閑話:風紀委員長は怒り心頭ですわ!
学園の最奥に位置する、重厚なマホガニーの扉で閉ざされた風紀委員長室。
そこに、静寂を粉々に粉砕する「バンッ!」という凄まじい机叩きの音が響き渡った。
「これはいったい、どういうことですのーーーっ!?」
ヴァレンシュタイン公爵家の令嬢にして、学園のすべての規律を預かる番人――エレナ・ヴァレンシュタイン。
彼女はコバルトブルーの瞳を吊り上げ、きっちりとした厚手の学園騎士服の胸元――締め付けから溢れんばかりに主張しているその暴力的な爆乳を激しく上下させながら、目の前に並ぶレイン、カイル、そしてシエルの三人をビシッと指差していた。
「カイル君! シエル様! お二人とも、クリスタル・フォールでの決戦、本当にお疲れ様でしたわ! マザーシステムを共闘でハッキングして浄化し、『氷の鍵』という特大のレアドロップまで手にするなんて、プロウォーカーとして完璧なデバッグ(仕事)でしたわね!」
「ああ。感謝する、エレナ」とカイルが真面目に頷き、
「ふふっ、当然でしょ。天才ハッカーと不器用な騎士の最高のコンビネーションだったわ」とシエルが誇らしげに微笑む。
「――ですが!!」
エレナはさらに一歩詰め寄り、その美しい顔をこれでもかと憤慨に染めた。
「その感動的な決戦の裏で、この風紀委員長エレナ・ヴァレンシュタインの出番が! 第5章の後半戦に至るまで、文字通り一秒たりとも存在しなかったのはどういうことですの!? 私は学園騎士団でもトップクラスの実力者ですのよ!? あの『機械の蜘蛛』の足を一刀両断することくらい、私の騎士剣なら朝飯前ですわ!」
レインは冷や汗を流しながら、困ったように頭を掻いた。
「いや、ちょっと待てエレナ。俺だって今回のクリスタル・フォールの氷雪都市戦には参戦してないだろ? 俺もお前と同じで、過酷な寒冷地からはお留守番だったじゃないか」
「レイン君はお黙りなさい! あなたは主人公なのですから、放っておいてもそのうち出番は回ってきますわ!」
エレナはビシッとレインの鼻先を指差し、さらに語気を強めた。
「それに、出番がない間、あなたが学園内で何をしていたか、風紀委員長であるわたくしの目を誤魔化せると思わないでくださいまし! 廊下を『連続前転』という奇妙な動きで高速移動したり、壁の角に向かって延々と走り続けて壁抜け(グリッチ)を試みるなど、風紀の乱れも甚だしいですわ! その上……っ」
エレナは少し頬を赤くし、ほんのわずかに声を上ずらせた。
「あ、あの『いざかや』で、次は『えだまめ』を食べに行こうと約束しましたのに……サブクエだの金策だのと言って、放課後にわたくしを全く誘ってくださらないではありませんか!」
レインは図星を突かれて目を泳がせた。
「い、いや、あれは次章に向けたレベリングと装備強化が忙しくて……って、委員長、まさか俺の奇行をずっと監視してたのかよ……?」
「風紀委員長として、怪しい人物を監視するのは当然の義務ですわ!」
エレナはフンッと鼻を鳴らすと、今度はビシッとシエルの方を指差した。
「そして、シエル様! あなたにも言いたいことがありますわ!」
「えっ、私? 私は今回のクリスタル・フォール戦で、間違いなくMVPの働きをしたはずだけど?」
「そこですわ!! わたくし、後から戦闘の記録を隅々まで確認させていただきました!」
エレナはバンッと再び机を叩き、シエルに詰め寄った。
「カイル君との最終決戦で見せたあの『強制ローカル接続』! 未婚の殿方と心臓の鼓動を同期させて負荷を共有するなんて、破廉恥にもほどがあります! 風紀の乱れですわ!」
「ちょっと、あれは膨大なエラーを処理するための戦術的な――」
「言い訳は聞きません! さらに! カイル君の絶対奥義を囮でやり過ごした直後! 無傷のコートを翻して、心臓が触れ合うほどの至近距離(懐)に飛び込むなど、言語道断! ハッキングなら、清く正しい社会的距離である『2メートル』は離れて実行しなさいな!」
「2メートルも離れたら私の鍵が届かないでしょ!?」
「おまけに『私たちが護りたかったのは、世界だけじゃない。あんたもよ』だなんて……! まるでわたくしが先週生徒から没収した恋愛小説のクライマックスのような、コテコテのヒロイン・ムーブ! どさくさに紛れて、高密度のイチャイチャ空間を構築していましたわね!?」
「ハッカーを恋愛小説家みたいに言わないでよ! あれは本気で命懸けだったんだから!」
顔を真っ赤にして抗議するシエルをよそに、エレナはさらにカイルへと鋭い視線を向けた。
「……そして、そこのカイル君!!」
「は、はいっ」
今度は自分が怒られる番だと悟り、カイルがビクッと姿勢を正す。
「あなたが一人で氷雪都市へ旅立つ前! わたくしの屋敷の私室で、あの惨たらしいホログラム映像を見た後……あなたが『これは特大の爆弾だ。これ以上君たちを巻き込むわけにはいかない』と悲壮な顔で言ったのを、わたくしが『ふざけないでちょうだい!』と強引に奪い取ったではありませんか!!」
カイルは顔を赤くし、気まずそうに視線を逸らした。
「わたくしは! てっきり絶体絶命のピンチに颯爽と駆けつけ、『カイル君のバックアップはここにありますわ!』と、このUSBをシエル様のハッキング端末に突き刺すという大役があるのだとばかり思って、ずっと待機していましたのに! なぜ、現地で勝手にシエル様とピア・ツー・ピアでイチャイチャして解決し、わたくしが張ったこの激熱な伏線を完全に空気にしてしまったのですの!?」
そう言いながら、エレナは自らの胸の谷間から、大切そうにハンカチに包まれた小さな『赤黒い意匠のUSBメモリ』を取り出し、机の上にガァンと叩きつけた。
「す、すまないエレナ……。その、シエルのハッキング技術が私の想定を遥かに超えていて、私自身のハッキングは外部メモリなしでも突破できたんだ……」
シエルがUSBメモリを横からひょいと覗き込み、くすくすと笑う。
「それにエレナ。このUSB、もしかしてずっとあなたの『その豊かな胸の谷間』に挟んで温めていたの? ……正直に言うけど、そんな熱気と湿気に晒されたメモリを私の端末に刺したら、データがショートして別の意味でシステムが暴走していたかもしれないわよ?」
「なっ……!? シ、シエル様! 何を仰るのですか! これは敵の密偵から隠すための、最も安全な絶対領域ですわ!」
顔を真っ赤にして抗議するエレナ。その拍子に、彼女の胸元が「ぷるんっ」と暴力的に揺れ、レインとカイルは同時に慌てて明後日の方向を向いた。
「もう構いませんわ! 出番をいただけないというのなら、この私が、私自身の『完璧で、規律正しく、そしてちょっぴりエレガントな日常』を、皆様に紹介して差し上げますわ!」
こうして、お嬢様にして規格外の強さを誇る風紀委員長エレナの、知られざる「日常パトロール」が、彼女の独白によって明かされることとなった。
エレナ・ヴァレンシュタインの華麗なる日常(朝・着替えの戦い)
私の朝は、午前6時の心地よい目覚まし魔導具の音色と共に始まりますの。
シルクの天蓋付きベッドから優雅に身を起こし、まずはバレンシュタイン家の令嬢として、淑やかなお茶を一杯。
ですが、ここからが「風紀委員長としての過酷な仮面」を被るための、最初にして最大の『戦い』が始まるのですわ。
「くっ……! こ、今朝も、ブラウスのボタンが……っ。お願いですから、これ以上反抗しないで留まってくださいまし……! ふぅ、ふぅ……。あ、危ないですわ、あと数ミリで、私の自慢の胸元がボタンごと弾け飛んで、お部屋の鏡を直撃・粉砕するところでしたわ……」
そう、私のこの、少しばかり豊満が過ぎる爆乳。
普段、学園の騎士制服をきっちりと着用して抑え込んでいるものの、中身の双丘は常に限界突破寸前。あの凛々しい学園騎士服は、私にとっての強固な防御装甲であると同時に、私の胸元が風紀を乱すのを防ぐための『最上位プロテクト(封印)』でもあったのですわ。
学園でのパトロール(昼・仮面と葛藤)
登校後は、毅然とした態度で学園の廊下をパトロールいたしますわ。
生徒たちからは「規律の番人」「氷の風紀委員長」と恐れられていますが、私の脳内は常に葛藤でいっぱいですの。
(毅然と、毅然と歩くのですわ、エレナ。問題児たちに舐められないよう、少しだけ眉間にシワを寄せて、怖い顔を維持して――)
その時、廊下の角から、学園で飼われている魔導子猫がトコトコと現れました。
(――っ!! まぁ! なんて愛らしい……! むにゅむにゅした肉球、ふにゃふにゃの毛並み……! 今すぐ抱きしめて、スーハーと吸い尽くしたいですわぁぁ……!)
ですが、周囲には生徒たちの目があります。私は一瞬で「怖い風紀委員長」の仮面を被り直し、冷徹な聲音を絞り出しますの。
「……こ、コラそこの子猫! 廊下を許可なく徘徊するのは、学園規則第42条に抵触しますわ! 直ちに私の胸の中(あるいは安全な場所)に退去しなさい!」
放課後の自分磨き(素振りとバースト)
放課後、中庭の片隅。
私は騎士服を脱ぎ捨て、動きやすさを意識した『あの居酒屋』でも着用していた、身体のラインに沿うしなやかな生成りのブラウスとフレアスカート姿になりますの。
「――ふぅ。たぁっ! はっ!」
――ゴォォォッ!!!
ただの一振りの素振りが、目に見えるほどの鋭い『真空の刃(風圧)』を生み出し、舞い散る落ち葉を瞬時に十文字に切り裂いていきます。
ですが、私が剣を振るうたびに、ブラウスの薄い生地に包まれた私の双丘が、地上のあらゆる引力を無視して「ユサッ、プルンッ!」と激しく、たわわに揺れ動いてしまうのですわ。
「はぁ、はぁ……。って、あら? ブラウスの脇の縫い目が、また少し裂けてしまっていますわ……。マルタにお願いして、もっと伸縮性のある『魔導ブラウス(胸元補強仕様)』を開発していただかなくては……」
夕暮れの思い出たち
鍛錬を終えて夕暮れの街並みを見つめていると、二つの大切な記憶がよみがえりますの。
一つは、レイン君と二人で行ったあの『いざかや』の記憶。
「時計台の書館で、お尻を執拗に狙う『チューチュー爆弾(♂)』から命からがら逃げ延びた後に赴いた、あのお店……。レイン君と一緒に食べたねぎま、つくね、お出汁たっぷりのだし巻き卵……。でも、私が骨付きの手羽先を一生懸命に食べていた時、レイン君の視線が、ずっと私の胸元に釘付けでしたわ。……も、もしや、私のブラウスのボタンがまた弾け飛んでしまわないか、心配してハラハラしてくださっていたのかしら? ええ、きっとそうですわ! レイン君は私の頼もしい相棒ですもの!」
(※実際はただ単に爆乳の暴力的な揺れに理性を奪われていただけですが、純粋なお嬢様なので超好意的に解釈しています)
そしてもう一つは、王都の夜闇の中、カイル君から『USBメモリ』を強引に受け取った時の記憶。
「『俺の、俺たちの本当の戦いに……力を貸してくれ!』……あの時のカイル君の清々しい笑顔。私はその重みを受け止め、このUSBを文字通り肌身離さず温め続けてまいりましたのよ。いつか、彼の危機を救う切り札になると信じて……」
少し頬を赤らめながら、私は自分の両手で、その凶悪なまでの豊満さを抱え込むようにしてぎゅっと押し潰しました。
「ふふっ。また……レイン君と『いざかや』に赴き、今度は『とりあえず、えだまめ』というものに挑戦したいですわ。そしてカイル君、次こそはこのUSBを、最高に格好良いタイミングで使わせていただきますわよ!」
「いや、中庭で真空刃起こしながら服の耐久性の心配してんのかよ。あと視線の理由は言わせるな」
「そ、それにエレナ。そのUSBはボスのハッキングに使う物理キーじゃない。王都の『真の敵』を引きずり下ろすため、世間に真実を公表するその時まで……引き続き、君に預かってもらいたいんだが……」
不意に、レインとカイルの冷静なツッコミが、エレナの独白の世界を打ち破った。
「なっ、なななな……何を言っているのですか!! 私は厳格なる風紀委員長として、常に学園の風紀と、皆様から預かった『重大な証拠』の運用方法について真剣に考察していただけですわ!!」
自身の大いなる勘違いに気づき、エレナは顔を耳の裏まで真っ赤に染めながら、ふくれっ面で早口で言い返す。
その慌てた動作に合わせて、ブラウスに包まれた豊かな胸元がこれでもかとばかりに「ぷるんっ」と大きく弾んだ。
「(いや、だから、揺れが凶悪すぎるんだって……)」
「(……目のやり場に困るな)」
レインとカイルは同時に慌てて目をそらし、顔を赤くして天井を見つめた。
「――まったく。お嬢様の仰る通り、衣服の耐久性は死活問題でございますね」
不意に、部屋の空気を冷やすような、静かで通る声が響いた。
音もなくマホガニーの扉が開き、そこには完璧な所作で上品なティーセットと「見慣れない衣服」をワゴンに乗せた、初老の侍女マルタが立っていた。
「マ、マルタ!? いつからそこにいらっしゃいましたの!?」
マルタは一切の表情を崩さず、ワゴンの上の衣服――ミスリル銀の糸で編み込まれた頑丈そうなブラウスを手に取った。
「お嬢様がご自身の『完璧でエレガントな日常』を、この部屋中に高らかに独白し始めたあたりからでございます。……お嬢様。ご要望通り、公爵家専属の魔導具職人に急ぎ作らせた『ミスリル繊維編み込み・魔導ブラウス(胸元超装甲仕様)』をお持ちいたしましたが……」
マルタは、真っ赤になって固まっているエレナの胸元を、冷徹な目でスッと見つめた。
「先ほどの怒りによる凄まじい『揺れ』を拝見するに、残念ながらこの試作品ではまだ強度が足りないようです。職人に持ち帰り、さらにもう30%の装甲強化とショック吸収機能を付与するよう命じてまいります」
「マ、マルタぁぁーーーっ!! 何を真顔で恐ろしいことを分析していますの!?」
「事実を申し上げたまでです。それと、レイン様、カイル様、シエル様。うちの不器用なお嬢様が、日頃から大変お世話になっております。……どうか、お留守番で寂しがっていたお嬢様を、次の冒険には連れ出してやってくださいませ」
マルタは優雅に、しかしどこか圧をかけながら三人に深く一礼した。
シエルはたまらず吹き出し、お腹を抱えて笑い始めた。
「あははっ! もう、エレナもマルタさんも最高! 分かったわ。次の大型アップデートの時は、天才ハッカーの私が、風紀委員長様の大活躍する出番をバッチリ書き込んで(プログラムして)あげる」
シエルが銀の魔導鍵をくるりと回してウィンクすると、エレナは少しだけ毒気を抜かれたように俯き、小さく頷いた。
「……ええ。お留守番なんて、私には似合いませんもの。期待していますわよ、シエル様」
絶対零度の硝子都市の戦いも凄まじかったが、学園の風紀委員室にも、また違った意味で「理性がデリートされそうな熱く騒がしい日常」が、確かにそこには存在していたのだった。




