表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/15

奪還作戦

 しばらくして、僕らはどうやら惑星シルヴァというところについたらしい。船体ががたがたと揺れ、しばらくして止まったからだ。どうやらこちらの船はオートパイロットで着陸したらしい。着陸が終わった後に足音が聞こえなかった。

「ナナ、もう大丈夫かな?」

 僕は小声で話しかけた。

「はい。先ほど船外で離れていく足音を確認しました」

 ナナの耳は高性能集音マイクで、耳を澄ませば相当遠くの音まで聞くことができるらしい。

 脱出ないと。しかしミックスチャンバー内は暗く、着陸の振動により半分ゲル化した魚がミックスされて混沌としている。ナナともはぐれてしまった。

「ナナ、どこ?」

 僕はたまらず聞いた。

「アサトさん。手を顔の前方に伸ばしていただけますか?」

 僕が言われたとおりに手をさし延ばすと、ナナは僕の手をしっかりとつかんみ、そのまま僕を引き上げた。どうやらナナは暗視ができるらしい。

「ありがと……それにしても生臭いな」

「はい。臭覚センサーを遮断してしまいました」

 いいなそれ。僕も遮断したい。

 僕は出口を探そうとあたりを見回した。すると、少し手を伸ばせば届きそうな位置に、緑に光るボタンを発見した。汚れていて光は弱いが、間違いない。緊急脱出用のスイッチである。僕が手を伸ばしてそのスイッチに触れると、ミックスチャンバーの上部ハッチがゆっくりと開いた。

「まぶし……」

 ハッチから入り込む光に目がくらむ。ナナの方を見ると、ナナはどうやらエリーゼが入っていたコールドスリープ装置に半身を入れているようだった。

「ナナ、とりあえずここを出よう」

「はい。ですがその前に、この装置の中でこんなものを発見いたしました」

 ナナがそういって差し出したのは小さな箱。その中には銀色の指輪が三つと手紙が一通入っていた。

「これは……」

「おそらく、エリーゼ様のものでしょう。エリーゼ様の右手にはこれと同じ指輪がはめられておりました」

 エリーゼのつけていた指輪は金色。箱の中に入っていたのは銀色。どうやら六つの指輪は三つずつ対になっているようだ。

 僕は中に入っていた手紙を読んだ。


 この子を救出せし者へ


 この手紙をあなたが読んでいる頃、おそらく我がブラッドフィールド家は滅んでいることだろう。いや、滅んでいなければ困る。もしあなたがこの手紙を読んでいる時、まだ銀河間戦争が続いているならば、この子を再び永き眠りにつかせてやってほしい。

 この子、エリーゼは我が王家の中でも最も強大な力を持っている。だが、この通り、エリーゼはまだ15歳と幼い。このような娘を戦争で亡くすくらいなら、この子を後の世に託したい。そう思い、私はこの子を永き眠りにつかせることにした。

 箱の中に同梱した指輪は、この子の力の鍵となる指輪だ。我が王家のものは、吸い口と吐き口がなければ力を使えない。その指輪は吸い口を制御するものだ。もしも、この子が目覚めた世が太平であるならば、その指輪は捨ててほしい。

 どうかこの子の未来が明るいものであることを祈る。

 この子をよろしく頼みます。

 

 ヴラド星系統括銀河王 シーザー・ヴラド・ブラッドフィールド

 

 ***

 

 公安局はまるで狙い澄ましたかのように僕らを発見した。恐らくは、ヴラド星系の存在する銀河内に行方不明の第八王女が潜伏している可能性を、数百万年もの間ずっと追い続けていたのだろう。彼らが使用した特殊磁気レーダーなるものは、恐らく宇宙バンパイアを探すためだけに開発されたのだろう。

なんて税金の無駄遣いだ。国王さん、すみません。まだあなたが望むような平和な世の中じゃなかったみたいです。戦争の余波は数百万年経った今も残っていたようです。僕は指輪と手紙をポケットに入れて、ナナを引き上げた。

 

 僕とナナはとりあえずミックスチャンバーの外に出た。宇宙船のエンジンは停止しているが、待機状態でも太陽光の供給がある限り電力は使えるようだった。

「ソフィとミルを助けにいかないと」

 ソフィが言っていた「存在ごと抹消されかねない」という言葉が僕の胸を締め付ける。そんなことさせてたまるか。

「お気持ちはわかりますが、危険です」

 ナナの言うことはわかる。相手は銃だって持っているだろう。

「だからって、このままこうしてるわけにも行かない」

「……そうですね。でもせめて何か勝算がないことには……」

 ナナは思案するように顔を伏せた。

「勝算ならある。この指輪さ。エリーゼにこの指輪を渡せば、彼女の能力で脱出できるかもしれない」

「そこまでたどり着くことが……可能でしょうか」

 確かにそれは問題である。窓の外に見えている建物は、二階建てくらいだが横には広そうだ。小学校くらいはあるだろう。

「IDスキャンっていうの、使えないかな」

 僕は先ほど公安局の連中がそれを使っていたのを覚えていた。それを使えば二人があの建物のどこにいるか検索できるのではないか。

「それは可能かと思いますが……感知される恐れがあります。私たちの存在が明るみになると、彼らも黙ってはいないでしょう」

「危険は承知だけど、あんまり猶予はないよ。もし彼女達が死にでもしたら、僕は……」

 ナナはしばらく逡巡して言った。

「わかりました。でも約束してください。アサトさんは私よりも前に出ないでください。アサトさんは……私がこの命に代えてもお守りします」

「ナナ、気持ちはありがたいけど、僕は君にも死んでほしくない」

 僕がそういうと、ナナは無言で微笑んだ。それは、聞き分けのない子供をあやす母親のような微笑みだった。


「IDスキャンビーム発生装置は、ソフィア様の宇宙船には搭載されておりませんでしたので、公安局の宇宙船のものを使います」

 まずは公安局の宇宙船をジャックしなければならないということか。困難かもしれないが、やみくもに建物内を探すよりはましだろう。

 見たところ、公安局の派出所は、建物以外の敷地も広大で、宇宙船や大気圏内航空用のジェット機などがずらりと並んでおり、その合間を縫うように、警備がうろついている。

「たぶん扉はロックされていると思う。どうやって開ける?」

 ナナは少し考えて言った。

「……あまり見ないで欲しいのですが……私の右目には集光レーザーが備え付けられております。恐らくそれで融解させることができるかと。ただし融解させるのは扉ではなく窓です。恐らく扉にはセキュリティがかかっておりますので」

 しつこいようだがナナはこんなに可愛らしいなりをして、戦闘用アンドロイドである。恐らくほかにも色々と戦闘用の装備を持っているのだろう。そして、彼女はそれを「人間らしくない」として恥じている様子だった。

 ナナに無理を言って、そういった力を発揮してもらうのには少々罪悪感を伴った。だが今はそんなことを言っている場合ではない。ソフィたちはいつ処分されてもおかしくはないのだ。

「あとは……警備だな。どうやってかいくぐるか」

「それについては私に案があります」

 ほう、と僕はナナの言葉に耳を傾けた。

「公安局の宇宙船でスキャンしたのち、私たちの宇宙船で大体二人がいる場所に突撃します」

 とんでもないことを言う。

「いやそれ確実にばれちゃうでしょ?」

「ばれますが、そのまま逃げることが可能です。二人を救出するまでに、もし警備に見つかることがあれば、この宇宙船まで戻ってくることは困難を極めるでしょう。また、この作戦ならばIDスキャンが感知されても特に問題はありません」

 確かに、ナナの言うことには一理ある。

「手順としては、まずIDスキャンと同時に、私たちの宇宙船と公安局の宇宙船のエンジンを同時に起動させます。次に、公安局の宇宙船をオートパイロットで突撃させ、道を開けます。その後私たちの宇宙船で突入すれば、被害は最小限に留められるでしょう」

 ナナが理路整然と説明すると、それが幾分か現実的なもののように思えてきた。

「いやでも、もしかしたら三人とも轢いちゃうなんてことないかな」

「その点については、IDスキャンの後に座標を指定すれば回避できます。ただ、場所によっては突撃後の移動距離が長くなるため危険が増しますが……」

 それは致し方ないだろう。どうやらそのプランで行くのが最善なようだ。


 僕とナナは、話がまとまるとすぐに行動に移すことにした。「アサトさんはこの宇宙船でお待ちください」とナナが言ったので、僕はそれに従うことにした。反抗しても頑なに拒否されそうだったからだ。

 僕は今宇宙船の窓の右端、ナナが向かった方向から、頭だけ出して外を見ている。ナナの動きは俊敏で、もしかしてナナこそ本物の宇宙忍者なんじゃないかと思うほどであった。

 ナナは公安局の宇宙船に取りつくと、横窓に器用にナナ一人が通れるくらいの穴を開け侵入した。

 僕はナナが見つからないかとハラハラ見守っていたが、どうやらその心配はなかったようだ。今のところ、警備に動きは見られない。

 しばらくナナが出てくるのを待っていると、飛行機が飛び立つようなジェット音が公安局の宇宙船から聞こえてきた。ナナが入ってきた穴から脱出するのが見える。警備はさすがに異常に気が付いたみたいだが、宇宙船の方に気を取られていてこちらに向かって走っているナナには気が付いていないようだった。

 ナナがこちらの宇宙船に戻ってくるとほぼ同時くらいに、公安局の宇宙船は勢いよく発進した。僕らがいる地点から建物まで一キロほどあり、その間には無数の宇宙船やジェット機がある。だが突撃する宇宙船は止まらず、次々とそれらをなぎ倒してどんどん加速した。普段は宇宙にいて音はほとんど伝わらないが、ここは地上である。ジェットの音、金属の塊が金属の塊に激突する音、あるいはジェット機の燃料に火がついて爆発する音が波となって押し寄せてくる。

 宇宙船はやがて建物まで到達したが、勢いは衰えるどころか更に加速している。

「ちょっとナナ、あれ本当に三人の近くで止まるの!?」

 僕はこちらの船の起動準備を始めているナナに聞いた。

「止まりません。三人は皆、地下一階にいらっしゃるようでしたので、地上の建物は全て吹き飛ばすくらいに設定いたしました」

 何とも無茶をする。ナナは目的を達成するためなら手段を択ばないようだ。

「アサトさん。こちらの船も発進します。到着しましたら、私が床に穴を開けますので突入してください」

「了解」

 と言って僕は椅子にしがみついた。お決まりのポーズである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ