第17話 世界の攻撃、初めての代償
放課後の帰り道、空は異様に低く、灰色に沈んでいた。
風は冷たく、木々の葉を容赦なく揺らす。
――何かが、動き始めている。
俺は無意識に妹の手を握りしめた。
「お兄、どうしたの?」
その小さな声に、心臓が跳ねる。
守らなきゃ。守らなきゃ、絶対に。
◆
最初の“異変”は、駅のホームで起きた。
人混みの中、妹が足を止める。
「……あれ?」
視線の先には、誰もいないはずの黒い影。
一瞬、心臓が止まった。
世界が“そこ”に干渉している。
――俺を、妹を分けようとしている。
「大丈夫?」
声をかけるが、言葉は届かない。
空気が重く、呼吸が浅くなる。
腕が震え、手の感覚が薄れていく。
それが、最初の代償だった。
0.02%の希望を生きる代償。
身体の一部が、確実に“薄れる”。
意識がわずかに霞む。
◆
帰宅後、机に座る。
ペンを握る手が震えている。
紙に文字を書くと、インクが滲む。
書き直そうとしても、文字は勝手に歪む。
――世界が、干渉している証拠だ。
「俺が……何をしても、止まらないのか?」
小さく呟く。
答えは、机の上の時計にも、カーテンの揺れにも、空気の厚みにも、すべてに現れていた。
◆
夜、妹の部屋の前で立ち尽くす。
彼女はまだ笑っている。
無意識の平穏を保とうとしている。
だが、世界はもう、その平穏を脅かしている。
0.02%の未来を生きるためには、
俺は動かなければならない。
でも、動けば動くほど、代償は積み上がる。
――存在感、体力、意識の微細な部分まで。
昨日まで感じなかった、胸の奥の冷たさ。
それは、世界が俺の“踏み込み”に反応している証拠だった。
◆
ベッドに横になる。
手が震え、息が浅い。
文字通り、体の一部が“消えかけている”感覚。
でも、妹は生きている。
生きている限り、俺はまだ戦える。
瞼を閉じると、暗闇の中で声が聞こえる。
「お兄……?」
夢か現か、妹の声。
守らなければ、消えてしまう。
――0.02%の希望は、決して安泰ではない。
踏み込むほど、世界は本気で“削りに来る”。
そして俺は、まだその代償の全てを理解していない。
明日、どこまで踏み込めるのか。
その答えは、明日にならなければ分からない。




