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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第4章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(前編)

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第4章・第10話:行きはよいよい、帰りは幻砂(げんさ)の迷宮

巨大な黒曜石の扉と、七つの鍵を要求する石碑。

『砂の書館』の全貌と最終目的をその目に焼き付けたシエルとバルドは、再びアイアン・サントの町へ戻るべく、すり鉢状の砂丘を登り始めていた。

「ふぅ、ふぅ……っ。行きは下りだったから良かったけど、この砂山を登って帰るのは骨が折れるわね」

シエルはズブズブと沈み込む足元の砂に悪戦苦闘しながら、額の汗を拭った。

「文句を言うな、お嬢。美味い果実ジュースと飯が待ってると思えば、足も前に出るってもんだ。ほら、手ェ貸してやるよ」

バルドが真鍮の義手を差し出し、シエルの小さな手を引っ張り上げる。

「ありがとう……。でも、なんだかおかしくない?」

シエルは引き上げられながら、周囲の景色をぐるりと見渡した。

「さっきから30分以上は真っ直ぐ登り続けてるはずなのに、一向にすり鉢のふちが見えてこないわ。それに……」

シエルは砂の上に転がっている、奇妙な形に風化した魔獣の頭骨を指さした。

「あの骨、さっきも見たわ。私たち、同じ場所をぐるぐると歩かされてるんじゃない?」

「あぁ? 砂漠なんざ、どこも似たような景色に決まってるだろ。……いや、待てよ」

バルドも足を止め、鋭い目つきで周囲の砂の流れを観察し始めた。

彼の言う通り、周囲には何の目印もない黄金の砂漠が広がっているだけだ。しかし、義手に内蔵された微細な環境センサーが、あり得ない数値を弾き出していた。

「お嬢、あんたの言う通りだ。俺たちの足元の砂、まるで巨大なベルトコンベアみたいに、俺たちが進んだ分だけ中心に向かって逆流してやがる。しかも、景色だけが幻影のようにスライドして、前に進んでいるように錯覚させてるんだ」

「幻影のプログラム……!」

シエルはハッとして、懐のトランクから携帯端末を取り出した。

画面のノイズは行きよりもさらにひどくなり、方位磁針すら狂ったように回り続けている。

「……なるほど、そういうことね。完全に騙されていたわ」

シエルはアメジストの瞳を細め、忌々しそうに足元の砂を蹴り飛ばした。

「市場のおばあさんは言っていたわ。『迷いの砂丘』は砂が生き物のように動く迷宮で、みんな図書館を見つける前に迷ってしまうって。でも、それは大きな勘違いだったのよ」

「勘違い? どういうことだ?」

「この砂丘、行きは『一本道』だったじゃない。何の障害もなく、ただすり鉢の底へ引きずり込まれるように扉の前まで辿り着けた」

シエルの頭脳が、プロウォーカーとしての冷徹な演算を導き出す。

「この砂の防壁セキュリティの本当の恐ろしさは、侵入を阻むことじゃない。深奥の扉を見てしまった者を、二度と外へ逃がさないことにあるのよ。まさに『行きはよいよい、帰りは怖い』ってやつね」

「……ってことは、今までここに迷い込んだ連中は、行きに迷ったんじゃなくて」

「ええ。帰りの道でこの『無限の砂車輪トレッドミル』に囚われて、文字通り砂の海に沈んでいったのよ。だから誰も町に帰れず、『行きで迷う』という間違った伝承だけが残った」

旧時代の遺跡が牙を剥く。

ただの砂漠だと思っていた足元そのものが、二人を飲み込む巨大なトラップだったのだ。

「チッ、性格の悪い罠を仕掛けやがって。だが、どうするお嬢? またあの銀の鍵で強行突破オーバーライドするか?」

「駄目よ。この広大な砂丘全体にかけられた幻影プログラムをすべて書き換えるなんて、私の魔力容量キャパシティが持たないわ。さっきみたいにリバウンドで吹き飛ばされるのがオチよ」

シエルは冷静に状況を分析し、ふっと不敵な笑みを浮かべた。

「でもね、王都の学園でレインと一緒に山ほどのトラップを解除してきた私を舐めないでほしいわ。全体をハッキングできないなら、自分の足元だけを『固定』すればいいのよ!」

シエルは懐から『銀色の魔導鍵』をサッと引き抜き、足元の流砂に向かって真っ直ぐに突き立てた。

「さっきは扉のシステムを開けようとして弾かれたけど、この使い道なら文句はないわよね!」

シエルが鍵をひねる。

「――事象凍結ロック!!」

カチンッ!という澄んだ音と共に、シエルとバルドの足元から半径数メートルの空間に、青白い幾何学模様の陣が展開された。

その瞬間、生き物のように蠢き、二人を中心へと引き戻そうとしていた砂のベルトコンベアが、陣の内側だけピタリと完全に静止した。

「おっ、砂の流れが止まったぜ!」

「私の周囲の『物理的な移動事象』を凍結させたの。これなら、幻影のプログラムに干渉されずに、私たちが歩いた分だけ確実に前に進めるわ! さあ、私の効果範囲エリアから離れないでついてきて、バルド!」

「ハッ、流石はお嬢だ。頭の使い方がレインの坊主そっくりになってきたじゃねえか!」

「相棒なんだから当然でしょ! ほら、急ぐわよ!」

シエルは足元の砂を凍結させながら、一歩、また一歩と確実に砂丘の斜面を登っていく。

周囲の景色は相変わらずデタラメな幻影を映し出していたが、凍結された足場を踏みしめる二人の前進を阻むことは、もはや出来なかった。

やがて、凍結させながら斜面を登り切った二人が、大きく一歩を踏み出した瞬間。

パリンッ、とガラスが割れるような音と共に、周囲を覆っていた熱を帯びた幻影が弾け飛んだ。

「――抜けた!」

夕暮れの涼しい風が、二人の頬を撫でる。

振り返れば、そこには静寂を取り戻した広大な砂漠が広がり、前方には色鮮やかな布幕が張られた『アイアン・サント』の町が、夕日に照らされてオアシスのように浮かび上がっていた。

「……ふぅ。今度こそ、本当に死ぬかと思ったわ」

シエルは緊張の糸が切れ、その場にペタンと座り込んだ。

「へへっ、よくやったぜお嬢。さっき扉で失敗した分、きっちり挽回したな」

バルドもドカッと砂の上に座り込み、豪快に笑った。

「当然よ。私は学習するプロウォーカーなんだから。……でも、さすがに喉がカラカラ。もう一歩も動きたくないわ」

「違いねえ。ほら、乗んな」

バルドが背中を向けると、シエルは照れ隠しに「重いって言ったら怒るからね」と文句を言いながらも、その大きな背中にちょこんと飛び乗った。

「さあ、町に戻って冷たい果実ジュースだ! それから、残り5つの鍵の手がかりを洗いざらい見つけ出してやるぜ!」

「ええ、頼んだわよ、私の相棒(前衛)さん」

夕闇が迫る砂漠を、巨漢と少女の影が長く伸びていく。

『砂の書館』の恐るべき防壁を身を以て知った二人は、次なる鍵の情報を求めて、再び喧騒の町へと帰還するのだった。

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