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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第5章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(後編)

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第5章・第17話:王都を覆う絶対防壁と、交差する熱砂の決意

「行こう、皆。ゼノ殿が繋いでくれたこの道を……今度は私たちが、王都の玉座まで繋ぐ番だ」

グランゲートの薄暗い地下酒場。

カイルは、ゼノが残したタバコの吸い殻が乗った灰皿から視線を上げると、迷いのない足取りで地上へ続く階段へと向かって歩き出した。

その背中は、氷雪都市の城で凍りついていた時とは違う。一度は折れかけた心に、あの不器用な運び屋から託された『真っ直ぐな火』を灯した、本物の騎士の風格を取り戻していた。

「おうよ。武器の排熱機構アップデートもバッチリだ。王都のクソ貴族どもに、極上の鉛玉をぶち込んでやるぜ」

バルドが真新しい冷却管が組み込まれた義手をガキリと鳴らし、愛用の重機関銃を肩に担ぐ。

「ティオも、ゼノ兄ちゃんのぶんも頑張る! 王都の悪い奴ら、全部やっつけちゃうんだから!」

ティオも獣耳をピンと立て、両手に握ったダガーをシャキンと鳴らして意気込んでいる。

皆の士気は最高潮だ。

氷雪都市での過酷な戦いを乗り越え、戦力も心も完全に整った。このまま一気に王都へ攻め込み、偽りの当主を引きずり下ろして大団円――と、普通なら思うところだろう。

「……ちょっと待って、ストップ! ストォォォップ!!」

私は階段を上ろうとする三人の前に慌てて回り込み、両手を大きく広げて通せんぼをした。

「シエル? どうしたんだ、いきなり」

「忘れ物か? それとも、親父の飯が食い足りねえのか?」

カイルとバルドが、きょとんとした顔で足を止める。

「違うわよ! 今このテンションのまま王都に突っ込むのは、文字通りの自殺行為システム・クラッシュよ!」

私は深いため息をつくと、空中に展開していた光のキーボードを激しく叩き、巨大なホログラム・モニターを三人の目の前にスワイプして見せた。

そこに映し出されたのは、現在の王都の全景……そして、街全体をドーム状にすっぽりと覆う、禍々しい赤黒い魔力障壁の解析データだった。

モニターの中央には、真っ赤な文字で『ACCESS DENIED(アクセス拒否)』と強烈な警告文がけたたましく点滅している。

「な……なんだ、この結界は。私が王都を離れた時には、こんなものは無かったはずだが……!」

カイルが息を呑み、険しい表情でモニターを見つめる。

「いい? 私たちが氷雪都市でドンパチやっている間に、王都のセキュリティは完全にイカれたレベルまで書き換えられているの。偽物の当主(システム管理者)は、王都の心臓部である玉座に、世界を構築する根源レベルの『絶対防壁ジェネシス・ファイヤーウォール』を張ったわ。この防壁は、外からのあらゆる物理攻撃も、魔力干渉も完全にシャットアウトする」

「つまり、俺の大砲も、カイルの聖剣も通じねえってことか?」

「ええ。今のままじゃ、かすり傷一つつけられないわ。私のハッキング技術をもってしても、この根源レベルのプロテクトを正面から破るには百年はかかる」

私の言葉に、酒場の空気がスッと冷えた。

「絶対防壁……。では、私たちは王都へ攻め入ることができないというのか? ここまで来て……」

カイルが悔しげに拳を握りしめる。

「攻め入ることはできるけど、ボス部屋(玉座)の扉が絶対に開かないってことよ。……でもね」

私はニヤリと笑い、空中で指をパチンと鳴らした。

「それを強引にこじ開ける『裏口のパスワード(管理者権限)』の在処なら、とっくにリサーチ済みよ」

私が銀の魔導鍵をくるりと回すと、ホログラムの画面が切り替わり、今度は見渡す限りの赤茶けた広大な砂丘と、その中心にある流砂の渦……そして、そこに半ば埋もれるようにそびえ立つ『黒曜石の巨大な扉』が映し出された。

「ここは……?」

「王都の南西に広がる禁忌の砂漠、『迷いの砂丘』の最深部。そこにある【砂漠の書館】よ。この世界の成り立ちの記録アーカイブがすべて保管されている、世界最古にして最大のデータベース。あそこのメインサーバーにアクセスできれば、玉座の防壁を無効化する『真の管理者権限』が手に入るはず」

「なるほど! じゃあ、王都に行く前に、次はそこの砂漠に行けばいいんだね!」

ティオが尻尾を振りながら飛び跳ねた。

だが、私は少しだけ表情を引き締め、仲間たちの顔を真剣な眼差しで見回した。

「それだけじゃないわ。私たちが、どうしてもこの【砂漠の書館】に行かなきゃいけない『本当の理由』……それは、私とカイル、二人の切実な目的に直結しているの」

「俺たちの、目的……?」

「ええ。あの砂漠の書館のメインサーバーには、私の『お兄ちゃんの記憶』が囚われているの」

私が静かに告げると、バルドは「……なるほどな」と小さく息を吐き、ティオは私の服の裾をぎゅっと優しく握ってくれた。

「没落した私の家を救うために無茶をして、旧時代のシステムの深淵に意識を呑み込まれてしまった……世界でたった一人の、大切な家族。ずっと探していたの。お兄ちゃんを助け出す手段を。それが、あの砂漠の書館よ」

私は胸元に手を当て、アメジストの瞳でカイルを真っ直ぐに見据えた。

「そしてカイル。世界最古のデータベースであるあの書館の深部になら、あなたから全てを奪い、王都を裏から操っている『偽りの当主』……イグノタフの野望の全容を示す【決定的な証拠】も、必ず残されているはずよ」

私の言葉に、カイルはハッとして目を見開いた。

王都で暗躍する偽物の当主。彼がどうやってシステムの管理権限を奪い、何を企んでいるのか。王都でお留守番をしているエレナが肌身離さず持っている『USB(特大の爆弾)』と、砂漠の書館に眠る『野望の証拠』。その二つが揃えば、カイルの無実は完全に証明され、王都の腐った盤面は完全にひっくり返る。

「私の兄の記憶を取り戻す旅。そして、カイルの真のバグの正体を暴くための旅。……私たちの目的は、あの書館の最深部で完全に一致しているわ」

私が力強く頷くと、カイルの瞳の奥で、静かな、けれど熱を帯びた決意の炎が揺れた。

「……ああ。君がそこまで覚悟を決めているのなら、私も全力で剣を振るおう。玉座を目前にして足踏みをして倒れるような、無謀な真似はしない。確実に防壁を破り、そして真実を取り戻す手段があるのなら、灼熱の砂漠だろうと地獄だろうと、どこへでも行こう」

「だが、お嬢。問題はその『黒曜石の扉』の開け方だろ? そんな世界の根幹に関わるようなヤバい場所、タダで入れるとは思えねえが」

バルドが腕組みをしながら、現実的な問題を口にする。

「その通りよ、バルド。砂漠の書館は、厳重なプロテクトで封印されてる。……そのゲートを開けるための条件は、世界に散らばる【7本の金のマスターキー】をすべて集めること」

私は胸元に手をかざし、これまでの過酷な旅で集めてきた五つの鍵を宙に浮かび上がらせた。

水、砂、樹、蒸気、そして氷。

美しく輝く五つの鍵が、私の周囲でゆっくりと旋回する。

「私たちは今、5本の鍵を持っている。でも、書館の扉を正規の手順で開くには……後2本の鍵を集めなきゃいけない」

「お前のハッキングで、無理やりこじ開けることはできねえのか?」

「……私の『銀のバックドア』で事象を上書きして強引に開けようとしたら、防衛システム(リバウンド)が作動して、文字通り砂の津波に飲み込まれて生き埋めになるわ。旧時代のシステムを舐めちゃダメよ」

(※昔、一度無理やりやろうとして死にかけたからね……とは口が裂けても言えないけど)

私はコホンと一つ咳払いをして、話をまとめた。

「つまり! 私たちが砂漠の書館を攻略するためには、この灼熱の砂漠地帯のどこかに眠っているはずの『残り2本の鍵』を絶対に見つけ出さなきゃいけないってことよ」

「残り2本、か。簡単じゃなさそうだが、やるしかねえな。よっしゃ、燃えてきたぜ!」

バルドが豪快に笑い、ティオも「シエルのお兄ちゃんと、カイルお兄ちゃんの証拠探し! ティオもいっぱいお手伝いする!」と元気よく声を上げる。

「ありがとう、二人とも。……行こう、シエル。君の兄を救い出し、そして王都の玉座を正すための『最後のピース』を探しに」

カイルが優しく、けれど力強い声で私に告げた。

「ええ! まずは拠点になる砂漠のオアシス都市『アイアン・サント』を目指すわよ。そこでギルドや酒場から、残り2本の鍵の情報を徹底的にハッキング(収集)するわ!」

私は光のキーボードを軽快に叩き、ナビゲーションのポイントを更新した。

雪と氷の地獄を抜け、やさぐれた運び屋の悲しい背中を見送った私たちが次に挑むのは、容赦なく照りつける太陽と、果てしない砂の海。

失われた記憶と、暴かれるべき真実。二つの切実な願いを胸に秘め、王都奪還のための『最後のピース』を求める灼熱の第(砂漠地帯編)が、今ここに幕を開けた。

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