閑話:『書館のウォーカー』100話突破記念!~敵も味方も大宴会スペシャル~
ここは、本編の過酷な時間軸から切り離されたメタ空間――王都の『時計台の書館』の奥深くにあるとされる、幻のティー・ルーム。
今日ばかりは、現在進行形でシリアスな死闘を繰り広げているキャラクターたちも、因縁を忘れて巨大な円卓を囲んでいた。
レイン:
「さあさあ皆! ついにこの時がやってきたぜ! 俺たちの物語、『書館のウォーカー』が、なんと祝・100話突破だァーッ!!」
パンッ! と威勢よくクラッカーを鳴らすレイン。その頭上から降り注ぐ紙吹雪を、隣に座るシエルが鬱陶しそうに手で払いのけた。
シエル:
「相変わらずやかましいわね、レイン。……でも、100話。思えば随分と遠くまで来たものね。最初はジャンクを集めたり、赤点回避で書館に潜り込んでばかりしていたというのに」
エレナの侍女:
「もうっ! レイン様、いきなり散らかさないでくださいませ! お掃除するのは私なんですからね!」
手早くほうきと塵取りで紙吹雪を片付けながら、エレナの専属侍女がプンプンと頬を膨らませる。そして、一転して優雅な所作でポットを傾け、シエルとエレナの前にティーカップを置いた。
「エレナ様、シエル様、本日は100話記念の特製ハーブティーでございます。どうぞごゆっくり」
エレナ:
「ありがとう。ふふっ、本当に騒がしくて良いパーティーね。100話到達、おめでとうございます。……王都で徹夜ばかりして、通信機越しに泣き言を言ってくる誰かさんのお守りをするのも、中々骨が折れたけれど」
ティオ:
「わぁっ! 100話! ってことは、今日はお肉を100個食べてもいい日なの!? アタシ、お腹ペコペコ!」
マーサ(ティオの母):
「さあさあ、遠慮しないでドンドンお食べ! 100話記念の特製・香草ローストの大盛りだよ!」
厨房から、巨大な肉の皿を山ほど抱えたマーサが満面の笑みで現れた。
「まったくティオ、雪山なんて寒いところでちゃんと食べてるのかい? ほら、バルドさんもシエルちゃんも、栄養つけなきゃ戦えないよ!」
ジン(ティオの兄):
「おいバルド」
マーサの背後から、巨大な刃を背負ったジンが、鋭い目つきでバルドを睨みつけた。
「……雪山で、ティオに無茶させてねえだろうな。もしうちの可愛い妹に怪我でもさせたら、その新しい銀色の腕、根元から叩き斬るって約束、忘れてねえだろうな?」
バルド:
「がははっ! 相変わらずおっかねえシスコン兄貴だぜ! 心配すんな、俺の右腕とシエルのサポートで、ティオには指一本触れさせねえよ!」
レイト・グリッドの大衆酒場のおかみ:
「はいよ、お待ち遠様! 触ると火傷するよ!」
ドンッ! と豪快な音を立てて円卓の中心に置かれたのは、グツグツと黄金色のオイルが煮え滾る巨大な鉄鍋だった。
エプロン姿に、腰には傷だらけの古い魔導コンパスを下げた恰幅の良い女――蒸気と歯車の町で、シエルとバルドが出会うきっかけを作った『鉄錆と真鍮亭』のおかみである。
おかみ:
「100話記念ってことでね、うちの一番人気『羊肉と根菜の蒸気オイルスープ』の特大サイズと、エール・グリッドを持ってきたよ! ほら、お嬢ちゃん。あの時、時計塔が暴走したせいで最後まで食べられなかっただろ?」
シエル:
「ふふっ、おかみさん。来てくれたのね。……ええ、あの時はおかみさんの特製スープを台無しにされた上に、チンピラに絡まれたり、時計塔の暴走を止めに行かされたりで散々だったわ」
おかみ:
「あっはは! あの時は私も、まさかウチの可愛いお客さんが時計塔のセキュリティを三分でぶち抜くなんて思わなかったよ! さすがは現役のプロウォーカーだ。もし今日もセクハラまがいのチンピラがいるなら、アタシがこの鋳鉄製のフライパンで股間ごと叩き割ってやるから言いな!」
おかみが肩に担いだ巨大なフライパンをぶんぶんと振り回すと、なぜか円卓の隅でちままり返っていた男たちがビクッと肩を震わせた。
ヴェイン:
「……ひっ! い、いや、俺は別にセクハラなどしていないぞ……! ウッド・ベースの樹層街で部隊を率いて襲撃しただけだ……!」
ガルドス:
「俺もだ……! むしろ俺たちイグノタフの特務部隊は、毎回シエルたちにハッキングでボコボコにされて、挙句の果てには自警団の牢屋にぶち込まれるという散々な扱いを受けているんだぞ……!」
円卓の隅の『悪役席』で、全身包帯だらけのヴェインとガルドスが、小さくなってエール・グリッドをちびちびと飲んでいた。
マーサ:
「ほら! 悪役のあんたたちも、そんなところでウジウジしてないで野菜をお食べ! 悪さを企むのは栄養が偏ってる証拠だよ!」
ヴェイン&ガルドス:
「は、はいっ! いただきますっ!」(マーサの迫力に負けてサラダを掻き込む二人)
バルド:
「がははっ! さすがのおかみさんたちには、侯爵家の特務部隊もタジタジだな! こいつは痛快だ、酒が進むぜ!」
バルドが琥珀色の蒸留酒を豪快に煽る。
そんな大騒ぎの円卓の端で、一人だけ肩をすぼめて完全にフリーズしている『白い騎士』がいた。
カイル:
「…………その、なんだ。おめでとう、シエル。そして読者の皆様……」
シエル:
「あら。ずいぶんと声が小さいわね、カイル。本編じゃあんなに堂々と、問答無用でフロストフォールの街ごと黒焔で焼いて、罪のない人たちを片っ端から石化させている『修羅』のくせに」
ティオ:
「そうだそうだー! アタシたち、今すっごく過酷な雪山を歩かされてるんだからね! フロストフォールの町の人たちをあんな目に遭わせて、カイルのバカヤロー!」
ジン:
「……おい白騎士。本編でうちの妹に石化の波動でも当てようモンなら、お前のその聖剣ごと微塵切りにしてやるからな。覚えとけ」
カイル:
「うっ……! そ、それは……いや、弁解の余地はないな。本編での私の凶行は、もはや取り返しがつかないレベルに達している……。洗脳が解けたばかりだというのに、なぜ私はあんな鬼畜の所業を……っ!」
頭を抱えてテーブルに突っ伏すカイル。その生真面目すぎる背中を、エレナと侍女がポンポンと優しく叩いた。
エレナ:
「ほらカイル、落ち込まないの。あれは『そういうお話の展開』なのだから仕方ないわ。私とレインで苦労して洗脳を解いたんですから、今日はもう少し胸を張りなさい」
おかみ:
「そうさ! 敵だか味方だか、修羅だか知らないが、今日は無礼講だ! あの堅いパンをこのオイルに浸して食ってみな、悩むのが馬鹿らしくなるくらい『生きてる』味がするからよ!」
カイルの前に、湯気を立てる羊肉のスープと、並々と注がれたジョッキがドンッ! と置かれた。
カイル:
「あ、ありがとう……。君たちの温かさが、今の私にはひどく沁みる……」
(ズズッ、とパンを浸したスープをすすり、少しだけ涙ぐむカイル)
レイン:
「まあ、色々あるが! かつて出会った大先輩のウォーカーや、手強い敵たちまで集まってくれて、本当に賑やかなパーティーになったな! これもすべて、画面の向こうで俺たちのバグだらけの旅を見守ってくれている、読者のみんなのおかげだ!」
ティオ:
「みんなー! いつも応援ありがとう! お母さんとお兄ちゃんにもらったナイフで、これからもアタシ、いっぱい活躍するからね!」
バルド:
「おう! 次はいよいよ絶対零度の死地、クリスタル・フォールだ。俺たち大人組の渋い見せ場にも期待しててくれよな!」
エレナ:
「王都側の暗躍と、私たち情報班のサポート戦線も、まだまだこれからが本番です。引き続きお楽しみくださいね」
カイル:
「……次にシエルたちと相見える時、私は最大の壁として立ちはだかることになるだろう。……手加減はしないぞ、シエル」
カイルがようやく顔を上げ、かつての仲間としての、そして今は敵対する修羅としての鋭い視線を向けた。
シエルは新しい白銀の魔導コートのファーに顔を少しだけ埋め、不敵な、けれどどこか嬉しそうな笑みを浮かべた。
シエル:
「ええ、望むところよ。どんな絶望的な物理バグだろうと、私がすべて書き換えて(ハッキングして)みせるわ。……というわけで皆様、ここまでのお付き合い、本当にありがとうございます」
シエルが『銀色の魔導鍵』をかざすと、空間に青白いホログラムで 【Thank you for 100 Episodes!!】 の文字が色鮮やかに浮かび上がった。
シエル:
「私たちの旅は、世界の真実へ向けて、これからもっと過酷に、そしてもっと騒がしくなっていくわ。どうか最後まで、このパーティーの軌跡を見届けてちょうだいね!」
夢から始まった物語がここまで発展するとは思いもしませんでした。
みなさまに感謝を。
まだまだ続く物語をお楽しみに!




