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【祝1000PV 突発!】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第3章 受難

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第3章・第16話:託された光

静寂を取り戻した3階『禁書庫』。

ドーム状にそびえ立つ巨大な本棚の群れと、空中に無数に浮かぶ青白いアクセスログのホログラム。先ほどカイルが己のシャドウと死闘を繰り広げた形跡が残る以外は、ただ荘厳で平和な図書館の風景が広がっていた。

「……レイン、ここからどうやって『隠蔽された証拠』を探し出すんだ? 俺は何時間もかけてこのログを読み漁ったが、現当主の不正に繋がるようなものは一つもなかったぞ」

二振りの剣を帯びたカイルが、周囲の青白い光を見渡しながら問う。

黒髪の少年――レインは、隠密用の光学迷彩コートを翻し、空中に浮かぶ一つのログを指先で弾いた。

「当然さ。この階層に浮かんでるログは、全部『精巧なダミーデータ』だからな」

「ダミー……? この膨大な量の記録が、すべて偽物だと言うのか?」

「ああ。現当主のハッカー野郎は、イグノタフ家の真実の記録ルートディレクトリを隔離し、その上にこの『平和な図書館のテクスチャ』を分厚く上書き(オーバーライド)して隠しやがった。だから、普通に本棚を漁っても絶対に真実には辿り着けない仕様になってる」

レインは手元の魔導通信端末を操作し、空間の魔力波長をスキャンする。

「お前の親父(偽物)は、相当なビビリと見える。自分が犯した『実父暗殺』と『家督の乗っ取り』の記録を完全に消去デリートしなかったのは、それがイグノタフのシステム中枢に深く根付きすぎていて、下手に消せばシステム全体がクラッシュするからだ。だから、こうして偽装の殻で覆い隠すしかなかった」

「己の罪を消すことすらできない、滑稽な簒奪者というわけか……」

カイルは静かに、だが確かな怒りを込めて呟いた。

「さて、それじゃあお待ちかねのデバッグ作業(探索)といくか」

レインはコートの裏から、虹色の輝きを脈打たせる究極の魔導銃『星空の真理ステラ・トゥルース』を引き抜いた。

そして、空中に浮かぶ無数のダミーログのうち、最も大きく輝いている一つに銃口を向ける。

「手当たり次第に壊す必要はねえ。偽物ダミーを辿れば、必ず本物ホストのサーバーに繋がる『線』が見えるはずだ」

チャキッ、とシリンダーを回し、レインは静かに引き金を引いた。

――カァンッ!

放たれた魔弾は物理的な破壊力を持たない『真理の光』だった。

弾丸がダミーログに命中した瞬間、ガラスが割れるような澄んだ音と共に、青白いログがパラパラと文字化けを起こして崩壊する。

そして、ログが消え去った空間の座標に――ドクン、ドクンと脈打つような、**赤黒い魔力のデータリンク**が一本、露わになった。

「ビンゴだ。偽装の裏側に隠された、真実のログへ続くアクセス回線。……こいつを辿るぞ」

赤黒い糸は、禁書庫の奥深く――壁一面を覆い尽くす、巨大な本棚の群れの中へと伸びていた。

レインとカイルは、その不気味な糸を道標に、迷宮のような本棚の間を慎重に進んでいく。

やがて、二人の足は行き止まりの壁(本棚)の前で止められた。赤黒い糸は、分厚いオーク材の本棚の「中」へと完全に吸い込まれている。

「……ここから先は物理的な道がないぞ。隠し扉のギミックか?」

「いや、システム上は『ただの壁』だ。だが、この壁そのものが空間を歪めて作ったハリボテ(偽装コリジョン)だな」

レインが壁をノックすると、コツコツという木の音に混じって、微かに「ジジッ」という電子的なノイズが走った。

「真理の銃で吹き飛ばしてもいいが、それだとセキュリティが作動して防衛システム(エネミー)を呼ばれる可能性がある。……カイル、お前の出番だ」

「俺の?」

「その赤黒い糸の魔力波長……お前にも見覚えがあるだろ?」

レインに促され、カイルは壁に吸い込まれている赤黒い糸を見つめた。

その禍々しくも冷徹な魔力の波動。それはつい先ほどまで死闘を演じた、カイル自身のシャドウが放っていた魔力と完全に一致していた。

「……ああ。これは、親父(偽物)が俺に植え付けていた洗脳の魔力と同質だ。つまり、この偽装空間自体が、あの男の魔力で構築されているということか」

「そうだ。なら、その男の魔力をベースに生まれ、お前が自力で屈服させた『その剣』なら――システムのセキュリティに引っかかることなく、この偽装を切り裂けるはずだ」

カイルは息を吐き、腰から『漆黒の魔剣』を静かに引き抜いた。

かつては握るだけで精神を汚染されそうになった呪いの剣。だが今のカイルが握ると、剣は主の意志に従うように、静かで従順な闇のオーラを纏った。

「道を拓くぞ」

カイルが漆黒の刃を、行き止まりの本棚へと静かに押し当てる。

物理的な手応えはなかった。だが、剣先が触れた瞬間、壁のテクスチャが水面に波紋が広がるようにぐにゃりと歪み、音もなく「真っ二つ」に割れていく。

アラート一つ鳴らすことなく、偽りの空間が切り開かれたのだ。

切り開かれた空間の先。

そこには、先ほどまでの荘厳な図書館の風景とはまるで違う、無機質で冷たい、黒曜石で作られた『隠し回廊』が続いていた。

二人は息を潜め、赤黒い糸を辿りながら隠し回廊の奥へと進む。

やがて空間が開け、二人は巨大なドーム状の最深部へと到達した。

そこには、巨大な『黒曜石の祭壇』があり、その中央で、人間の背丈ほどもある禍々しい赤黒い記録結晶メインサーバーが、心臓のようにドクンドクンと脈打っていた。

これまで辿ってきた無数の赤黒い糸が、すべてこの結晶へと繋がっている。

「……ここが、イグノタフ家の隠された真実ルートディレクトリか」

「ああ。だが、相当分厚いプロテクトがかかってるな。カイルの剣で物理的に斬っても、中身のデータごと壊れちまう」

レインは祭壇に歩み寄ると、魔導通信端末からケーブルを引き出し、記録結晶の台座へと直接接続した。

さらに、左手に持った『星空の真理ステラ・トゥルース』の銃身を端末に押し当てる。

「手動ハッキングさ。俺の端末経由で、この銃の『真理(ルート権限)』をサーバーに流し込む。強引にこじ開けるんじゃねえ、システムの仕様の穴を突いて、パスワードの認証そのものを『スキップ』させるんだよ」

レインの指が、目にも留まらぬ速度で端末の仮想キーボードを叩き始める。

銃身の虹色の輝きが端末を通じて記録結晶へと流れ込み、赤黒い魔力と激しく反発し合ってバチバチと火花を散らした。

「カイル、俺は数分間この作業デバッグに集中する。万が一、防衛システムが起きたら……」

「任せておけ。俺の背中うしろは、絶対に抜かせない」

カイルは白銀の聖剣と漆黒の魔剣、二振りの剣を構え、レインを庇うように背中合わせで立った。

緊迫した数分間。禁書庫の最深部に、レインのタイピング音だけが響き渡る。

やがて――。

ピピィィィンッ!

軽快な電子音と共に、巨大な赤黒い記録結晶の表面に走っていたノイズがスッと消え去り、澄んだ青色へとその色を変えた。

「――プロトコル解除(クラック完了)。さあ、隠された真実のご開帳だ」

レインがエンターキーを叩き込んだ瞬間。

記録結晶から眩い光が放たれ、無機質だった黒曜石の空間に、十数年前の「ある光景」がノイズ混じりのホログラムとして鮮明に投影された。

それは、激しく炎に包まれたイグノタフ家本邸の廊下だった。

『カイル、逃げなさい……! その男の言葉を聞いてはならない!』

炎の粉が舞う中、血まみれになりながらも、幼い子供を背後に庇って必死に剣を構える高潔な騎士。カイルの「本当の父親」だ。

その対面には、現在のイグノタフ家現当主と全く同じ顔をした男が、怪しく光る『記憶奪取のナイフ』を手にして不気味に笑っていた。すでに男の術式によって、背後にいる幼いカイルの意識は混濁し、その白銀の瞳は虚ろに濁り切っている。

『あ……、あ……悪党、め……! 父上に、近寄るな……ッ!』

洗脳の術式によって実の父親を「侵入者の悪党」だと認識させられていた幼いカイルが、おぼつかない手つきで床の短剣を拾い上げる。

そして――実の父親が偽物の男を迎え撃とうと鋭く踏み込んだその瞬間、背後から実の父親の背中を、深く、深く突き刺した。

ズブゥッ、と肉を裂く嫌な音が禁書庫の最深部に響く。

『がはっ……!? か、カイル……なぜ……』

驚愕に目を見開き、血を吐きながら振り返る父親。だが、その瞳に宿っていたのは、自分を刺した息子への怨みなどでは決してなかった。

父親は痛みに顔を歪めながらも、凶刃を握ったままガタガタと震える幼いカイルの小さな手を、自らの血塗られた手でそっと包み込んだ。

『ち、違う! 離れろ、悪党……ッ!』

『……泣かないで、くれ。カイル……』

父親は最後の力を振り絞り、カイルの胸――その魔力の中心である心核コアへと、己の残存魔力のすべてを込めた『白銀の光』を流し込んだ。

それは、偽物の男にさえ感知できないほど微弱で、しかしどこまでも純粋な**『守護の術式ファイヤーウォール』**。

『お前のコアだけは……誰にも、奪わせはしない。生きろ……私の、誇り高き……騎士、よ……』

その言葉を最後に、白銀の光はカイルの胸の奥底へと完全に溶け込み、父親は力なく床へ崩れ落ちて息絶えた。

『――よくやったぞ、我が息子よ』

炎の奥から、偽物の男が哄笑しながら歩み出てくる。男は、父親が最後にカイルの魂へ遺した『光』に全く気づいていない。

『これで本物の当主は死んだ。お前の手で本物の父親を殺したというその究極の「絶望の記憶」は、国の心臓部メモリーバンクを起動するための特上の燃料として捧げてもらおう。お前はただ、私を本当の親だと信じる操り人形でいればいい――』

突きつけられた、あまりにも残酷で、おぞましい世界の真実ログ

だが、カイルは気づいていた。

これまでずっと自分の心を支え、暗闇の中で何度も自分を奮い立たせてきた『ノブリス・オブリージュ』の精神。それがただの洗脳の産物ではなく、あの日、実の父親が命と引き換えに遺してくれた**「本物の想い(データ)」**であったことに。

「……父上。あなたの光は、ずっと俺の中にあったのですね」

カイルは、ホログラムに映し出された実父の最期の眼差しを見つめ、静かに、だが揺るぎない決意と共に呟いた。

唇からは血が滲み、白銀の聖剣を握る手は震えていた。だが、その白銀の瞳には、かつてないほどの強く澄んだ光が宿っていた。己の血塗られた過去を、そして実父の無念を、真っ向から受け止めた本物の騎士の顔がそこにあった。

「見届けたぞ。……俺を狂わせ、父上を殺し、その記憶を国のシステムに利用しようとしたあの男の罪を。この記録ログこそが、奴を地獄へ叩き落とす絶対の弾丸だ」

「ああ。あのクソ親父を社会的に、そしてシステムごと完全にデリートするための決定的な証拠だ」

レインは冷徹な手つきで端末を操作し、ホログラムの全データを高速でダウンロード(抽出)した。手元に残った小さな記憶媒体。これには、イグノタフ現当主の破滅と、国の心臓部をも揺るがす特大のバグデータが詰まっている。

「ハッキング完了だ、カイル。とっととこの悪趣味なステージからログアウトするぞ」

レインが端末をポケットに収め、踵を返そうとした――その時だった。

【警告(WARNING)。ルートディレクトリの不正ダウンロードを検知】

【致命的バグの流出を防ぐため――最高位・防衛機構パッチを起動します。対象を、完全に排除デリートします】

無機質な機械音声が空間に鳴り響き、黒曜石の祭壇を囲むように、巨大な魔法陣が五つ同時に展開された。

「……チッ。まあ、重要データを抜いた瞬間にアラートが鳴る仕様おやくそくだよな」

「来るぞ、レイン!」

魔法陣の中から這い出てきたのは、全身を分厚い漆黒の重装甲で覆い、身の丈の倍はある巨大な戦斧を構えた『首無し騎士デュラハン・エグゼキューター』。

一体一体が、これまで戦った防衛システムとは比較にならない、異常な殺気ステータスを放っていた。

「ハッ、ラスボスのお出ましってわけか。上等だ。父上の無念を晴らす前に、まずはこのクソシステム(前座)を片付ける」

カイルは白銀の聖剣と漆黒の魔剣、二振りの剣を交差させ、かつてないほど鋭く澄んだ魔力のオーラを立ち昇らせた。

レインもまた、黒髪を微かに揺らしながら『星空の真理ステラ・トゥルース』を構え、虹色の光を放つ銃口を首無し騎士へと突きつける。

真実の証拠を握りしめた二人の、迷宮からの脱出を懸けた最後の戦いが始まろうとしていた。

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