フォリア教団
ルクティは宿に向かうルシードの背中が見えなくなった後、露天でマジックアクセサリーと魔法薬を売る準備を始めた。
紫のフードをかぶり顔を隠し、手に持った魔法書の暗記に勤めながら、露天商を始めた。
ルクティは集中力を持続することにだけ注意して、本をめくっていた。通りからの視線は無視した。
人が立ち止まることも少なかった。やっと声をかけてきた最初の男は客ですらなかった。
「ここで商売するには……」
男は言いかけて、商品に気を取られた。
「何を扱ってんだこれは?」
ルクティは書物に集中してたかったので、煩わしそうに返答した。
「薬です。ものによっては危険ですから。手にもつ際には気を付けて。」
「ともかく、ルールに従ってもらおう。売り上げの一部を納めてくれ。
それさえ守れば、もっといい場所を教えてもいい」
「いつからそんなルールができたのですか?」
「いつから、いくらで、なんで、とかそっちの疑問は関係ないな。お嬢さん。物分かりはよろしくないようだな」
男は恐喝の一歩手前でとどまっていた。ルクティの装いから魔術関連の人物と察して用心していた。
一方でルクティの方は食料を買って帰るためにも収入が必要であった。
ルシード様がいてくれ方がよかったのだろうか?いまごろ寝てるだろうけど。
「分かりましたよ。とりあえず仲間と相談しにいくんで。商売はやめます」
「それでは今日売れた分を払ってからだ」
「まだ何も売れませんでしたから」
ルクティはさっさと引き上げた。露天商をやったのは気分にすぎなかった。もとよりメインは富裕層への訪問販売だったのだ。そこではこんな場末とは違った変わらぬ秩序が保たれているとルクティは信じていたが、そうではなかった。
この町で一番大きな屋敷の一家はかつては、徳のあるとされ、立派で町人からも支持され模範とされていたが、今はでその家は賊の巣窟になっていた。
この町の富豪の商売はほぼ独占的な宿泊施設とわずかな観光客への土産物を売っていた、
組合も商会もなく、賊はそこにつけこんで、商売と屋敷を含めて安く買い取りたいという申し出をした。
話にならぬ値段だったので、断ったのが始まりで、様々な恐喝と嫌がらせが始まった。
町人の買収、分断工作などもあって、富豪はとうとう商売と屋敷を受け渡し、それとともない町の秩序も賊の支配をうけることになった。
富豪の一家はいまだ屋敷に住んでいるらしかったが、表に出てくることはほとんどなかった。
町人が何より恐れていたのは、怒号を飛ばし暴れまわる盗賊ではなく、夜中にひっそりと町を徘徊し
白い肌に充血した眼のもの言わず機械のような人間のほうだった。彼らはそれを<兵隊>と呼んでいて、一目見ただけで逃げ出したくなるほどの異様さであった。
どこから連れてきたかもわからない人の形をした何かであったが、
富豪の夫婦もかつての愛想のよさが消えうせ、徐々にそのようなものになり果てていること町人は気付いていた。屋敷で何かが起こっているのだ。町人は皆口を閉ざし耳と目を塞いで、災いが通り過ぎるのを願った。しかし、フォリア教団という言葉が聞こえたり、富豪の4人の子供たちも姿がめっきり見えないことなどは、誰もが見知っていった。
ルクティは何も知らず、富豪の屋敷の門をたたいて中に入っていった。
ルシードは夕闇が迫ってきたころになってようやく体の調子を取り戻し活動できる状態になった。
ルクティはいまだに帰ってきていないことがきがかりで、思案していた。
宿の取違いの可能性はありえない。町に来るときは毎回この町で一番大きな宿であったからだ。
自分を残して一人でどこかへ行った可能性はありうる。
そもそも、生まれ育った村と家族を捨ててまで男を追いかける奴だから、何か手掛かりがあればそれに飛びつくだろう。
または、トラブルに巻き込まれている可能性……。
さっきから奇妙な感じがする。この町は以前とは何かが変わったようだ。
ルシードは昼間とは打って変わって颯爽とフード付きローブ纏い短剣をつかんで部屋を飛び出た。
ルシードは降りていって宿の宿直に聞きたいことをストレートに問いただした。
最近の町の変化について、夜の町になにかあるか、露天商の女を見たか、薬の訪問販売人が行きそうな場所は。宿屋の若い番頭はこの尊大な態度の男にいくらかの反感を持ったが、親切心をもって聞かれたことに答えた。
「今は屋敷には誰も近づきません。主人は商売を受け渡しちまったんです」
「それで今この町はやくざ者どもの食い物にされているわけだな。つい3か月前にも来たときはそんなことはなかったとおもうが」
「二月ほど前からです。旦那ここが大事なとこですが、ただのやくざなんてなまやさしいものじゃないですぜ。フォリア教団とかいう魔術がらみの宗教狂いが裏にいて、夜分なにかしらないけど活動しているようなんです。」
ルシードは血相をかえた。カウンターの机を思いっきり打ち鳴らして叫んだ。
「フォリアだと!!!」
「旦那、たのみますから静かに」
番頭がしーっと手を前にもっていき、きょろきょろと誰かに聞かれてないか気にしだした。
「その薬売りの子も屋敷に売りに行ったんじゃないですかね」
ルシードは心臓の鼓動が速くなっていくのを感じながら、宿から飛び出し、ローブをなびかせ屋敷に向かって疾走した。
まさかこんな形でフォリアの尻尾をつかむとは、しかし今はルクティ無事でいてくれ。




