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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第4章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(前編)

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閑話その2:夜更けのティータイムと、軌跡を刻む鍵束

樹層街ウッド・ベースに穏やかな夜の静寂が降りていた。

宿屋『風見鶏亭』のふかふかのベッドの上で、シエルは湯気を立てるマグカップを両手で包み込んでいた。マーサが「安眠に効くからね」と淹れてくれた、甘いハーブティーだ。

開け放たれた窓からは、世界樹の葉が風に揺れるサラサラという音が心地よく響き、淡い青光りが部屋を優しく照らしている。

シエルはマグカップをサイドテーブルに置き、手元で小さくジャラリ、と少し重みを増した金属音を鳴らした。

彼女の掌の上にあるのは、これまでの旅で集めてきた**『鍵』**たちだ。

ベースとなっているのは、彼女の最大の武器であり、ハッカーとしての相棒でもある**『銀色の魔導鍵』**。

「……随分と、ジャラジャラ賑やかになったわね」

シエルは指先で銀の魔石を撫でる。

そして今、その銀のリングには、新たに四つの『金色の鍵』が繋がれている。

一つ目は、蒸気と歯車の町『レイト・グリッド』の時計塔のコアで手に入れた鍵。

シエルは単なる利害の一致から、屈強なサイボーグの男・バルドと出会い、互いに背中を預け合う協力関係を結んだ。

二つ目は、水上都市『アクア・ラビリンス』の最深部、『沈んだ頁』で手に入れた鍵。

黄金の意匠の中で、清らかな青い輝きを放ち続けている。水の都の冷たくも美しい情景と、バルドと共に潜り抜けた水中の死線が、その輝きの奥に封じ込められているようだった。

三つ目は、砂漠の町『アイアン・サント』の『白亜の星室』で手に入れた鍵。

持ち手に大きなアクアマリンが埋め込まれており、バルドと二人で越えた過酷な熱砂を忘れさせるような、優しい青い輝きを放っている。

そして四つ目。ランタンの光を反射してひと際眩しく輝いているのが、ここ巨樹の麓、息づく大樹の街『ウッド・ベース』の遥か上空、世界樹の100階『神鳥の巣』で手に入れたばかりの鍵だ。

鬱蒼とした密林で出会った、小動物のように身軽で無邪気な案内人の少女、ティオ。彼女と出会い、その協力が得られなければ、この鍵を手に入れることは絶対に不可能だった。

「レイト・グリッドでバルドと出会い、世界樹でティオが加わった……私のパーティー、本当に騒がしい人たちばっかり」

シエルは鍵束を指先で揺らしながら、小さく息を吐いた。

冷徹な計算式アルゴリズムで物事を判断し、他人との関わりを最小限にしてきた天才ウォーカー。それが今では、前衛のサイボーグの無茶な突撃に肝を冷やし、小動物のような獣人の少女に振り回される日々だ。

でも――それは決して、悪い気分ではなかった。

「……シ、シエル……起きてる……?」

不意に、部屋のドアがギィ、と微かに開き、隙間から新緑色の髪がひょっこりと覗いた。

目をこすりながら、枕を抱きしめたティオが立っている。

「ティオ? どうしたの、こんな夜更けに」

「あのね……お腹いっぱい食べすぎたせいか、目が冴えちゃって。バルドおじさんの部屋に行ったら、イビキがうるさくて寝れなかったの……」

ティオがしょんぼりとした顔で、シエルのベッドの端を見つめる。

「……一緒に、寝てもいい……?」

かつてのシエルなら、「自分の部屋に戻りなさい」と即答していただろう。他人に自分のパーソナルスペースを侵されることなど、絶対に許さなかったはずだ。

けれど今のシエルは、呆れたように小さく笑うと、ポンポンと自分の隣のシーツを叩いた。

「仕方ないわね。少し狭いけれど、我慢しなさい」

「わぁっ! ありがとうシエル!」

ティオが嬉しそうにパタパタと駆け寄り、ベッドに潜り込んでくる。太陽の匂いと、微かに甘い蜜林檎の香りがシエルの鼻先をくすぐった。

「えへへ……シエル、いい匂い。なんだか落ち着く……」

ティオはシエルの腕にギュッと抱きつくと、あっという間に規則正しい寝息を立て始めた。

「……目が冴えてたんじゃないの? まったく……」

シエルは苦笑しながら、ティオの柔らかい髪をそっと撫でた。

窓の外から聞こえてくる世界樹のさざめき。

遠くの部屋から響く、バルドの微かなイビキ。

そして、腕の中で温かい体温を伝えてくる少女の寝顔。

イグノタフ侯爵家の特務部隊が動き出し、王都で別れたはずのカイルが修羅となって現れた。この先の旅は、これまで以上に過酷なものになるだろう。

けれど、増えていく鍵の重みや先の不安は、今夜だけは忘れよう。

「……おやすみ、ティオ」

シエルはサイドテーブルにこれまでの旅の軌跡である鍵束をそっと置くと、ランプの灯りを落とし、柔らかい毛布の中でゆっくりと瞳を閉じた。

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