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【祝500PV突発!】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第2章 盗掘者達

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第2章・第9話:眩しすぎる騎士

「さあ、私から離れないようにしたまえ! このランタンが照らす限り、君たちの安全は私が保証しよう!」

地下2階層から3階層へと続く、長く暗い螺旋階段。

その先頭を歩くのは、闇夜を照らす魔導ランタンを意気揚々と掲げるカイル・イグノタフだった。彼の足取りには微塵の迷いもなく、マントを翻す姿はまさに絵に描いたような「高潔なる騎士」そのものである。

(それにしても……このランタン、いくらなんでも少し明るすぎやしないかい……?)

内心でそんな疑問を抱きつつも、カイルは顔に出さない。憧れのエレナの前で「眩しすぎる」などと文句を言うのは、貴族の矜持に反するからだ。

その後ろを、レイン、シエル、エレナの三人が適度な距離を保ってついていく。

「……おいシエル。あのランタンの出力、バグってないか?」

「ええ。闇市場で手に入れた最高純度の触媒を組み込んだからね。今、カイル君の周囲には『致死量レベルの魔力ヘイト』が渦巻いているわ。地下3階層の防衛システムからすれば、彼は『超絶に目立つ巨大な的』にしか見えないはずよ」

ヒソヒソと交わされる極悪非道な会話。

カイルがエレナの私物と信じて疑わないそのランタンは、周囲の敵対的魔力ヘイトを強制的に集約させる凶悪なデコイ装備である。

先頭で尋常ではない光を放ちながら歩くカイルの背中を見つめ、エレナは胃が痛む思いで小さくため息をついた。

(本当にごめんなさい、カイル君……。でも、他国のスパイやエネルギー問題なんていう重すぎる真実に、あなたを巻き込むわけにはいかないのです……)

エレナがカイルについた「学園の規律に関わる問題」という嘘は、彼を危険な真実から遠ざけるための、彼女なりの優しさだった。

――だが、現実は彼女の思惑を、ひどく残酷な形で裏切ることになる。

「……待って。止まりなさい」

階段を半分ほど下ったところで、最後尾を歩いていたシエルが鋭い声を発した。プロウォーカーとしての彼女の空気が、一瞬にして冷たく張り詰める。

「どうしたんだい、シエル君? 怯える必要はない、私が――」

「静かに。……血の匂いがするわ」

シエルの言葉に、レインも表情を引き締めた。

あまりにも明るすぎるカイルのランタンの光が、螺旋階段のさらに奥――3階層へ通じる分厚い扉の前の踊り場をくっきりと照らし出す。

そこには、黒い戦闘服に身を包んだ一人の男が、壁に寄りかかるようにして絶命していた。

「なっ……!? なんだ、この死体は!」

カイルが驚愕の声を上げる。

レインとシエルは即座に警戒態勢をとり、死体の元へと歩み寄った。エレナも青ざめた顔で後に続く。

「……レイン、これを見て」

死体の装備を探っていたシエルが、男の懐から見慣れない認識票タグを引きずり出した。それを見た瞬間、エレナの息がヒュッと鳴る。

「そ、れは……東の帝国の……」

「ええ。間違いないわね。他国の諜報員スパイよ。装備の摩耗具合から見て、ついさっきまで生きて活動していたはず」

シエルの言葉に、エレナは言葉を失った。

自分たちがこれから対策を打とうとしていた他国のスパイが、なぜか自分たちよりも先に地下深層へと潜入し、そして――死んでいる。

「おいおい、嘘だろ……。俺たちがハメる予定だった連中が、すでに先回りしてたってことか?」

「おそらく、学園の防衛網の隙を突いて単独で潜り込んだのね。目的は私たちと同じ、3階層の奥に眠る機密情報か、あるいは魔導エネルギーの源泉か……」

レインは眉をひそめながら、スパイの死因を探るためにその体を検分した。

凄腕のプロウォーカーであるシエルでさえ警戒するレベルの、最新鋭のステルス装備に身を固めた工作員。それが、刃物で切り裂かれた痕も、魔法で焼かれた痕もなく、ただ絶命している。

いや、一つだけ。

男の眉間には、恐ろしいほど綺麗な**「小さな円形の風穴」**が空いていた。

「……極小サイズにまで超圧縮された、魔力弾による貫通創。しかも、このスパイが展開していたであろう多重の防御シールドごと、一撃でブチ抜かれてる」

レインの脳裏に、前のループで味わった「理不尽な死」の記憶が鮮明にフラッシュバックする。

音もなく、気配もなく、死角から放たれる不可視の一撃。

「地下3階層の防衛システム……『不可視の狙撃手』か」

レインの呟きに、シエルがゴクリと息を飲んだ。

国家の精鋭スパイでさえ、3階層の扉を開けた瞬間に、相手の姿を見ることもなく眉間を撃ち抜かれて即死したのだ。これから自分たちが足を踏み入れようとしている領域が、いかに常軌を逸した難易度クソゲーであるかを、この骸が雄弁に物語っていた。

「……ひ、ひぃっ……!」

エレナが恐怖で口元を押さえる。スパイの陰謀からカイルを遠ざけるために嘘をついたのに、今まさに、そのスパイの死体と学園の最悪の闇が目の前に転がっているのだ。

だが、そんな緊迫した空気を、全く読まない男が約一名。

「ふん……。どこのネズミかは知らないが、身の程知らずにも我が学園の深淵に挑み、無様に散ったというわけか」

カイル・イグノタフは、スパイの死体を見下ろしながら、鼻で笑ってマントをバサァッと翻した。

彼は相手が他国のスパイであることも、その死因が凶悪な狙撃によるものであることも(あるいは意図的に理解しようとせず)、完全に「格下の盗賊が罠にハマっただけ」と解釈していた。

「エレナ、恐れることはない! この程度の防衛システム、私にかかれば児戯にも等しい。このランタンの光で全ての罠を暴き、私が君を勝利へと導いてみせよう!」

そう言って、カイルは一際強く眩い光を放つランタンを掲げながら、3階層への重厚な扉に手をかけた。

(((あ、こいつマジで何も分かってない)))

レイン、シエル、エレナの三人の心が、この瞬間だけは完全に一つになった。

スパイを一撃で屠る『不可視の狙撃手』。そのヘイトを一身に集めることになる、自ら光り輝くイグノタフ家の大天才。

「……頼もしいぜ、カイル。お前が先頭なら百人力だ」

レインは笑いを堪えるために口元を歪めながら、カイルの背中をポンと叩いた。

「さあ、行こうぜ。クソゲーの始まりだ」

重々しい軋み音を立てて、3階層の扉が開かれる。

圧倒的な死の気配が漂う暗黒の領域へと、極上の「肉の盾」を先頭にした一行は、ついに足を踏み入れた。

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