精霊と魔法
「アクアおねえちゃん!まほうおしえて!ぼくも火だしたい!」
修道院の前にあるベンチに座っていたアクアに、イーサンが飛びつくように両手を伸ばす。
黄色がかった猫っ毛の髪がアクアの頬を撫でる。
今月4歳になったイーサンはこの修道院ダントツの最年少でありみんなから可愛がられていた。
「おにいちゃんたちがあぶないからあっち行ってろって!ぼくもしたいのに」
頬をぷくっと膨らませ、くりくりとした黄色い瞳でアクアを覗き込む。
イーサンが走ってきた先を見ると、大きな木の下で赤髪の少年ふたりが得意な火の魔法で葉を燃やしていた。
年齢は10歳とアクアの次に年上で、孤児院の中ではお兄ちゃん的ポジションでみんなから頼りにされている。
ふたりは双子の兄弟で、顔だけ見ればアクアには見分けることができないほどそっくりだった。
見分けるコツといえば、兄のレンはさっぱりとした短髪で弟のリンは肩までかかる長髪であることだ。
「ごめんね、イーサン。」
イーサンに視線を戻しながらアクアは続ける。
「私、魔法が使えないんだ」
ばつが悪そうに俯くアクアに「えー!なんでえ!」とイーサンは不満そうに言う。
そう、私は魔法が使えない。
当たり前のように皆が魔法を使っているこの世界で私だけがなぜか使えないのだ。
神官様が言うには私には全く魔力がないとのことだった。
魔法とは魔力・精霊の力から構成される。
自身の魔力を周りに存在している精霊たちを通すことで魔法に変わる。
そのため、魔力がないアクアは魔法を使うことができないのだ
世界は〝火・水・土・風〟の四大元素からなり、それぞれの精霊が存在する。
今この瞬間にも周りを見渡せばたくさんの火の精霊・土の精霊・風の精霊がキラキラと神秘的な輝きを帯びながら大気中を漂っている。
ただ、どこを見渡してもとある精霊だけは見つからない。
ーそう。水の精霊は。
水の精霊がいないということは、水の魔法を人々が使えないことを意味する。
まあ私には、水の精霊がいたとしても魔力がないから魔法は使えないんだけど。
「もういいもん」
イーサンは拗ねたようにぷいと顔をそらす。
「ごめんね」
アクアは再度謝り、イーサンの頭を優しくなでる。柔らかい猫っ毛が指に絡まり少しくすぐったかった。
心の奥底がちくっと傷んだ。
私だって魔法が使いたい。ーそう言いかけてアクアは静かに言葉を飲んだ。




