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【祝500PV突発!】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第2章 盗掘者達

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第2章・第1話:もやしパン

地下書館の「2階」をハメ殺してから、数日が経った。

昼の学園都市は、相変わらず不自然なほどの活気に満ちている。

見上げるほどにそびえ立つ白亜の魔導塔。夜になれば、地下から盗掘された魔導技術を吸い上げて、街灯や移動乗合馬車が煌びやかに街を彩る。これら全てが、一握りの「高位魔術を操る名門貴族」たちの利権によって回っている、歪な魔導階級社会の縮図だ。

そんな街の雑踏を歩きながら、俺は指先に意識を集中させてみる。

「……ふぅ。やっぱり、これが限界か」

肌の表面に、パチパチと火花にも満たない、極々微量な魔力の光がかすかに灯る。

俺には、魔力がないわけではないのだ。むしろ、身体の奥には一般の生徒を遥かに領駕するほどの、膨大でドロドロとした「魔力のプール(質量)」があるのを自覚している。

だが――俺の肉体は、それを体外へ『発動アウトプット』するための回路が完全に焼き切れているかのように、一滴一滴、ストローの先から滴る程度にしか魔力を外へ放出できない。

蛇口の壊れた、超巨大な貯水タンク。それが俺の身体だ。

だから、体外の魔力を感知して駆動する『魔力記述ペン』も、俺の出力ではかろうじてインクが滲む程度にしか起動できない。結果、書けたのは大問3の数式のみで、テストは『19点』という悲惨な赤点。世間一般では、それを純度100%の「無能」と呼ぶ。

(まあ、体外に出せないなら、最初からそこにある『環境の魔力』をハッキングしてハメ殺すだけだけどな)

自分の欠陥を悲観するなんて、とっくにやめている。俺の脳ミソは、すでに今夜の効率的なリソース管理のことで一杯だった。

カラン、と古びたドアベルが鳴る。

放課後、俺が訪れたのは、学園都市の端にある、うらぶれた安アパートの一室だった。

ここにはシエルが、意思疎通の取れない「空っぽの人形」状態のお兄さんを奥の部屋に匿いながら、ひっそりと暮らしている。

「おい、シエル。2階のジャンクヤードで拾った使えそうな廃棄パーツ持ってきたぞ。あと、これ手土産な」

俺は抱えていた荷物と一緒に、購買で買ってきたお馴染みの「もやしパン」が詰まった袋をリビングの机に置いた。……が、そのままその場で硬直する。

「あ、レイン。丁度いいところに……って、ちょっと、ジロジロ見ないでよ!」

そこにいたシエルは、あの学園指定の濃紺のブレザー制服を着たまま、大きな姿見の前で不器用に胸元のリボンと格闘していた。

夜の地下で見せる冷酷な案内人の面影はどこへやら、窓から差し込む陽に照らされたアメジスト色の髪を揺らし、恥ずかしそうにブレザーの裾を引っ張っている。


「……お前、なんでまだその制服着てんだよ。まさか気に入ったのか?」

「違うわよ! バカ!」

シエルは顔を真っ青にして、クッションを俺の顔面に投げつけてきた。

「これは、学園長との『取引』のために、どうしても必要なの!……それに、これでも一応、私の方があなたより『年上』なんだからね!? 20歳の成人女性に制服を着せるなんて、あのタヌキ、本当に悪趣味だわ……っ」

「……は?」

俺は投げつけられたクッションを掴んだまま、パチパチと瞬きをした。

目の前でブレザーを窮屈そうに引っ張っている、華奢で、どう見ても俺より年下にしか見えない美少女を見つめる。

「お前……20ハタチなのか?」

「な、何よその『嘘だろ』みたいな目は! 合法よ! どこからどう見ても、立派に大人のレディでしょ!」

シエルはフンスと胸を張ってみせるが、そのせいでコルセット調のベルトに強調された細いウェストが強調されるだけで、どう見ても背伸びしたい盛りの女子高生にしか見えない。

「いや……あまりにも見えないな。お前、酒とか飲めるのか?」

「の、飲めるわよ! 舐めないで! ……まぁ、苦いから葡萄ジュースの方が好きだけど」

「子供じゃねぇか。ほら、大人ならもやしパン食えよ」

「子供って言うな――って、ちょっと待ちなさいよ。何よこの『もやしパン』って」

シエルは袋から取り出した茶色い物体を、まるで未知の魔導兵器でも見るかのような目で凝視した。

「パンに……味付けした茹でもやしが、これでもかってくらい挟まってるんだけど? ねぇ、これ作った人、正気なの? 炭水化物に水分95%の植物繊維を挟んで何がしたかったのよ。せめて焼きそばとか、お肉にしなさいよ!」

「お前、もやしのシャキシャキ感とソースの染みたコッペパンの絶妙なハーモニーを知らないな? 金のない学生の味方だぞ」

「貧乏人の味方の間違いでしょ……っ。はぁ、一応私の方が年上(お姉さん)なんだから、本当ならもっと上等なケーキでも持ってこさせるべきなんだけど……」

シエルはぷいっと頬を膨らませながらも、お腹の虫の主張には勝てなかったらしく、もやしパンを小さな口でハムっと齧った。

「……シャキ、モグ……。――っ!? な、何これ、悔しいけどソースの塩気ともやしの食感が意外とパンに合うじゃない……。これ、どこの購買で売ってるのよ」

「学園の第3購買。今度また買ってきてやるよ」

「……べ、別に頼んでないわよ(モグモグ)」

口いっぱいにパンを頬張りながらツンとする彼女は、やはりどう見ても背伸びしたい盛りの女子高生にしか見えない。

だが、そんな清楚ぶっている彼女の「致命的なバグ」を、俺のハメ技脳は瞬時に見抜いていた。

「いや、清楚ぶってるのはいいんだけどさ……シエル、お前、胸元のリボンの結び方がまた**『魔導トラップの三重反転結び』**になってるぞ。ってこれ前も言ったっけな」

「っ……!? な、何よ、これしか結び方を知らないんだから別にいいじゃない!」

せっかくの美少女姿なのに、やはり中身はゴリゴリのプロウォーカーだった。正しい結び方の練習をしてたのか?

可愛いところあるじゃねえか。


シエルは顔を真っ青にして、隠すように両手で胸元のリボンを押さえる。その耳の裏まで朱に染まっているのは隠せていなかった。

夜の地下では冷徹に世界を呪っていた彼女が、昼の光の中では、ただのチョロくて可愛い(自称)年上のお姉さんになる。このギャップは、悪くない手札だ。

「まぁいいや。それで、学園長との『取引』って?」

俺が話を戻すと、シエルはもやしパンをモグモグと飲み込み、ハッと表情を引き締め、アメジスト色の瞳に鋭い光を宿した。

「……さっき、学園長の使いの者が来たわ。レイン、あなたに正式な『外地実習(地下調査)』の依頼よ。ついに、あのクソタヌキが動いたわ」

シエルの言葉に、俺のハメ技脳がピキリと歓喜に震えた。

昼の日常はここまでだ。ここから、第2章のハメ殺しの方程式が動き出す。

新章始動!


もやしパンって何ですかね。

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