12話 日常の中に潜む音。
午前中は会議があるとの事で五人と別に自室へと戻れば、テーブルの上には大量の書類が積まれていた。
それを運んできたと思われるシェリーは、申し訳なさそうに苦笑しながら今日のお仕事です、と私に言う。
会議でその分の仕事が遅れる国王の執務を肩代わりしろ、というものだとなんとなく察してしまう。国王を補佐するのも娘である私の役割、という事だ。
姫の仕事というのは大きく分けて二つある。国王の補佐で執務事を熟す事もそうだが、公務として鍛錬場や各学校、地方へ慰安の為に赴く事。
そしてもう一つが、城に届いた手紙を一通ずつ拝読して返事を書く事だ。手紙と言っても所謂リアリゼッタ姫様に向けたファンレターである。これがどうにも大変なのだ。
私はこの世界の字は嫁はしても書く事が出来ない。
これは学生以来の猛勉強の末、今では読む事も書く事も自分の力と言い張れる程に会得したのだが、文字を書く事も出来ないと周囲に知れ渡ってしまえば重病人として扱われたであろう未来を想像して、必死に取り組んだのは誰も知らなかったりする。ここだけの話というやつだ。
「昼食後はオースティン地方へとお出掛けとなっております」
「え? 今日は缶詰じゃないの?」
「昨日のリア様の行動を知っておられる方々は現在、反対を為さっているみたいですよ」
はにかみながら言うシェリーがとても可愛い。今すぐペンを置いて抱き着きたくなる。
昨日の脱走からの誘拐劇を知っているのは父である国王と城内に勤務する官僚達、そして捜索と救出を担った五将、あとは私付きのメイドであるシェリーだけだ。
今日の会議というのも、隣国であるラウラツ帝国にどんな制裁をするかというものらしい。そこには五将も出席しているようで、私は罰として城に缶詰とアイデから言い渡されていたのだが……そうか、外に出て良いのか。それは嬉しい。
「午後からの急務の無い、五将数人の方が同行、という形で決行される事が決まったようです」
耳元に手を当てて話すシェリーは魔法術が扱えない一般国民だ。しかし、城に勤めている事と私付きのメイドという事で、急な連絡がある時に限り魔力石なるものを支給される。彼女の耳にぶら下がるイヤリング状のものがソレだ。
別の国で採掘される鉱石に魔力を込めたものらしい。詳しくは知らない。
普段は持ち歩くことさえもしていないが、今日は私の監視も含めつつ会議の様子を中継する為に身に付ける事を義務付けられたのだろう。
「自体を把握している国王様はまだ反対されておりますけれど……」
「お父様が反対しているなら、無理じゃないかな?」
「いえ、他の方が元々予定されていたものであると仰っているようです。お出掛け、出来そうですよ」
今だけは頭でっかちな官僚のおじ様達に感謝しよう。安全の為にと缶詰にされてしまっては、執務が終われば暇で暇で仕方がなくなってしまう。
公務に就く前の生活は、何も無かったわけではないけれど魔法術の勉強をして、稽古をつけてもらって、隠れて文字の練習をして、といったものが多かったし、繰り返しの毎日だった。
庭師のオーグとセシルと共に庭仕事を手伝えばアイクに叱られ、城を抜け出そうとすればメイド長に叱られていた日々を思い起こせば……うん、暇だったなぁ。
「お出掛けの際のお支度は如何しましょう?」
「動きやすい服が良いなぁ」
「わかりました。でも、はしゃぎ過ぎてもダメですからね?」
「はーい」
釘を刺されたので、今回は公務という事を頭に置いてきちんと仕事をする為に、今は目の前の仕事を終わらす事にしよう。
会議が終わったのか、あちらから報告する事が無いのか。シェリーはその後、魔法石に耳を傾ける事も、私に話し掛ける事もなかった。
彼女の午前中の仕事はメイド業よりも私の監視が主だ。同じ室内に居るけれど仕事の邪魔をする事はせず、整理整頓がちゃんとされた部屋の掃除をしつつ私の飲み物が無くなったら淹れて――と、この部屋で出来る仕事を見つけてはそれを実行するという内容に留まっている。
私から話し掛けるものの彼女から話し掛けてくる事は無い。ペンを走らせる音だけが室内に響いていた。
「――リア様、」
なので、執務ももうすぐで終わるだろうという頃、彼女が呼んでくれた事がとても嬉しかった。
しかし、ファンレターの返信文を書いていた私はペンを動かす手を止めずに返事をする。本当はシェリーと雑談をしたいのだが、そこは我慢するしかない。
私の返事から少し間を置いて、シェリーが私の背後に立った気配がする。
もう昼の時間なのかと手を止めようとすれば、いきなり部屋の扉が開いた。
「姫様!」声を荒らげて入ってきたのはセシルだった。「あ、……お仕事中に失礼しました」
「……イディアス様、如何されましたか?」
「いえ、その、午後からの公務には私も同行する事が決まりまして……」
「それは姫様の執務中にお話しする事でしたでしょうか?」
いつもよりトゲのある言い方だった。シェリーらしくないなと思ってペンを置き、体ごと扉の方へと視線を向ける。シェリーの背中しか見えず表情は分からないが、きっと怒っているのだろうなぁと感じた。
彼女が怒った所を見た事が無い私にとっては想像し難いのだが、セシルの強張った表情から察するに彼女も怒らせてはいけない人物リストの仲間入りを果たしそうだ。
アイデとはまた違った怒り方なんだろうなぁ、と勝手に想像しておこう。
口論はしていないが、二人は無言のまま見つめ合っている。
シェリーとセシルの関係を探った事はないけれど、アイクよりかは仲が良く思う。彼も話し易い性格をしているからとは思うけれど、一応メイドよりも格上の人間であるはずだし、ここは止めた方が良さ気だろう。
二人共落ち着いて、と口に出せば、シェリーはこちらに向き直って一礼し、謝罪をしてきた。セシルも同様に、ややか細い声で謝罪する。
別に謝罪をして欲しかったわけでもないが、まぁ、この場がそれで収まるのなら受け入れよう。
「せめてノックして欲しかった。だからシェリーは怒ってるんでしょ? 私の邪魔になってしまうから。違う?」
「……はい、そうです」
「だったらそれを言わなきゃ。セシルも、早く報告したかった気持ちを理解出来なくもないけど、女性の部屋に突然入ってくるのはマナーとしてどうかなと思うよ」
「申し訳ないです……」
「ならこの場はこれで抑えて欲しいなぁ。もうすぐで仕事が終わるから、セシルも中で待っててよ。それから話を聞いても良い?」
はい、とか細い声。私は怒っているわけではない。そんなにシェリーの顔が怖かったのだろうか。M気質でもないけれど、今度わざと彼女を怒らせてみても面白いかも知れない……と考えたが、デメリットが大きくそれが恐ろしいのでその考えは忘れよう。
普段から笑ってくれているのだから、その関係を壊すのはとても気まずい。良い友好関係を築けているのなら、それを無理に壊すリスクは回避だ。
再度机に向かってペンを持ち直し、送られてきた手紙の返事の続きを書き始める。
背後ではまだつんけんした話し方のシェリーがセシルにお茶を差し出す音が聞こえた。
これで終わりだから、と二人に背を向けたまま声を掛け、最後に自分のサインを施す。小さな子供からの手紙だった。
リアリゼッタ姫を尊敬していて、一度自分の村に来て欲しいという内容だ。地方の名前を書かれていても私には分からないし、どこにあるか見当もつかない。けれど、もし行く事があったらこの子供はとても喜んでくれるのだろう。どんな子か面識なんて無いけれど、会うのが楽しみになってしまった。
ペンを置いて軽く伸びれば、座ったままで固まってしまった節々が活動を再開した感覚がする。
待たせてしまった二人にその旨を謝罪しつつ立ち上がると、お疲れ様です、とシェリーが微笑んでくれたが、用意された椅子に座るセシルとの微妙な距離が心の壁を再現しているようで少し呆気にとられてしまう。
セシルよ、この時間で君の好感度は一気に下がったみたいだぞ……。
「少しお昼までお時間がありますが、如何致しますか?」
「うーん。座っているのも疲れたし、中庭に行こうかな」
「姫様は中庭で過ごされるのが本当にお好きですね」
セシルが居る事によってシェリーの口調が親近感があるものから変化しているが、そこは元々の上下関係があるので仕方がない。
彼女は終わった書類を執務官などに渡しに行く仕事がある為、先に部屋を後にしていった。残されたセシルは扉が閉まったと同時に盛大な溜め息を吐く。
「怖かったです……」
「そんなに? シェリーが怒った所なんて見た事無いからわかんないや」
「そりゃあ姫様には怒らないでしょう……。いえ、私も始めて見ましたが、アイデよりも怖いです。気をつけて下さい」
私が彼女を怒らす事なんてほぼ無いと思うのだが、一応肝に銘じておこう。無事に怒らせてはいけないリストにランクインしてしまったシェリーの存在は仕方ないと置いておいて、セシルを連れて中庭へ向かおうかな。
と思ったのだが、彼も別の用事があると、ここへ来たのはいち早く報告する為だと言う。ちょっと、それはないでしょうよ。
「申し訳ございません。あまりにも嬉しくて……」
「いや、うん、大丈夫。仕方ないよ、うん。ずっと会議だったわけだし、うん」
「あからさまに落ち込まないで下さい……! 本当に申し訳ございません!!」
「ええんやで……」
グレシットの真似をして気にするなというアピール。涙目になってしまった彼を励ます言葉は思い付かない。
とりあえず一緒に廊下へと出て、セシルはそのまま転移でどこかに行ってしまった。
さて、城内での一人行動はあまり許されていないけれどこうなてはやむを得ない。堂々と廊下を歩いて中庭へと向かう事にしよう。
廊下を歩けば仕事中のメイドや城で勤務する人間に必ず挨拶をされる為、その度に笑顔で応えるのは頬が引き攣りそうになる。ほとんどの官僚達は会議に出席している為、今日は少ない方かもしれない。
「姫様、お元気そうで何よりです」
「ありがとう」
数人の人間の姿をしていない精霊から挨拶をされ、なんとかにこやかに対応した。
聖室で働くゼオーグ、そして庭師のオーグの他に、城には多くの精霊が働いている。それらを総称してお手伝い精霊というらしい。
外見や性格は様々だが、大体の性別は男性のようだ。たまにメイド服を着込んだ精霊も居るのだが、そういう存在は稀で、城内ですれ違う事はあまり無い。
「今日は木の手入れ?」
「おぉ、姫しゃま、本日もお麗しゅうごじゃいますね」
木々の枝打ちをしていたらしいオーグは、宙に浮いたまま挨拶をしてくれた。赤茶色い小柄な体に似合わない尖った耳は、象のように大きくそれを羽代わりに浮遊しているようだ。
彼のように人語を話せる精霊は珍しくなく、逆にゼオーグが身振り手振りで会話をする事の方が珍しいようだ。彼は彼なりにその動作が愛らしいので、周りも気に止めてはいない。
枝打ちが終わったのか、地面に降り立つオーグの身長は私の腰程までしかなく、落ちた枝や道具を片付けをする姿は子供が散らかしたオモチャを片付けているようで見ていてほっこりとした。
「本日はどうしゃれたのですか?」
「仕事が終わったから。暇になっちゃって」
「そうでごじゃいましたか」
カッカッカッと独特な笑い方をする彼は、どことなく嬉しそうだ。
私に話しかけられて嬉しがる精霊は多い。これは自分の事ではなくリアリゼッタ姫としてなのだが、彼女元々の信仰の厚さがあるからこそだと思われる。
私が自分を棚に上げているわけではないのだが、話し掛ける事で周りから喜ばれるのは実に気分が良いものだ。優越感に浸ってしまう。
「ところで姫しゃま。お勉強の方は進んでおられますか?」
「うん、まぁ……」
「そうでごじゃいましたか。魔力の無い王族は要らないなどと官僚しゃまが仰っていたと噂を聞きましたので……どうか御無理の無いようにして下しゃい」
「……ありがとう、オーグ」
そんな事を話し歩くのはどの老害だ、と一瞬城に居る官僚達を思い浮かべてはみたものの、全員そういう事を言いそうで考えるのをすぐに放棄した。
官僚もほとんどが魔法術を扱える者達だ。彼らにとっての当たり前を否定してしまっても意味は無い。今まで散々姫様姫様と媚を売ってきていたのだろうから、手の平返しをされても私は私であってリアリゼッタ姫とは違うのだし、もしクーデターなる事があったとしても五将が護ってくれるだろう、多分。
彼らをアテにするわけでもないけれど、今の私は批難をする相手に立ち向かえる術が存在しない。つまり、利用出来るものは利用しろ、という事だ。
無理に頭を垂れろとは言わないが、私に後ろ盾がある以上、老害達が私に手を出す事は無いと断言する。
「ワタシ達精霊は、いつでも姫しゃまの味方でごじゃいます故」
「うん、ありがとう。嬉しいよ」
でもいつか見返さなきゃね、と皮肉交じりに言えば、オーグはカッカッとまた笑うのだった。
その後はオーグの邪魔をするわけにはいかず、軽く庭仕事を手伝う事にした。地面に落ちた枝をまとめ、ゴミ袋へと入れていくといった単純作業。だが、体力は相応に消耗していく作業だ。
私が庭で怪我をした一年前、それを進言したアイデによってオーグは罰されそうになっていた。が、セシルの自分が仕事を肩代わりしていたという発言と、私自身が話した注意不足だったという意見から彼の罰は免れている。
庇うようだが、アイデはオーグを悪く言ったわけではない。怪我をしたけれど直ぐに治った事から魔力は回復しつつある、と報告も兼ねて進言していたのだ。それを官僚達が誤解した事によって処罰の対象になっただけである。
ぎっくり腰で休養していたオーグにとって、なんともはた迷惑な話だろう。休暇が明けたら自分に処罰が下るという上司の人間から言われてしまい、彼の心傷は計り知れなかったと思う。
アイデ自身も魔法術を扱う者であり精霊の加護が無ければ魔法術も何も扱えないというので、事態が収束する前に彼へ謝罪をしていた。
ちなみに、ただの勘違いで食い違いという誰しもが間違いを起こす可能性は否定出来ない事から、王へ庭師に対する処罰を求めた官僚自身に罰則は何も無い。その後の話になるが、オーグに謝罪は無かったそうだ。
人間とは感情で動く動物とは良く言ったもので、自身の位が高くなればなるほど傲慢になってしまう。だから老害だと呼ばれるのにそれを認めないから質が悪い。
「棘はなるべく抜くようにしておりましゅ。姫しゃまや他の方が怪我をしてしまえば、ワタシも辛いでしゅから」
「だよねー。オーグの働きっぷりを皆知らないんだよ。一回庭仕事をしてみろって思う」
「カッカッカッ。姫しゃまは随分物を言うようになりましたね。以前は物静かなお人でしたのに」
「そう?」
「はい。物怖じせじゅに発言為しゃる姿は変わりませんが、今の姫しゃまは肝がしゅわったと言いますか……以前は常に冷静を心掛けている感じでしたもので」
「今の私はおかしいのかな」
「いえいえ、とんでもごじゃいません! じゅっと庭の事を気に掛けてくれておりましたし、ワタシ共の事を気に掛けていらっしゃるのでその辺りはお変わり無く感じておりましゅよ」
「そっか」
リアリゼッタ姫は誰にでも分け隔てなく接し、時には活発に動いていたと聞いている。私もそれを心掛けているのだが、少し我を出し過ぎてしまっているようだ。そこは反省しよう。
今の私を気に入っていると話す人間や精霊が多いのも事実だけれど、逆に気に入っていない人間も少ないわけではない。政へと口を出すようになってからはそれが顕著に現れている。
この国の王政が杜撰だと言い切るつもりはないが、やっぱり、どこか穴を見つけると突っ込んで話をしてしまうから駄目なのだろうか。……この件に関して結論は無いだろう。水掛け論になってしまいそうだ。
今は私に好意を寄せてくれる人達の為と思い込んで、自分を出しすぎるのを我慢する事にしよう。うん、決めた。今決めた。
「しょろしょろお昼ですね」
「あれ? もう?」
「えぇ。城内が騒がしいでしゅ。きっと会議が終わったのでしょう」
結局昼まで続いていたらしい会議の全容は分からない。セシルが部屋へ来たので終わったと思っていたのだが、そうではなかったのか。彼は会議中に用を言いつけられて途中離席をしただけなのかもしれない。
会議の内容は昼食時に五将から聞くとして、オーグの片付けを手伝い終えたら聖室へと向かうと考えていれば、それ以上泥だらけになればお偉いさん達が黙っていないだろうというのがオーグ談。
少しだけ手伝った手前片付けまで手伝うのが当然だと伝えたが、彼は倉庫まで私に荷物を持たせるのは忍びないと言う。私は特に何も思わないと言っても彼は頑なに手伝いを断ってきたので、これはしつこく話を続けても逆に迷惑になるだろうと悟って素直に身を引く事とする。
実際、老害達に私が庭師と道具を泥だらけになりながら片付ける現場を見られてしまえば、私はともかくオーグ自身の立場が危うくなるかもしれない。そこだけは避けたい。
申し訳ないながら彼に片付けを任せ、近場の水道で手を洗ってから聖室へ向かう事とした。
オーグの言っていた、会議が終わったというのは本当のようで、城内ではメイド含む使用人達が忙しく駆け回っている。昼食の準備で走り回っているだろうと思ったが、その中には積み上げられた大量の書類を抱えながら歩く精霊の姿も居たのでその限りではないらしい。
会議後はいつもこうだ。
確かに国の事を話し合うのは重要だが、その後始末や書類整理を使用人に任せてしまっては、彼らの気苦労も超過してしまう。実際は名ばかりの官僚ばかりで仕事は部下任せなのだから、早く退任した方が周りの為なのに、と考えてしまうのは私だけだろうか。
有能は尊重し、無能は排除する。そうしなければ国の発展は無いと思う。――こういった意固地な考えを持つ私に政治は向いていないんだろうなぁ、と現実世界の政治家達を思い出して溜息を吐いた。
「やっぱり、まだ誰も居ないよね」
聖室前までやって来たが、五将は自分の部下といえば実行部隊が主なので、執務事は自身が処理をしているらしい。その為か、聖室前には誰も居なかった。
中へ入ればフェンドルが居てそうな気もするけれど、その場合、彼は食事を始めているだろう。食事中の彼は終始無言で喋るよりも食べるを優先しているから、話し掛けても何も答えてくれない可能性が高い。
つまり、いつも騒がしいムードメイカーなグレシットや彼まで及ばないが好んで会話をするセシルが居なければ、騒がしい聖室は静かな空間になってしまう。
一人暮らしのツケで複数人と食事をする楽しさを知ってしまった私は、その静かな空間に耐えれるだろうか。もしくは、誰かが来るまで廊下で待っていた方が良いだろうか。
これは悩み所だ。中に入った所で誰も居ない可能性もあるし、……いや、一人だけ居るか。
私が一人で聖室へと入室すればきっと現れるであろう彼――ラオの存在を思い出した。しかし、もしフェンドルが聖室内に居るなら彼は現れないだろう。
暫く考えてみたが、どっちにしろ此処でウジウジと考えるのも時間の無駄と思って、私は静かに聖室の扉を開けるのだった。




