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【祝2000PV 1000UA達成⭐︎】書館のウォーカー   作者: ジョニ男
第5章:星詠みの旅路 ―七つの金の鍵(後編)

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第5章・第6話:白銀の導き手と、氷壁の休息

スノウゲートの頑丈な防壁を背に、正規の街道から外れて険しい山嶺の「獣道」へと入ってから、すでに数時間が経過していた。標高が上がるにつれ吹雪は狂暴さを増し、吹き付ける雪片が礫のように三人の防寒具を叩く。

「――こっちだよ! 風が岩肌にぶつかって弱くなるところを狙って進むの!」

赤い毛糸のイヤーマフを揺らしながら、ティオが猛吹雪の中で声を張り上げる。

フロストフォールでの凄惨な光景に一度は心を折られかけた少女だったが、今はその琥珀色の瞳に確かな光を取り戻していた。飛空猟兵の『見習い』として、兄のジンや両親から叩き込まれた雪山知識と、獣人特有の驚異的な野生の勘。それらを総動員し、数メートル先すら白い闇に閉ざされた世界を的確にナビゲートしていく。

しかし、自然の猛威は容赦なく彼らの体力を削っていった。あまりの視界の悪さと突風の強さに、シエルが「一度、足を止めましょう」と進言する。

「この先に、猟兵が緊急用に使う小さな岩穴があるはず……あ、あった! みんな、こっち!」

ティオの誘導で、一行は切り立った氷壁の裂け目にある、小さな洞穴へと滑り込んだ。

中へ入ると、狂ったように吠え盛る風の音が遠のき、一瞬にして静寂が訪れる。

バルドはリュックを下ろすと、すぐにシエルが購入した『携帯型・熱源結界の魔石』を洞穴の中央に設置した。パチパチと淡い赤色の魔力光が広がり、洞穴内の空気がじんわりと暖まり始める。

「ふぅ……生き返るぜ。こいつはいい魔道具だ」

バルドが胡坐をかき、艶消しの黒と銀に覆われた重厚な義手――『寒冷地仕様スノウ・カスタム』をさすった。改修された魔力シリンダーからは微かな駆動熱が絶え間なく放たれており、関節のオイルが凍りつく気配は微塵もない。さらに、シエルから渡された極厚の獣毛の腰巻きが下半身をしっかりと温めているおかげで、踏ん張り続けた下半身の疲労も劇的に軽減されていた。

シエルも白銀の魔導防寒コートのフードを外し、深く息を吐いた。膝丈まである厚手のコートは、吹き付ける絶対零度の風を完全にシャットアウトし、首元の白いファーが彼女の華奢な身体を優しく守り抜いていた。

「ティオ、これを飲みなさい」

シエルがトランクから取り出したのは、保温容器に入った温かいハーブティーと、高濃度の『凍傷回復ポーション』だ。

「ありがと、シエル……!」

ティオは両手でカップを受け取り、ふうふうと息を吹きかけながら喉を潤す。まだ猟兵見習いの身でありながら、過酷な雪山の先頭に立ち続けた彼女の頬は赤く凍えていたが、温かい飲み物が染み渡るにつれ、ふにゃりと表情を緩めた。

「ティオ、よくやった。お前が大した導きウォーカーじゃなけりゃ、今頃俺たちは遭難して雪だるまになってたところだぜ」

バルドが大きな手で、赤いイヤーマフの上からティオの頭を優しく撫でる。

「えへへ……。アタシ、まだ見習いだけど、これくらいできなきゃジン兄ちゃんに怒られちゃうもん。……それに、アタシがみんなを案内して、クリスタル・フォールに連れて行かなきゃいけないんだから!」

ティオはカップを握りしめ、強い決意を込めて言った。その健気な姿に、シエルはハーフ・フィンガーグローブに包まれた手で、そっとティオの肩を抱き寄せた。

「ええ。あんたのナビゲーションは完璧よ。……少し身体が温まったら、出発しましょう」

数十分の休息を経て、体力を完全に回復した三人は、再び洞穴の外――絶対零度の白銀世界へと足を踏み出した。

洞穴を出て、さらに険しさを増す岩場を登っていた時のことだった。

「……みんな、止まって!」

不意に、ティオが鋭く叫び、サバイバルナイフの柄に手をかけた。赤いイヤーマフの下の獣耳が、ピクピクと何かの音を捉えて激しく動いている。

「上から来る! 吹雪に紛れて、アタシたちの匂いを狙ってる!」

次の瞬間、三人の頭上を覆う雪の急斜面が、爆発したかのように激しく弾け飛んだ。

凄まじい雪煙の中から姿を現したのは、氷の結晶でできた無数の足を持つ、全長十メートルを超える巨大な魔獣――**『氷殻の大百足フロスト・ギガペード』**だった。その外殻はクリスタルのように透明で頑丈であり、猛吹雪の白に完全に同化していた。

「チッ、こんな険しい獣道にまで、こんな化け物が潜んでやがったか!」

バルドが即座に前に出ると、足場を固めて盾を構えた。腰巻きのおかげで冷えによる衰えはなく、完璧な踏み込みだ。

大百足が鋭い氷の爪を振り下ろし、バルドの盾へと叩きつける。

ギィィィン!!!

凍てついた金属音が響き渡るが、バルドの義手はビクリとも揺るがなかった。

「へっ、この寒冷地仕様をナメるなよ! パワーの低下も一切ねえ!」

バルドはシリンダーを爆発的に駆動させ、パイルバンカーの杭を大百足の強固な氷殻へと打ち込んだ。凄まじい衝撃波が走り、大百足の巨体が大きくよろめく。

「ティオ、今よ!」

「任せて!」

シエルが銀の鍵を掲げると同時に、ティオの足元に跳躍力を爆発的に強化する『加速陣』を展開する。

ティオは雪原を爆音とともに蹴り上げると、見習いとは思えぬ俊敏さで、弾丸のような速度で大百足の頭上へと舞い上がった。

「ジン兄ちゃんのナイフ、ちゃんと役に立ててみせるんだから!」

上空で体を反転させたティオは、兄から託された鋭いサバイバルナイフを、大百足の唯一の弱点である眉間の魔力コアへと真っ直ぐに突き立てた。

ガギィィン! と硬質な音が響き、分厚い魔獣の皮をも切り裂くその刃は見事に氷の結晶を粉砕し、コアを的確に貫通する。

キシャァァァッ!!!

大百足が短い悲鳴を上げて激しくのたうち回る。

逃がさない、とシエルがアメジストの瞳を冷徹に光らせた。

これまでのシエルなら、空間にホログラムのキーボードを展開し、指先を躍らせてシステムに干渉していた。しかし、四つの金の鍵を統合し、世界のシステムそのものの全容コードに近づきつつある今の彼女に、そのプロセスはもう必要なかった。

シエルは瞳の奥で、猛烈な速度の『脳内演算』を開始した。視界に映る魔獣の構造式が、一瞬にして数式へと解体されていく。露出した指先が、ただ『銀色の魔導鍵』の柄を強く握りしめた。

「――システム強制干渉。対象の構造式エレメントを一時解凍」

シエルが静かに呪文コードを紡ぎ、魔導鍵を大百足に向けて一閃させる。

キーボードを叩く動作すらなく、鍵の先端から放たれた目に見えぬ演算の波動が魔獣のシステムへと直接割り込んだ。次の瞬間、大百足の頑丈な氷の身体は、まるで熱湯を浴びせられたかのようにドロドロと一瞬で融解し、ただの冷たい水となって雪原へと流れ落ちていった。

「ふぅ……。完璧な連携ね。二人とも、怪我はない?」

シエルがコートの裾を整えながら、鍵をトランクへと収める。

「おう、どこも異常なしだ。義手も腰も、驚くほど温かいままだぜ」

「アタシも平気! イヤーマフのおかげで、耳が痛くならなくてすっごく動きやすい!」

ティオが満面の笑みでイヤーマフをポンポンと叩く。過酷な環境と戦うことで、彼女の見習いとしての成長と仲間への信頼が、その心を完全に温め直していた。

「……良かった。でも、安心するのはまだ早いわよ。見て」

シエルが指し示した先。大百足が飛び出してきた雪山の尾根の向こう側――。

猛烈に吹き荒れる地吹雪の隙間から、ついにそれは姿を現した。

そこにあったのは、空を突くほどに巨大な、半透明の『魔力防壁ドーム』だった。

青白く、不気味な光を放ちながら、北の最果ての地を完全に隔離している古代魔導文明の遺産。その防壁の奥には、うっすらとだが、氷で造られたかのようにそびえ立つ無数の塔の影が見えていた。

「あれが……世界の魔力を吸い上げる特異点」

バルドが声をひそめる。

「ええ。氷雪都市『クリスタル・フォール』……。世界のバグの、本当の始まりの場所よ」

シエルは白銀の魔導コートの襟をきゅっと引き締め、五つの鍵が連なったリングを強く握りしめた。その防壁の向こう側で、カイルが、そしてイグノタフの影が何を待っているのか。

プロウォーカーたちの歩みは、ついに世界の真実を隔てる、最後の門へと到達しようとしていた。

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