願書100通と適性検査
## 131話 願書100通と適性検査
炎の夜明け商会本部の会議室には、願書の束が山のように積まれていた。
俺、レノ、母さん、父さん、クララがテーブルを囲んでいる。
レノが黒板の前に立ち、手元のメモを見ながら口を開いた。
「応募者の内訳を、もう少し細かく人数まで出したものがこちらです」
チョークが黒板の上を走る。
「区分ごとの人数は、こうなります」
レノは一度振り返り、指で示しながら読み上げた。
「レノ、クララ、ミナ推し……18人」
クララが「おおっ」と小さくガッツポーズをしている。
「給金重視……22人」
「事業内容に強い興味……25人」
「研究職志望……12人」
「現場志望……13人」
「職人志望……7人」
「その他……3人」
レノがチョークを置く。
「合計、100人です」
黒板には、きれいな字で数字が並んでいる。
〈こうして見ると、ほんとに100人分の人生がここに集まってるんだよな〉
レノは姿勢を正し、続けた。
「やはり、炎の夜明け商会の事業内容に強い興味を示している応募者や、職人志望の方々は、即戦力候補として考えられますが……」
母さんが首をかしげる。
「でも、これだけ見てもわからないわよね。お金が欲しいって書いている子も、家庭の事情があって、本当に有能な場合もあるし」
父さんも腕を組んで頷いた。
「そうだな。この分類だけで絞るのは危険だ。事業内容に興味があると書くくらいなら、誰だってできる」
「そうだね。この分類は、あくまで参考にとどめよう」
俺は黒板を見上げながら言った。
「レノ、『その他』っていうのはどんな感じの人がいたの?」
〈性格にクセが強すぎるとか、そういうのが気になるんだよな〉
レノは手元の紙束をめくり、一枚を取り出した。
「はい。例えばこの方ですが、どの分類にも当てはまらず、少しふざけているようにも見えたので『その他』にしました。ただ……気になる内容でした」
レノがその願書を読み上げる。
「アルマ。年齢15歳。特技は『人心解析』『空気読み』『誰とでも仲良くなれる』」
クララが「へえ」と目を丸くする。
「志望理由は、『話を聞いてたら友達がたくさんできそうだし、ライムさんとクララさんとは話してみたいと思ったから』」
〈……なんというか、すでにキャラが立ってるな〉
思わず笑ってしまった。
「なんだろう、俺ももう話してみたいな」
母さんも、ふふっと笑う。
「不思議ね。私も話してみたくなるわ」
父さんも感心したように言った。
「自分で『誰とでも仲良くなれる』と書けるのは、たいしたもんだな」
クララが身を乗り出す。
「じゃあさ、全員分読んでいく?」
「いえ」
レノは、すぐに首を横に振った。
「この方はむしろ、例外的にわかりやすい例です。ほとんどの願書は、文面だけでは判断が難しいと思います」
母さんが、ため息まじりに言う。
「でも、面接をしてもねえ……100人全員見て、そこから20人を選ぶなんて、選べる自信がないわ」
「うん。たぶん、ここだけ見ていても決まらないよ」
俺は願書の束を見下ろした。
「ある程度、機械的に絞らないと」
父さんが提案する。
「成績順に絞るか。学舎の成績がいい順に見ていけば――」
「いや、それだとさ」
俺は首を振る。
「結局、『勉強がある程度できる人たち』ばかりの集団になっちゃう気がする。レノみたいに優秀でも、ミナみたいに絵が描けるとは限らないし」
〈一種類の能力で切り捨てるのは、違う気がする〉
少し考えてから、口を開いた。
「適性検査で絞ってみようか」
クララが首をかしげる。
「てきせいけんさ?」
「うん。勉強の点じゃなくて、頭の回転がいい人とか、柔軟に考えられる人とか。そういう感じで絞ってみようと思うんだ」
レノが顎に手を当てた。
「確かに、地頭の良さで線を引いた方が、成績よりも炎の夜明け商会には合っているかもしれませんね。しかし、どのような方法で測定するつもりですか?」
「例えば……サイコロがあるでしょ」
俺はテーブルに手を置き、想像上のサイコロを置く仕草をした。
「サイコロの上が3、手前が1、右が5の状態があります」
「このサイコロを、手前に2回、右に1回転がした。最後に上に来る目はいくつ?」
クララが一瞬だけ目を閉じ、すぐにパッと答えた。
「6だね!」
「え?」
レノと母さんと父さん、ついでに俺まで声が揃ってしまう。
〈今の一瞬で?〉
「え、早すぎ」
「正解……クララ、早すぎ」
クララは得意げに胸を張った。
「えへへ」
「じゃあ、こんなのはどう?」
俺は指を折りながら続けた。
「次の『 』に入る数字を答えなさい。2、6、12、20、30、( )」
レノがすぐに口を開く。
「42ですね」
「え!!」
父さんと母さんの驚きがハモった。
クララが頬をふくらませる。
「むー、負けたー」
〈うちの身内だけで、すでに良問テストができるな〉
「じゃあ、最後にもう一つ」
俺は今度は指を3本立てた。
「A、B、Cの3人がいます。この中に1人だけ犯人がいて――」
「正直者は必ず真実を言う。犯人は必ずウソをつく。他の2人は正直者」
「3人はこう言いました」
俺は順番に読み上げていく。
「A『犯人はBだ』」
「B『犯人はCだ』」
「C『Aは正直者だ』」
「犯人は誰でしょう?」
母さんがすぐに言った。
「Bね!」
「え?」
父さんが、また置いていかれた顔をしている。
〈父さんが完全に置いてけぼりな件〉
〈というか、今の3問だけでも、得意分野が見事に分かれてるよな〉
俺は苦笑しながら言った。
「まあ、今みたいな『頭の回転を見る問題』を30問、30分で解いてもらってさ。それで半分くらいに絞ってみるのはどうかな」
母さんが楽しそうに笑う。
「面白いわね、それ」
クララが手をパタパタ振る。
「遊び、もう終わり? もっとやりたい!」
「うん。次は一緒に問題を考えようか」
「うん! 楽しそう!」
レノも、納得したように頷いた。
「流石です。勉強ができるかどうかではなく、地頭の良さと柔軟さでふるいにかけるのですね」
「これが正解かどうかは分からないけど……今は、柔軟な人の方が欲しいからね」
母さんが、テーブルの上の願書の束を見回して言う。
「半分にまで絞れたら、だいぶ見やすくなるわね」
レノはまとめるように言った。
「では、私が問題を清書しますので、炎の夜明け商会からエステル学舎へ送って、向こうで適性検査を実施してもらいましょう。上位50名を、こちらに面接候補として送ってもらうという形で、ヘイズ学舎長にお願いしてみます」
「お願いね、レノ」
「承知しました」
そのあと俺たちは、黒板や紙をフル活用して、ワイワイ言いながら問題を30問ひねり出した。
クララが「サイコロの問題もっと入れよ!」「こういう図形の問題は?」と提案し、母さんは「これは難しすぎない?子どもたち泣いちゃうわよ」とツッコミを入れる。
父さんは、ときどき完全に迷子になりながらも、「今のは分かったぞ」と嬉しそうに言っていた。
レノは、それらを整理しながら、きれいな問題文へと落とし込んでいく。
〈……これ、普通に入社試験というより、みんなでパズル遊びしてる感じになっちゃったな〉
それでも、きっと意味のあるふるいになる。
完成した問題用紙は、ランチボックス製造所に運ばれ、母友たちの手で一気に印刷された。
そして封筒に詰められ、エステル学舎へ向けて発送されていく。
この世界にはまだ存在しない『適性試験』と『印刷された問題用紙』。
それが学舎を大騒ぎさせることになるのは――また、別の話だ。




