大悪党
ミクセルが手に入れた新たな力は散弾銃のように魔力の弾を打ち放つ、殺しのための魔法だった。
ガーゼン市で盗みと不渡手形詐欺でできる限り小金をかせいでから脱出。その間に一人の守衛を撃ち殺していた。このときはまだ<散弾>の力に半信半疑だったため、本人的には運の悪い暴発のような気がしていた。
ミクセルはまた女神の夢を見た。
夢の中でミクセルはようやく女神の前で全身をひれ伏して、仰ぎ見る機会を得て、喜びでいっぱいになった。眼鏡の女神はミクセルに語る。
自分を悪人だと思うか?
わかりません、女神様。
自分を明かすことを望み続けてきた。それならば証を建てるがいい。
悪人と思うならば100人殺せ。善人だと思うならば100人救え。
どちらせよ難しいことだ。
ミクセルはその言葉の意味を考えていたら夢想が少しづつ現実に後ずさりして、気付いたら目が覚めていた。
彼はこの<散弾>の力を女神からの贈り物だと思い。それを使って自身の人生を変えるのが、女神への礼儀だと思っていた。そこで、強盗殺人者になることにしたのだ。
ホルカの町にいってみても、金になりそうなものを持つ家は見つけられなかった。
条件は簡単に言えば<散弾>の音が轟いても助けが来ない孤立した場所で、金をしこたま持った家だったが、ホルカにはそれがなかった。
それでガーゼン市まで戻ろうかとおもったが、最後に耳寄りな情報を聞いてやはりガーゼン市に行くのをやめた。それはこういうものだった。
ガリル湖の向こう側な山間にある閉ざされた平地に、魔術師がすんでいる。そこの屋敷には金銀財宝と取り換えられる貴重品がたくさんあると。
魔術師は最近死んで若い女の徒弟が代わりに住み着いているらしい。その地には人食いの魔獣がうろついているので、盗人もお手上げらしいと。
それを聞いたミクセルはすぐに運命の導きに従った。そこに行くのが俺の道だ。そう確信があった。
僕は戦果を挙げた若い英雄ということで、ホルカからフスコット方面へ行く荷台にのせてもらっていた。
牛がノロノロと荷台を引っ張る。歩くよりは少し早い程度だった。
荷台がとまった。人の好いご主人だから、客が増えるのだろうと思った。
やはりそうで、中年のがっしりと肩幅の広いが背が低い男が荷台に乗り込んできた。
相手は、やあといった。
身なりはかなり貧相で野良犬を思わせるような雰囲気で、話をしたい気はしなかったが、
意外なことに相手は僕のことを知っていた。
「おまえ、ロイだろ」
「ええ、どうしてわかったんですか」
「別に何でもねえことだ。ガーゼン市の戦勝式典をみてたんだ。」
「そうでしたか。」
「会えてうれしいよロイ。俺はミクセルっていうんだ」
相手が握手を求めてきたので、断る理由がなかったので応じた。しかしなにか違和感があった。
歳も身分も違いすぎたため、話はあまり噛み合わなかったが、彼は気にしてないようにペラペラしゃべり続けた。僕は聞き手に徹したが、あるとき魔力についての話が出てきた。
「魔法が使えるやつは、神に選ばれたものだけだ」
「そうですね。誰か魔力を持つ人に会ったことあるんですか?」
「ロイ、おまえがそうだろ?」
さっきから、彼はぜんぶ彼の思い通りに事が進んでいるとおもっているような、少し浮かれた感じが受けた。
ミクセルさんは僕を凝視していた。まるで僕が魔力がある点が一番の関心事かのようだった。
「得難いものだ。それゆえに神に運命を与えられていると思う」
「戦争で僕の魔力のある友人は死にましたし、敵も殺しました」
「運命というより指令だな。絶対にそれを達成しなければならないというようなそいういう直感があるとおもう。死んだ友達や敵はそれがなかったんじゃないのか。逆にお前にはそれが在った。」
「まるでミクセルさんが魔法使いみたいですね」
ノンデリかもしれないが、メリィのことを言われると黙っておけなかった。彼女はしたいことがたくさんあったはずだ。
「もちろん俺はそうじゃない。けちな風来坊ってところかな。」
魔力の有無でラインを引いたつもりが、全く気にする風でなかったのは意外だった。
「お前さんはやるべきことがあるんじゃねえのかな?」
「あるといえばありますけど、今は後回しにしてますね。どこにいけばいいのかまだわからないので」
「やっぱりそうだ」
ミクセルさんは僕を見てまた何か勝手に確信を深めたようだった。そこで、僕もミクセルさんに興味を持った。
「ミクセルさんの目的は」
「大悪党」
僕は虚をつかれて、笑ってしまった。ミクセルさんも楽しそうに笑みを見せる。
「もっと眼前の目標は魔術師のいる土地にいくことだな。なんでも山間に閉ざされたある平地に魔術師がすんでいて、そこの屋敷には貴重な財宝がたくさん眠っている。でも屋敷の周りには人食いの魔獣がうろちょろしているから、盗賊は相手にしないようだ。しかし俺はそれをねらってるんだ。」
「へー…。」
魔術師か。戦争機械としての魔術師とはべつの世界の知恵に通じた賢者の魔術師ならば、僕もあってみて、僕自身に起きたことを相談したいと思っていた。
僕がそのことを話すと。ミクセルさんはしきりについてくるように僕を誘ったが、断った。
「ミクセルさんについていきたいですけど、領地にまず帰らなくてはならないんです。家族が帰ってくるのを待っているから」
そうはっきり断ると。彼は了承したようだが、少し不機嫌になった。
大人のこういう幼稚な態度は、正直どんな対応していいか分からなかった。僕は愛想よく徹した。
「領地だとか家族だとかにこだわっていたら、いつまでも目的に近づけないとおもうがね。
国や国同士のことだってそうだ、気にする意味はないな。もっと重要で深いものがある。」
「家族や国への義務を捨ててまで、やらなければならないことがあるということですか?」
「全員がそうではねえよ。お前はどうか知らねえが、魔力とか人にはない特別な何かがあるやつはそういう運命を背負ってると思っている。」
いまここで、自分はこの世界の外から来たと告白したら信じてもらえるだろうか?
信じてくれるかもしれない。僕はミクセルさんの言葉を、ロイ君ではなく、僕自身に向けられた言葉として受け止めた。これはこの世界に来てリース以外では初めてのことだった。
ミクセルさんに魅力を感じてきた。
とはいえ、ユウ姉さんに対して程ではなかった。ユウ姉さんにあと少しで落ち合えると思えばどれほど嬉しいか、言葉にならない程だった。
というわけで彼についていくことはしなかった。
僕は実践的な指摘するにとどめた。
「しかし、人食いの魔獣はどうするんですか?」
「問題ねえ。お前には教えられないがな」
ミクセルはロイの素直で聞き上手なところが好きになりつつあった。
その後深刻な自問自答をした、俺はこいつを殺せるだろうか、と。
俺をバカにした態度も見下した風でもないし、久しぶりに人と話して和んだひと時を過ごした。
その彼を殺せるのか。
条件は整っている。夜中で人の行き来が少ない道中、あいては金をもっている。
ならばやるべきだ。 やらなきゃならないんだ。
やらなければ、この力を裏切ることになる。
次に牛の尻に鞭が入ったら、立ち上がってロイを撃ち殺して、次に御者も殺そう。
そうだロイは俺と違って魔力の持つものの運命に向かい合ってないなら、死んで当然だ。
ミクセルが御車が鞭を振る動作が始まった。ミクセルは立ち上がろうとしたが、そこで意外なことが起きた。
「いいよ。乗っていきな」
御者が暗闇で誰かと話している
「フスコットまでの客が一人増えたみたいですね」
さっきまで眠たそうにしていたロイがそういった。屈強な兵士の男が一礼して後部に座り込んだ。
ミクセルは計画が不可能になったと悟った。
ロイはまた眠ったようで動かない、兵士は鋭くミクセルを警戒している。
ミクセルはこの偶然について熟考して、黙り込んだ。




