ランチボックスの現在地
## 134話 ランチボックスの現在地
朝の陽が差し込む炎の鍋亭。
いつものようにテーブルには山盛りの朝食が並び、俺は格闘するようにスプーンを動かしていた。
父さんが湯気の立つスープをすすりながら口を開く。
「昨日はガラワ組が来たんだってな。大丈夫だったのか?」
「とりあえず大丈夫。約束の金貨500枚の確認に来たみたい。この前みたいな暴力沙汰はなかったよ」
父さんはふっと息をつき、ひとつうなずいた。
「そうか。まぁ大金だから確認もしたくなるだろうな」
母さんも心配そうにこちらを見る。
「ライム、お金の方は平気なの?」
「うん。プレサントは試飲会以来順調だし、リバーシもエステルで学生たちが買ってくれてるみたい」
レノが落ち着いた声で補足する。
「はい。500は堅いです。それ以上に余裕を持っておきたいところです」
母さんは少し安心したように笑った。
「まぁあなたたちがそう言うなら平気なのね」
父さんは腕を組み直した。
「困ったことがあればすぐに言うようにな」
「ありがとう!」
しっかり話し合えてよかった。
……そろそろ集計もし始めないとな。
レノが食器を整えながら尋ねてくる。
「今日はどうしますか?」
「今日はエッタさんと面談して、ランチボックスの状況確認に行こう」
母さんがぴょこんと手を挙げる。
「CHROの出番ね!私も行くわ!」
父さんも負けじと胸を張る。
「であれば俺も行こう。CAOとして現場の確認は必要だろう」
〈……なんか役職に張り切ってくれてるな〉
「じゃあ4人で行こうか」
俺たちは炎の鍋亭を出て、ランチボックス製造所へ向かった。
中に入ると、いつもの熱気に包まれていた。
湯気、香り、忙しく動く手。
エッタさんとミナを中心に、母友達が賑やかに弁当を作っている。
「ミナ!」
「あ! ライム!」
元気に手を振るミナ。
母友達も声をそろえて挨拶してくれる。
「こんにちわー!」
母さんも笑顔で応じる。
「みんないつもありがとうね!」
エッタさんが軽く手を振った。
「あら、今日は珍しいメンバーね」
確かに最近、家族みんなで動くのは少なかった。
朝ご飯は一緒だけど、それぞれに役割がある。
「エッタさん、こんにちは。今日はランチボックス事業の責任者の件で面談させてほしいんだ」
「そうなのね。だからサラさんとゴードンさんなのね。……じゃあもう少ししたら行くから、本部で待っていて」
炎の夜明け商会本部に戻ると、しばらくしてエッタさんがドアを開けて入ってきた。
「なんだか緊張しちゃうわ」
「大丈夫! ちょっとランチボックス事業のことを教えてほしいだけだから」
「ふふ、お手柔らかにね」
エッタさんの柔らかい物腰は、話す前から場を落ち着かせてくれる。
「じゃあ、今の製造所の状況を教えてもらえる?」
「ええ。今は毎日1000食作っているわ。母友たちも慣れてきて、急な休みもカバーし合えているわ。ミナももう手伝いから外れても平気そうよ。作った後の洗浄も洗い屋さんが問題なくやってくれるわ」
〈オペレーションは完璧だな〉
父さんがメモを取りながら尋ねる。
「何か問題とかはあるか?」
「弁当箱が少しガタが来てるわ。まだ在庫はあるけど、そろそろ発注したほうがよさそうね。あとは……テト君が鉱山向けにあと200は売れそうって、この前言っていたわ」
〈知らなかった。需要の情報や設備の状況が、思ったより現場から上がってきてないのかな〉
父さんはしっかりとうなずく。
「そうか。であればそういうのはテトに伝えてくれ。俺からもテトに言っておく」
〈父さん、完全にCAOだな〉
「うん、弁当箱の追加発注とか、製造量の増減は、細かいところテト経由で父さんにお願い!」
「分かったわ。そういう意味だと、月に一度くらいは何もなくても報告の場があるとうまくいくと思うわ」
「だね!」
レノもすぐに提案をまとめる。
「はい。そのほうが円滑に業務も回るでしょう。月に一度、事業責任者で集まって報告会を企画します」
「いいわね。他の事業の状況も知りたいわ。母友達との話の種にもなるわ」
母さんが思い出したように言う。
「給金はライムが説明した通り、来月から金貨2枚よ」
エッタさんは目を丸くする。
「そんなにもらっちゃっていいのかしら?」
「もちろんだよ! これからもよろしくね!」
エッタさんは、ふっと柔らかく笑った。
「分かったわ。ありがとう、社長さん」
「じゃあ明日から1200食よろしくね」
父さんも続く。
「弁当箱も手配しておこう」
「任されたわ」
エッタさんは軽く会釈して帰っていった。
〈うん……エッタさんは本当に優秀だ〉
〈そしてランチボックスも1200食で上振れが狙えるな〉
こうして、一人目の面談が終わるのであった。




