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【祝1000PV 突発!】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第3章 受難

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閑話:特製アッサムティーの代償

パチパチと煤けた暖炉の火が爆ぜる、隔離された隠し部屋。

死闘を終えて小部屋に逃げ込んだ2人、傷の処置をしたカイルが3階の本格的な探索へ赴く前、2人はこのセーフティエリアで束の間のお茶会を開いていた。

カイルがブリキのマグカップを両手で大切そうに抱え、温かいアッサムティーを一口啜った時、レインが「あー、そういや」と、手元の魔導通信端末を操作し始めた。

「これ以上カイルをハメ殺すシステムに付き合うのも癪だし、ここの隠し部屋を使わせてもらった件、一応持ち主に筋を通しとくか」

レインが他国にいるシエルに向けて通信をかける。数秒のコール音の後、魔導スクリーンに繋がったシエルの姿が映し出された。

画面に現れたのは、透明感のある美しいアメジスト色の髪を揺らし、同じく宝石のアメジストのように瑞々しく輝く瞳を瞬かせる可憐な少女の姿だ。

『あら、レイン? 珍しいわね、あなたから通信をかけてくるなんて。そっちの調子はどう――』

「わりい、シエル。ここの床下に隠してあったお前の最高級干し肉と特製アッサムティー、全部こいつの再起動パッチ代わりに使ったわ」

端末のカメラを、ソファに座るカイルの方へとひょいと向けるレイン。

画面の向こうのシエルは、一瞬だけぽかんと愛らしく口を開けて呆然とした後、またたく間にその白い肌を林檎のように真っ赤に染め上げた。

『ちょっと、レイン!!! わたくしの最高級干し肉と特製アッサムティーを、なんでよりによってあのお高くとまった騎士様に勝手に振る舞ってんのよ! 遠い異国の地で、わたくしがどれだけあの味を恋しがってると思ってるのよ!?』

凄まじい怒気。だが、小柄な彼女が画面の向こうで両手を細い腰に当て、ぷくーっとリスのように不満げにほっぺたを膨らませて怒る姿は、威嚇というよりも小動物の抗議のようでひたすらに愛らしい。怒るたびに、アメジスト色の綺麗な髪のてっぺんの癖毛がぴょこぴょこと跳ねていた。

「いや、これには不可抗力っていうかさ。こいつが床のテクスチャ眺めたままフリーズしてたから、仕様上の緊急措置だよ」

『意味不明な技術屋ハッカー言葉で誤魔化さないで! 鍵を勝手に開けたのはあなたでしょ! もう、レインのいじわる! バカ!』

画面の中で小さな拳をぶるぶると振るって怒髪天を突く勢いのシエルだったが、ふと、カメラの先に映るカイルの姿に目を留めた。

そこには、全身包帯まみれの衣服のまま、借りてきた猫のように小さくなって座っているカイルの姿があった。

かつて学園で「名門イグノタフの天才」と謳われ、常に周囲を見下すような冷徹なオーラを放っていた白銀の騎士の姿は、そこにはない。通信越しに詰め寄られているという前代未聞の状況に、カイルは完全にタジタジになっていた。

カイルは血の気の失せた顔をさらに青くしながら、意を決したように通信画面に向かって深く頭を下げた。

「……申し訳ない、シエル嬢。君が大切にしていたものだとは知らなかった。だが、あの温かい紅茶と肉の旨味がなければ、俺の心核コアは完全に砕け散っていた。……本当に、救われたんだ。一人の騎士の誇りにかけて、この恩と代償は必ず支払う」

『え……?』

ノブリス・オブリージュの精神に目覚めたカイルの、あまりにも素直で、かつ必死な謝罪。

プライドの塊のような男から出た、泥臭くも誠実な言葉に、今度は画面の向こうのシエルが呆気にとられる番だった。

てっきり「平民の分際で無礼な」と一蹴されるか、通信を切られると思っていたシエルは、完全に毒気を抜かれてしまった。それどころか、画面越しでも伝わってくるカイルのボロボロな姿と、それでも必死に背筋を伸ばそうとする実直さに、美しく澄んだアメジスト色の瞳を揺らし、少しだけ頬を染めて気まずそうに視線を彷徨わせる。

『……っ、そ、そんなに真面目に謝られたら、わたくしが意地悪な悪役みたいじゃない。もう,、いいわよ。命が助かったなら、紅茶も本望でしょ』

シエルはふいっと画面の中で顔を背け、少し赤くなった耳を隠すように細い指先で紫の髪を弄った。その仕草は、怒りから一転して恥ずかしがっているのが丸分かりで、たまらなく可愛らしい。

『その代わり! わたくしが帰国したら、購買部の安いもやし炒めパン、レインの奢りで100個ね!』

「おい、なんで俺の財布から金が引かれる仕様になってんだよ。食ったのアイツだぞ」

『当たり前でしょ! 犯人はレインなんだから! ふんだ!』

最後に画面の向こうでべーっと小さく舌を出して通信を切るシエル。

その、距離を感じさせない騒がしくも温かいやり取りを見つめながら、カイルの口元には、これまでにないほど穏やかで晴れやかな笑みが浮かんでいた。

仕組まれた偽物の記憶なんかじゃない。泥に塗れた戦いの果てに掴み取った、この不器用で愛おしい仲間たちとの時間が、今のカイルにとってはどんな玉座よりも価値のあるものだった。

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