナリン王国近衛騎士団隊長、ユーリ・フィッツジェラルドと申す。
此度は国王の命により勇者殿、聖女さまのお迎えに参った。がこのような失態、お二人に助けていただきかたじけない。助けていただき感謝する。あなたが勇者殿で間違いないだろうか?」
その方を抱き上げて勇者殿が答えた。
「俺は神崎京也というものです。何がなんだか分からないというのが本音ですが、一応ステータスバーらしきものには、勇者とか書いてあるのを確認しました。」
やはり勇者殿で間違いないようだ。
「その方は聖女さま、とお見受けするが。」
「こちらの方の属性は僕には分かりません。聞いていないので。」
はっきりと僕の目を見返して答えてくれた。
目力が凄い。
「今から召喚成功の報告に国王のおられるキングスマナリン王国宮殿にお連れ申す。聖女さまはお疲れのご様子、しばらく意識が戻ることはないと思う。我々がお運びしよう。」
部下のものに目配せして負傷者用の担架を用意させる。
が、
「いや、俺が運ぶから大丈夫だ。」
なんと僕に渡すのを拒まれた。
「宮殿まで結構道のりがあります。その体制ではご無理なのでは。」
一応やんわりと伝えたみる。
が、あろうことか、お姫様抱っこ体制から、背中にしょうという、いわゆる子供をおんぶするような課勝ちに変更している。聖女様のおみ足が丸見えではないか。かろうじてスカートの中のものは見えないが、この体制は、いかん。
騎士団のものたちも思わずガン見している。いや、これはまずい。
そもそも聖女様のお召し物のスカートが膝がやっと隠れるかどうかくらいの短さだったのだが、先ほどまでは負傷者の治療ということもあり現場が大変な状況でそんなことに気をまわしている余裕はなかったのだが、僕たちの世界では女性は足首まで隠れるスカートを履くのが通常で足が見えるなどということは有りえないので、いくら気絶しているとは言え、後で聖女さまがこのようなことになっていたことに気づいたら赤面では済まされないだろう。馬鹿じゃないのか?元々いた世界では足が丸見えは普通ということで女性の足見放題だったということか?気にしなさすぎじゃないのか。
というより、この勇者どのは聖女さまを我々に渡したくないらしい。
「担架を用意させたのでこちらへ。」
「いや結構。」
「それでは聖女様のおみ足が。」
仕方がないので簡易的だが俺のマントを脱いで彼の背中に掛けてやる。これで聖女様のおみ足が隠される。
ホッとしたが、一連の様子を副官のアランが魂を抜かれたような顔で見つめていたのに気づく。
そりゃ聖女さまのおみ足は白くほっそりとして美しかったが、そんな魂抜かれたみたいな顔で、バカか、お前は。腹が立つが仕方がない。ここで注意すれば余計にことが大きくなり聖女さまを辱めることになってしまう。ぐっとこらえた僕だったが、それにしても勇者殿が頑固に聖女さまを運んでいることが気になる。まあ、森の外に出れば移動用の馬車も置いてあるので、森の中では馬車では動きづらいので馬車を降りての移動になっていたのだ。宮殿まであのような形で聖女さまをお運びしたということになれば国王のお怒りは免れないが。馬車に乗っての移動になればとりあえずは安心だろう。
しかし、何というか、勇者殿と自分の間に少しピリピリとしたものを感じずにはいられなかった。
そう、おんぶとか抱っことか僕がしたかった。って気持ちがあったからだと後で気付いて恥ずかしさで胸がいっぱいになったのだから。
馬車に載せるときも自分でやるとか言うし、馬車に乗ってからも自分の膝に載せておられるので、結局気づけば僕は聖女さまに指1本触れることが出来なかったのだ。
そのことが僕を終始イライラとさせていた。
その髪に触れてみたい。肌の熱を感じてみたい。
ゆっくりとした吐息を吐く可憐なお顔を近くで拝見したい。そんなことを思うのは不謹慎極まりないということは分かっていた。分かってはいたが、現に勇者殿はそれを実現して堪能しておられるのだ。自分の膝の上に可愛らしいお顔を載せて眺めていられるのだから。
自分の中にムクムクと湧き上がる感情。これが嫉妬というものなのだということもそのときは気づかなかった。ただなんだかイライラすると思っていた。聖女さまにそのような気持ちを抱くことなど許されないことであるとは思っていたし自分がそのような気持ちを女性に向けることがあるなどということが想像できなかったのと、今までそのような気持ちになったことがないから分からなかったのだ。そのときは自分や部隊の者たちの命の恩人である聖女様を自分でお守りしたいのに。それが叶わないことへの苛立ちであると思っていたし、自分がやらなければならない責務であると思っていた。聖女さまを安全に移送するということが自分に課せられた国王からの命なのだからちゃんと自分でやらなくてはと思っていたのだ。
その苛立ちが恋による思慕だとそのときは思いもしなかった。




