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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第5章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(後編)

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第5章・第13話:解けゆく氷と、温かなスープの宴

マザーシステムが崩壊し、静寂を取り戻したクリスタルの城の最上階。

私は、新しく手に入れたマスターキーである『氷の鍵』を、自らの『銀色の魔導鍵』へとカチャリと接続した。

「それじゃあ、いっちょ派手にデバッグ(大掃除)といきましょうか!」

私は息を大きく吸い込み、アメジストの瞳に青白い演算陣の光を宿す。

狙うのは、クリスタル・フォールの街全体を覆っていた『時間凍結のアーカイブ』の強制解除。そして、ボスのストレージ内に完全バックアップされていた、街の人々の生体データの復元ロールバックだ。

「――【全領域システム復元グローバル・ロールバック】、実行エンター!!」

私が銀の鍵を空へ向けて高らかに掲げた瞬間。

『氷の鍵』から、暖かく、そして眩いほどに優しい「春の陽だまり」のような光の波が放たれた。

パァァァァァァンッ……!!

光の波は城を抜け、絶対零度に凍りついていた硝子の街全体へと瞬く間に広がっていく。

それはまるで、長い長い冬の終わりを告げる魔法だった。

無機質で冷たかった硝子の建造物が、光に触れた端から、元の温かみのあるレンガや木造の家屋へと姿を変えていく。

空を覆っていた分厚い吹雪の雲が晴れ渡り、雲の隙間から、何年ぶりか分からない眩しい朝陽が、雪化粧をした美しい街並みへと降り注いだ。

「すげえ……。氷の街が、元に戻っていくぜ……」

バルドが目を細めて光を見上げる。

「あったかいね、おじさん、カイルお兄ちゃん、シエル!」

ティオが嬉しそうに獣耳を揺らし、暖かな日差しに向かって両手を広げた。

そして――何よりの奇跡が、眼下の広場で起きようとしていた。

ボスのエラーから身を守るため、カイルが苦肉の策で『石化』させていた街の人々。

広場に立ち並んでいた無数の灰色の石像たちが、光の波を浴びて淡く発光し……パリンッ、と薄氷が割れるような音を立てて、本来の色彩と温かな血潮を取り戻していったのだ。

『……う、ん……?』

『ここは……? 吹雪は、どうなったんだ……?』

『お母さん、寒くないよ……!』

数年間の凍結コールドスリープから目覚めた人々が、次々と戸惑いの声を上げながら、自身の温かい手を見つめ、互いの無事を確かめ合って抱きしめ合う。

私たちは急いで城を飛び降り、広場へと駆けつけた。

「みんな……!」

カイルが、弾かれたように人々の輪の中へと走り寄る。

その声に気づいた街の老婆が、信じられないものを見るように目を丸くした。

「あ、あなたは……カイル様? カイル・イグノタフ様ですか……!?」

「カイルお兄ちゃんだ!!」

街の人々が、次々と彼に気づき、わっと歓声を上げて群がっていく。

「ああ……。良かった、本当に……。君たちは、無事なんだな……!」

カイルは、駆け寄ってきた小さな女の子と同じ目線になるように、冷たい雪の上に膝をつき、その小さな手を両手でしっかりと包み込んだ。

彼の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。

「カイル様……あなたが、あの恐ろしい魔物の軍勢から、最後まで私たちを護ってくださったのですね」

「……違う。私は、君たちを石に変えて……長い間、暗闇の中に閉じ込めてしまった。私には、護る力が足りなかったんだ」

カイルが悔恨に唇を噛むと、老婆は優しく首を横に振った。

「いいえ。石になる直前、私たちは確かに聞きましたよ。ボロボロになったあなたが、『必ず助ける、だから少しだけ眠っていてくれ』と、血を流しながら結界を張ってくださったのを。……あなたは、私たちの誇り高き騎士様です」

『ありがとう、カイル様!』

『俺たちの街を救ってくれて、本当にありがとう!!』

街の人々からの温かい感謝の言葉のシャワー。

カイルは子供のように声を上げて泣き崩れ、人々はそんな彼を優しく、本当に優しく囲んで抱きしめた。

「さあさあ、恩人様たち! あり合わせのものしかなくて申し訳ないが、うんと食べて体を温めてくだされ!」

その日の夕暮れ。

凍結から目覚めたばかりの街の広場には、急ごしらえの大きな焚き火がいくつも焚かれ、盛大な「歓迎の宴」が開かれていた。

代表の老婆が満面の笑みで差し出してきたのは、木彫りの大きなお椀になみなみと注がれた『氷見猪フロスト・ボアと根菜のシチュー』だった。

「うわぁ……! いい匂い!」

私はお椀を受け取り、一口スープを啜る。

――美味しいっ!

極寒の地で蓄えられた氷見猪の脂が、口に入れた瞬間にホロリととろけ、濃厚な肉の旨味が広がる。雪の下で甘みを増したカブやニンジンは、噛むほどにホクホクとした大地の味がした。冷え切った身体の芯から、じんわりと命の温もりが染み渡っていくような、素朴だけれど最高のご馳走だ。

「はふっ、ほふっ! おじさん、このお肉すっごく柔らかいよ!」

「ああ、こいつぁたまらねえ。やっぱり戦いの後は、こういう熱々の飯に限るぜ!」

ティオが火傷しそうになりながらお肉に齧り付き、バルドも豪快にパンをシチューに浸してかき込んでいる。

「カイル様、こちらには『雪割茸のバターソテー』もございますよ。昔、カイル様がこの街にいらした時、好んで食べてくださったでしょう?」

「あ、ああ……。ありがとうございます」

少し離れた焚き火のそばでは、カイルが街の女性たちから次々と料理を振る舞われ、すっかり囲い込まれていた。

肉厚の雪割茸が、香ばしいバターの香りを漂わせてジュージューと音を立てている。カイルは少し戸惑いながらも、勧められるがままに一口食べ、その懐かしい味にふっと優しい笑みをこぼした。

「ふふっ、カイルお兄ちゃん、すっかりモテモテだねー」

シチューの底を綺麗に舐めたティオが、ニヤニヤしながらカイルの方を指差す。

「えっ? い、いや、これはただ、皆さんが親切にしてくださっているだけで……!」

「またまたー! さっき、あの可愛いお姉さんから『私たちを助けてくれた騎士様……素敵です』って言われて、耳まで真っ赤にしてたの、ティオ見てたんだからね!」

「なっ……!? そ、それは誤解だ、ティオ! 私は決してそのような不純な気持ちで……!」

カイルは顔を真っ赤にして、両手をぶんぶんと振って否定する。その様子があまりにも真面目で不器用で、周囲の街の人々からもドッと温かい笑いが起きた。

「あははっ! カイル、あんた本当にからかわれやすい性格してるわね」

私はその光景を眺めながら、もう一口、温かいシチューを口に運んだ。

呪われた魔書に操られ、一人で悲壮な覚悟を背負い、冷たい氷の城で凍てついていた彼が、こうして誰かにからかわれ、赤面し、温かい火を囲んで笑い合っている。

そのことが、最高のお宝を手に入れたことよりも、なんだかずっと嬉しかった。

それから数日間。

私たちは、街の人々が長年の凍結コールドスリープから完全に生活の基盤を取り戻すのを手伝いながら、クリスタル・フォールで穏やかな日々を過ごした。

バルドは、崩れた家屋の修繕や、近隣の森に出没する魔物の間引きなど、持ち前の怪力と傭兵の知恵を活かして力仕事で大活躍した。彼が新しい義手で丸太を軽々と担ぎ上げるたび、街の男たちから「すげえ腕っぷしだ!」と感嘆の声が上がっていた。

ティオは、街の子供たちとすっかり打ち解け、雪合戦をしたり、彼女が得意とするサバイバル技術(トラップの作り方や、雪の中での木の実の探し方など)を得意げに教えていた。「ティオお姉ちゃんすごい!」と子供たちに囲まれる彼女の獣耳は、いつも誇らしげにピンと立っていた。

そして私とカイルは、街の魔導設備のメンテナンスや、マザーシステム崩壊後の魔力流の安定化作業デバッグに奔走した。

「シエル、こっちの導力パイプの出力が安定しないんだが……」

「ちょっと待って、今そっちの魔力循環コード(スクリプト)を書き換えるから。……はい、リブート(再起動)して!」

「よし、正常に稼働した。さすがだな、シエル」

カイルとの作業は、驚くほどスムーズだった。

ボス戦での『強制ローカル接続ピア・ツー・ピア』の余韻なのか、言葉を交わさなくても、お互いの考えていることや次の行動が、手に取るように分かる気がした。

作業の合間には、街の人から差し入れられた『ホット・アップルワイン』と、甘く煮たリンゴのパイを二人で頬張った。

サクサクのパイ生地の中から、シナモンの香りと共にトロリと溢れ出す熱々のリンゴ。冷たい空気の中で食べるその甘さは、格別だった。

「……美味いな」

カイルがパイを飲み込み、雪を被った屋根の向こう――高く澄み切った青空を見上げた。

「ああ。こうして温かいものを食べて、空が青いと感じられること。……すべて、君たちのおかげだ」

「何言ってんの。あんたが一人で頑張って、みんなを護り抜いたからでしょ」

私が軽く彼の肩を小突くと、カイルは少しだけ照れくさそうに笑った。

穏やかで、満ち足りた数日間。

氷雪都市での過酷な戦いの傷を癒すには、十分すぎるほどの温かい時間だった。

そして、出発の朝。

私たちは、街の入り口で旅立ちの準備を整えていた。

「本当に、もう発たれるのですか? せめてもう少し……」

街の代表者が名残惜しそうに引き留めるが、カイルは優しく、けれど力強く首を振った。

「ありがとう。ですが、私にはまだ……王都で清算しなければならない『過去』があります。あの偽りの当主を玉座から引きずり下ろし、真の意味でイグノタフの誇りを取り戻すために」

カイルの瞳に迷いはなかった。

彼の腰には、白銀の聖剣と漆黒の魔剣が、主の強い意志に応えるように静かな光を帯びて帯刀されている。

「それに、王都には……私の帰りを、そして私たちの反撃の狼煙を待っている、頼もしい仲間たちがいますから」

カイルが私の方を見て微笑むと、私もニヤリと笑い返した。

「ええ。レインの奴、きっと今頃、私たちがおいしいところを持っていったって悔しがってるわよ。それに……」

私は王都の空がある南の方角を見つめた。

あそこには、あの凄惨な真実の記録(USB)を肌身離さず温めながら、一人で孤独な戦いに備えてくれている気高き風紀委員長がいるのだ。

「待ってなさい、レイン、エレナ。こっちは五つ目の鍵も、最高の騎士の力も取り戻したわ。……特大の反撃アップデートの準備は、バッチリよ!」

私は銀の魔導鍵をクルリと指先で回し、王都へと続く雪道に向かって高らかに足を踏み出した。

バルドが豪快に笑い、ティオが元気に駆け出し、カイルが静かにその後を追う。

長く過酷だった第5章(氷雪都市編)を乗り越えたプロウォーカーたちの歩みは、かつてないほどに力強く、そして温かな絆で結ばれていた。

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