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18話 災いが始まる音。


 開け放たれた扉の先に居たのは、如何にも商人といった表現の合う人物達ではないのが見て取れた。

 即座に私の手を引き自分の後ろへと下がらせたアイクの手には、彼の獲物である剣が握られている。

 何が起こったのか、突然の事で理解が追いつかない。目を白黒させている私に対し、侍女は冷静にアイクに指示を仰いでいる。

 女将の姿は既に無かった。


「貴様らはどの国の者だ。何しに此処に居る」

「……ギャ、ギギッ!」


 響く金属音を最後に、私の視界は料亭内から官邸内の客室へと移動していた。

 室内で待機していたもう一人の侍女は既に武装しており、やっと状況を理解する。

 荷解きをしていたはずの荷物は綺麗にまとめられている。直ぐにこのレストローテから出立する算段なのだろう。

 まさか視察先で命を狙われるとは思っていなかった為、少しながらも戸惑う頭をフル回転させて状況を整理しよう。アイクが戻ってくるまではこの場に留まるようだし、その間だけでも把握しなければならない。

 どこから仕組まれていたのだろうか。そう考えれば、グッテンバル公爵の帝国に気を付けろ発言から仕組まれていたのかと思えてしまう。しかしながら、料亭内に居たのは人間ではなかった。黒い、モゾモゾと動くナニか。

 そのナニかは何も言わず――正しくは呻き声のようなものをあげて――アイクへと向かってきていた。

 そこで私は侍女の転移術で移動してしまったし、彼が優勢かどうなのかも分からない。

 一応、王国の最高位騎士という地位に在職しているのだから、きっと優勢だと思う。いや、そう思いたい。

 室外がバタバタと騒がしくなってきた。武装した侍女二人は、私の身を護る為に彼女達の身長程ある金属で出来た杖のような物と大剣を装備して私を控えさせる。

 けたたましく開かれた扉に即座に反応した侍女の一人が瞬く間に扉へと近付き、剣の切っ先を開けた人物へと向ける。

 扉を開けたのは、蒼白の表情をしたフォヴル子爵だった。


「――ヒッ」

「何か御用でしょうか、フォヴル子爵」怒気の混じった声色で、私の前に立つ杖を構えた侍女が話す。「その御様子だと、何が起きたのか把握しているようですね」

「わ、私はっ、姫様の無事を確認しようと……!」

「御報告は誰から?」

「同行していたフィルテムです……! こちらへ戻るなり姫様の身が危ないと――」

「何故、姫様がこちらへ戻られているとお気付きになられたのですか?」

「それは、侍女の方が御一人で待機していると存じてましたからっ……」

「姫様、如何致しましょう」

「……へっ?」


 任せきりの尋問途中で突然話を振られたので、おかしな声で聞き返してしまった。

 どうするかと問われても、こちらは状況を整理している最中だったので何も返答が出来ない。真実が分からないので、とりあえず、誰も逃げ出さないようにするしかないのではないか。

 その旨を口にすれば、畏まりました、と静かに返答し、杖を構える侍女の体が光りだす。


「|Versiegeln, Versiegeln. Schlieβen und festbinden.《封じて、封じよ。閉ざすように縛れ》」


 杖の先端に魔法陣と式が書き込まれていく。その魔法術の影響で痛みを伴ったのか蹲る子爵を、私は眺めるしか出来なかった。

 呪文を唱える魔法術は高度なものが多く、また魔法式も難しい。それを頭の中で組み立てて術を発動させるのだから、侍女の実力は相当なものだろう。

 ただ、呪文も唱えずに高難度な魔法術を発動させるアイデが侍女よりも優秀なのであれば、私も呪文を唱えれば魔法術が扱えるようになるのでは、と錯覚してしまいそうになる。

 室内に特殊な結界が張られたようだ。ほんのりと白くモヤがかかった視界になるが、見えにくいという事ではない。


「他の者も子爵同様になっているかと」

「……ありがとう」


 魔法術を発動させた侍女に礼を言い、ゆっくりと子爵に近付いていく。

 変わらず切っ先を向ける侍女を制し、彼と話をする為にしゃがみこんだ。


「どうしてですか?」

「……う、うぅ、」

「何があったのですか?」

「も、申し訳……ご、ざ、」

「知っている事を話して下さい。情状酌量が認められるかもしれません。査問会の際には私が進言しましょう」

「ひ、ひひ、姫様っ……」

「大丈夫です。落ち着いて、ゆっくりと、話して下さい」

「あ、ああ……公爵に、……彼に――彼は、つ、ながって……」

「繋がる? 誰と? 帝国ですか?」

「は、はいぃ……わた、私は、逆らえず、」


 公爵と子爵という爵位で言うのであれば、公爵は最上位であり子爵は第四位だ。しかも辺境伯という事もあってか、グッテンバル公爵は王族に優らずとも劣らない権限を持っている。

 そういった人物に頭が上がるわけでもなく、子爵は彼の言い分を聞いてしまったという事か。

 今の状態ではまともに会話も出来ないし、とりあえず子爵だけでも動けるようにしてもらわなければ話にならない。リアリゼッタ姫のお陰で悪意のある攻撃は受ける事も無いのだから、多少の事なら大丈夫だと思う。

 杖を構えたまま魔法術を維持し続ける侍女にその旨を伝え、何か反論をしてくるのであれば私の加護の事で言いくるめるつもりだったが、意外とあっさり魔法術を解いてくれた。

 子爵だけが脱力したように項垂れ、室内のモヤは晴れていない事から、器用に彼に対するものだけを解いてくれたのだと分かる。


「これで、詳しくお話出来ますね?」

「……はい。全て、お話致します」


 初めから子爵に悪気は無かった筈だ。彼の言い分を聞くに、公爵に脅されただけだと私は感じる。怯え切った表情から勝手に感じ取っただけだけれど。


「……先日、視察の件で公爵に呼び出されました」静かに、当時の状況を思い出しながら子爵は話し出す。「その時はただの打ち合わせだと思っていたのです。ですが、実際はそうじゃなかった。公爵邸には帝国の騎士が何人もおり、私は彼らに囲まれたのです。そしてあろう事か、姫様を殺せと言い渡されました」

「物騒な話ですね」

「その際に監視役としてフィルテムと会い、私にはどうする事も出来なかった……。官邸内で仕事をする以外の時間も見張られ、誰にも助けを請えなかった。申し訳ありません……」

「――それは事実か?」

「アイク!」

「ご無事でしたか、サラスヴァル様」


 冷静さを保ちながら、アイクが子爵に問いながら開け放たれた室内へと入ってきた。

 彼の衣服は返り血のようなモノで所々が赤く染まっていて、先程一人で残った後も戦闘を継続していた事を示唆してくる。

 自分の背後から突然聞こえてきた声に動揺しつつ、子爵は彼の方へ向き直り、額を床に密着させてひれ伏した。


「じ、事実でございます。創造主様に誓って、嘘偽りなど申しておりません!」

「そうか。ならば信じよう」


 剣を鞘に収めたアイクの瞳は光が無く、想像でしかないけれど少し疲労しているようにも思える。官邸に来るまでも難無くというわけではなかったようだ。

 ケガをしている様子は無いけれど心配なので一応訊ねてみたものの、大事無いと一蹴されてしまった。


「姫、城に戻るぞ」

「でも……」

「邸内の者達含め、お前達が城へ」

「畏まりました」

「あの、アイク……」

「それから、フィルテムは発見し次第即座に転送しろ」

「はい。承知しております」

「アイク!」

「なんだ」

「こんな状況で城に戻ると言うの? もっと、子爵達から話を聞いたり――」

「こんな状況だからこそだ。第一、聴聞や尋問は俺達の役目ではない。姫の安全を確立させる事が与えられた任務。それを完遂して何がおかしい」

「それは、そうなのだけれど」

「では、先に戻るぞ。後は任せた」

「お気をつけて」


 私の話を一切聞かず、アイクは私の手を強引に引っ張る。一礼して見送る侍女達を尻目に、私達は部屋を出た。

 室外にもモヤは広がっていた。他の部屋から呻き声が聞こえているのに、アイクはそれを気にせずどんどんと廊下を足早に進んでいく。

 出先――というよりも、王国領内で昨夜のように私が狙われたとあっては騎士団の示しがつかないと、彼の背中が語っているように思えてしまった。

 転移で城へと戻るかと思われたが、官邸を出たアイクが向かったのは馬車のある厩で。乗ってきた馬車にまた乗るというのは些か危険ではないのかと考えたのだが、どうやら用があるのは馬の内の一頭らしい。

 そういえば、フェンドルの魔獣が馬の姿になっていると侍女が話していた。であれば、その魔獣に乗って城へと戻るのか。


「時間が無い。自分の力で頼む」


 一頭の黒い馬は彼からの問い掛けに嘶き、自身の体を赤黒く発光させた。

 何でもアリの世界で、魔獣と呼ばれるモノが自らの姿形を変えるなんてイマイチ想像がつかなかったのだけれど、輝く馬体が本来の姿を晒した瞬間、私は目を見開いてしまった。

 黒い馬に成っていた魔獣は体を二周り以上大きくさせ、毛並みは黒のまま、一見すると巨大な犬のような外見に変わった。瞳は深紅で尾は長く、私の知る知識から考えると、ヘルハウンドが該当するのだが……それでもかなりの巨体だ。


「乗れ」


 乗りやすいように伏せたヘルハウンドの背中に乗せられる。アイクに抱えられた事にも驚いたが、何より、ヘルハウンドの毛質がとても良い事に驚いた。多分、フェンドルがいつもケアしているのだろう。その姿を想像すると、不謹慎ながら微笑ましく思えてくる。

 私のすぐ後ろにアイクも乗り、それを確認したであろうヘルハウンドは間髪入れず立ち上がって駆け出す。

 一言だけ感想を言えば、速い、だった。

 風圧をもろに感じてアイクの胸元へと倒れ込んでしまう私を支えてくれた彼からは、ちゃんと掴まっておけ、という突っ慳貪な言葉を返される。

 ヘルハウンドの長い毛を掴み、風圧に抵抗しながらなんとか背にしがみついたのだが、陽が落ちて暗い道を颯爽と駆けているのにも関わらず、上体を起こしたまま微動だにしないアイクの姿は人ではないと思えてしまった。

 乗っている私はジェットコースターの最前列で堪能しているようなもので、目を開けている余裕も無いわけだが、街中でまばらに歩く人を避けながら駆けるヘルハウンドの速度では、きっと突然疾風が起きたとしか人々も思わないのだろう。

 前方に現れた貨物馬車を避けるついでとでも言うのか、突然飛び上がって石造りの屋根を伝ってレストローテ地区を去って行く姿は、身に課せられた仕事を着々と熟している。

 あっという間にオースティンと国都の境にある門へとたどり着いた。


「王命は届いております! お急ぎを!」


 私達の姿を確認した見張りの魔法術兵が宙を飛び回り、並走しながら声を荒げてそう言った。

 一瞬だったその言葉を聞き取ったアイクが一度だけ頷き、ヘルハウンドは彼の意思を感じ取ったように速度を増す。そして、門を越える為に飛び上がった。

 その高さは十メートル程だろうか。いや、もっと高いのかもしれない。そびえ立つ壁よりもさらに高く飛び越えた巨体は、背中に乗る私達のことを気遣ってくれたのか振動も無く地面に着地し、また駆け始める。

 目指すは国都ゼントームの中央部にある、ベティアール城。

 最も安全なその場所へ到着するのに、ヘルハウンドの駆ける速度ではそれ程時間もかからなかった。

 私道を全速力で駆け抜け、閉じられた城門でさえも飛び越える脚力は尋常ではない。流石は魔獣といったところか。

 飛距離が長い。

 到着点となる中庭が目下に見えた。

 中庭には、出迎えに来たのだろう城に残された四人の側近達の姿が見え、思わず安堵してしまう。


「姫様ー! ご無事でっ、ご無事で何よりですー!!」

「ケガは……していないようね」

「うん。加護もあったし、何も無かったよ」

「何も無かったじゃないですよ! アイクが付いておきながら、どうして気付けなかったのですか!」

「アイクが悪いわけやないやろ。ちょっとは落ち着きやセシル」

「ですが……!」

「姫を護る為に最前は尽くしたつもりだ」

「こう言ってるんやし、追及は後でな」

「フェンドルの言う通りだわ。……リア、既に緊急招集がかかってます。到着し次第顔を出すようにと国王からの命よ。大丈夫かしら?」

「うん、私は大丈夫。アイクと侍女二人が護ってくれていたし、大事ないから」

「ワシはこやつを休めてから向かう。異論は無いだろ?」

「えぇ、フェンドルはその子の事をお願い。功労者ですからね。アイクは気持ち悪いだろうけれど、着替えるのは後にして頂戴」

「わかっている」


 自身の魔力を最大限使い切ってしまったのか、中庭に降り立ってすぐ黒い子犬と成ってしまったヘルハウンドを抱きかかえたフェンドルは、一足先に転移でどこかへ行ってしまった。

 自分の代わりに私の視察へと付いていったアイクに対してセシルがまだ何か言いたいようだが、グレシットの言う通りもう少し後にしてほしい。

 今は状況報告を国王に済ますのが先なのだ。

 ベティアール国内で五本指に入る権力を持つグッテンバル公爵が犯したかもしれないこの件には、多分、城で働く官僚達も一枚噛んでいると思われる。子爵の話を信じる限りでは、今回の視察の後押しをした官僚達も立場が危うく、何とか言い逃れをしようと必至だろう。

 アイデの転移術で小広間へと向かえば、城内に居る官僚全員が揃っているようで、私の姿を見て感嘆を漏らす声が聞こえた。

 その声は無事を喜ぶものなのか、それとも生きていた事を嘆く声なのか。真相を探る事は出来ないが、極一部の人物は後者なのだろうと思う。


「姫を無事に帰城させる役割は成せたようだな、サラスヴァル最高位騎士」

「はっ。しかし、姫様を危険な目に遭わせてしまいました。私の不徳と致す処であります。申し訳ありません」

「良い。姫が無事に戻ってきてくれたのだ。それだけで、儂は安堵しておる」


 安堵感を表情に出さずに無表情を崩さない国王は、今は父親ではなく一国を統べる者としてこの場に鎮座しているのが雰囲気で感じ取れる。家臣達を見据える瞳は正しく統治者としてのそれだ。

 その瞳が私を捉え、一度微笑んだかと思えばすぐに表情は戻った。


「姫よ、何があったのか、嘘偽り無く話して欲しい」

「わかりました、お父様」


 話を促され、事の顛末を包み隠さずに話し出す。

 レストローテ地区に入る前にあったグッテンバル公の話、そしてレストローテ地区官邸で出会ったフィルテムさん――いや、もうこの際呼び捨てでいいのかもしれない――の事。そして、料亭や官邸内で起こった出来事。

 話している途中でも周りがざわついている事が煩わしく思えだのだが、国王とその近くにいる大臣が場を制してくれていたので難なく話し終える事が出来た。

 次に国王はアイクに話すようにと促し私の話の補填を求めたのだが、その寸前で一人が手を挙げて進言する。言わずもがなというか、私の視察を推薦したメリカルム卿だった。

 昼にリッツとラッツが話していた特徴通りの外見だったのですぐにピンときたが、それよりもまず、細く吊り上がっている目元はとても良心的な人物には思えない。よって、該当した人物がメリカルム卿だ。


「一つ、姫様にご質問をしても?」

「良かろう、許可する」

「では、失礼して。……姫様、今回の件、何かの企てがあると思いになられますか?」

「企てかどうかと問われましても、私自身が判断するような事ではないと思います。状況証拠が無い今、公爵並びに子爵への聴聞、そして子爵の話を信じるのであれば、当事者であろうフィルテム嬢を捕えるべきかと存じます」

「なるほど。それが姫様の御意見ともすれば、姫様は実にお優しいお人柄でいらっしゃりますな」

「何か?」

「いえいえ。此度の事件、姫様の独断で行動された事が影響していると私は考えておりますので」

「それはどういう事か、メリカルム卿」


 国王が話を促し、誰もがメリカルム卿へと視線を向け始める。その状況に彼は一回咳払いをして、得意気な表情をしながら口を開いた。


「目を覚まさせてからの姫様は非常に自由奔放でいらっしゃる。国政に口を出してはかき乱し、城から脱して護衛も付けずに行動するという勝手な振る舞いが目立つかと思った次第です」

「口を慎みなさい、メリカルム卿。それは姫への冒涜と受け取りますよ」

「何を仰いますか。国家魔法術師(ヘクセンマイスター)殿? これは私を含めた官僚全ての総意でございますれば、姫様には一度、国務から外れて頂いた方が賢明な処置かと」


 メリカルム卿は、今回の件を用いて、自分達の自由に出来る国政を取り戻そうとしているのかもしれない。というのは私の考えだ。

 自由奔放な所があったと言われてしまえば、確かに城を抜け出したりしたのは国のお姫様としてありえない事をしてしまっただろう。未知の世界だからと言って勝手が過ぎたと思う。けれど、リアリゼッタ姫もよく抜け出したと聞いていたし、国政にも首を突っ込んでいた様なので私はそれに倣ったまでであり、彼の言い分は、私ではなく以前からリアリゼッタ姫さえも気に入っていなかった事を主張していた。

 国王はその意見を官僚全ての総意だと聞き、少し悩んでいるようだ。

 総意と言っても、若い官僚の意見は言いくるめられ、年老いた自らの地位を一番とする官僚達が騒いでいるに違いない。若しくは、メリカルム卿が自らの立場を利用して言い含められたか。

 どちらにせよ、彼の言い分は信じがたいものである。


「しかしながら国王よ。姫様の発案によって国政が良くなったのも事実でございます。今回のレストローテの事案とメリカルム卿が仰る事案は別物にして考えましょう」


 国王の側に控えていた国王や官僚の御意見番という立場に居るグリフス大臣が静かに言った。その言葉に国王も頷いたが、当のメリカルム卿は納得がいっていない様子だ。

 大臣の白い眉毛の奥の瞳はわからないが、整えている口髭を擦りながら話す自分の上司には口答えが出来ないらしい。後で感謝しなければならない。


「大臣の言う通りだ。国王として、姫の国政への関りは無くしたくはない。メリカルム卿の話が官僚の総意であるとするならば、後に話を聞こう。今はそういった件で皆を揃えた訳ではない。……メリカルム卿、今回の件でもう話は無いか?」

「……はい、ございません」

「ならばサラスヴァル最高位騎士よ、中断してしまって悪かったな。話を始めてくれ」

「畏まりました」


 やっと話の本筋に戻り、一息つけそうだ。私が国政をかき乱していると言うなら、お前はこの緊急会議をかき乱しているじゃないか。といった内容は内に秘め、今は私の知らないアイクが対面した事情を聴くとしよう。


「大筋は姫の話した通りになります。姫を侍女に任せて転移させた後、私は料亭に居た異形の者達と戦闘になりました」

「異形の者だと……?」

「はい。彼らは黒い影のような姿で、見た事もない術を扱っていた事から魔族に類する者達かと」


 魔族、という単語にざわつく室内。それを気にせずに話を続けるアイクは大物だった。臆せずにそれらを切り伏せ、脅されていたらしい女将や従業員達を別室に移動させて事情を把握してから彼らをレストローテ地区官邸内で匿っている事をスラスラと話し出した。

 官邸内にはまだ侍女二人が待機しており、いつでも全員をこちらへ強制転移させて話を伺う手段はとれているとも告げ、流石は最高位騎士だと賞賛を与えられる。

 それに彼は照れもせず、当たり前の事をしたまでだと言い流した。


「では、その者らを今すぐここへ。侍女とは連絡が取れているのですね?」

「はい。逐一こちらの状況も話しております」


 大臣の尋ねに即座に返答し、彼にはまた賞賛が贈られた。

 自分の部下に賞賛が贈られるというのは私にとっても鼻高々である。私が何かしたわけではないにしろ、むしろ被害に遭った方なのだが、それを的確に処置した部分はアイクの仕事に対する責務が表れているのだろうなぁ、と感心する。


「では侍女に連絡を。すぐに当事者を呼び、事実確認をする。確認者はサラスヴァル最高位騎士と大臣に任せても良いかな?」

「差し出がましいようですが、王よ、アイデにも確認させたく思います。彼女には国家魔法術師(ヘクセンマイスター)としての意見を戴きたく存じます」

「良かろう。マンクルよ、それで良いな?」

「はい。尽力を尽くさせて頂きますわ」

「お待ち下さい国王。聴聞には我々官僚も入れてくれなければ困ります」

「ならぬ。お前達には他に聞くべき事がある。先程そう言って負ったではないか。そうであろう、メリカルム卿?」


 意見を言った事が仇となったのか、それとも私――否、リアリゼッタ姫の不信案を言ったからか、メリカルム卿は自らの進言を退けられてしまった。

 自業自得だと思うのだが、私を睨んでくるのは止めて頂きたい。私は何もしていないし、煩わしいと思われるのも癪だ。


「皆の者、遅くまで御苦労であった。大臣含め三名は直ぐにでも聴聞を始めてくれ。そして、メリカルム卿とその側近は謁見の間へ。私が直々に話を聞く事としよう。では、解散」


 国王が声を発するなり、広間に居た官僚達は姿を消した。一斉に転移したとでも言ったら良いのだろうか、周りに居た大勢の人間が姿を消した事により、緊張の糸が解けてその場に座り込んでしまう。

 私の安否を気にするセシルに大丈夫だと告げ、支えてもらいながら立ち上がれば、眼前に親の顔へと変わった国王が姿があった。


「本当に無事なのだな? 何もされていないのだな?」

「大丈夫です、お父様。ご心配をお掛けしてしまって、申し訳ありません」

「気にするな。我が子を心配するのは親として当たり前であろう。今日はもう休むといい。大変だったな」

「……あ、でも、……えっと、ですね? その、どう言ったら良いかわからないのですが、」


 笑顔で休むように諭してくる国王には申し訳ないのだが、私は同じ失態を繰り返さない為に自分の状態をどう伝えようかと言い淀む。

 そう、同じ失態はもう繰り返したくないのだ。だって、今日はまだ夕飯を食べてはいない。会合兼食事前にあんな事があり、戻ってくるなり緊急会議で何も食していないし何も飲んでいない。

 一言で言えば、腹の虫が今にでも鳴き出しそうでヤバイ、のだ。


「……国王陛下、姫さんと契約しているゼオーグが何かを察しとるかもしれんし、俺らは一回聖室へと向かう事にします。姫さんはそれでええよな?」


 ナイスアシストだ。グレシットの言葉に国王も納得してくれた。

 聴聞があるアイデとアイクを残して、残りの五将(ヘルファー)と共に広間を出た。

 その瞬間に鳴き出す腹の虫。笑いを堪えるのに必死なグレシットとセシル。もう、恥ずかしい。

 恥ずかしさで赤面してしまいそうなのを堪え、三人で聖室へと移動する。その間、二人は必至で笑いを堪えながら会話も無く歩いてくれたのだった。





 

 


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