第5章・12話:共有される負荷(ピア・ツー・ピア)
圧倒的な白銀の光が、私の身代わり(デコイ・アバター)を粉々に吹き飛ばしていく。
光の粒子が猛吹雪のように舞い散る中、私は息を殺し、白銀の魔導コートを翻してその致死の光の「内側」へと滑り込んだ。
(……本当に、馬鹿な奴)
カイルの放った絶対奥義は、間違いなく必殺の威力だった。
もし私が【五鍵展開】の影に、自分の生体データをコピーしたダミー・プログラムを仕込んでいなかったら、文字通りデータごとデリートされていただろう。
彼が本気で私を殺そうとしたわけじゃないことは、ハッキング越しに伝わる魔力の揺らぎで、痛いほど分かっていた。
私をこの狂った特異点から「安全にログアウト(退場)」させるためだけに、彼は自分の全存在を懸けて剣を振るったのだ。たった一人で、この凍てつく世界の人柱になるために。
「……すまない、シエル。どうか、これで……」
光の向こうで、カイルが悲痛な声を漏らすのが聞こえた。
その哀しい呟きを聞いた瞬間、私の胸の奥で、システムのエラーなんかよりもずっと熱くて痛い感情が弾けた。
「――ふふっ。甘いわね、カイル。あんたのそのお人好しな性格も、昔のままだわ」
「……なっ!?」
驚愕に目を見開くカイルの正面。
私は彼の懐――その心臓の鼓動が聞こえるほどの至近距離に飛び込み、無防備な胸の装甲へと、固く握りしめた『銀色の魔導鍵』を強く押し当てた。
「シエル!? なぜ、君がそこに……!」
「天才ハッカーの私が、バックアップも用意せずに真正面から殴り合うとでも思った? 囮の裏をかくなんて、プログラミングの基本中の基本よ」
私はカイル hedge を押し当てたまま、アメジストの瞳で彼の虚ろに揺れる目を見つめ返した。
「カイル。あんたは『システムを書き換える反動』で私が死ぬって言ったわね。私ひとりの処理能力じゃ、この巨大な特異点のバグに耐えきれないって」
「そうだ……! だから君は、ここから逃げなきゃいけないんだ!」
「だから、大馬鹿野郎だって言ってるのよ」
私はふっと笑い、銀の鍵から優しい魔力の光を灯した。
「私ひとりのサーバー(脳)で足りないなら。……あんたの持っている演算領域も、私に貸しなさい」
「……え?」
「強制ローカル接続――権限共有、承認ッ!!」
私が鍵の柄を回すと同時に、銀色の光がカイルの胸の装甲を抜け、彼の精神へと直接流れ込んでいった。
それは、相手の精神を破壊するハッキングではない。私の魔力、私の記憶、そして私がこれまでの旅で得た『世界をデバッグする力』の半分を、カイルの魂と直接リンクさせる「同調」のプログラム。
ドクンッ、と。
私とカイルの心臓の鼓動が、システム上で完全に同期した。
「シエル、これは……!」
「膨大な反動が来るなら、二人で半分ずつ処理すればいい。バルドも、ティオもいる。あんたはもう、一人きりで泥を被る『囮』じゃないのよ、カイル」
繋がった回線を通して、私の想いがカイルの心へと直接流れ込んでいく。
彼が一人で抱えていた凍てつくような絶望と孤独が、私の魔力と混ざり合い、温かな温度を取り戻していくのが分かった。
カイルの両手から、ポロリと二振りの剣が滑り落ちる。
彼は崩れ落ちそうになる身体を必死に支えながら、信じられないものを見るように私を見つめ、やがて――その瞳から、大粒の涙をボロボロとこぼした。
「私、は……ずっと……。誰かを、護らなければと……」
「知ってる。でも、私たちが護りたかったのは、世界だけじゃない。あんたもよ、カイル」
私がそっと彼の肩に手を置くと、カイルは子供のように声を上げて泣き崩れた。
呪われた魔書にハッキングされ、狂ったシステムに操られ、それでも誰かを救おうと一人で足掻き続けてきた不器用な騎士。その重すぎる『義務』の鎧が、ようやく音を立てて砕け散った瞬間だった。
「……へっ。まったく、手間のかかるお坊ちゃんだぜ」
「カイルお兄ちゃん、もう一人で泣かなくていいんだよ!」
背後から、痛みを堪えながら立ち上がったバルドとティオが歩み寄ってくる。
私たちは四人で顔を見合わせ、ようやく、本当の意味で再会を果たすことができた。
――だが。
その感動の余韻を、容赦なく切り裂くような『異常なノイズ』が、硝子の城全体を激しく揺るがした。
ジィィィィィィンッ……!!
「な、なんだ!? 地震か!?」
バルドが慌てて身構える。
私はハッとして、クリスタルの城の最上部――吹き抜けの天井を見上げた。
「……マザーシステムよ! カイルが正気に戻り、彼が張っていた『時間凍結のアーカイブ(石化)』の強制ロックが解除されたことで、抑え込まれていた特異点のバグ(暴走)が、完全に目を覚ましたんだわ!」
私たちが空を見上げたその時。
天井を覆っていた巨大な硝子の本棚がメキメキと音を立てて崩落し、その奥の暗闇から、途方もない質量を持った『異形の塊』が姿を現した。
無数の青白いクリスタルの管が複雑に絡み合って形成された、巨大な『機械の蜘蛛』。その中心部には赤黒く濁った巨大な魔力のコアが脈打ち、周囲の空間そのものを文字化け(ノイズ)させながら、ギチギチと不気味な音を立てて降下してくる。
『――不純物。不純物。システムノ維持ニ、人間ハ不要。全テ、消去セヨ』
空間そのものを震わせるような、機械的で無機質な絶対命令。
それが、この美しくも狂った氷雪都市を支配する元凶。クリスタル・フォールの『真なるボス(暴走AI)』の物理的アバターだった。
「なんてデカさだ……! あれが、この街を狂わせたバグの本体か!」
バルドが黒焦げの義手から新しいパイルバンカーの杭をカシャッと装填し、ティオも獣耳を逆立ててナイフを構え直す。
圧倒的な威圧感を前に、私は銀の魔導鍵を強く握り直した。
と、その時。私の横に、白銀の甲冑を纏ったカイルが静かに並び立った。
彼の瞳にもう涙はない。
足元に落ちていた『漆黒の魔剣』と『白銀の聖剣』を拾い上げた彼は、その二振りの剣を、今度は自分自身を傷つけるためではなく、私たちと共に未来を切り開くために強く構えた。
「……行くぞ、シエル。プロウォーカーの二人も」
カイルの声は、澄み切った硝子のように力強く、揺るぎなかった。
「あれは私が倒すべきだった、私の世界の『宿敵』だ。……今度こそ、誰も犠牲にすることなく、すべてを正しい形に直してみせる!」
「ええ。最高のハッカー(私)がサポートしてあげるんだから、絶対にしくじらないでよね!」
カイルの声に応じるように、私の背後で四つの金の鍵が五色の軌跡を描いて高速回転を始めた。
『システム再構築、拒絶。――強制消去光線、照射』
機械蜘蛛の無数の足から、空間を物理的に削り取る赤黒い消去レーザーが一斉に撃出された。逃げ場のない光の豪雨。
「ここは通さん!!」
バルドが叫び、私たちの前に飛び出した。残された左腕と全身の魔力を強引に絞り出し、予備のエネルギー障壁を展開する。
しかし、暴走したボスの出力は、先ほどまでのカイルの比ではなかった。
ビジ、ビジジジッ!!!
「ぐ、あああぁぁぁッ!?」
バルドの悲鳴。赤黒いレーザーが障壁に接触した瞬間、防壁データが分子レベルで「消去」され、すさまじい速度で摩耗していく。盾の強度の減少率が、私の脳内視界で警告の赤に染まる。100%から、一瞬で30%へ。
「バルド! ――『樹の鍵』、構造補強プログラム、割り込み(インターラプト)!!」
私は脳細胞が焼き切れそうなほどの速度で、バルドの障壁に緑色の『再生コード』を流し込んだ。
だが、書き換え速度よりも、消去レーザーの侵食速度の方がコンマ数秒早い。私のこめかみを冷たい汗が伝い、鼻の奥がツンとするような熱に襲われる。限界が近い。
「アタシが、視界を狂わせる!」
ティオがバルドの肩を踏み台にして、弾丸のように虚空を舞った。
「【猟兵奥義・鋼糸縛陣】ッ!!」
ティオが放った十数本のダガーが、蜘蛛の赤黒いカメラアイ(センサー)へと正確に突き刺さる。ダガーに繋がれた鋼糸が一瞬で張り巡らされ、怪物の視界を縛り上げた。
『エラー。感覚ログ、損失。――近接排除コード、自動展開。重力偏向バグ、起動』
だが、ボスはそれすらも予測していた。
機械蜘蛛がキィィィンと不快な電子音を放った瞬間、ティオの周囲の空間の『重力加速度』が不自然に急上昇した。
「きゃっ!?」
見えない鉄槌に叩きつけられたように、ティオの身体が重力に引きずられ、硝子の床へと叩きつけられそうになる。そこへ、蜘蛛の巨大な結晶の足が、容赦なく彼女を圧殺せんと振り下ろされた。
「ティオ!!」
「――行かせるか!」
カイルが地を滑るようにしてティオの落下地点へと滑り込んだ。
カイルは右手の白銀の聖剣と左手の漆黒の魔剣を十字に交差させ、迫り来る巨大な脚を真っ向から受け止める。
ギギギギガガガガッ!!!!
すさまじい金属摩擦音。
重力バグが乗ったボスの物理質量は、まるで山が降ってきたかのようにカイルの白銀の甲冑を軋ませた。カイルの足元の床がメキメキとひび割れ、彼の両腕の関節から不気味な過負荷のスパークが散る。
(カイル、今そっちの重力データを書き換えるわ! 3、2、1……!)
(間に合わん、シエル! 奴は学習している! 私たちの連携を読み切るつもりだ!)
カイルの思考と同時に、機械蜘蛛のもう一本の足が、蛇のようにしなりながらカイルの無防備な脇腹へと突き出された。
死角からの、超高速の刺突。
(――させないっ!! 『砂の鍵』、摩擦係数ゼロ書き換え(ルブリカント)!)
私はカイルの脳に直接、ボスの攻撃軌道を投影し、同時に突き出された脚の先端の床データを一瞬だけ「摩擦ゼロ」に改ざんした。
ツルッ、と蜘蛛の足の軌道がわずかに滑り、カイルの脇腹の甲冑を激しく擦り抜け、背後の硝子柱を粉砕した。
(助かった、シエル! ――だが、まだだ!)
カイルは隙を逃さず、聖剣で蜘蛛の脚を弾き上げると、そのままティオを抱えて後方へと跳躍した。
だが、一難去ってまた一難。機械蜘蛛が、その巨大な質量を活かして、円筒形空間の壁(硝子の本棚)を這い上がりながら、上空から私たちを見下ろした。
『脅威対象、複数。……一括消去シーケンスヘ移行』
蜘蛛の背部から、数十本の赤黒いクリスタル・ランチャーがせり上がってくる。
本棚の蔵書から強制的に吸い上げられた「人間の記憶」が、赤黒い魔力の光となってランチャーに収束していく。かつてこの街で消えた人々、そしてフロストフォールで凍りついた人々の命が、私たちの命を消し去るためのエネルギーへと変換されているのだ。
「あれ、全部消去レーザーだよ……! あんなの、バルドおじさんの防壁でも、シエルのハッキングでも、絶対に防ぎきれない!」
ティオがカイルの腕の中で、血の混じった息を吐きながら叫んだ。
バルドも、融解しかけた左手を抑えながら「クソッ、防壁の予備エネルギーも底を突きやがった……!」と歯を食いしばる。
絶体絶命。
上空から、無数の赤い照準レーザー(ロックオン)が、私たちの全身にびっしりと張り巡らされる。
私の脳内は、処理不可能な膨大な「死の演算」で埋め尽くされ、アメジストの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちそうになった。
(カイル……。私の演算領域を全部、あんたの双剣に流すわ)
私はリンクを通じて、静かに彼に伝えた。
(何を言っている、シエル! そんなことをすれば、君の脳が焼き切れてしまう!)
(いいの。あんたの言った通り、誰かが泥を被るのが『ノブリス・オブリージュ』なら……。私は、私のプロウォーカーとしての意地を通す。……あんたを、もう二度と、一人になんかさせない!)
「シエル……!」
カイルの心から、熱い、燃え盛るような感情が回線を通じて私の魂へと流れ込んできた。
私を失いたくない。みんなと、未来へ進みたい。その純粋で、人間の、美しい「生への渇望」。
カイルの白銀の甲冑から、血の赤ではなく、まばゆい黄金と白銀の光の粒子が、天井に届くほどの柱となって立ち昇った。
私から共有された四つの金の鍵のマスターデータが、カイルの「護りたい」という魂の震えとシンクロし、彼の双剣を黄金の光刃へと変えていく。
カイルは双剣を頭上で交差させ、その場から、重力を置き去りにして跳躍した。
上空で、蜘蛛のランチャーから一斉に『消去レーザーの豪雨』が放たれる。
死の光の滝。しかし、カイルはその光の豪雨を、真っ向から斬り裂きながら突き進んだ。
「これが、みんなと紡いだ……私の、本当の誇りだァァァッ!!」
「――【真なる白銀の絶華・共鳴】ッ!!!」
黄金と白銀の巨大な光の十字架が、虚空を切り裂き、蜘蛛の強固なファイヤーウォール(結晶装甲)へと真っ直ぐに叩き込まれた。
ズドゴォォォォォォォンッ!!!!
世界を揺るがす大爆発。
マザーシステムが誇る最外殻のプロテクトが、カイルの渾身の一撃によって物理的に粉砕され、赤黒いコアがむき出しになって虚空へと晒される。
「今よ、シエル!!」
カイルの叫びに応え、私は白銀の魔導コートを羽ばたかせ、崩落する硝子の破片の嵐をくぐり抜けて跳躍した。
「これで……本当に終わりよ!!」
空中で、私は四つの金の鍵を『銀色の魔導鍵』へと一本化し、それを両手で天へと掲げた。
アメジストの瞳が、システムを強制改変する青白い演算陣の光で染まる。脳細胞が限界を超えたオーバークロックで悲鳴を上げるが――カイルとの同期回線が、その「熱」の半分を優しく肩代わりして、私を支えてくれていた。
だから、何の恐怖もない。
キーボードを叩くように、私は空中に、この狂った世界を救うための最終ハッキングコードを叩き込んだ。
「――【五鍵展開・強制改竄領域・システムデバッグ】ッ!!!」
私の銀の鍵から放たれた極彩色の光の奔流が、むき出しになったボスの赤黒いコアへと突き刺さった。
ジザァァァァァンッ!!!!
光が浸食していく。
赤黒く濁っていたコアのバグデータが、私の強制改竄によって、純粋で澄み切った青白い『正常データ(プログラム)』へと一瞬にして書き換えられていく。
『システム……修正……適用。……暴走状態、解除……』
機械蜘蛛の身体から、不気味な赤黒いノイズがボロボロと溢れ出し、光の粒子となって崩壊していく。
蜘蛛の足が、頭上のマザーフレームが、光の粉となって、まるでキラキラと輝く星屑の雪のように、クリスタルの城の全体へと静かに舞い降りていった。
すべてのノイズが消え去り、絶対零度の静寂を取り戻した硝子の都市。
「はぁっ……はぁっ……」
床に着地すると同時に、緊張の糸が切れて、私は膝から崩れ落ちそうになった。それを、横から力強く支えてくれた手があった。
「怪我はないか、シエル」
「……うん。カイル。あんたのおかげで、最高のデバッグ(仕事)ができたわ」
私は彼の手を借りて立ち上がり、やり遂げた達成感に震えていた。その時、ボスの残骸である光の粒子が、空中の極一点に渦を巻くように集束していくのが見えた。
カチン、と硬質な音を立てて硝子の床に転がったのは、雪の結晶をそのまま鍵の形に削り出したような、息を呑むほど美しい魔導具だった。
「……こいつは驚いた。文字通りの『特大レアドロップ』じゃねえか」
バルドが口笛を吹く。
私はゆっくりと歩み寄り、その結晶の鍵を拾い上げた。手にした瞬間、私の胸元で揺れる金の鍵たちが、新しい仲間を歓迎するように共鳴の光を放つ。
「これ……『氷の鍵』だわ。このクリスタル・フォールの特異点を完全に制御するための、新しい最高管理者権限」
私はアメジストの瞳を細め、手元の『銀色の魔導鍵』をその氷の鍵へとカチャリと繋ぎ、内部のデータをデコードした。
次の瞬間、私の視界に、信じられないほど膨大で、そして温かなデータの羅列が流れ込んでくる。
「……シエル? どうしたの、泣いてるの?」
ティオが心配そうに私の顔を覗き込む。
自分でも気づかないうちに、私の目から一滴の涙がこぼれ落ちていた。
「ううん、違うの。ティオ、バルド……カイル。私たち、やったわ。この鍵の中……マザーシステムが狂って消し去ろうとした、かつてのこの街の住人たちや、カイルが石にして守ってくれた『フロストフォールの街の人々』の生体データが、傷一つない状態で【完全バックアップ】されてる!!」
「本当か!?」
バルドが目を見開く。
「ええ! この氷の鍵を使ってシステムのロールバックを実行すれば、みんな元通りに生き返るわ!」
「やったぁぁぁっ!!」
ティオが歓声を上げ、バルドの腰に抱き着いて飛び跳ねた。
「……シエル」
静かな声に振り返ると、カイルが少しだけ震える瞳で、私と『氷の鍵』を見つめていた。
私は歩み寄り、氷の鍵から「ある一つの小さな光の玉」を抽出して、カイルの胸元へとそっと押し当てた。
「あんたの『忘れ物』よ。ボスのストレージの中に、あんたが旅の途中の魔書に奪われていた『欠損した記憶』も一緒に保管されていたわ」
光の玉はカイルの胸の奥へと吸い込まれていった。
カイルは目を閉じ、静かにその記憶を噛み締めるように立ち尽くした。
かつて王都で共に学び、笑い合った日々。彼が本当に守りたかった、イグノタフの騎士としての気高き誓い。そして、泥だらけになっても決して諦めない、プロウォーカーの仲間たちの姿。
やがて、ゆっくりと目を開けたカイルの瞳には、一切の淀みもない、あの頃よりもずっと強く、優しくなった『彼自身の光』が宿っていた。
「……思い出したよ。私が、誰と約束を交わし、何のために剣を振るうと誓ったのかを。ありがとう、シエル。君は最高のハッカーだ」
「フフッ、当然でしょ。あんたのバグを直せるのは、世界で私くらいなんだから」
私は誇らしげに胸を張り、『氷の鍵』を天へと掲げた。五つ目の権限を手に入れた今、この狂った世界を元に戻すためのピースは、着実に揃いつつある。
星屑の雪が降る、美しい硝子都市で。
私たちは互いに手を取り合い、新しく生まれ変わった世界の光を、静かに見つめていた。




